業界リーダーが実務的なチュートリアルを提供する「Digiday+ Talk」。今回は対面型の集会ができないときのイベントについて、フィナンシャル・タイムズ(以下、FT)のマネージングディレクターのオルソン・フランセスコン氏が体験に基づく見解を語っている。
フィナンシャル・タイムズ(以下、FT)は平時、全世界で年間約150のイベントを主催する。しかし、2020年は3月までに、60のイベントが秋に延期された。そのなかには6月開催予定だったイベントも含まれる。FTのイベント部門FTライブ(FT Live)はすでに、2020年は対面型イベントを開催できない可能性があることも覚悟している。
それでも、マネージングディレクターのオルソン・フランセスコン氏は、これが大惨事を意味するとは考えていない。大多数のパブリッシャーと同様、FTはバーチャルイベントへの移行を進めている。4月1日には、デジタル・ダイアログズ(Digital Dialogues)という4日間のデジタルイベントを開催し、5500人の参加者を集めた。5月には、グローバル・ボードルーム(Global Boardroom)というデジタルイベントを開催。事前の予想では、2日間で2万5000人が参加する見込みだった。対面型イベントをデジタル版にしたこれらのイベントは、対面型イベントほどのチケット売上をもたらさないかもしれないが、FTライブが2020年の利益目標を達成する「道」はある。スポンサー契約は好調で、物価が高い都市で高級ホテルのボールルームを借りる必要がなく、運営コストも下がるためだ。
「業界は変わろうとしている」と、フランセスコン氏は話す。「しかも、前向きな変化だ」。
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業界リーダーが実務的なチュートリアルを提供する「Digiday+ Talk」。今回は対面型の集会ができないときのイベントについて、フランセスコン氏が体験に基づく見解を語っている。
01:私たちが学んだこと
バーチャルイベントベンダーの選定方法
フランセスコン氏によれば、バーチャルイベント技術にはふたつのサブカテゴリーがあるという。Zoom(ズーム)のようなブロードキャストプラットフォームと空の会場に近いバーチャル会議環境だ。徐々に増加している大きな問題は、収容能力と登録システムの統合だった。
- 収容能力は? 「すぐに答えが帰ってくることはないだろう」と、フランセスコン氏はいう。それでも、売り込みの際は、この質問を忘れてはいけない。バーチャルイベントの利点のひとつが規模の拡大だ。イベントとコンテンツが適切であれば、世界中の人々が登録し、オンライン視聴したがる。たとえば、ニューヨークで対面型イベントがあっても、飛行機で駆け付けることができなかった人々もだ。「参加者は大幅に増加するはずだ。しかし、デジタルイベント環境の多くに人数の制約がある」。
- どのようにテクノロジーを既存の登録システムと統合すればよいのか? APIと参加者が登録するシステムの観点から、これは持続的な頭痛の種だと、フランセスコン氏は話す。しかし、どのようにデータ保護を実現するのか? フランセスコン氏はデータ送信を厳格に規制する一般データ保護規則(GDPR)を引き合いに出し、あるテクノロジープロバイダーを検討していたが、2要素認証を使用していないことに気付いたと述べている。2要素認証を使用していなければ、データコンプライアンスの問題に発展する。「我々のような大手ブランドはリスクを取ることができない」。
- 事業開発とネットワーキングの機会は? もしバーチャルイベントを有料にするのであれば、参加者にネットワーキングと事業開発の機会を与えなければならない。これらは対面型イベントの重要な付加価値だ。「オンラインコンテンツの配信だけでは収益化は難しい」とフランセスコン氏は話す。もしパブリッシャーが有料モデルを導入したいのであれば、イベント中の商談とネットワーキングを可能にすべきだ。
バーチャルイベントに価値をもたらす方法
FTは現在、スポンサー契約によってイベントを収益化している。フランセスコン氏によれば、「全般的に、デジタル環境では、参加費収入(やチケット売上)よりスポンサー契約の方が好調を維持できる」。
- スポンサーシップ売上は好調を維持している。 イベントで話をしたり、パブリッシャーの記者と同席したりすることによるブランドアライメントはデジタル環境でも変わらないと、フランセスコン氏は話す。イベント前やイベント後、FTのデジタル製品の至るところで行われるブランディングは、ライブイベントと同等のブランド認知をもたらしている。予算の制約はあるものの、フランセスコン氏によれば、スポンサーシップ売上は維持されているという。ただし、ブランデッドコンテンツの増加分によって、何らかの形で成果物を補う必要はあると、フランセスコン氏は予想している。
- KPIへの効果はイベントによって異なる。 数万人の参加者を集める世界規模の会議は、ブランドアライメントの良い機会となる。一方、数百人が参加するウェビナー形式のイベントはスポンサーにとって、リード(見込み客)生成の素晴らしい機会だ。このような環境の方が、何十もの上質なリードを獲得できる可能性が高い。
- リード生成のKPIを理解する。 イベントパートナーがイベント後にリード生成を行う場合、バーチャルイベントのテクノロジープロバイダーがオプトインシステムを使っているかどうかを確認した方がいい。パートナーに完全なリストを提供できない恐れがあるためだ。フランセスコン氏が見つけたテクノロジーシステムのほとんどは、登録者がスポンサーと情報を共有したいかどうかをオプトインによって選択できる仕組みだった。「オプトインを採用している場合、パートナーの期待を管理する必要がある」。
バーチャルイベントの利益、価値を理解する
スポンサーシップ売上が維持され、利ざやも高いということは、バーチャルイベントは2020年末、FTライブの年初の予想に匹敵する利益をもたらす可能性もある。
- フランセスコン氏はチケット売上について、パブリッシャーは平均あるいは可能性として、通常のイベントの30~50%を請求できると述べている。
- スポンサー契約に関しては、イベントマーケティングを控える動きが見られることを除き、ライブからデジタルへの移行はFTの主要イベントの料金に「プレッシャーを与えて」いないと、フランセスコン氏は話す。「もちろん、景気が悪化すれば、プレッシャーは発生する。それでも、ほかのパブリッシャーに比べれば、我々は料金設定を維持しやすい立場にある」
- バーチャルイベントでは通常のイベントと同じ金額を請求できないため、チケット売上は減少していると、フランセスコン氏は話す。一方、会場や料理に何十万ドルも支払う必要がないため、利ざやは確実に高く維持できる。フランセスコン氏によれば、FTの場合、会場代だけで年間数百万ドルを投じているという。ただし、チケット売上の減少を節約分で相殺できるかどうかはまだわからない。それでも、2020年末、FTライブが年初に設定した利益目標を達成できる可能性はあると、フランセスコン氏は期待している。
02:イベント動画
03:スライド
スライドの説明:FTライブがライブイベントをバーチャルに移行した道筋。
スライドの説明:デジタル・ダイアログズはFT初のバーチャルイベント。
スライドの説明:デジタル・ダイアログズは多数の参加者を集めた。
スライドの説明:グローバル・ボードルームはFT初のバーチャル会議。企画に要した時間は4週間だ。
スライドの説明:FTがイベント戦略をどのように適応させているかを紹介するDIGIDAYの記事。
スライドの説明:イベントの未来を予想。
(原文 / 訳:ガリレオ)