Facebookがインスタント記事を導入したのは2015年春。これを追うようにGoogleは、2016年初頭にAMPを開始した。どちらも、目的はウェブページの読み込みを速くすることだった。だが、インスタント記事の利用が伸び悩んでいるのに対し、AMPはパブリッシャーにとってますます重要な存在になっている。
Facebookが読み込みの速いインスタント記事を導入したのは2015年春のことだった。これを追うように、Googleは2016年初頭にモバイルウェブ高速化イニシアチブのAMP(Accelerated Mobile Pages)を開始した。どちらも、目的はウェブページの読み込みを速くすることだった。だが、インスタント記事の利用が伸び悩んでいるのに対し、AMPはパブリッシャーにとってますます重要な存在になっている。
Googleは、オープンソースのAMPを開始するにあたってパブリッシャーと新たに連携し、彼らがページの不要な要素を削除できるようにした。その結果、パブリッシャーは、ページがすばやく読み込まれ、Googleの検索結果で上位に表示されるようなサイトを作成できるようになった。それ以来、AMPはあらゆるパブリッシャーに広がっている。いまでは、パブリッシャーが作成したAMPページが、モバイルニュースアプリの「Google Playニューススタンド(Google Play Newsstand)」や「Chrome(クローム)」ブラウザの「おすすめのコンテンツ」機能など、Googleのほかのエコシステムを強化する役割を果たしている。また、Googleのロビー活動の成果もあって、RedditやTwitterやLinkedIn、それにソーシャルマガジンのFlipboardまでもがAMPを採用している。
一方、インスタント記事は話題に上らなくなっている。Facebookがニュースフィードでテキストより動画を優先する傾向を強めていることも一因だ。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やガーディアン(The Guardian)といった大手パブリッシャーは、インスタント記事の利用を一斉にやめてしまった。
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AMPのおかげで、GoogleはFacebookを追い越し、パブリッシャーにとって最大の参照トラフィック元になったと、調査会社のパセリ(Parse.ly)は報告している。パセリによれば、現時点でパブリッシャーの参照トラフィックの42%をGoogleが占めているという。一方、インスタント記事は、パブリッシャーサイトへのリンク代わりに公開されるものであるため、パセリのネットワークでは、Facebookからパブリッシャーへの参照トラフィックは全体として増加していない。
AMPとインスタント記事の好調と不調は、いくつかのことを教えてくれる。具体的には、ライバル関係にあるテクノロジー企業のビジネスモデルの違い、パブリッシャーからみた各ビジネスモデルの重要度、そしてこの大手2社にほぼ支配されているデジタル市場で生き残りを図るパブリッシャーへの影響だ。
ビジネスモデルの違い
パブリッシャーの利益とGoogleの利益は、密接に関連している。一方、Facebookは基本的にソーシャルプラットフォームであり、そのシステムは閉鎖的だ。Facebookでは、パブリッシャーから意見を聞く「Facebook ジャーナリズムプロジェクト」を実施したり、いくらかの支援を提供したりしている。だが、いまでもFacebookの基本的な目的は、ユーザーに自社のアプリをより長い時間使ってもらい、より多くの広告を見てもらうことだ。そのため、同社がユーザーにシェアするよう促しているのは、友人や家族の動画や投稿であり、パブリッシャーのコンテンツではない。
CNBCをはじめ、AMPに大きく賭けたパブリッシャーは、その見返りを得ている。CNBCは、トラフィックと広告収入をもたらすソースという観点からインスタント記事とAMPの強みと弱みを検討し、2016年の夏にAMPを採用することに決めた。それ以来、AMPはCNBCにとって、既存の検索トラフィックを犠牲にすることなくもっとも急速に成長した参照トラフィック元となっており、収益源としても優れていると、同社で製品技術部のシニアバイスプレジデントを務めるディープ・バグチー氏はいう。
「全体として、我々は非常に満足している」と、バグチー氏はAMPについて語った。
理にかなっているAMP
インスタント記事とAMPは、当初から異なる道を歩んでいる。Googleはオープンなウェブがビジネスの前提となっているため、AMPを標準規格として普及させることに熱心だった。GoogleでAMPプロジェクトマネージャーを務めるルディ・ガルフィ氏によれば、当初のAMPは、ページ速度の問題がもっとも深刻だったニュースパブリッシャーの支援が目的だったという。その後、インタラクティブなページがサポートされるようになり、パブリッシャーだけでなく、eコマースサイトにもメリットがもたらされた。また、PinterestやTwitterなどと連携して、AMPページにリンクできるようにしたため、パブリッシャーはプラットフォームごとに独自のページを作る必要がなくなった。現在は、さらに多くのパブリッシャーがAMPページでサブスクリプションをサポートできるようにする取り組みが行われている。
「AMPがモバイルウェブの速度問題を解決するうえで非常に大きな役割を果たせると、我々は常に考えていた」と、ガルフィ氏はいう。「最初の頃はそれがすべてだった。以降、より魅力的な体験を得られる機能を追加し、広告やサブスクリプションをサポートしている」。
この結果、ネットワーク効果が生まれている。パセリは現在、Google以外の7つの異なるプラットフォームでAMPのトラフィックをカウント。また、Flipboardは、AMPのテストを行うパブリッシャーが増えたのを受けて、2017年末にAMPのサポートを開始したと、同社のパブリッシャーパートナーシップ責任者、サラ・ガラハー氏は語った。「私たちは最初から、パブリッシャーとコンテンツクリエイターにとって持続可能性のあるモデルを構築したいと考えていた。したがって、AMPのサポートは理にかなった動きだった」と、彼女は述べている。
Facebookサイドの見解
一方、Facebookはインスタント記事に広告を掲載する機会を拡大したり、ニュースレターの登録機能を導入したりしている。また、インスタント記事ページ上でパブリッシャーがサブスクリプション機能を利用できるようにする取り組みを試験的に開始した。2017年には、GoogleとApple Newsでインスタント記事のページを動作させる取り組みも行っている。
Facebookによれば、インスタント記事を利用するパブリッシャーの数は増加し、収益やトラフックも増えているという。
「インスタント記事はFacebookで記事を配信するのに最適なフォーマットであり、我々はこれからもパブリッシャーに価値を提供する取り組みを続けていく」と、Facebookは声明のなかで述べている。「当社は2017年に広告収益が大幅に改善した。また、インスタント記事のページビューから得られる広告収入が、標準的なモバイルウェブのページビューから得られる収入よりも高いとの意見をほとんどのパブリッシャーから得られ、大いに勇気づけられている。さらに、パブリッシャーのサブスクリプションビジネスにインスタント記事を活用する取り組みをはじめたところであり、今後もパブリッシャーと連携して新製品の開発に取り組むことを楽しみにしている」と語った。
パブリッシャーたちの不満
パブリッシャーによれば、彼らがAMPとインスタント記事の改善を確認できる分野のひとつが収益性だという。どちらのプラットフォームも、ユーザー体験や速度を維持するという理由で、サポートされる広告の種類に何らかの制限を設けている。また、収益性を優先事項のひとつとして挙げている。だが、ここでもAMPが優勢のようだ。パブリッシャーが販売活動をコントロールできる余地は、インスタント記事よりAMPのほうが大きい。また、収益に結び付くトラフィックはインスタント記事のほうが少ないという。Facebookは、GoogleとApple Newsでインスタント記事のページを動作させる取り組みを行ったが、パブリッシャーの反応は冷淡だった。彼らにいわせれば、収益化とデータのほうが大きな関心事なのだ。インスタント記事のほうがトラフィックが少ないにもかかわらず、広告料金が高いのは不当だと多くのパブリッシャーが語っていた。
政治ニュースサイトIJRの創設者であるアレックス・スカテル氏によれば、Facebookもいくつかの優れた取り組みを行っているが、投稿した記事のパフォーマンスデータをパブリッシャーと共有するという点においては、Googleがリードしているという。「パブリッシャーはFacebookからもっと情報を得る必要があるが、(中略)Facebookは一部の情報しか与えてくれていない」とスカテル氏は述べている。
もっとも、パブリッシャーはGoogleにも不満を抱いている。たとえば、同社の検索アルゴリズムは、パブリッシャーにとって以前からブラックボックスのままだ。それでも、AMPなどの取り組みについて、ニュースコープ(News Corp)やガーディアンなどの大手メディア企業の幹部は、Googleのサンダー・ピチャイCEOの名前を挙げて称賛する一方、Facebookには冷淡な態度を示している。パブリッシャーによれば、GoogleのダッシュボードでAMPページのエラーを簡単に把握できるため、問題をすばやく修正できるという。また、技術的なサポートが惜しみなく提供されるため、AMPページの広告からの収益を増やすのに役立っているという。
得られるものがより多い方
「彼らは新境地を切り開いている」と、別のパブリッシャー幹部はGoogleについて語った(この幹部はFacebookの報復を恐れて匿名を希望している)。「彼らはパブリッシャーにツールを提供している。そして、我々が収益を得られる手段を増やしてくれている。過去6カ月間にFacebookから得られたものより多いのだ」。
Facebookはオーディエンス規模が大きいため、パブリッシャーは無視できない存在だ。だが、いまはGoogleとAMPとの連携を深める方が、得られるものが大きいと考えている。
「Googleは、我々のようなパブリッシャーと定期的に仕事をし、AMPを使った我々の取り組みの最適化を支援してくれる」と、ユニビジョン(Univision)のフュージョンメディアグループ(Fusion Media Group)でエグゼクティブバイスプレジデント兼CTOを務めるマーク・コルテカース氏はいう。同社はインスタント記事でも実験を行っているが、積極的には利用していないという。「Facebookでは、同じレベルで技術的なやり取りを直接することができない。Googleはモバイルパフォーマンスの改善に関して、さまざまな面で我々と連携することにとても熱心であり、AMPはその点で実に大きな利益をもたらしてくれる」と、コルテカース氏は語った。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)