大手パブリッシャーのなかには、3月に入り、広告事業の明るい未来がはっきりと見えてきたところもあった。しかし、中小パブリッシャーやメディアバイヤーにしてみれば、受注案件が2023年下半期にずれ込む様子を目の当たりにしているため、第2四半期の状況は依然として不透明であり、第1四半期と変わらず依然不安定である。
2023年第1四半期の数字を見ると、パブリッシャーの広告事業は全般的に不透明感が強まっていた。しかしながら大手パブリッシャーのなかには、3月に入り、明るい未来がはっきりと見えてきたところもあった。これは、第1四半期で計上予定の取引が第2四半期で実現することになり、第2四半期の利益がそれまでの3カ月よりも高くなる公算が立ったからだ。
とはいえ、そのほかの中小パブリッシャーやメディアバイヤーにしてみれば、さらに多くの受注案件が2023年下半期にずれ込む様子を目の当たりにしているため、第2四半期の状況は依然として不透明であり、第1四半期と変わらず依然不安定である。
「第2四半期は第1四半期よりもかなり改善するのではないか。第2四半期は極めてよい四半期になると私は思う」。匿名を条件にそう話してくれたのは、大手デジタルパブリケーションの営業幹部だ。「もちろん、状況がガラリと変わる可能性もある。でも、現状を見る限り、顧客は財布の紐を緩めて予算を使おうとしている」。
Advertisement
プログラマティック広告の長期的な取引が増える?
同営業幹部は、自社が第2四半期の広告事業がどのくらい増益すると見ているのか前年同期比の具体的な数字は教えてくれなかったが、第2四半期の見通しは、とくにプログラマティック広告で「かなり強気」だという。成長が見込まれる理由のひとつが、広告主の意欲の違いにある。今は長期的視点、つまり数カ月もしくは数四半期にわたる取引に関心が集まっているという。
一方、2022年第4四半期と2023年第1四半期のキャンペーンは同四半期内に実施されるものが中心で、実施時間の短いものが優先されていた。
とはいえ、IPG傘下のエージェンシーであるUMワールドワイド(UM Worldwide)の最高マーケットプレイス責任者を務めるステイシー・スチュワート氏によれば、すべての広告主が長期取引を約束できる、もしくは望んでいるわけではないという。
「今は、とくに柔軟な対応が継続して求められているため、長期的な投資はそれほど多くない」。この傾向は1年ほど前の2022年アップフロントサイクル時に始まった。この年間契約締結時期に、年間取引の予算削減が始まり、その傾向は「現在も続いている」と同氏は指摘する。
日常的な商材を扱う顧客の予算は減少傾向
4月12日、IAB(インタラクティブ広告協議会)の2022年版インターネット広告収益年次報告書(Internet Advertising Report)が公表された。それによると、2022年はデジタル広告費の上昇が見られるが、その動きは緩慢であることが示されている。また、第3、第4四半期のインターネット広告費は前年同期比でそれぞれ8.4%減、4.4%減である一方、年間全体の広告費はほぼ2100億ドル(約27兆円)で、2021年の10.8%増になるとも記されている。
顧客の予算は全体として前年比平均15%~20%減で、カテゴリーによってばらつきがあるとスチュワート氏は話す。一般的に「間違いがない」と考えられているカテゴリー(たとえば日用消費財)に減少が見られるという。
「第2四半期の動きは遅い。2023年第1四半期と比較して広告費に大きな変化は見られないと思う」と同氏。また、セキュリティで保護された広告は主に、プログラマティックやCTVのような柔軟性の高いチャネルに重点を置いているという。
第2四半期は比較的楽観的か
米DIGIDAYに匿名で話を聞かせてくれた別のパブリッシャー幹部は、2023年第1四半期と比べると、第2四半期は「比較的明るいのではないか」と話し、第1四半期の終盤に広告の検討を始めた広告主は、第2四半期に入っても検討を継続するので、その分取引が増加すると述べている。
この幹部は、「第2四半期に関しては警戒しながらも楽観的に捉えている」と4月3日に話した。楽観的であっても油断できないのは、提案依頼書(RFP)を受けて提案しても、担当営業チームと連絡を取らなくなる見込み客が通常よりも多いからだ。また、キャンペーンの開始を2023年後半に遅らせたいと頼む広告主もいる。
それ以外は、「予測精度はかなり高いと思う」と同幹部は言う。「(2月現在)第1四半期の数字はかなりはっきりと見えていて、実際、そのとおりの結果になった。予測した数字は必ずしも望ましいものではないが、どのような結果になるのかは予測できたということだ。現時点での第2四半期の結果予測に関しても、同じくらい確信がある。若干誤差がでるかもしれないが」。
キャンペーンは後ろ倒しになり、予測は不明瞭に
しかしながら、すべてのパブリッシャーが前述の2人のように安心していられるわけではない。実際、広告主が投入できる予算は増えているかもしれないが、広告主は予算を投入する前に、これなら必ずうまくいくという確信をあらかじめ欲しがっているようだ。それは、契約締結直前でも変わらない。これから締結する契約を約束するのは、その時点になっても難しいものだ。
3月28日に米国で開催されたDIGIDAY PUBLISHING SUMMIT(DPS)のワーキンググループセッションでは、あるパブリッシャーがチャタムハウスルール(得られた情報を利用できるが、その情報の出所、参加者の所属などに関しては明らかにしない義務を負うというルール)に従い匿名でインタビューに答え、週単位で広告予算を承認・投入する行為を「リンス&リピート」サイクル(繰り返しサイクル)と称した。
DPSのワーキンググループでは、別のパブリッシャーも「口約束のままで永遠に止まった取引を数多く目にしている。広告キャンペーンを後ろ倒しすれば、予測を出すのも不可能になる」と話した。さらに、「1月開始予定だったキャンペーンが、今では7月頃に開始と言われる」と明かした。
DPSの3人目のパブリッシャーは、既存の顧客や見込み客に比較的規模の大きな目玉となるキャンペーンを売り込むよりも、2023年はRFPの提案から生じた取引に絞って取り組むことにしていると話した。そうすれば、残りの四半期で広告予算を確実につかめるのではないかと考えたからだ。
これは今、広告市場で見られる「バンパーカー効果のようなものだ」と話すのは、セス・ハーグレイブ氏だ。同氏はメディアバイイングに特化したエージェンシのメディア・トゥ・インタラクティブ(Media Two Interactive)でCEOを務める人物で、同社では第1四半期に承認されるはずだった広告予算が玉突きで第2四半期の予算になるという事案が、複数件生じているという。この傾向は、景気後退の可能性が消えない限り、おそらく年末まで続くのではないかとハーグレイブ氏は話す。
広告主は資金を出し惜しみしている?
「予算のことを考えると、バンパーカー効果はおそらく年内最も安全な方法だ」とハーグレイブ氏は言う。「景気後退の話題は依然としてどこでも耳にするし、2023年後半に何が起こるのか想定していなければ、間違いなくブランドはかなり痛い目をみることになるだろう。もう聞き飽きた『景気後退』という言葉が聞かれなくなるまでは、今後も予算投入の遅れを見ることになるだろう」。
ハーグレイブ氏の予測によると、2023年第2四半期は、顧客の予算の規模で見た場合、2022年第2四半期と比較してあまり大きな変化なく終わるという。ただし、「分野によっては前年比で広告費が増加する分野(たとえば金融・銀行[約20%増]、行政、高等教育[この分野も約20%増])もある」と話す。
MMIエージェンシー(MMI Agency)のグループ・メディア・ディレクターを務めるミア・ビエイラ氏は、顧客である高等教育機関の広告予算をチェックしているが、少なくとも6月末まではこのまま状況が変わらないと、かなり自信を持っている。顧客の年間予算(2022年から2023年はほぼ変化なし)も、想定内の動きだと同氏は推測する。
ただし、今後の第3、第4四半期に関しては、2023年上半期における見込み客の開拓・獲得の状況と経済状況によっては、広告予算や事前計画キャンペーンに多少の変化が生じるかもしれないと認めている。
「予算に関していえば、多くの広告主が依然として広告キャンペーン用の資金を銀行に預けている状態だ。広告主は資金を手にしたまま、使うのを遅らせているにすぎないのではないか」とハーグレイブ氏は指摘し、「使う準備が整えば、キャンペーンの展開について極めて戦略的に予算を投入するはずだ」と話す。
Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)