パブリッシャー各社が、広告セールスチームの改造に取り組んでいる。その規模は大小さまざまで、スキルの再教育や、今後の広告ビジネスに対する180度の軌道修正などが社内で行われている。
パブリッシャー各社が、広告セールスチームの改造に取り組んでいる。その規模は大小さまざまで、スキルの再教育や、今後の広告ビジネスに対する180度の軌道修正などが社内で行われている。
グローバルなマガジンを発行するあるパブリッシャーは、米国と英国で働く営業スタッフの約10%に一時帰休を実施、一部のスタッフに研修を受けさせ、経理部門への配置換えを行なった。一時帰休明けの営業スタッフには、売上が増加しているバーティカル部門への配置換えが予定されている。同パブリッシャーの最高売上責任者(CRO)は、コロナ危機により、今後は脱「トランザクショナル(特定のプロダクトを売ることにフォーカスする従来型の販売手法)」なセールスチームへの移行が加速すると見ている。
同CROは支払期限の延長が行われていることを認めつつ、「キャッシュが問題になることはわかっていた。最大の懸念は支払いだ」と語った。「だが、当社はセラーのほとんどを手配して市場調査を続けた。予算の削減でクライアントが減っているため、大口顧客からのより多くの予算を獲得する必要がある。我々はいま、この『ニューノーマル』の仮定に基づいて、微妙な話し合いを行っている。そこでは、より多くの購入決定が自宅で行われている」。
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求められる広告主との密接な関係
パブリッシャー各社は、広告主とのクロスチャネルで、長期的かつコンサルタティブ(顧客の問題を把握し、それに対するソリューションを提案する販売手法)なパートナーシップを結ぶ試みを続けている。その試みがこの4年で勢いを増してきたのは、もっともな話だ。コロナ危機以前は、リテーナー契約が年間を通して売上を保障した。新たな広告クライアントを求めるよりも、彼らをキープするほうがリソースの消費を抑えられると、パブリッシャー各社はいう。いま、ニュースパブリッシャーなどの企業は、広告キャンペーンの88%がキャンセルされるという現実を目の当たりにしている(インタラクティブ広告協議会[IAB]調べ)。パブリッシャー関係者の話では、当四半期の売上は予測の35%減で終える見込みだ。ほとんどのトレンドがそうであるように、新型コロナウイルスとそれがもたらす景気の悪化は、広告主とのさらに密接な関係の必要性にはっぱをかけている。
「主要パートナーとの関係の強化がきわめて重要だ。特に、いまのような状況では」と、ブルームバーグ(Bloomberg)でヨーロッパにおける営業部門を率いるダンカン・チェイター氏は語る。同氏は、広告主とのよりコンサルタティブなパートナーシップの重要性を唱えている。「この状況によって、さまざまなことが変わった。あらゆることに関する質問が寄せられている。我々はクライアントのために、なるべく多くのデータやインサイトを概説しようと努めている。クライアントとの予定が記されたスケジュール帳が積み重ねられている。話し合いが頻繁に行われている。信じ難い状況だ」。
パブリッシャーはいま、優良顧客は誰なのかを見極めてフォーカスし、それ以外は手放すべきときを迎えている。ある米国の小規模マガジンパブリッシャーにとって、これが意味するのは、12人編成の営業部をレイオフし、自社プロパティ全体から主要広告主5社を見極めてフォーカスし、1年間のビジネスパートナーシップを獲得することだ。これらの契約に含まれるのは、イベントやウェビナー、研修、スペシャルコンテンツの共催などだ。
「そのやり方を知っている者はいない」
「そこここに数千ドル使っている広告主は、いずれ消えるだろう」と、ザ・スターリング・ウッズ・グループ(The Sterling Woods Group)のCEO、ロブ・リスタグノ氏は語る。「いちばん難しいのは、既存の広告モデルから手を引くことだ。この環境では、すでに多くが手を引いているかもしれないが」。
提携関係が、パブリッシャーのCEOやプレジデント、シニアバイスプレジデントによって、相手方の同じく幹部レベルで築かれる必要がある場合、そこ残るのはトップヘビーのセールスチームだと、リスタグノ氏は述べる。
クロスチャネル型のパートナーシップは当然ながら築くのに時間がかかる。多くのリソースや時間も必要になり、さまざまなスキルも要求される。ソリューションベースの度合いが高いセールスチームが、大型取引で多数の関係者に対応するには、プランニングマネージャーからトレーディングディレクターに至るまでの、クライアントとエージェンシーのあいだの関係が必要だ。プラットフォームごとのトランザクショナルレベルで細部に対応できる技術力も必要となる。さまざまなクリエイティブやオブジェクト、パフォーマンス指標を用いた、複数のチャネルで展開されるキャンペーンは、より複雑だ。そのような場合、頼りになるのは同じ運営インフラを持つクライアントだ。
あるマガジンパブリッシャーの幹部は、ある有名テックブランドとのクロスチャネル型パートナーシップについて触れ、「これを得意としている者はいないだろう。そのやり方を知っている者はいないのだ」と語る。「実際、さまざまなキャンペーンのブッキングや運営は、まさに悪夢だった」。
クライアントチームを強化する必要性
IABが行った調査によれば、広告主とエージェンシーは3月なかば以降、新型コロナウイルスによる悪影響に意気消沈しているという。多くの関係者(回答者の86%)が、第2四半期はこのパンデミックの影響を大きく受けるだろうと考えている。4月中旬には、そう考える関係者の割合は69%だった。
「(4月後半の)2週間で、世界各地のパブリッシャークライアント30社超から話を聞いた。その多くが、いまを9カ月間容易に継続できるプレセールプロセス延長の機会と見込んでいる」と、テックビジネスを手がけるポーラー(Polar)の創業者でCEOのクナル・グプタ氏は述べる。たとえアイデアがすぐには受け入れられず、売ることができなくても、そのパブリッシャーはクリエイティブで、信頼できて、順応性があって、存在感があって、オーディエンスの実状を把握しているという種はまかれる。
プレセール期間の延長が意味するのは、パブリッシャーがより多くのケーススタディとサンプルで潜在顧客を引き寄せ、インバウンドリードがピッチではなくアイデアを求めるリクエストのように映っているということだ。パブリッシャーにアプローチする企業が求めているのは、自社のマーケティング予算をどこに費やすべきなのかに関するアドバイスなのだ。
「パブリッシャーは、クライアントチームを強化する必要性を感じている。彼らはクライアント上位30社については把握しているが、上位100社についてはどうだろうか?」と、エグゼクティブサーチ企業、SRIのパートナーであるアダム・ヒリアー氏は語る。同氏はこの1カ月間で、このような会話をパブリッシャーと4度行っている。これらのパブリッシャーは、スタッフの頭数を減らすのではなく、一時帰休を実施しているという。
「セールスの職務を強化し、さまざまなレベルで関係を大きく発展させることが、これからは重要になってくると思う」と、同氏は語る。「その結果、セールスチームの作り方も変わるだろう。ほとんどのパブリッシャーで、100%のスタッフがオフィスに置かれることはもうなくなるだろう」。
パブリッシャーの「純然たる事実」
正しい視点を持って、クライアントが抱える課題の解決に取り組んでいるメディア企業は、状況に適した独自のソリューションを提供することで、信頼されるクライアントに積極的にアプローチできるようになるだろうと、ボックス・メディア(Vox Media)でセールス部門のバイスプレジデントを務めるデビッド・スピーゲル氏はいう。
「ほとんどのパブリッシャーは、たとえそれが比類なき存在であろうと、高く評価されていようと、これができるほどには差別化されていない」と、スピーゲル氏は述べる。「それが純然たる事実だ」。
Lucinda Southern (原文 / 訳:ガリレオ)