Appleは、広告のターゲティングに依存されているサードパーティCookieの使用を抑制して、パブリッシャーがプログラマティック広告を通じてSafariユーザーを収益化するのを阻止してきた。だが、パブリッシャーは現在、ほかの形のデジタルIDを利用して、そうしたユーザーのマネタイズの代替方法を模索している。
イギリスの新聞紙であるデイリー・メール(Daily Mail)のオンライン版、メールオンライン(MailOnline)が、サードパーティCookieに代わる、Safariユーザーのターゲティング方法を試しはじめた。
Appleは、広告のターゲティングに依存されているサードパーティCookieの使用を抑制して、パブリッシャーがプログラマティック広告を通じてSafariのオーディエンスをマネタイズするのを阻止してきた。だが、パブリッシャーは現在、ほかの形のデジタルIDを利用して、そうしたオーディエンスをマネタイズできるようにする代わりの方法を模索している。
CPMが30%上昇した
メールオンラインのコマーシャル部門であるメールメトロメディア(Mail Metro Media)とロンドンの無料紙ザ・メトロ(The Metro)は6月、非営利コンソーシアム、デジトラスト(DigiTrust)の標準化されたIDと、テック企業ID5のユニバーサル識別子の実装を開始した。メールメトロメディアの技術運用及びコマーシャル担当責任者であるトム・ピックワース氏によると、それ以降、メールオンラインのSafariでのCPM(インプレッション単価)は30%上昇したという。デジトラストのメンバーであるルビコンプロジェクト(Rubicon Project)経由のほうがフィルレートがやや高く、1.4%の上昇だったと、ピックワース氏は付け加えた。
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9月18日にロンドンで業界団体のオンラインパブリッシャー協会(Association of Online Publishers)が主催したイベントで、ピックワース氏は講演し、CPMはやや低下したと語った。Safariでオーディエンスを追跡できず、一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)の施行により、オプトインして、個人データが広告のターゲティングに利用されることに同意する人が減ったためだという。
メールオンラインは、オーディエンスをセグメント化する一方で、6月に1カ月間にわたるテストを実施した。デジトラストのIDを使用するChromeとSafariブラウザで認証されたオーディエンスと、ID5の固有識別子で認証されたオーディエンス、別の標準化された識別子がないオーディエンスの割合は、それぞれ33%だったので、結果を検査することができた。
IDを使用した結果、ChromeでのCPMにも明るい兆しがあった。20%上昇したのだ。
「もっと多くのパブリッシャーが関与すれば、(CPMレートは)もっと向上するだろう」。ピックワース氏はそう語り、デジトラストの広範な導入が進んでいない、卵が先か鶏が先かという状況をほのめかした。「そうすれば、もっと多くのサプライサイドプラットフォーム(SSP)やデマンドサイドプラットフォーム(DSP)が後に続く。より多くのパブリッシャーが参加するのを待つところもあるだろう」。
「複数のアプローチが必要だ」
コムスコア(Comscore)によると、メールオンラインとザ・メトロは、7月の月間ユニークユーザー数は計2940万人を超えていたものの、収益の柱としてCookieベースの広告にまだ依存しているという。だが、メールオンラインは、代わりのターゲティング手段を引き続き試しており、今後のブラウザの変更やGDPRにうまく対応できるようにするだろう。
「多面的なアプローチだ」と、ピックワース氏は語る。「データ管理プラットフォーム(DMP)は、ローカルストレージを利用してパブリッシャー向きになってきており、我々は識別子も利用している。すべての面に目を向ける複数のアプローチが必要だ」。
ブラウザがサードパーティCookieのトラッキングを抑制し、ユーザープライバシー関連法をめぐる締め付けが厳しくなるなど、パブリッシャーのデジタル広告収益は、複数面から脅威にさらされている。サードパーティCookieの消滅を受け、アドテクベンダーや業界団体、非営利団体はいずれも、新しい標準のID通貨になり得ることを証明しようとしており、何が優位に立つのかを確認するために比較対照が必要な立場にパブリッシャーは置かれつつある。
Safariでは直接取引を優先
ほかのパブリッシャーも、Cookie以外の方法を取りつつあるが、まだ初期段階にある。マリ・クレール(Marie Claire)やウォールペーパー(Wallpaper)などの発行元であるTIメディア(TI Media)も、Cookie以外のデジタル識別子をテスト中だ。
TIメディアのデータ及びインサイト担当責任者を務めるエイドリアーナ・テイラー氏は、次のように述べている。「Safariを通じて流入するトラフィックの量が増え、トラッキングできないオーディエンスのため、CPMの価値が下がる。それに、2、3のデータポイントしかないCookieにはそれほど入札しない」。
優良パブリッシャーの場合、Safariでのトラフィックは、世界のブラウザ市場の共有ソースから引用されることが多い業界平均である約30%をはるかに上回ると、テイラー氏は付け加えた。スタットカウンター(StatCounter)によれば、英国では、Safariはモバイルで45%の市場シェアを握るが、ほかのブラウザはシェアがそれより低いという。
短期的な戦略として、TIメディアは、広告の販売方法を微調整している。価格を管理しやすいSafariを通じて比較的多くのインベントリー(在庫)をエージェンシーや広告主と直接取引し、オープンなマーケットプレイスを通じてChromeのインベントリーを多めに扱い、オープンエクスチェンジではプログラマティックギャランディード(保証型プログラマティック)取引を行っているのだ。
予算のシフトにつながる懸念
ほかのパブリッシャーは、オーディエンスをこのように再分配する方法で、広告料金を管理してきた。つまり、Googleが最近、ブラウザの制限がサードパーティCookieに及ぼす影響についてレポートを発表したが、そこで言及されていたような収益の大幅減少は、それほど感じられてはいなかった。
Safariのオーディエンスの20~30%が消えたグループ・エム(GroupM)のようなエージェンシーも、オーディエンスの入れ替え方法を考え出そうとしている。いまのところ、再配分は管理可能だが、長期的には、ターゲティング広告の減少が、オフラインチャネルまたはFacebookやGoogleへの予算のシフトにつながる懸念がある、とコンサルティング企業プログラマティックアドバイザリー(The Programmatic Advisory)の創業者兼CEOであるウェイン・ブラッドウェル氏はいう。
GDPR施行後は、コンテクスチュアルターゲティングを増やす方向に揺り戻しがあり、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)のようなパブリッシャーは、この分野で前進して刷新しているが、ファーストパーティターゲティングと比べると、影響は常にそれほど大きくないだろうと、ブラッドウェル氏は付け加えた。
「2年前に、戦略上の目標は何かとマーケターに聞いたら、『シングルカスタマービューの全面的な導入』という答えが返ってきただろうが、いまは基本的にそれが不可能だ」と、ブラッドウェル氏はいう。コンテクスチュアル広告が役割を担うだろうが、物足りない感じがするので、デジタル広告への支出が多くパフォーマンスを重視しているところは、何らかのIDを求めるだろうと、ブラッドウェル氏は付け加えた。
文脈広告はひとつの手段
メールオンラインとTIメディアは必ずしも、コンテクスチュアルターゲティングにデジタル広告の未来を見出しているわけではない。メールオンラインの場合、コンテクスチュアル広告を購入するのは、ターゲティングされたオーディエンスのデータプールが縮小し続けるなかで、広告主が求める多くのインプレッションを用意するひとつの手段になるからだと、メールメトロメディアのピックワース氏は述べた。
「こうしたものすべてと同様に、直接購入の価値が高まるが、オープンなマーケットプレイスでは、予測して広告主の考えを知るのは困難だ」と、ピックワース氏は指摘した。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)