近頃、パブリッシャーはFacebookのグループ機能に注目しているようだ。その背景には、コミュニティ形成やバーティカルなコンテンツ配信といった、パブリッシャー側の戦略とFacebookのグループ機能との相性が良いことが挙げられる。
オーディエンスと自社サイト上で直接繋がるため、パブリッシャーのなかにはFacebookと距離をとりはじめているところもあるが、Facebookのグループ機能に関しては異なるようだ。
2017年、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは同社のミッションを、改めてコミュニティの活性化に位置づけ、グループ機能がその最適なツールだという考えを示した。パブリッシャー各社もその動きに追随しており、この数カ月で、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)、BuzzFeed、NBCのテレビ番組トゥデイ(Today)は、Facebook上で各テーマに特化したグループを立ち上げている。
パブリッシャーにとってはオーディエンスの獲得が最優先だが、それ以外にもメリットがあるようだ。たとえば、ワシントン・ポスト(The Washington Post)は現在、サブスクリプションの規模を拡大をしており、4000人以上が登録するFacebookグループ「ポストディス(PostThis)」にてジャーナリズムの信頼性を訴求することで、サブスクリプションへ効率的に誘導している。
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ブルームバーグ・ニュース(Bloomberg News)もFacebookグループ「マネートーク(Money Talks)」を開設しており、3500人以上がメンバーとなっている。ここでは、「30日間でファイナンス状況を改善」といった金融に関する個人向けのアドバイスを掲載している記事やハイライト記事などを積極的に配信していると、オーディエンス戦略のトップであるミーナ・シルヴェンガダム氏はいう。
「グループ運営で大事なのは、投稿に対する議論を促さなければならない。エンゲージメントの獲得と、コミュニティ形成が重要だ」。
パブリッシャーの狙いと好相性
パブリッシャーとFacebook、それぞれの目的は相容れないことが多い。しかしグループ機能に関しては、パブリッシャーの狙いであるコミュニティ形成やバーティカル戦略のような、特定のジャンルに絞ったコンテンツ配信との相性が良いようだ。また、グループ機能における議論をジャーナリスト自身にリードさせることで、彼らのPRにも活用されている。
ボストン・グローブ・メディア(Boston Globe Media)のソーシャルメディア部門責任者であり、ハーバード大学のジャーナリズム界におけるリーダーを育成するプログラム、ニーマンフェロー(Nieman Fellow)の参加者であるマット・キャロリアン氏も、「実際には、同じ方向に向かって進んでいるのだ」と指摘する。ボストン・グローブ・メディアもFacebookのグループを持っている。そのうちふたつのグループでは、人種とニュースというトピックに沿って幅広い議論が交わされている。メンバーは3000人ほどだ。3つ目は比較的小さく、ボストン・グローブ・メディアに対する要望を提案する場となっている。
グループ機能をプロモーションするために、Facebookが2017年にローンチしたのが、管理者のログ活用をサポートする分析ツールだ。このツールを使えば、管理者はアクティブなメンバーが何人で、どれくらいの頻度で投稿とコメントをしているかを知ることができる。また、特定のトピックへの反応も把握も可能だ。以前であれば、こういったデータは管理者が自分で集計しなければならなかった。さらに、グループ参加者を選別することもできるため、いわゆる「荒らし」ユーザーの侵入を防ぐことができる。
ポストディスを管理する、シニアプロジェクトエディターであるテリー・ルーパー氏は、Facebookグループに関してこう話す。「いまのところは、確実に運用する価値があるといえる。Facebookグループの運営は時間の無駄などではなく、読者に対して、彼らが本当に読みたいと思う記事を届けるための格好の手段といえる。『あなたが関心がある記事はこれです』『知りたい情報はここにあります』と提案するのに最適なのだ。エンゲージメントは扱い辛い部分もあるが、極端に党派的な状態にはしたくないと思っている。ただ、グループのメンバーたちは、おおむね我々がやろうとしていることに対して好意的だ」。
他社コンテンツの配信も
Facebookグループで、自社コンテンツ以外を配信しているパブリッシャーもいる。ニューヨーク・タイムズは2万2000人ほどのメンバーによるポッドキャスト・クラブを抱えている。これは、ポッドキャストに関する議論を交わす場であるが、必ずしもタイムズ社のコンテンツだけをプロモーションしているわけではない。
ニューヨーク・タイムズのオーディオ部門のエディトリアル・ディレクターである、サマンサ・ヘニッヒ氏は「我々は人々が何に反応を示すかを注意深く観察するようにしている。そこで得た情報は、自社のプログラム改善に有効活用できるし、オーディオ業界においてニューヨーク・タイムズを重要なブランドとして発信していく役にも立つ」という。
ほかにはインフォメーション(The Information)やアトランティック(The Atlantic)といったパブリッシャーはプライベートFacebookグループを、有料メンバーシッププログラムの一部として提供している。
Facebookグループは諸刃の剣
コンテンツや議論の場を自社サイト以外で配信することは、パブリッシャーにとっては諸刃の剣になり得る。彼らは読者が集まるところに配信したい一方で、読者の行動をトラッキングしたり、サブスクリプションサービスへと誘導したいという思いも抱えており、その点においてFacebookグループは自社サイトよりも、非効率だからだ。ただ、ボストン・グローブでは記事ごとにコメントが付けられるが、Facebookグループがあることで自社サイトでのコメントが減少するといった、ネガティブな影響は出ていないと、キャロリアン氏はいう。
「人々がFacebookで毎日費やす時間は一定だ。その時間のうち、我々に費やす時間をいかに最大化させるかが重要。我々はFacebookグループを自社サイトの競合だとは思っていない。自社サイトにおけるコメントは(Facebookグループにおけるコメントよりも)重要だが、それらはその記事に対する内容でしかない」。
Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)