先日イタリア、ミラノで行われた、英DIGIDAYによるパブリッシング・サミット・ヨーロッパにおいて、150のパブリッシャーたちが集った。ここではプログラマティックを取り囲む状況、人材をキープすることを惹きつけることの難しさ、読者からの収益を成長させるための戦略などが話し合われた。
パブリッシャーを取り囲む状況は厳しい。大手テック企業によって、デジタル広告収益は吸い取られ続けている。その一方でパブリッシャーたちは、まさにそのテック企業によるプラットフォームに多かれ少なかれ、リーチの面で頼らなければいけない。
このような厳しい状況のなかで、パブリッシャーたちは現実に対応しようと、広告に頼らない収益の方向性を探っている。サブスクリプションやコマースがその例だ。
先日イタリア、ミラノで行われた、英DIGIDAYによるパブリッシング・サミット・ヨーロッパにおいて、150のパブリッシャーたちが集った。ここではプログラマティックを取り囲む状況、人材をキープすることを惹きつけることの難しさ、読者からの収益を成長させるための戦略などが話し合われた。ここでのフォーカスグループやタウンホールセッションはチャタムハウスルールのもとで運営された。以下は、ハイライトとなっている。
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読者にお金を支払う事をどうやって説得するか
「プレミアムパブリッシャーとして我々が犯した大きな間違いは、消費者たちにコンテンツ消費は無料だと思わせてしまったことだ。世界最大のブランドをたとえ持っていたとしても、それでもオンラインに存在するすべての無料コンテンツと競争しなくてはいけない。2年前にFacebookインスタント記事上で、コンテンツを無料で提供した。トラフィックは上昇したが、収益は著しい共食いを起こした」。
「サブスクライブ登録者に我々はどのような特別なものを提供できるのか。ときにそれは、『早い段階でのアクセス』だ。プレミアムであるものをプレミアムな状態にキープすることが重要だ」。
「1ポンドだろうと、1ユーロだろうと、どれだけ安くても関係ない。使っていなければそこに価値はない。サブスクリプションは取引のような響きがする。メンバーシップという表現の方が、よりいろいろものを含んでいる」。
「メンバー間の関係を良好に維持することとサブスクリプションのバランス。我々が持つサイトのうちいくつかは、非常にハードコアなテック系の読者を抱えている。これは一定のネガティブなカルチャーを生み出すリスクもある。サブスクライバーとメンバーのバランスを取る必要がある。そして人々がエンゲージしたいと思うようなコミュニティーを作る必要がある」。
「ハードペイウォールとソフトペイウォールがある。しかし、ヨーロッパにおいては、文化的に異なるアプローチや記事購読習慣が存在している」。
「ニュース分野におけるSpotify(スポティファイ)というのはできない。無料放送のニュースが多すぎる。分断されすぎている。さまざまな新聞社たちと非常に細かい支払いをやり取りするという体制から実質的に我々は遠ざかった」。
「プレミアムニッチは依然として存在している。ただソーセージを食べることだけでなく、ソーセージがどうやって作られるかに興味を持っている人がいる。舞台裏の情報に迫るニッチがある」。
「広告からサブスクリプションで収益の源を移すのは難しい」。
「我々にとって、課題はもちろんコンバージョンだ。どのようなコンテンツがオーディエンスを集めているのか。そのほとんどは無料だ。読者が必要としているものが何で、そのコンテンツをどこで得ているのかを見極めるのは難しい」。
「私たちがカバーする範囲はB2BとB2Cだ。B2Cはリーチに頼っている。そしてサブスクリプションにおけるリーチを失わないよう気をつける必要がある」。
テック人材をキープすること
「我々はGoogleのような存在ではない。我々はパブリッシャーだ。才能のあるテック人材を維持することは難しい。このトピックは常に耳にしている。パブリッシャー業界におけるテクノロジーでいかにイノベーティブでいられるのか。しかし、給与だけで人材をキープすることはできない」。
「シニア役職に就いているスタッフに、プロダクトに関するコントロール権限をより大きく与えたことが我々の場合は役に立った。最終的な権限を持っているのがエディトリアルのチームだけではなくなったのだ。若い人材は特に簡単に社を去ってしまう」。
「我々は素晴らしいメディアを作る。先鋭的で、我々のクリエイティビティの良い面にフォーカスすることが依然として可能だ。我々が注目すべきなのはそういった側面だ」。
プログラマティック収益は十分ではない
「エージェンシーにおけるプランニングサイクルは、5万ドル(約550万円)のIO(発注書)にはならない。プライベートマーケットプレイスにいる場合、エージェンシー側でのプロセスが理由で、ポンッと上の位置にいきなり辿りつくことがない。プログラマティックダイレクトがダイレクトにもっとも近い存在だが、それ以外ではエージェンシーは上手くつながっていない。プロセスに関わっている人材が多すぎるため同様なレベルの意義のある収益にはつながらないのだ。これはエージェンシー自体が認めるところだ」。
「以前であれば、電話を受けて『デジタルを君からいくつか買ったから。我々は君たちのところが気にいっているから大きな額のIOを渡す』と言われることもあった。いまではそんなことは起きない。しかし、幹部たちはそれが起きるべきだと考えている。デジタルを成長させ続けたいと思っているのだ。しかし、我々の方法だと、スケールは以前よりも難しくなっていることが証明されている」。
「ちゃんと競争を持つためには、オープン、PMP、PG、ダイレクトのバランスが必要だ。収益を伸ばしているのはダイレクトなバイイングだ。デマンド側の競争だけではない」。
「我々の多くが抱えている課題のひとつは、プリントとデジタルを売っているセールスの人間が同じだということだ。彼らはふたつのあいだで買い渋りが少ない方に行く。そのためより高級層を狙ってPMPで売ろうとしなければいけない。その月の最後には、受けたインプレッション購入はたったの50万だったりする。その理由は、彼らはほかのところからもたくさん購入しているからだ」。
「ビジネスのなかでもダイレクトな部分と、プログラマティックな部分を統合することを我々は得意ではない。ふたつの独立した収益であると考えているのだ。しかし、どちらも同じものを販売している。そのメッセージをマーケットに伝えるのに適切なスキルを自社内では持っていないように思う」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:塚本 紺)