経済が低迷するなか、ブランドの広告支出のあり方にも変化が起きている。ブランディングを目的とした実験的な広告への予算が消滅し、成果に直結する効果が明白な広告に投じられるようになった。この状況を乗り切るため、パブリッシャーをはじめとするセルサイドでは、さまざまな手段を駆使して広告ユニットを売り込もうとしている。
今年末に、広告主たちに新しい広告フォーマットを試してもらう交渉を計画していたパブリッシャーたちは、困難な状況を感じている。
広告支出によって成果を挙げなければならないプレッシャーを感じつつ、クリエイティブに関するリソースと時間は限られており、広告主は苦戦している。従来使われなかったクリエイティブ要素を取り入れたり、(広告主にとって)馴染みのない指標に基づいて販売されたりする広告フォーマットを試すことを躊躇しているのだ。広告主たちは成果が分かっているもの、既存のメディアミックスモデルに簡単に組み込める広告にどんどんと引き寄せられていると、メディアエージェンシー、セルサイド双方の情報源から証言を得た。
新しいフォーマットへの支出が完全になくなったわけではないものの、年末に広告契約を増やしたいと考えているパブリッシャーは、ブランドが試しやすい商品を用意する必要がある。また、肝心の広告主たちは口を閉ざしがちであることも、新型コロナウイルスがパブリッシャーにもたらした課題のひとつだ。しかし同時に、多くの広告主が設定してきた長期的な目標、たとえばファーストパーティデータを利用した広告フォーマットの販売や、広告の制作プロセスのコントロールを強化することなどにもつながる。
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新しいものには挑戦できない
「実験的な運用はあまりおこなわれていない」と匿名を希望する、ある大手デジタルパブリッシャーの収益責任者は語った。この人物によると、ここ数カ月の間に新しい広告ネットワークを試すことや、なにか新しい取り組みを「どうなるかやってみる」ことに興味を示すクライアントの数は減っていると言う。
「これらのクライアントが必要なのは柔軟性、効率性、スケールだ」とこのエグゼクティブは言う。「これらを達成できるパートナーたちはいいポジションについている」。
今年のほとんどの期間、コロナウイルスによる経済・文化両面での混乱によって、マーケターは広告支出の成果を証明する必要に迫られている。この事態はパブリッシャーたちのブランデッドコンテンツ事業は縮小させ、広告セラーたちに数カ月の準備ではなく数日で実行できる安価なキャンペーンを考えるように強いた。そしてパブリッシャーたちが新しい案件を勝ち取るのがさらに困難になっている。
多くの広告主たちはここ数カ月のあいだ、長期的なプランニングができないために短縮されたスケジュールで広告運用をおこなってきた、とエリック・レクイダン氏は言う。同氏はサイトマネタイゼーションのコンサルタント企業メディア・トレードクラフト(Media Tradecraft)の共同創業者だ。そしてパンデミック中は不適切になるために使えないと判断し、多くのクリエイティブアセットを破棄した広告主たちは、従来とは違った形の広告ユニットに当てはまるようなものを構築する時間やリソースを持っていない。
「シンプルでなくてはいけない。複雑であってはいけない」とレクイダン氏は言う。
根拠に基づく予算配分
こうした「プレッシャー」はまた、ブランド側の予算の再編成にもつながっている。従来であれば実験的な広告などに使われていた予算を、売上を牽引するためのなにかに配分する、といった具合だ。
実験的な広告フォーマットはしばしば、ダイレクトな反応を目的にするというよりは、ブランディング目的でデザインされていると、メディアエージェンシーであるエッセンス(Essence)のメディアアクティベーション部門バイスプレジデント、アンソニー・リナルディ氏は指摘する。「予算が削減されるとしたら、それはブランディング目的のところからになる」。
新しい、実験的なユニットでも成果をもたらすことができるパブリッシャーの場合は、マーケターたちの傾向の変化から受ける影響もある程度少なくなっている。「実験的なブランド中心主義から、パフォーマンス中心主義へのシフトが見られる」とワシントン・ポスト(The Washington Post)のコマーシャルプロダクト責任者であり、ディレクターのジェフリー・ターナー氏は話す。「我々としても、独特のスタイルの広告フォーマットへの依存は減っている」。
「壁にペンキを(当てずっぽうに)投げつけるのではなく、予算のほとんどはデータを根拠に成果が出るとわかっているものに配分されようとしている」とターナー氏は言う。同氏のチームが受けた広告掲載申込の60%は、ワシントンポストのファーストパーティデータを活用したとも付け加える。
馴染みがあるが新しいもの
ほかのセルサイドの人々は、簡便さと馴染みがあるものを組み合わせることで、バイヤーたちが新しいものを試してくれないかと期待している。
たとえば、モバイル広告ベンダーのカーゴ(Kargo)は最近、もっともパフォーマンスがよく、効果のある広告ユニットのAMPバージョンをローンチした。そして先日、ヴォックス・メディア(Vox Media)は同社が提供する広告ネットワークのコンサート(Concert)とコンサート・ローカル(Concert Local)向けに、セルフサービスの独自広告マネージャーをローンチすると発表した。
「バイヤーもまた、収益を得るためにビジネスをやっている。彼らにとっても理にかなっている方法を見つける必要がある」とメディア・トレードクラフトのレクイダン氏は語った。
[原文:‘Not a lot of experimenting going on’: Ad buyers cut back on ad format experimentation]
MAX WILLENS(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)