サブスクリプション 、「解約」を恐れるパブリッシャーたち:各社の対応状況

有料購読者を獲得したら、その購読者をつなぎとめるための対策を素早く行うことが重要だ。

有料購読サービスの解約率は、一定期間に失った購読者の数か、契約を更新した登録者の数で計算するのが普通だ。サブスクリプションビジネスを営む企業向けソフトウェアを開発するズオラ(Zuora)によれば、2017年には、一般向けメディアを手がけるパブリッシャーの解約率が30%だったという。各社の解約率は販売しているサービスによって異なるが、解約率が40%を超える場合は製品や顧客体験に何らかの問題があるというのが、業界関係者の見方だ。

困難となっている計測方法

英保守派メディアのスペクテイター(The Spectator)は、リテンション率を、12週間のお試し期間が終わってから6カ月後も購読を続けている人の数と、1年後も購読している人の数として算出している。その結果、同社のリテンション率はそれぞれ75%と85%だったと、編集者のフレーザー・ネルソン氏は述べている。

「我々の問題は、保守党の政策に関する話題ばかりを取り上げている雑誌ではないことを人々にわかってもらうことだ」とネルソン氏はいう。「政治の話はほんの一部にすぎない。試しに購読してもらえば、我々のメディアを大いに気に入り、何年も購読を継続する可能性はきわめて高い」とネルソン氏は説明した。

解約する人の数とその理由はさまざまなため、解約率の数字だけを見て比較することは困難だ。通常、解約率を確認できるのは、課金がはじまってから2年目以降のことになる。また、四半期の最後の週は、最初の週よりも顧客の獲得数が高くなることが多い。販売チームが四半期目標を達成しようとするからだ。だが、そのようにして獲得した読者が質の高い顧客でなければ、数カ月後には解約率が上がることになる。同じように、特別価格や割引価格で読者を獲得しても、あとで解約率が急上昇する可能性があるのだ。

解約率を下げるために

さらに、読者の購読期間も解約率に関連している。エンゲージメントが高く、記事を読む習慣を身につけた読者ほど、手堅い顧客になるのだ。タイムズ・オブ・ロンドン(Times of London)では、お試し期間の顧客や購読期間が半年以内の顧客の解約率が、2年間購読している人の5倍になっていると、「タイムズ(Times)」と「サンデー・タイムズ(The Sunday Times)」のマネージングディレクターを務めるクリス・ダンカン氏はいう。

「顧客獲得サイクルのどの段階にあるのか、購読料はいくらなのか、顧客の拡大を熱心に行っているか、新しい見込み客と古い見込み客のどちらが対象なのか、といったことを考える必要がある」と、ダンカン氏は話す。

パブリッシャーは、解約率を下げるために、編集、製品、およびマーケティング面でさまざまな取り組みを行っている。具体的には、さまざまな製品の存在と価値を読者に知ってもらい、感情に訴えるだけでなく、読者とコミュニケーションを図るようにしていると、ロイター・インスティテュート(Reuters Institute)のジャーナリズム担当研究員、グジェゴジ・ピエコタ氏はいう。

解約率を抑制するには、さまざまなオーディエンスを対象に詳しい予測を立てる必要がある。たとえば、新しい購読者には、さまざまな製品やサービスを紹介するというのが効果的だが、購読期間が1年半の顧客には、そのような読者に適したメッセージを届ける必要がある。フィナンシャル・タイムズ(Financial Times:FT)などのパブリッシャーは、リアルイベントを行ったりサイトの表示速度を速めたりするなど、さまざまな取り組みを行って解約率を抑えようとしている。

「読者獲得は石油の火」

ドイツの全国紙「ディ・ベルト(Die Welt)」のやり方は、顧客の行動を調査し、解約する可能性が高いタイミングを把握するというものだ。メディアコングロマリットのアクセル・シュプリンガー(Axel Springer)が発行している同紙は、およそ25種類の指標に基づいて、顧客を6つのグループに分けている。その指標には、サイトを訪れる頻度、サイトの利用時間、購読前にサイトを訪れた回数、好んで読む記事のタイプなどが含まれる。

タイムズは、直近の4カ月を対象とした独自のエンゲージメント指標を利用して、解約した読者が再び購読する兆候を示す行動を把握しようとしている。この取り組みは、まだ初期の試験段階だが、購読してから解約するまでの期間に関係があることがわかったという。エンゲージメント指標がもっとも高い読者は、解約する確率が25分の1に減るのだ。

「解約がUターンしてしまう石油タンカーだとすれば、読者の獲得は燃える石油の火だ」と、ダンカン氏はいう。彼によれば、タイムズはこの2年間で、解約率を3分の1に減らしたという。同社はその間、値上げを行う一方で、レストランの割引サービスやコンテンツのダウンロードサービスを提供するなど、有料サービスで得られる価値に影響する変更を実施した。また、読者がどのようなコンテンツを読んでいるのかを、より正確に把握できるようにした。

解約と成長のバランス

解約率を抑制するには、さまざまなスキルも必要だ。当然ながら、読者の状況を理解し、解約率だけでなくその要因を知るには、分析結果を理解できる能力が必要になる。エンゲージメントを高めるには、有能なマーケターが欠かせないし、解約を防ぐには、優秀なコミュニケーション担当者が必要だ。ダンカン氏によれば、タイムズは、解約を求めた人の半数以上に、解約を思いとどまらせることに成功しているという。その要因のひとつは、製品についてよく知ってもらうための活動だ。読者に割引価格を提供するのではなく、解約すれば将来読めなくなるコンテンツに関する情報を提供することが、解約を防ぐ大きな武器になっているという。

ただし、解約率があまりに下がると、パブリッシャーが新しい読者の獲得に熱心に取り組まなくなる可能性がある。「解約率を下げられるようになると、ほぼ確実に成長率も下がることになる」と、ダンカン氏はいう。「最終的には、解約率と成長率のバランスを取ることを目指さなければならない」と、ダンカン氏は語った。

Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)