スケール重視の時代は終わりに近づき、サブスクライブ収益へとフォーカスが移るにつれて、多くのパブリッシャーたちが複数のチームにコラボレーションをさせる形でページビュー数やユニーク数を越えた目標に取り組みつつある。そこでポイントになるのは多くの場合、顧客ロイヤルティやサブスクライブ傾向だ。
かつてはオーディエンス開発というと、プラットフォームにおいてどれだけのビューワーを獲得するか、がポイントであった。しかしスケール重視の時代は終わりに近づき、サブスクライブ収益へとフォーカスが移るにつれて、多くのパブリッシャーたちが複数のチームにコラボレーションをさせる形でページビュー数やユニーク数を越えた目標に取り組みつつある。そこでポイントになるのは多くの場合、顧客ロイヤルティやサブスクライブ傾向だ。
エコノミストの取り組み
エコノミスト(The Economist)の取り組みが例として挙げられる。エコノミストは3つの専門的なトライブ(チーム)を作った。デスクトップサイト用チーム、モバイルアプリ用、そしてニュースレター用だ。それぞれのチームはプロダクト部門、オーディエンス部門、そしてエディトリアル部門のスタッフから横断的に構成されている。5人から6人編成のそれぞれのトライブは毎週ミーティングを行い、プロダクトや戦略について議論する。リーダーのサイト上で費やす時間を増やしたり、サブスクライブユーザーがアプリを開く頻度を増やすといった業績指標の向上が目標だ。
この取り組みはエコノミスト以外のパブリッシャーたちにも広く見られるトレンドとなっている。それぞれの部門が異なる目標を追求するのではなく、共有された指標や目標のもとに、消費者収益を拡大するべくフォーカスをシフトするという具合だ。共有される目標は、それぞれの部門ごとの目標同士の接点であることが多い。
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「以前であればグループ間にちょっとした緊張関係があった。いまでもそれぞれがアジェンダを抱えている状態だが、(現状のシステムは)良いコントロール感を与えてくれる」と語るのは、エコノミストのプロダクト戦略・コンシューマー体験のエグゼクティブバイスプレジデントであるアナ・ローリング氏だ。
ワシントン・ポストの事例
複数のグループが合併するようなユニットを作ることには、ほかのメリットもある。ワシントン・ポスト(The Washington Post)では、以前はマーケティングニュースレター戦略を策定するといったシンプルな業務でも何週間もかかっていた。社内のチームはそれぞれ、プロジェクトにしてもキャンペーンにしても1度にひとつしか取り組まなかったからだ。
現在では5月に結成された15人編成のサブスクリプション専門チームのおかげで、こういったプロジェクトは数日のあいだに終わってしまう。オーディエンス、プロダクト、デザインといった部門のスタッフから構成されているこのチームのおかげで、よりチャンスに俊敏に対応することができるだけでなく、サブスクリプションをキープしてもらうためのあらゆる側面を強化することにつながっている。
「全体の体験を改善することに関して、格段に効率的になりはじめたばかりだ」とワシントン・ポストのプロダクト責任者であるジョーイ・マーバーガー氏は言う。
プッシュ通知という新視点
現時点では、これらのチームはすでに確立されたチャンネルにおける体験の改善にフォーカスされている。そのチャンネルにはeメールによるニュースレターやサイト上のメッセージ、そして広告だ。しかし時間が経つにつれて、モバイルのプッシュ通知といった新しいチャンネルにも注意を払うようになると予想されている。プッシュ通知は有望なエンゲージメントツールとして数多いパブリッシャーたちの期待を集めている。
ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)では、モバイルのプッシュ通知はエディトリアル内のオーディエンスチームによってコントロールされている。しかし、プッシュ通知がメッセージにオプトインした人にだけ届くようになれば、コンシューマー・マーケティングチームも利用する狙いを持っていると、ジャーナルのモバイルプロダクトマネージャーであるグレッグ・エマーソン氏は語った。
モバイルプッシュ通知のようなチャンネルを通してマーケティングをするという手法自体が、これまでにお手本が無い手法のため、現時点ではこのようなコラボレーションは珍しい(また、AppleとGoogleは、それぞれのプラットフォームで送られるプッシュ通知経由のサブスクリプションから15%のマージンを取る。これもパブリッシャーたちがプッシュ通知を積極的には使っていない一因となっている)。
プロダクト開発も重要
「最新の注意をはらって、時間をかけて試すことが賢明だろう」と語るのは、ガーディアンのモバイル・イノベーション・ラブ(Mobile Innovation Lab)のエディターであるサーシャ・コレン氏だ。
プッシュ通知のようなツールをマーケティング用メッセージのチャンネルへと、どうやって変えていけば良いか、いつそれを行えばよいか。この判断はパブリッシャーごとに異なるだろう。また、パブリッシャーがどのような役割をそこで担うかも変わってくる。しかし、これを見極めることは、近い将来パブリッシャーが取り組むことになる一連の課題の一部として確実に存在する。
「マーケティングのし過ぎで、プロダクト開発を怠っていないか。この問題は振り子のようなものだ。このバランスをまさにいま、見極めようとしている」とマーバーガー氏は言った。
Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)
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