GoogleによるCookieレスへの移行が延期となり、Cookieレス時代に備え、各企業はその多くが2020年に中断していた採用活動を再開させている。そして2021年の上半期、プラットフォーマーやスタートアップ、コンサル企業などにおいて、求人数が求職者数を上回ったという。
GoogleによるCookieレスへの移行が延期となった。アドテクのIPO市場が活気を取り戻しているなか、Googleのタイムラインの変更は、すでに過熱しているアドテク業界の求人市場を刺激することになりそうだ。サードパーティCookieが使えないCookieレス時代に備え、メディア各社やマーケティング企業たちは、その多くが2020年に中断していた採用活動を再開させている。
米DIGIDAYが何名かの人事関係者に話を聞いたところ、2021年の上半期、プラットフォーマーやスタートアップ、コンサル企業などにおいて、求人数が求職者数を上回ったことで需給バランスが崩れ、さほど重要なポジションでなくとも10万ドル(約1100万円)を超える給料が支払われるような事態が生じているという。
「仕事は腐るほどある」と、ロンドンを拠点とするアドテク業界専門の独立系人材会社の経営者、ガリ・ダルシ氏は話す。
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売り手市場が生じた3つの要因
この売り手市場の背景には、いくつかの要因がある。まず、アドテク業界のIPOが再び活発になってきたことが挙げられる。市場には資金が大量に流れ込んだ。投資先として選定され資金を蓄えることを目論み、一部のアドテク企業は投資家へ訴えるべく、大量採用により上場前の急成長を装っている。
スリー・ピラーズ・リクルーティング(Three Pillars Recruiting)のCEO、アビ・マリー氏は、「今の市場は、いささか過熱気味と言ってよい」と語る。「多くの創業者には『18カ月の猶予期間中に、限界を超えるくらいに事業を大きくして、収益の数字を最大化しよう』という思惑があるようだ」。
第2の理由として挙げられるのが、メディアのエコシステム全体が、比較的ゆっくりではあるが着実に準備を進めている点だ。ブランドや広告主は、サードパーティCookieが終了する前にマーケティングや戦略面だけでなく、日常的な広告キャンペーンのためにも、あらゆるデータの活用方法について把握しておく必要がある。
これらにより、ブランドだけでなくコンサル企業にとってもニーズが生まれた。コンサル企業は現在、ブランドのCookieレスへの移行や販売支援に力を入れている。
「(人材を求めて)新しいタイプのビジネスを生み出す、それがコンサルティング会社というもの」と、ダルシ氏はいう。エージェンシーが独自のコンサル会社を設立する動きが広がり、これへの関心に拍車がかかっているという。
そして第3の理由が、2020年の穴埋めだ。2020年の春、広告市場は大きな打撃を受けた。多くの企業でレイオフが行われ、その後も不透明な状況が続くなかで、なかなか雇用環境の改善は見られなかった。
「2020年は厳しい1年だった」とマリー氏。「雇用情勢はほとんど変化がなかった」。
企業間格差も一因
こういったマクロ経済的な要因に加えて、一部の大企業による圧力がほかの企業の採用活動にも影響を及ぼした。「TikTokは、あらゆる人材を片っ端から採用していった」と、ある大手メディア企業幹部は明かす。この幹部の会社でも2020年に、エンジニア数名がTikTokに引き抜かれたという。
TikTokは広告事業を急激に伸ばしており、広告バイヤーをさらに惹きつけるために積極的に動いている。
こうした人材需要の高まりにも、採用担当者のあいだでは、募集内容にある変化が生じているという。ソフトウェアエンジニアの人材ニーズは引き続き高いままだが、Cookieレスに備えるべく状況が激変するなか、広告効果の正確な測定というプレッシャーやブランドの少数精鋭指向などが重なり合い、大手企業のあいだでアカウントマネージャーの奪い合いという、また新たな問題が発生している。
「今や働いてまだ2〜3年のアカウントマネージャーの給与が10万ドル(約1100万円)を超える」とマリー氏。「これには我々自身も驚いている」。
「2年もすればまた新たなブーム」
一方で、技術や情勢の変化による人材採用において、もっとも苦しむのはパブリッシャーである。大手プラットフォーマーやベンチャーキャピタルの資金提供を受けたスタートアップと同じ額の報酬が要求されるうえ、大半のパブリッシャーにはストックオプションによるインセンティブの付与という手立てもない。
「どのパブリッシャーも、直面する課題について全体をよく把握する必要がある」とマリー氏は懸念を示す。「会社がよほどの規模でなければ、経済見通しから考えてもビジネスのあり方を変えるのは非常に難しい」。
現在の状況の急変を、関係者の多くが感じ取っている。その感覚は3年前のDMPブーム、5年前の投資ブームと類似する。
「今回も、この種の繰り返しのひとつに過ぎないと考えている。2年もすれば、また新たなブームが到来するだろう」。
[原文:‘Jobs coming out of my ears’: Blistering job market in ad tech squeezes publishers]
MAX WILLENS(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)