4月第1週に突入し、アメリカのパブリッシャーは事業にメスを入れ、運営経費を抑制しはじめた。多くのパブリッシャーは、BuzzFeedの例に倣って、(いまのところは)従業員に大きなダメージを与えない賃金カットや手当削減を組み合わせて実施している。こうした動きについては、第1段階と見る向きが多い。
4月第1週に突入し、アメリカのパブリッシャーは事業にメスを入れ、運営経費を抑制しはじめた。多くのパブリッシャーは、BuzzFeedの例に倣って、(いまのところは)従業員に大きなダメージを与えない賃金カットや手当削減を組み合わせて実施している。
- スリリスト(Thrillist)、ドードー(The Dodo)、ポップシュガー(PopSugar)などのパブリッシャー、グループ・ナイン(Group Nine)は3月第4週、経営幹部チームが年末まで約25%の報酬カットとなり、CEOのベン・レラー氏が約半年分の報酬を辞退すると発表した。加えて、2020年の新規雇用凍結とサマーインターンシッププログラムの廃止をすでに行っている。広報担当者によると、規定されていない昇給や確定拠出年金(401k)へのマッチング拠出のような恩典も、無期限停止されているという。
- バイス(Vice)は同社の状況に詳しい関係筋によると、今後90日間、週4日勤務とすることに合わせて、米国で12万5000ドル(約1360万円)を超える報酬を得ている社員は20%、10万~12万5000ドル(約1080万〜1360万円)の報酬を得ている社員は10%の給与カットを行うと発表した。経営幹部については25%のカットを行っている。
- 米DIGIDAYに共有された社内メモによると、BuzzFeedは先週、年収4万~6万4900ドル(約435万〜706万円)の従業員が対象となる5%から、年収が22万5000ドル(約2450万円)を超える一定の幹部を対象とする最大14~25%まで、段階的に報酬をカットし、CEOのジョナ・ペレッティ氏は、危機が続くあいだ無給となると発表した。
こうした動きについては、第1段階と見る向きが多い。自社が新型コロナウイルスにどの程度の影響を受けるのか、そして、それと同じくらい重要なのが、どれくらいの期間影響を受けるのか、パブリッシャーはそれを理解するためにさらに時間を費やすことになる。
「賃金カットは象徴的だ」と、メディアの元CEOは指摘する。「犠牲の分かち合いだ。(給与が6万ドル[約650万円]の場合の5%カットは)目立った影響をあまりもたらさないが、誰もがわずかな苦痛を味わっている」。
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広告主の動向は大きな未知数
給与は、パブリッシング企業の運営予算で最大の費用となる場合がある。だが、アトラス・オブスキュラ(Atlas Obscura)の元CEOであるデビッド・プロッツ氏によると、賃金カットが最終損益に及ぼす全体的な影響は、手当などにより予想されるよりもはるかに小さくなる可能性があるため、ほかの事業分野の圧縮とともに行われなければならないという。
「一時解雇と天秤にかけて、全社的な賃金カットを行いたい気持ちになったときがあった。通常時なら、賃金カットは勧めない」と、プロッツ氏は語る。従業員にチームからもっとも弱い部分を切り離すというプレッシャーを与えるか、従業員全体に打撃を与えることになるからだという。「だが、今回は賃金カットが、私が採る措置になる」。
パブリッシャーは、自由になるキャッシュを不確かな環境で確保しようと努めている。広告主の今後数カ月間の反応は大きな未知数だ。新型コロナウイルス関連コンテンツのキーワードブロッキングの頻発は良くない前兆だ。さしあたって、最大手のデジタルパブリッシャーは、漸次的アプローチを採って、広告市場および経済全体からのシグナルを待っているようだ。
従業員は削減してはいけない
バター・ワークス(Butter Works)の現CEOで、ナイロン(Nylon)とカレッジユーモア(CollegeHumor)の元CEOでもあるポール・グリーンバーグ氏は、チームを率いて過去3回(1987年、2000年、2009年)の深刻な不況をくぐり抜けたが、見えてくるパターンはすべて同じだと語った。
「不況になると、(会社の不要な出費に対する)視点が大幅に鋭くなる」と、グリーンバーグ氏はいう。そして、こうした場合、廃業の瀬戸際でない限り、絶対に削減してはならないのは従業員だという。「人的資本は非常に重要で、手放すと、取り戻すのが本当に難しい」
タイム(Time)では、CEOのエドワード・フェルゼンタール氏が、90日間は誰も一時解雇せず、採用を続けると約束する通知を従業員に送った(タイムは現在、マーク・ベニオフ氏とリン・ベニオフ氏に所有されており、ビリオネアが後ろ盾という恵まれた立場にある)。
すべてのパブリッシャーに待つ余裕があるわけではない。USAトゥデイ(USA Today)や多くの地方紙のパブリッシャーであるガネット(Gannett)は3月30日、幹部ではない全従業員の自宅待機と幹部を対象にした25%の賃金カットを実施すると発表した。その発表で、CEOを務めるポール・バスコバート氏は、自宅待機が終わるまで自身は報酬を受け取らないと述べた。Wマガジン(W Magazine)も、従業員の多くを自宅待機させ、印刷版は休止されたと報じられた。
グリーンバーグ氏の体験から、すべての企業がいま採れる措置は、賃貸料であれ、重要なベンダーとの契約であれ、現行の固定費について再交渉することだ。ベンダーも金を稼がなければならないが、企業がいま全額支払えないなら、来月も支払う余裕がないので、支払い計画が立っている状態でさしあたって半額の支払いを受けるほうが、いまは交渉しやすいかもしれないと認識する可能性がある。
「たいていのところは、これらを組み合わせて3カ月間を乗り切る方法を見つけるだろう」とプロッツ氏は話す。
「我々も政府と同じことを」
問題は、次に何が起きるかだ。
サンセット(Sunset)、サイトライン・メディア・グループ(Sightline Media Group)、ワールド・ヒストリー・グループ(World History Group)のパブリッシング企業3社を所有するプライベートエクイティ企業リージェント(Regent)の発行人、デビッド・スタインハフェル氏は、計150人の従業員のうち、約70%が最低2週間にわたって自宅待機しており、その期間が延長される可能性があるが、30%はまだ働いていると話す。
「米国経済は休止させられているので、我々も同じことをしなければならない。そうしていなければ、事業は深刻な危機にさらされていた」とスタインハフェル氏は述べた。
Kayleigh Barber (原文 / 訳:ガリレオ)