ポッドキャスト広告市場は依然、発展途上にある。それは実際、インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(IAB)主催による2日間の年次イベント、ポッドキャスト・アップフロント(Podcast Upfront)の初日(9月9日)においても、明らかだった。
ポッドキャスト広告市場は依然、発展途上にある。それは実際、インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(Interactive Advertising Bureau、以下IAB)主催による2日間の年次イベント、ポッドキャスト・アップフロント(Podcast Upfront)の初日(9月9日)においても、明らかだった。
ブルーワイヤー(Blue Wire)、NPR、ワーナーメディア(WarnerMedia)といったポッドキャストパブリッシャー勢が番組の最新ラインアップを売り込むなか、パネルディスカッションでは、ホストリード広告(host-read ads:ポッドキャスト番組のホストが読み上げる広告)の限界、効果測定に関する課題、コンテクスチャルターゲティング導入の必要性などが議論された。
主要点:
- 広告主はホストリード広告の限界を感じており、プログラマティックバイイング促進技術の、そしてコンテクスチュアルターゲティング能力の拡大に尽力中。
- 複数デバイスを横断する形での効果測定を望むポッドキャスト広告主にとって、フラグメンテーション(断片化)は依然として問題。
- スポーツやニュース、マルチリンガル(多言語)など、さまざまなジャンルのポッドキャスト番組が今秋および来年に登場予定。
- IABのメディア・センター(Media Center)VP、エリック・ジョン氏いわく、ブランドキャンペーン収益がポッドキャストにおける全収益の45%を占め、パフォーマンスとダイレクトレスポンスが半々である一方、ポッドキャスト広告は依然、ダイナミック挿入とホストリードが主流。
フラグメンテーションの影響
米国における今年のポッドキャスト広告収入が10億ドル(約1100億円)超と予想されるなか、プログラマティックバイイングはそのうちわずか5%未満に留まっている。その大きな一因がフラグメンテーションの問題だと、広告大手ピュブリシス(Publicis)の米デジタル投資部門EVP、ヘイリー・ダイアモンド氏は指摘する。この問題は実際、プログラマティックポッドキャスト広告について討議した日の後半をはじめ、カンファレンス中に何度も話題に上った。
Advertisement
人々はポッドキャストをスマートフォンやスマートスピーカーのほか、コネクテッドカー(5G対応で、オーディオストリーミングアプリ内蔵の自動車)でも聴いていると、米IT情報サービス、トランスユニオン(TransUnion)のメディア&エンターテイメントバーティカル部門SVP、アンドレ・スワンストン氏は指摘する。デバイスを横断する効果測定の実現は、音声市場の広告主が以前から達成を目指す課題のひとつなのだが、さまざまなオーディオストリーミングプラットフォームの存在が「事態を極めて困難にしている」とダイアモンド氏は言う。
「エピソディック(トピック)レベルのターゲティングなのか、ビューアー(オーディエンス)ターゲティングなのか、ブランドセーフティなのか、スータビリティなのか、といった判別を可能にする技術が必要とされている」と、ダイアモンド氏は言い添える。「さまざまな効果測定要件をひとつにまとめ上げることは、我々の一助になる」。
ホストリードの限界
ホストリード広告とリスナーとの「つながり」も課題のひとつだと、SXMメディア(SXM Media)の広告イノベーションストラテジー部門VP、クレア・ファニング氏は指摘する。広告主は、ホストリード広告の「真正性と親密性」を維持しつつ、ポッドキャスト環境に特有の限界を克服するべく(たとえば、ホストが自身のポッドキャストで広告を読み、そこが創造的な場でないと判断された場合、ほかのポッドキャストにプログラマティックに挿入されるようにする、など)努力を続けている。
プログラマティックは「実行に際しての速度、管理力、柔軟性」をくれると、米メディア企業ディスカバリー(Discovery)のペイドメディア部門SVP、レジーナ・ソミース氏は語る。ただし、それには「洗練された技術」が求められると、ファニング氏は言い添える。
その結果、ホストリード広告とプログラマティックバイイング双方の利点を融合する方法の発見は、いまだ遠いようだ。デジタル広告企業ザ・トレードデスク(The Trade Desk)のインベントリパートナーシップ部門GM、アシュトシュ・ギャングワラ氏によれば、同社は現在「広告挿入およびバイイング過程を自動化する」新たな方法を考案するべく、SXMメディアといったパブリッシャーと共同で取り組んでいる。
奇妙なことに、ホストリード広告のダイナミズム不足に関する不平不満が多く聞かれたにもかかわらず、IABはダイナミック挿入広告が2020年度ポッドキャスト広告収益の67%、ホストリード広告が56%だったと、2021年5月に報告している。ダイナミック挿入とホストリードの両広告がポッドキャストに投入される広告費の大半を占めた事実から、同予算のかなりの部分がダイナミック挿入されるホストリード広告の購入に費やされていることが示唆される。
救世主はコンテクスチュアルターゲティング?
ファニング氏によれば、ポッドキャストプログラマティック広告収入をさらに伸ばすための鍵は「オーディエンスターゲティングからコンテクスチュアルターゲティングへの拡大」にあると、幹部勢は考えているという。それはつまり、誰が聴いているのかを基本とする広告バイイングから、何を聴いているのかを重視する姿勢への転換であり、広告主は皆、広告が読まれた際のリスナーの胸の内を知りたがっていると、氏は説明する。
リスナーのデモグラフィックスといったデータの重要性を考えると、広告主が「オーディエンスターゲティングを離れることはありえない」一方、「オーディエンスだけに注目し、コンテクスチュアルな調整について考えようとしないと、パイの奪い合いにおいて莫大な部分を失うことになる」と、ダイアモンド氏は言い添える。
2021年および22年に登場する新番組
ポッドキャストパブリッシャー勢は今秋および2022年に向けた新番組を発表した。以下はその一部だ。
- ワーナーメディア――CNN、TCM、TNT、ターナー・スポーツ(Turner Sports)、ワーナーブラザーズ(Warner Bros.)といったブランドを擁する米総合メディア企業――は今秋、さまざまな新番組を投入する。そのひとつが『トータル・リコール:カリフォルニアズ・ポリティカル・サーカス(Total Recall: California’s Political Circus)』で、CNNの政治担当主任記者ダナ・バッシュ氏がホストを務め、カリフォルニア州における2003年のリコール選挙をふり返る。CNNポリティクス(CNN Politics)のシニアアナリスト、ハリー・エンテン氏がホストを務める新シリーズ『マージンズ・オブ・エラー(Margins of Error)』では、電話恐怖症や心霊主義といったトピックに関するデータを考察する。
- NPRは元NBA選手のスポーツ解説者ジェイ・ウィリアムズ氏をホストに迎え、スポーツ、エンターテイメント、カルチャーについて語る新番組を投入する。別の番組についても、9月第3水曜に発表すると報告した。
- LAist(エルエーイスト)はジェイコブ・マーゴリス氏――南カリフォルニアを襲うと予測される巨大地震がテーマのポッドキャスト『ザ・ビッグ・ワン(The Big One)』のホストを務めた――を起用し、カリフォルニアの山火事を取り上げる新番組『ザ・ビッグ・バーン(The Big Burn)』を開始する。
- スペイン語をはじめ多言語のポッドキャストを制作するアドンデ(Adonde)は、Netflixの番組に発展した『ソング・エクスプローダー(Song Exploder)』のホスト、リシキシュ・ハーウェイ氏とともに、同プログラムのスペイン語版スピンオフ『カンシオン・エクスプロデール(Canción Exploder)』を開始する。
SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)