GoogleのChromeにおけるサードパーティCookie廃止が延期され、デジタル広告業界はひとまず猶予期間を得たように見える。だが、パブリッシャーとしてはこの期間を、大きくなりつつあるAppleのSafari問題に自分たち、広告主、エージェンシー、アドテク企業がついに取り組む機会としたいところだ。
GoogleのChromeにおけるサードパーティCookie廃止が延期され、デジタル広告業界はひとまず猶予期間を得たように見える。だが、パブリッシャーとしてはこの期間を、大きくなりつつあるAppleのSafari問題へ、自分たち、広告主、エージェンシー、アドテク企業がついに取り組む機会としたいところだ。
主なポイント:
- 普及率の高いChromeでサードパーティCookieが使用できることから、デジタル広告業界はSafariの問題については大体において見て見ぬふりをしてきた。
- Safariのトラッキング制限はパブリッシャーの収益拡大の足かせとなっており、モバイルトラフィックが増えるに従って、より大きな問題となりつつある。
- パブリッシャーに対するAppleのコミュニケーション不足が状況をさらに悪くしている。
- パブリッシャーは特定ブラウザ専用の対策ではなく、Safariでの解決策がほかのCookieレスのブラウザにも適用でき、いずれはChromeにも使用できることを望んでいる。
くすぶっていた問題についに火がつく
Safariでのトラッキングを制限するためにAppleがインテリジェント・トラッキング・プリベンション(Intelligent Tracking Prevention:以下、ITP)を導入してから4年。パブリッシャーは、Safariでの広告インプレッションから得られる利益も同様に制限されることを知った。あるパブリッシャー幹部は、SafariのインプレッションはChromeのインプレッションの半分以下でしか売れないと明かし、別のパブリッシャー幹部はSafariのほうがChromeより70%低いだろうと話した。だが、ブラウザ市場全体に占めるChromeの割合が大きいため(7月時点で65%、一方のSafariは19%、スタットカウンター[Statcounter]調べ)、パブリッシャーや広告主はこれまで、労力や広告予算をChromeに向けることでこれに対処してきた。
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3人目のパブリッシャー幹部は次のように語る。「Appleは(Safariの相対的に小さい)規模と代替手段があることから、フリーパスを与えられていたようなものだ。収益全体が大きく影響されることはなく、単に収益源が別のブラウザに移るだけだったから」。
ところがサードパーティCookie廃止でChromeがSafariに「近づく」計画が明らかになり、人々がステイホームを終えて外に出はじめ、モバイルトラフィックの増大が見込まれるようになると、パブリッシャー側はこの「フリーパス」をなくす必要性を切に感じるようになった。4人目のパブリッシャー幹部によれば、自社のサイトに流入するモバイルトラフィックの半分、PCトラフィックの3分の1をSafariが占めるという。このパブリッシャー幹部は「Googleの延期によって、パブリッシャーの焦点はSafariとその問題の解決に大きく向かうだろう。2年先までにはかなり時間があるため、明日Chromeで何が起きるかは心配していない。何も起きるはずはないからだ。だが、Safariは問題だ」と述べる。
Safariは差し迫った問題であるだけでなく、ますます大きくなりつつある問題でもある。3人目のパブリッシャー幹部は「人々が再び外に出て動き回るようになった今、モバイルトラフィックの増大も見られている。サードパーティCookieの廃止延期で、Safariに再びスポットライトが当てられている」と話した。
Safariの解決でChromeにも対応
デジタル広告業界がSafari問題に十分向き合ってこなかった理由には、パブリッシャーからしてみると特定のブラウザだけを対象とした解決策にあまりメリットがないことがある。
一般的に、広告主は使用されるブラウザに基づいて広告を買うことはない。また、ChromeのインプレッションでSafariにおける収益化の制約を埋め合わせることもできた。たとえば、対象の広いスポンサーシップ契約を結び、プログラマティック市場やPMPを通してオーディエンスベースで購入する広告主には、手付かずであることの多いCookieレスのSafariのインプレッションを埋めるということが行われる。「Cookieを要する場合は、Safariなどの環境で広告を展開することは不可能だ。だから、スポンサーによるテイクオーバー広告や、Cookieに関係しないSOVベースの購入を売り込んでいる」と5人目のパブリッシャー幹部は語る。
だが、ChromeがCookie廃止へと向かっていることを受け、パブリッシャーはChromeの変更に対して備える手段として、Safari問題に取り組むことを考えはじめている。
「Safari対策に集中すべきベンダーはたくさんいる。Safari対策ができれば、Chromeでもうまくできるはずだ」と4人目のパブリッシャー幹部は話す。
Safariからの応答なし
問題は、Safari問題について騒いでいるのが主にパブリッシャーだけであることだ。Chromeの延期を、Safari対策を検討していずれはCookieレスのどのブラウザにも適用できるようにするための期間ととらえる広告主やアドテク企業は見たことがない、と複数のパブリッシャー幹部が口をそろえた。
「取り組みを検討しているバイヤーにはいまだ会ったことがない」と5人目のパブリッシャー幹部は語った。3人目のパブリッシャー幹部も「(業界全体でSafariの制約に対する)取り組みがあったとしても、自分は聞いたことがない」と話す。
アドテク企業にしてみれば、Safariの制約への対策を編み出しても、すぐにAppleに無効にされるのではないかという警戒感がある。「(Safariには)サードパーティのソリューションがない。サードパーティ側にしてみれば、Apple用に何か作っても、Appleがそれを使えなくするのではないかとの懸念があるのだと思う」と6人目のパブリッシャー幹部はいう。問題の核心はまさにここにある。Appleだ。パブリッシャーがSafariの制約に合わせて広告ビジネスを調整しようとするなかで、まったく姿が見えてこないのだ。
3人目のパブリッシャー幹部は「Appleからこちらへの連絡は一切ない」と述べ、「Appleが業界やパブリッシャーと関わろうとしないことを誰も特に糾弾しない」と加えた。「Appleの場合は、誰に連絡、相談すればよいのか誰にもわからない、という状況。彼らはパブリッシャーとは確実に話をしていない」と6人目のパブリッシャー幹部は話す。Appleにコメントを依頼したが、本稿発行時までに回答はなかった。
TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)