インハウスのエージェンシーは、しばしばコスト削減に結びつくと言われてきた。だが、物事はかならずしも予定通りにはいかない。コスト削減のためインハウスにふみきった広告主はいま、コロナ禍という非常に厳しい試練にさらされている。
インハウスのエージェンシーは、しばしばコスト削減に結びつくと言われてきた。だが、物事はかならずしも予定通りにはいかない。コスト削減のためインハウスにふみきった広告主はいま、コロナ禍という非常に厳しい試練にさらされている。
CEOがマーケターに要求するのは、コストを削減しながらメディアチャネルを拡大することだ。これをインハウスのエージェンシーで達成できると考えるマーケターもいる。コモディティ化した人手のいる広告をインハウスで行えば、外部エージェンシーよりも速く、安く、より良いものにできるという目論見だ。
もはや「外からの目」は売りではない
世界的な飲料メーカーのメディア・キッチン(Media Kitchen)で入札メディアディレクターを務めるアンドリュー・サンドバル氏は「エージェンシーは『外からの目』を提供してくれるが、いまやそれが大きな売りになるとは思えない」と語る。
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同社のインハウスエージェンシーは立ち上げから1年が経つ。同チームのあるマーケターは、パンデミックが発生してから負担が大きくなったと明かす。パンデミック関連のことは話せない決まりだと語るサンドバル氏だが、同インハウスエージェンシーの成果物は減少傾向にあるという。
「エージェンシーのインハウス化の意義は、マージンを減らして一部業務のコストを削減できる点にある」と、サンドバル氏は語る。「企業により近い立場なため、迅速に動けるのもコスト削減につながる」。
当初、特に広告主のメディア企業やスポンサー企業のあいだでは、メディア予算の節約のためインハウスエージェンシーが導入されてきた。だが、コストの削減をすすめるなかで、仕事自体が減っていった。
コロナ禍への対策としてマーケティングのインハウス化がトレンドとなっているが、問題となっているのがエージェンシーにかかるコストが容易に増減することだ。一方、当然ながらマーケティング部門に大勢いるフルタイムの社員は固定費となっている。
「いまはエージェンシー契約ができないものもあり、一時的に停止しなければいけないものもあった」と、サンドバル氏は明かす。
いま求められるのは慎重な施策
そしてエージェンシーを利用できないことで、メディア・キッチンのインハウスチームが作成するコンテンツは増えたとのことだ。また、例年であれば広告主のエージェンシーがこの時期に行う大規模予算のテレビCMやスポンサーキャンペーンではなく、コストを抑えて売り上げを伸ばす石橋を叩いて渡るようなマーケティングが求められているという。
「スーパーマーケットでの売上が増えており、商売関連のマーケティングコンテンツ作成を重視している」と、サンドバル氏は語る。
CEOから見てインハウスエージェンシーがコスト面とリスク面で優れているのは、社員と同じくらい製品について熟知しているからだとサンドバル氏は指摘。エージェンシーも時間をかければクライアントの事業について理解を深められるが、やはり自社業務のみに集中できるインハウスのマーケターのほうが有利だ。
メディアリンク(MediaLink)のマネージングディレクター、ドナ・シャープ氏は「賢いエージェンシーはこの問題を逆手に取って、『コストの削減が可能な分野を探す支援を行う』と主張している」と語る。「エージェンシーは、広告主向けに異なる方面での業務を行おうとしている」。
インハウス拡大を狙うブランド
インハウスエージェンシーへの先行投資が実を結び、コスト削減につながるには時間がかかりる。そのためアンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev)のインハウスチーム、ドラフトライン(DraftLine)のように、大半の企業は既存のリソースを活用する手法を選んでいる。なかにはこの困難な時期にあってインハウスのエージェンシーを成長させようと取り組んでいる企業もある。
「コロナ禍のなかでメディア戦略全体をインハウス化に切り替えようと試みているクライアントはいない。だがこれまでの取り組みをさらに加速させようとする動きはある」と、メディアリンクのシャープ氏は語る。
エレクトロニック・アーツ(EA)やバーバリー(Burberry)、プレイステーション(Playstation)、レキットベンキサー(Reckitt Benckiser)、ベット365(Bet 365)、ゼネラルミルズ(General Mills)、アンハイザー・ブッシュ・インベブ、グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)といった企業は4月に入ってから、LinkedIn(リンクトイン)でインハウスのメディアチーム社員を募集している。各社で職務要件は異なるものの、役職のレベルやインハウスチームの成熟度など、似た点もある。
たとえばエレクトロニック・アーツは、欧州市場における入札購入担当リーダーを求めている。一方ゼネラルミルズが募集しているのは欧州とオーストラリア地域担当のメディアディレクターだ。いずれも、インハウスのメディアチームにおける管理職クラスとなっている。たとえばエレクトロニック・アーツは7年前から広告をインハウスで購入しはじめており、GSKは昨年、プログラマティック取引のためのインハウスチームを立ち上げた。
一方、エージェンシー頼りな企業も
なかには、パンデミック下における不安定なマーケティング需要と連動して切り替えられる柔軟性をエージェンシーに求めるエージェンシーもある。
ある食品メーカーのデジタルマーケティング担当者は匿名を条件に「いまはインハウスのEC拡大を目指している。だが同時に、エージェンシーがもたらす社外からの視点もまた非常に貴重だ」と語っている。
この点は同マーケターが4月はじめに自社製品のオーガニック検索を上向かせるコンテンツ開発に取り組んだ際にはっきりしたという。
「ECチームの同僚に訊ねたら検索用語を1つか2つ提案してくれる程度だったが、エージェンシー役員からは検索マーケティングで最適な結果を得るためには用語、フレーズ、説明の量のバランスが重要だとアドバイスされた」。
同マーケターのような悩みは、パンデミックによるインハウス化のトレンドのなかで浮き彫りになっていくことは間違いない。パンデミックによってインハウス化が進んではいるが、エージェンシーが舞台から降ろされることはない。役割が変わりつつあるだけなのだ。
SEB JOSEPH(原文 / 訳:SI Japan)