マイクロソフトはアクティビジョン・ブリザードとザンダーを最大(推定)700億ドルで買収する意向が発表されている。この流れの中、同社の広告事業に対する野望は、少しばかり明確になり始めている。同社の広告部門VPであるロブ・ウィルク氏が、広告業界での勝利に挑む自身のビジョンについて語った。
マイクロソフト(Microsoft)はアクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)とザンダー(Xandr)を最大(推定)700億ドルで買収する意向が発表されている。この流れのなか、同社の広告事業に対する野望は、少しばかり明確になり始めている。
アドテク分野の取引仲介役として知られる投資銀行のルマ・パートナーズ(LUMA Partners)が主催するデジタルメディアサミット(Digital Media Summit:DMS)で、マイクロソフトアドバタイジング(Microsoft Advertising)のバイスプレジデントであるロブ・ウィルク氏が、広告業界での勝利に挑む自身のビジョンについて語った。
彼は前述のどちらのM&A取引もまだ完了していない(どちらの契約も完了に「非常に近いが、まだ完了していない」)と注意深く明言したが、2022年の時点で時価総額が2兆ドル(約254兆円)の大台に達しているデジタル分野大企業である同社は、(買収が)予定されている資産を既存のディスプレイ、小売、検索広告のサービスと調和させる計画だという。
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4月の決算報告で、マイクロソフトの経営陣は、検索とニュース広告の売上が同期間に23%増加したことを発表した。昨年の広告ビジネスは100億ドル(約1兆3000億円)に達した。そして今後の成長率は20%と予測している。
マイクロソフトの立ち位置は?
ウィルク氏はDMSでの講演で、「広告に関するマイクロソフトの立場に関して、人々が混乱を覚えるのには正当な理由がある」と認めた上で、同社が広告収益に依存しないことは、広告収益に頼っている企業と競争する上で「巨大な利点」であると主張した。
「ここにいる人たちがおそらく聞いたこともないであろう、複数のビジネスラインを私たちは持っている」と彼は言い、収益が多様化していることは、FacebookやGoogleのような企業がより厳しいプライバシー法の対応と交渉を迫られていることに比べると、リスクが小さいことを意味していると付け加えた。
ウィルク氏は、マイクロソフトのプロモートIQ(PromoteIQ)事業が「このサービスを必要としている何千もの小売店」に対応することによって、小売メディア分野での差別化を可能にしていると語り、この分野での同社の信頼性を擁護した。さらに、ザンダーがCTVや検索分野で培ってきた実績が、業界大手の競合他社との競争において助けになることはもちろん、ザンダーの存在がこの分野への関心を高めるポテンシャルを持っていると指摘した。
「Googleと競合しているのは我々だけだ。(中略)彼らのホームグラウンド、つまり検索分野で競合しているのはうちだけだ。私たちは自社の検索データだけで非常に健全なビジネスを築き上げた」とウィルク氏は述べ、同社の検索件数が月間150億件であると明らかにしている。
スクリーン横断型アトリビューション
5月初めに開催されたIABニューフロンツ(IAB NewFronts)で、CTVプラットフォームのロク(Roku)は、広告主が同社によるストリーミングサービス上の広告をマイクロソフトの検索エンジンであるビング(Bing)の検索と関連づけるのを助けるタイアップを発表している。この件に関して、ザンダーが買収され加わることで、メディアバイヤーにスクリーンを横断する形のアトリビューションサービスを提供するという同社の野望をさらに促進することができる、とウィルク氏は述べた。
「当然、彼ら(ザンダー)はCTVの経験が豊富であり、私たちもさらに真剣に取り組み始めている」と彼は言った。「これからは、ライブランプ(LiveRamp)を通じてロクのCTVのデータを検索や視聴者のデータと結びつけ、テレビ広告主が広告の効果を理解できるようにしていく」。
ウィルク氏は特に、スクリーン横断型広告への野心は広告主の最終クリックアトリビューションへの依存を減らし、彼らのユーザーの製品購入の傾向など、ユーザーの行動にメディア支出がどのような影響を与えるかを全体的に理解することを助けることになると述べた。
ゲーム内広告とM&A
ウィルク氏は、アクティビジョン・ブリザードがすでに堅調な広告事業を展開していることを指摘し、ゲーム市場と広告市場の相性をめぐる賛否両論はあるにしても、今後の成長のポテンシャルがあると語った。
小売メディアの黎明期と比較しながら、サイトに広告を載せるとサイト訪問者の購買意欲を阻害すると主張するeコマース業界の人がどれだけ多かったかをウィルク氏は指摘する。「私にとって、これはまさしくゲームと同じことだ。まず、ゲーマーとは誰なのかということを人々が誤解している」と同氏は述べ、広告を受け入れられるゲーム市場があると付け加えた。
ルマ・パートナーズがアドテク分野でトップクラスの投資銀行であるということは、マイクロソフトのM&Aに関する話題がDMSの参加者から遠い存在ではないということを意味している。そのため、必然的にウィルク氏は、マイクロソフトがさらに投資をしてメディア分野にさらに進出するかどうかという疑問に直面することにもなった。
「私たちが有機的に成長できると考えているシナリオがあれば 、無機的に成長しなければならない領域もある。それは事実だ」とウィルク氏は答えている。
[原文:How Microsoft plans to storm adland: ‘Attribution, CTV, in-game ads and potential M&A’]
Ronan Shields(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)