Facebookが8月26日、オーディエンスネットワーク(Audience Network)のパブリッシャーと開発者に対して、収益が減る可能性があると警告した。9月中旬にリリースされるとみられる「iOS 14」のアップデートで、Appleが加えるプライバシー関連の変更が理由だという。
Facebookが8月26日、オーディエンスネットワーク(Audience Network)のパブリッシャーと開発者に対して、収益が減る可能性があると警告した。9月中旬にリリースされるとみられる「iOS 14」のアップデートで、Appleが加えるプライバシー関連の変更が理由だという。
Appleは今後、iOS14で、アプリがほかのアプリやウェブサイトとデータを共有する場合にユーザーの同意を求める(データには、広告主向けの匿名化された識別子「IDFA」が付けられる)。専門家は、オプトイン率は低くなり、iOSのオーディエンスの広告ターゲティングや測定の妨げになると予想している。
Facebookは2014年に、同社のSDKをインストール済みのサードパーティ製アプリのネットワークに広告主が広告キャンペーンを拡大する手段として、オーディエンスネットワークを立ち上げた。このSDKは、IDFAをFacebook独自の巨大なユーザー基盤と照合し、オーディエンスネットワークがそのデータを利用して、ユーザーがアプリ内で何らかの行動を取る可能性を評価する。
Advertisement
IDFAなしだと、サードパーティ製アプリでハイパーターゲティングや正確な測定を行う能力が低下する。上位のパブリッシャーの今年抽出されたデータによると、FacebookのSDKがインストールされている最大手のiOSアプリは、TikTok、ファン・レース3D(Fun Race 3D)、ティンダー(Tinder)、アクアパーク.io(aquapark.io)、パンドラ(Pandora)、コール・オブ・デューティ:モバイル(Call of Duty: Mobile)」などだが、これらのアプリのなかには、広告のマネタイゼーションというよりもFacebookのシングルサインオン機能を利用するために、SDKがインストールされているものもある。
Facebookは、8月26日に公開したブログ投稿で、パブリッシャーは「オーディエンスネットワークで効果的にマネタイズする能力が低下すると考える」べきだと述べている。
「最大限の努力をしたが、最終的に、Appleのアップデートにより、iOS 14でのオーディエンスネットワークの効果が台無しになり、iOS 14で提供する意味がなくなるかもしれない」とブログは続けている。
Appleはこれについて、コメントを求められている。
テストでは収益が「50%超減少」
オーディエンスネットワークのパブリッシャーと開発者が、どれくらい収益を失うことになるのかは不明だ。Facebookは6月に、オーディエンスネットワークのパーソナライズされた広告とパーソナライズされていない広告の収益の違いを比較したテストの概要を説明するブログ投稿を公開した。Facebookによると、パーソナライズされたターゲティングが除外される場合、パブリッシャーの収益が「50%超減少」したという。ただし、調査の詳しい概要は公表されていない。
Facebookは、20億人を超えるユーザーの膨大なファーストパーティデータを利用できるため、自社のサービスはそれほど影響を受けないだろうと述べている。将来的に、iOS 14デバイスに搭載されている自社アプリのユーザーのIDFA収集を検討することはないという。とはいえ、Appleがもっとガイダンスを提供すれば、それも変わる可能性がある、とFacebookは付け加えている。
アプリのインストールを促進する広告キャンペーンでiOS 14ユーザーのターゲティングの継続を目指すFacebookの広告主は、今後、そうしたユーザーのターゲティングを行うのに、新しい別の広告アカウントへのサインアップを求められるようになる。iOS 14専用のFacebook SDKのアップデートバージョンもリリースされる。このSDKは、Appleの「SKAdnetwork」 APIをサポートする。SKAdnetworkは、広告キャンペーンが、アプリのインストールや、アプリインストール後のほかの限定的な「ポストバック」イベントにつながったかどうかをアドネットワークに知らせる基本的なAPIだ。レポートは集約され、リアルタイムでは配信されない。
FANは、すでに消耗している
ヘラクレス・メディア(Heracles Media)の戦略コンサルタントで、「モバイル・デブ・メモ(Mobile Dev Memo)」ブログの運営者でもあるエリック・スフェルト氏によると、そのせいで、これまでのオーディエンスネットワークの広告パフォーマンスに沿ってモデルを構築してきた一部の広告主にとって、問題が生じかねないという。
「古いモデルは十分長期にわたっていまだ有効だというのが、一般的な感覚だった。複数月にわたる導入サイクルを考えると、iOSでFacebookのパフォーマンスが速すぎるペースで低下することはないので、なおさらだった。だが、広告主が新しいアカウントを作成しなければならないなら、パフォーマンスのモデルも、履歴もない。だから、皆の『モデル』(または、ターゲティング)は、基本的に一掃され、新たな完全にコンテクストに基づいた確率的測定システムで再び構築されることになる」と、スフェルト氏は語る。
Facebookのオーディエンスネットワークは今年、すでに消耗している。米DIGIDAYが最初に報じたように、Facebookは4月に、オーディエンスネットワークのモバイルWeb部門を閉鎖した。情報筋によれば、ブラウザ企業が最近、モバイルWeb環境でのCookie抑制へと姿勢を変えたうえに、新たなデータ規制とブランドセーフティ問題の潜在的な悪影響に備えるのに社内リソースが必要なため、そうした決定に追い込まれた可能性があるという。
FANの収益はおそらく数千億円
Facebookは最近、オーディエンスネットワークの財務データを個別に公表していないが、収益は数十億ドル(数千億円)であるようだ。「Audience Network by Facebook」のウェブサイトによると、オーディエンスネットワークは2018年に、パブリッシャーと開発者に対して15億ドル(約1584億円)以上支払ったという。モバイルアプリ向けの提供を開始したばかりの2015年第4四半期には、オーディエンスネットワークは、「広告支出における売上ランレートが10億ドル(約1056億円)」だったとFacebookは発表しているが、それ以来、最新の数字を明らかにしていない。新型コロナウイルスの大流行前のジャウンス・ メディア(Jounce Media)による推定では、オーディエンスネットワークの2020年の総収益は約34億ドル(約3593億円)となっている。
Facebookはすでに、第2四半期の決算発表と、アナリストとのその後の会見で、AppleによるiOS 14のアップデートが事業に影響する可能性があると知らせている。CFOのデイブ・ヴェーナー氏は、第3四半期にはユーザーが新しいOSへのアップグレードを開始するため、Appleの動きは「逆風」になると述べている。
「注視すべきことであるのは確かだ。これは問題だと思う」と、ヴェーナー氏はアナリストとの会見で語った。
LARA O’REILLY(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:長田真)