欧州のパブリッシャーは8月15日以降、広告配信のためのデータ収集にユーザーが同意するか、再度確認を取ることになる。これは、TCF 2.0の導入に伴った動きだ。TCF 2.0とは、メディア企業のGDPR準拠対応を標準化しようという目的で策定された、広告業界全体としてのフレームワークだ。
欧州のパブリッシャーは8月15日以降、広告配信のためのデータ収集にユーザーが同意するか、再度確認を取ることになる。これは、欧州インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau Europe:以下、欧州IAB)とIABテックラボ(IAB Tech Lab)によるトランスペアレンシー&コンセントフレームワーク(Transparency& Consent Framework[透明性と同意の枠組み]:以下、TCF)の改訂版となる、TCF 2.0の導入に伴った動きだ。
TCF 2.0とは、2年前に一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)が施行されたことを受け、メディア企業のGDPR準拠対応を標準化しようという目的で策定された、広告業界全体としてのフレームワークだ。だが最初のバージョンは、IABメンバーの大部分を占めているアドテク企業にとって、あまりに好都合な内容になっているとして批判を受けていた。
そこで各種業界団体と運営グループはここ2年間で、より多くの利害関係者に受け入れてもらえる内容になるよう、最初のバーションを改定してきた。当初は3月に最初のバージョンのサポートが終了する予定だったが、新型コロナウイルスの影響を受けた企業が対応の時間を取れるよう、IABは切り替えの期限を8月まで延長している。では現在の進捗はどうなっているのか、最新の状況を見ていこう。
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Googleの参加が最大の売り
フレームワークの目的は、企業(パブリッシャー、アドテクベンダー、エージェンシー)によるオープンエクスチェンジ市場でのプログラマティック広告取引を、GDPRに準拠した方法に標準化することにある。今回改定されたTCF 2.0は、Googleやアドテクベンダーなど、データを処理する立場の企業が、パブリッシャーのユーザー情報をどのように使用できるかを明確化しているのが特徴だ。
ほかのパブリッシャーやプラットフォームパートナーと並び、GoogleもこのTCF 2.0への参加を表明しており、歓迎されると同時に、驚きの声も上がっている。
広告市場を牛耳るGoogleの参加は、TCF成功の鍵となる。しかし、切り替え期限が刻々と迫るなか、パブリッシャー各社が気にしているのは、Googleの参加がどのような形になるのかの詳細だろう。
「一番困るのは、Googleの参加が最大のセールスポイントだったのに、IABとGoogleがどう協調していくのか合意に至っていないことだ」と、あるパブリッシャー幹部は漏らす。「GoogleのポリシーはF1レーシングカーのギアボックスより速く切り替わるので、Google側のコンプライアンスがどうなるのか、見極めるのは困難だ」。
一方、Googleに疑惑を持つ企業も
ドイツのメディア企業アクセル・シュプリンガー(Axel Springer)と、北欧の大手パブリッシャー、シブステッド・メディア(Schibsted Media)は、Googleがデータの処理方法を決めてほかの企業を従わせようとしており、立場の強さを利用して、最初に合意していたフレームワークの内容を、自社のニーズに合わせた方向に押し進めようとしているのではないか、と苛立ちをみせている。
「どれだけ大きなベンダーであっても、こちらのコンプライアンスを指示する立場にはないはずだ」と、先述のパブリッシャー幹部は話す。
Googleも欧州IABも、GoogleはTCFの範囲内で動いていると主張している。「ほかのベンダーやパブリッシャー同様、Googleも好きなように契約条項を設定できる」と、欧州IABで法務責任者を務めるフィリップ・セデフォフ氏は語る。「TCFがあってもなくても、Googleは自社の好きなようにするだろう。TCFがGoogleの立場を強化するようなことは、いかなる形でもあり得ない」。
ベンダーが課せられていること
8月15日以降も古いフレームワークを使用しているベンダーは、9月30日までの猶予期間があるとはいえ、GDPRを軽視していると見なされてしまう可能性がある。
TCF 2.0では、ベンダーがユーザーからデータ利用に関する同意を得ているか識別するための文字列であるコンセントストリングに、ユーザーに関する要素やセグメントが、最初のバージョンより多く盛り込まれている。そしてベンダーはユーザー同意に関するアップデートされた情報を持っていないと、広告取引が処理してもらえなくなってしまう。
期限までに準備ができているパブリッシャーの場合、ユーザーの同意を再度得なければならないが、それが同意の減少、ひいてはターゲティングできない広告からの収益減少につながる可能性は低いだろうと、複数の情報筋が証言している。
アドテク企業の準備は整ってない
現在、TCF 2.0での稼働を開始しているベンダーは460社で、これは最初のTCFに参加登録したベンダー約600社のおよそ8割にあたる。ベンダー側の切り替えも間に合うはずだとセデフォフ氏は確信しているが、パブリッシャーのあいだには困惑が広がっている。8月が来てもベンダーのTCF 2.0への切り替えが完了していなかった場合、パブリッシャーはベンダーを切って供給を絞らなければならいなのか、という問題が出てくるのだ。
「アドテク企業の準備はそこまで整っていないが、パブリッシャー側はどこも準備が出来ている」と、2人目のパブリッシャー幹部はいう。たしかにパブリッシャーや同意管理プラットフォームは、ベンダーほどの開発を必要としない。ベンダーは正しいシグナルを受信して読み取れるようにするため、パブリッシャーよりも多くの開発作業を行う必要がある。
「DSP(デマンドサイドプラットフォーム)やSSP(サプライサイドプラットフォーム)が、期限に間に合わない原因となる可能性は大いにある」と先述の幹部は話す。「そうしたプラットフォームでは、パブリッシャーから広告主に、あるいは広告主からパブリッシャーに渡すトラッキングピクセルを、すべて技術的に『ダイジェスト』しなければならないからだ」。
「やるべきことは、まだまだある」
欧州ではさまざまな規制委員会とデータ保護当局の寄せ集め状態が発生しており、そのせいで標準化が困難になり、局所的解釈が起こりやすくなっている。
「TCFの詳細について、深く理解しているデータ保護当局は多くないように思える」と、先述のパブリッシャー幹部はいう。「欧州IABと各国のIABがやるべきことは、まだまだある」。
[原文:Publishers are wary of the latest attempt to standardize GDPR compliance]
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:半井明里/ガリレオ、編集:長田真)