Googleが米国時間4月18日、米国のパブリッシャーと、プロダクトの最新の変更について話し合いの場を持った。パブリッシャーとアドテクベンダーは、その変更の意味するところを理解しようと大わらわだ。
既視感のある光景がまた繰り返されている。
Googleが米国時間4月18日、米国のパブリッシャーと、プロダクトの最新の変更について話し合いの場を持った。パブリッシャーとアドテクベンダーは、その変更の意味するところを理解しようと大わらわだ。
変更の詳細は英国のパブリッシャーのあいだにも波紋を呼んでおり、理解へのギャップから、もしかしたらGoogleが意図していたよりも警戒が広がっているかもしれない。結果、英国のパブリッシャーやサプライサイドのアドテクベンダーのあいだでは、インベントリー(在庫)の評価方法とフロアプライス(最低価格)のコントロールがGoogleに奪われると深刻に懸念する声が広がっている。
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Googleは5月、今回の変更について説明を重ね懸念に対処するべく、欧州の各パブリッシャーとの1対1の話し合いや、パブリッシャーらとのグループ会議を実施する意向だ。Googleは変更について、セカンドプライスオークションからファーストプライスオークションへの移行が進むデジタル広告のエコシステムには避けられないものであるばかりでなく、長期的にはパブリッシャーの入札データへのアクセス拡大や増収に寄与するものだと強調している。
事前相談なしでパブリッシャーへの影響が大きい変更を展開した前歴がGoogleにあることから、Googleの指針に対し懐疑的な姿勢を崩さないパブリッシャーは多い。匿名を希望するある英国のパブリッシャーの幹部は、「Googleは我々を子供扱いしていて、とにかくコントロールをたくさん奪おうとしているという感じがする」と語る。「Googleはまた、サプライサイドプラットフォーム(以下、SSP)が自らのためにすべきことをするのを露骨に妨害する。(SSPが接続している)エクスチェンジ入札(Exchange Bidding)を使えというのがGoogleの回答だが、エクスチェンジ入札を経由すると、Googleのパブリッシャーからの取り分が大きくなるわけで、これはゆすりだ」と、この幹部は語った。
Googleは、多くの変更が誤解されていると強調した。Googleの広報担当者は、「Googleアドマネージャー(Google Ad Manager)における(統一価格設定を含む)ファーストプライスオークションへの移行によって、すべてのデマンドソースに対して一貫したルールになって、エコシステムの透明性は向上する」、「いつものように、パートナーとは緊密に協力し、プロダクトの開発プロセスにはフィードバックを取り入れていく」と述べている。
以下、押さえておくべきポイントを紹介する。
パブリッシャーが心配している理由
パブリッシャー側からすると、Googleが「統一価格設定(Unified Pricing)」と呼ぶものがはらんでいるふたつの重要な変更が争点の中心だ。Googleはこの変更を、セカンドプライスオークションからファーストプライスオークションに移行するには欠かせない条件だと主張している。
変更のひとつは、パブリッシャーが設定できるフロアプライスのルール数に100という上限ができること。大きなパブリッシャーは通常、Googleなどさまざまなバイヤーに対し100をはるかに超える数のルールを使っている。パブリッシャー側は、パブリッシャーのコントロールを制限し、Googleのコントロールを拡大するものだと主張する。
話を聞いたところ、パブリッシャーは通常、Googleにはほかよりも高いフロアプライスを設定している。それが今回のことで、すべてのエクスチェンジとSSPに対し同じフロアプライスを設定しなければならなくなる。そうなれば、アドテクベンダーのサブライム(Sublime)のCOOであるアンドルー・バックマン氏によると、Googleが購入して支払う額は理論的に下がることになり、パブリッシャーの損失になる可能性がある。その反面、以前は価格面でGoogleから締め出されていたかもしれないパブリッシャーがGoogleにもっと買われるようになり、買われていくインプレッションが増えることになる可能性もある。
ヘッダー入札が盛んになる前、Googleはすべてのインベントリーについてラストルックの点で有利だった。このラストルックを、今回の変更のなかでなくすとGoogleは確約した。しかし、皆が信じているわけではない。Googleのラストルックの優位性はヘッダー入札のきっかけになったものであり、統一価格設定への移行によってGoogleはその以前の支配的な地位に返り咲くことになると、バックマン氏はいう。
「Googleは、今後も(ラストルックの)情報を維持できるように下準備を進めている。この情報はほかにはなく、パブリッシャーはGoogleが支払う額をコントロールできなくなるだろう」と、バックマン氏は続けた。
Googleはというと、変更によってファーストプライスの環境でヘッダー入札がより効果的に機能するようになるはずだと主張している。
米国のすべてのパブリッシャーが今回の変更に反対しているわけではない。ワシントン・ポスト(The Washington Post)でプログラマティックの戦略と収益のVPを務めるジェイソン・トーレストラップ氏は、「プログラマティック業界にいちばん望ましいのは公平な競争だ。Googleがラストルックをなくすのはその一例であり、こうした取り組みを我々は常に支持してきた」と語る。「ファーストプライスオークションに移行すれば、現在実施されている多くのルールの廃止が進み、サイトの広告インベントリーの本当の価値をバイヤーにわかってもらえるようになるだろう」と、同氏はいう。
入札データについてGoogleが約束したこと
統一価格設定によって透明性が高まるというGoogleの主張は白々しいと懸念しているパブリッシャーもある。英国の大手パブリッシャーのある幹部は、「パブリッシャーは(アドテクのエコシステムに特有な全体の)ブラックボックスを開き、情報へのアクセスを拡大し、インベントリーの価値を把握し、上手な価格戦術を展開するようにようやくなったところだ。それが、さまざまなバイヤーを相手にするのに必要な、多くの異なるフロアプライスを設定するための道具が奪われようとしている。パブリッシャーからすると、この変更は1歩進んで2歩下がるようなものだ」と語った。
万が一にも、ルール数の100個制限がパブリッシャーによって完全に拒絶されたことが証明されるようなことになれば、変える余地はあるとGoogleは明言している。さらに、入札データをこれまでより共有することを、Googleは約束している。現在、パブリッシャーへのデータ共有の許可は、バイヤーが加わることも抜けることもできる。Googleはその上で、共有に加わったバイヤーのデータをパブリッシャーに共有する。たとえば、ひとつのインプレッションについて、(共有に加わることにした)入札者や入札額など、オークションのすべてのデータが共有される。それが今回、統一価格設定による変更の結果、バイヤーはこのように加わるか抜けるかを選択できなくなる。これにより、パブリッシャーは各オークションをこれまでよりもくまなく見通し、その情報を戦略に活かせるようになるはずだ。
しかし、ルール数の上限がないことが、ビッドシェーディングの拡大に対する必要な緩衝材になっているという考えがパブリッシャー側にはある。ビッドシェーディングはアドテクベンダーが開発した手法であり、セカンドプライスオークションとファーストプライスオークションのあいだで入札価格を算定することで、バイヤーが移行しやすくなる。
アドワーズはセカンドプライス
アドワーズ(AdWords)がセカンドプライスのままであることから、だとすると理論上はラストルックが可能になるという混乱が見られる。しかし、ラストルックは廃止するとGoogleが述べており、アドワーズでセカンドプライスが続くことはラストルックにはまったく影響しないはずだ。アドワーズはもっぱら検索マーケティングに使われることからCPCベースであり、ただ、多くの場合、その後、CPCがCPMに換算され、そのCPMがアドマネージャー(Ad Manager)でセカンドプライスとして挿入される。今回、アドワーズでの検索広告の購入はセカンドプライスオークションのままになるが、CPMへの換算時にはファーストプライスに基づき計算される。
アドサーバーの移行は夢物語
匿名を条件に話をしてくれたあるパブリッシャー幹部は、Googleのアドサーバーとアドエクスチェンジに代わるものを積極的に見つける必要性が高まったと語った。いまのところ、Googleのサーバーとアドエクスチェンジの利用から脱却し、多角化に成功したパブリッシャーは、ドイツのアクセル・シュプリンガー(Axel Springer)だけであり、同社によると戦略は本格的に成果を上げはじめている。
とはいえ、アドサーバーの移行は時間もリソースもかかる大仕事だ。そのため、ドイツ以外ではあまり話題になっていない。
匿名希望のあるパブリッシャー幹部は、「アドサーバーの移行のような規模の企ては、どのパブリッシャーも軽々しくやるべきものではない。我々はアクセル・シュプリンガーの実施を見てきたが、今回の変更を受けて我々がほかのアドサーバーを探そうということにはならないだろう」と語った。
もちろん、問題の一部ではあるというところは多い。一部のパブリッシャーからすると、これはGoogleの意のままにされるということであり、Googleは好きな変更をなんでもできるということなのだ。アドテク幹部のあいだには、SSPも泣きを見ることになるだろうという声がある。
あるアドテク幹部は匿名を条件に、「SSPも大変だ。インプレッションの価格をコントロールしたり決めたりする力を失うことになる」と話してくれた。「パブリッシャーや特別な需要とのつながりを失うことになるだろう。すべてGoogleが中心になり、何でもまずGoogleが見て価格をコントロールするようになる。そうなれば、ルールがどのように設定されるかも、それに基づきどこが何を手にするのかにも、Googleが影響するようになるだろう」と、この幹部は語った。
Jessica Davies (原文 / 訳:ガリレオ)