Googleは1月14日(米時間)、Chromeでトラッキング用サードパーティCookieのサポートを「2年以内」に打ち切る計画を発表した。広告業界の幹部が語ったところでは、Googleが意見を求めて、2年という長い猶予期間を設けることについては、業界関係者から歓迎されそうだという。
Googleは1月14日(米時間)、広く普及しているChromeブラウザで、トラッキング用サードパーティCookieのサポートを「2年以内」に打ち切る計画を発表。ウェブ閲覧をユーザーにとって、より安全にする措置だという。今回の変更案は、広告のターゲティングやトラッキングで長年に渡ってCookieに依存してきたオンライン広告エコシステム全体を震撼させそうだ。
Chromeエンジニアリング担当ディレクターのジャスティン・シュー氏はブログ投稿で、この動きは、パブリッシャーや広告会社、ほかのブラウザプロバイダーが、Googleとともにプライバシーを重視した新しいオープンウェブの標準を構築するのを促すのが狙いだと述べた。Googleは8月に「プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)」プロジェクトを立ち上げ、サードパーティCookieがない行動ターゲティング広告の効果についてアイデアを提案し、業界の意見を求めてきた。
シュー氏はブログで、「これらのアプローチが、ユーザーやパブリッシャー、広告主のニーズに対応し、Googleが(悪意のある関係者による)回避策を軽減するツールを開発した」のちに、ChromeはサードパーティCookieへのサポートを段階的に廃止すると述べている。
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トラッキング防止機能は、ウェブブラウザに求められる最低必要条件になってきたが、パブリッシャーとアドテクベンダーにとっては等しく頭痛の種となっている。Safariのインテリジェント・トラッキング・プリベンション(Intelligent Tracking Prevention)機能を強化するAppleの継続的な取り組みを受け、アドテク企業の株価はこれまで下落してきた(スタットカウンター[StatCounter]の推計では、Safariは世界のブラウザ市場で18%のシェアを握っている)。Safariのトラッキング防止のアップデートと、強化型トラッキング防止機能をユーザー向けのデフォルトのオプションにするFirefoxの比較的最近の動きの結果、パブリッシャーはプログラマティック広告収益の激減を報告している。また、マイクロソフトは1月15日、新しいブラウザ「Edge」をリリース。これはChromeと同じオープンソースのコードをベースにしており、デフォルトでオンになるトラッキング防止機能が搭載されている。
これまでの調査当局の動き
Googleがこれまで、競合するブラウザプロバイダーと比べてCookieの扱いが厳しくない理由について、観測筋はいくつか提言してきた。第一に、Googleには、世界最大手のオンライン広告企業として守るべき独自の事業があり、バイヤーやセラー、そのあいだに入る多くの仲介者など、デジタル広告分野のほぼすべてとつながりがある。それに、スタットカウンターによると、Chromeは、ウェブでもっとも普及しているブラウザで、世界ブラウザ市場の64%を占めている。GoogleがChromeに行ういかなる変更も、多くのパートナーに影響し、トラッキングやターゲティングのために同規模のログインユーザーデータにアクセスできないパブリッシャーやアドテク企業をよそに、Googleの事業を強化できた。
Googleのほぼすべての動きに言えることだが、独占禁止当局は今後、注意深く監視していくことになるだろう。
9月には、米国50の州・地域の司法長官が、テキサス州のケン・パクストン司法長官の主導で、Googleの広告事業の調査を開始した。(公記録の開示請求を通じてDIGIDAYが入手した)司法長官らがGoogleの親会社アルファベット(Alphabet)に送達した民事調査請求には、調査当局がどういう形で、DoubleClick(ダブルクリック)やアドモブ(AdMob)など、さまざまなアドテク企業買収のビジネス上の理論的根拠を深く調査し、Googleの広告製品同士の関係を検証しているのかが詳しく書かれている。
調査当局はGoogleに対し、「ChromeでのクロスサイトトラッキングやCookie照合を現在制限しているか? または、制限する計画はあるか?」を問うている。また、サードパーティのパブリッシャーやデータ管理プラットフォーム(DMP)が収集してきた行動データや、ユーザーがChrome経由でウェブサイトを閲覧する時に収集できる行動データの種類を列挙するよう求めている。大西洋の向こう側では、欧州委員会が最近、独禁法違反など3件の違反で数十億ドル(数千億円)の制裁金をGoogleに科した。
Googleの担当者の考え
シュー氏は、14日のChromeブログへの投稿で、デフォルトでサードパーティCookieをブロックする最後の手段は「意図しない結果」をもたらす恐れがあると述べ、2年以内という期限を定めて回避したいとしている。
「Cookieに対する誤った対応は、多くの広告付きウェブサイトのビジネスモデルを損なって、(Cookieに代わる侵襲的な手段である)フィンガープリンティングのような不透明な技術の利用を促し、ユーザーのプライバシーや管理を実際に抑制する恐れがある」と、シュー氏は書いている。
Googleによると、業界関係者と協力して、Cookieのない新しい広告機能のさまざまな状況での成果をテストするという。また、Cookieなしでのコンバージョン測定について最初の試行を年内に開始するという(これにより、広告を見た者が続いて望ましい行動を取るかどうか判断する)。シュー氏のChromeブログへの投稿によれば、次の試行では、広告のパーソナライズ化をテストするという。
業界関係者たちの捉え方
2019年に、一部の業界観測筋は、Googleがはじめて「プライバシーサンドボックス」案を発表した時、大手テック企業の同社がデジタル広告の新たな状況の進展を決めるべきなのかと懐疑的だった。そうした懐疑的な見方はまだ残っている。「パブリッシャーはこれについてGoogleを信用していない」と語るのは、パブリッシャー業界団体デジタル・コンテンツ・ネクスト(Digital Content Next)のCEOで、長年にわたってGoogleを声高に批判しているジェイソン・キント氏だ。
とはいえ、広告業界の幹部が語ったところでは、ChromeでサードパーティCookieが廃れる前に、Googleが意見を求めて長い猶予期間を設けることについては、業界関係者から歓迎されそうだという。Googleの取り組みは、競合するブラウザ企業の否応なしの姿勢とは異なる。そうした企業の技術に関するアップデートは、広告企業やメディア企業に不意打ちを食らわせて不満を抱かせることがある。
広告業界は少し前から、トラッキング防止を目的とするChromeのアップデートに備えてきた。Googleは、11月にChrome開発者サミット(Chrome Dev Summit)で、こうした方向に移行するかもしれないと強く示唆した。Googleのソフトウェアエンジニアで、Chromeのプライバシー機能や追跡防止機能に取り組んでいるマイケル・クレバー氏は、Cookieから「より適切な大きさのAPI」に移行するとともに、ウェブサイトをまたいでユーザーを自由に追跡できないようにする機械学習技術に移行すべきだと提案した。
「Googleは警告を与えている」
Adweek(アドウィーク)が最初に報じたように、インタラクティブ広告協議会(IAB)のテックラボ(Tech Lab)は昨年、作業部会を立ち上げて、GoogleがChromeのサードパーティCookieを徐々になくすことに備えた。
「Apple(の幹部)は好んで画期的な変化をもたらすと思うが、Googleは多くの人々に警告を与えている。実に穏やかなアプローチだ」と語るのは、デジタルアドバイイングエージェンシーであるインフェクシャス・メディア(Infectious Media)の製品・ パートナーシップ担当マネージングパートナー、ダン・ラーデン氏だ。同氏はさらに、Chromeで近々予定されているSameSite Cookieのアップデートにより、パブリッシャーとアドテクベンダーは、ほかのサイトで利用可能なサードパーティCookieへの明示的な属性追加が必要となると指摘した。昨年5月に発表されたそうした変更は、今年2月に実行されると見られる。
Lara O’Reilly(原文 / 訳:ガリレオ)