ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)など、多くの大手メディア企業は、以前は通勤が当たり前だった職種のスタッフを2021年1月には職場に戻すつもりだった。だが、コロナ禍が続くなか、延期を余儀なくされた。米DIGIDAYでは今回、BDG、BuzzFeedなどの従業員4名に話を聞いた。
パブリッシャー勢は現在、オフィスの完全再開を夏と考えている。だが、社員たちは一方、来年までそれはないと踏んでいる。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やロイター(Reuters)など、多くの大手メディア企業は、紙媒体の制作陣など、以前は通勤が当たり前だった職種のスタッフを2021年1月には職場に戻すつもりだった。だが、コロナ禍が続くなか、延期を余儀なくされた。
- ニューヨーク・タイムズは、世界のどのオフィスについても、スタッフを戻すのは「もっとも早くて」7月6日になるとしている。
- トムソン・ロイター(Thomson Reuters)は自主的な在宅勤務期間を7月まで延長した。
- ワシントン・ポスト(The Washington Post)は2020年11月に、2021年6月以前に従業員をオフィスに戻すことは「考えにくい」と発言した。
- ヴォックスメディア(Vox Media)は全従業員に対し、9月まで出勤を求めることはない旨を通達した。
今回取材をしたパブリッシャーの大半が、ニューヨークの本社は維持しつづける一方、コロナ渦中は在宅勤務を継続すると答えた。
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すれ違う、労使それぞれの意見
2020年9月以来、バッスルデジタルグループ(Bustle Digital Group、以降BDG)は出勤を希望する、あるいは物品の集取で出勤を必要とする従業員のために、週に2日間、オフィスを開けている。ただし、出入りは「厳密に監視し、一度に出勤できる人数も制限している」と、BDGの人事部EVP、トリシャ・デアボーン氏は言う。
「ワクチン接種が始まるなか、今秋にはオフィスを再開したいと考えている。様相はコロナ前とはかなり異なるだろうが、全従業員が安心できるハイブリッドモデルを創造できると確信している」と、ディアボーン氏は言い添える。
ただ、あるBDG社員によれば、現段階で、オフィス再開に関する新たな通達はないという。
「早く、またオフィスで働きたい」と、同社員は明かす。家では、「仕事が思うようにはかどらない。私の場合、同僚と協力できる環境にいないと、ベストな仕事ができないんだ」。
米DIGIDAYでは今回、BDG、BuzzFeed、ロイターの従業員4名に話を聞いた。何人かは匿名を条件に、ニュースルームの環境や同僚に囲まれている状態に戻りたくて仕方がないし、2020年の重大な事件やできごとの際は、その思いがよりいっそう強くなったと、本音を打ち明けた。
年内再開はないと読む従業員たち
在宅勤務を1年近く続けたが、「ちっとも慣れないし、むしろやりづらさが募るばかりだ」と、前出のBDG社員は明かす。2020年のニュースサイクルは、あまりの速度/頻度に「窒息しそう」だったし、自宅に縛られていたことで、余計に辛かったとふり返るが、それでも「科学的に問題ないと判断されるまで」はオフィスに戻りたくないし、社の経営陣も同じ思いに違いないという。
ただそれでも、出勤再開について、2021年中はまずないだろうし、従業員の大半は在宅勤務を続けたいと思っていると、同BDG社員は続ける。「在宅勤務の環境になじめた社員もいるし、そういう人たちはきっと、このまま在宅勤務でいいと思っているんだろう。でも、私は古いタイプでね。できれば机に向かいたい。パーティションで仕切られたなかにいたいんだ」。
BuzzFeedは大半の従業員に対し、在宅勤務を最短でも2021年8月31日まで延長すると伝えた。だが、BuzzFeedニュース(BuzzFeed News)の事件記者アルバート・サマハ氏は、2022年までオフィス再開はないと見ており、「事態がある程度落ち着くまでは何とも言えないと、誰もが思っている」という。一方、BuzzFeedの別の従業員は、8月のオフィス再開は「確実に可能」であり、社があらかじめ通達してくれたことで、「賃貸契約や生活環境について考える時間的余裕がある」と語る。
「マスコミは、どこも金欠状態」
数カ月前、BuzzFeedで社内調査を実施したところ、大半のスタッフが今後も、少なくとも併用という形で、在宅勤務を続けていくつもりであることがわかったと、サマハ氏は言う。氏もそのひとりだ。
サマハ氏の場合、毎日往復2時間の通勤は懐かしくも何ともなく、そのおかげで浮いた時間を有効活用し、料理を覚えたり、たまっていた本を読んだりしている。「在宅勤務の特権だよ。安全な場所にいられるのは、本当にありがたい。うちにいて、新しい趣味を覚えて、報告は可能なかぎり電話で済ませてと、[在宅勤務を]最大限活用させてもらっている」。
ロイターのある社員は、メディア企業はこの機会に、維持費のかさむオフィスを手放し、コストを削減するべきだと語る。 これまで「いろいろな会社で働いてきたが、出社にこだわりすぎるところばかりだった」。
「マスコミはいま、どこも金に困っている。だったら[オフィスの]代わりに、人に投資してみればいい」と同社員は言う。
メディア企業の都会離れも
サマハ氏も、このコロナ禍はメディア企業の拠点地を一変させるのではないかという。「大手ニュース企業がみんな、アメリカでもっとも物価の高い街にわざわざ本社を構えているのは、いろいろな点で非生産的な気がするし、リモートワーカーが増えているいまは、とくにそう思う」。
在宅勤務の常態化は今後、メディア企業の都会離れを生むかもしれないと、サマハ氏は続ける。「あえて都会にいなくてもいいのは……つまり、そうしなくても生産的になれるのは、いまや周知の事実だからね」。
[原文:Publishers push plans to reopen offices until summer, but employees expect delays until 2022]
SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)