フォーブス(Forbes)は、8月26日(現地時間)、特別目的買収会社(SPAC)を通じて上場する意向を発表した。これにより同社は、SPACという中身(事業実態)のないシェルカンパニーとの合併を通じて事業の拡大をめざす、直近のメディア企業となった。これについて、要点をまとめる。
フォーブス(Forbes)は、8月26日(現地時間)、特別目的買収会社(SPAC)を通じて上場する意向を発表した。これにより同社は、SPACという中身(事業実態)のないシェルカンパニーとの合併を通じて事業の拡大をめざす、直近のメディア企業となった。
合併先のSPACは香港を拠点とするマグナムオーパス(Magnum Opus)だ。この3月にニューヨーク証券取引所に上場した、いわゆるブランクチェックカンパニー(白地小切手会社)である。創業104年の歴史を持つ老舗フォーブスの企業価値は、6億ドル超(約659億円)と見積もられた。フォーブスのマイク・フェダール最高経営責任者(CEO)によると、昨年SPAC上場を発表したBuzzFeedやグループナイン(Group Nine)とは異なり、当初の目的は競合するメディア企業の買収ではなく、消費者向け商品の開発および販売に注力するという。
「上場という思い切った一手を打つには、いまこそ好機到来だと考えた」とフェダール氏は述べている。
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要点まとめ:
- 上場により、総額約6億ドルを調達する。この金額には、マグナムオーパスの出資金2億ドル(約220億円:3月の上場で調達)に加え、合併会社の私募増資、いわゆるPIPEを通じて調達する4億ドル(約440億円)の追加資金が含まれる(1株あたり10ドル[約1100円]で合併会社の新株を発行)。既存株主は株価上昇により、保有株から利益を得ることができる。
- 上場の完了は、2021年第4四半期の後半または2022年第1四半期の前半になる見通し。フォーブスの株主は、上場完了に伴い、合併会社の約22%を所有することになる。
- フェダール氏によると、調達した資金は、同社のテクノロジー、投資、コンサルティング、高級品販売の強化に使われるほか、ジョイントベンチャーおよびライセンス事業のテコ入れにも充てられる。
- フォーブスの2020年の売上高は1億8000万ドル(約198億円)で、前年比15%減だった。
- フォーブスの読者は全世界で1億5000万人を超える。また、現在の有料購読者数は2万3000人。コムスコア(Comscore)の調べによると、2021年7月に同社ウェブサイトを訪問したユニークビジター数は5100万人だった。
- 昨年1年間に株式公開の計画を発表したデジタルネイティブのパブリッシャーたちとは異なり、フォーブスは現在も印刷版の雑誌を発行する老舗ブランドである。
- 2014年以降、香港の投資家グループ、インテグレーテッド・ウエール・メディア・インベストメンツ(Integrated Whale Media Investments)がフォーブスの95%を所有しており、残り5%をフォーブス一族が所有している。
- 合併後も、フェダール氏の指揮のもと、現在のフォーブス経営陣が引き続き事業運営にあたる。フェダール氏は新たに組織される取締役会に加わる予定。
主力事業の内訳
フォーブスの売上の柱は、メディア(広告等)、コンシューマ(サブスクリプション等)、ブランドエクステンション(イベントおよびライセンス事業等)の3つに分けられる。
投資家向けのプレゼンテーション資料によると、今年の売上予測は、メディア部門が1億3800万ドル(約152億円:前年比5%増)、ブランドエクステンション部門が4700万ドル(約52億円:前年比19%増)、コンシューマ部門が1600万ドル(約17億円:前年比75%増)となっている。2021年および2022年のコンシューマ部門の成長は減速が見込まれる一方、ブランドエクステンション部門の成長は好転または前年並みと予測している。
同じく投資家向けプレゼンテーション資料によると、現在の購読者数は2万3000人となっている。ゆくゆくは100万人超の獲得をめざしているが、具体的な時期については明らかにしていない。もうひとつの長期的な目標として、登録ユーザー数を1500万人以上に引き上げたいとしている。
上場で調達した資金の使途
フォーブスは、既存のコンテンツ資産をテコに、消費者向けの有料商品を新しく立ち上げ、同社の事業全体に占めるコンシューマ部門の売上比率を現在の12%から、将来的には38%に拡大したいと考えている。広告収入の比率は65%から45%に縮小する見通しという(残りをブランドエクステンション部門の売上高が占める)。
実現性はともかく、フォーブスはこのような展望を持っている。フェダール氏は、目標達成には「数年」かかるが、2023年には「大きな成果」が現れはじめるだろうと述べている。というのも、フォーブスが上場で調達した資金をフルに活用できるのは、2022年以降となるからだ。フェダール氏は、「コンシューマ部門の売上は、広告収入の上乗せだ」と述べている。
SPACの資金を開発案件に活用する事例として、フェダール氏は投資アプリのQ.aiを挙げた。Q.aiはフォーブスがインキュベーション事業として立ち上げた企業で、AI(人工知能)技術を活用して、投資のレコメンデーションを行うアプリを運営している。また、フォーブスは、ライセンス事業の一環として、アリゾナ大学グローバルキャンパス内でオンライン講座のフォーブス・スクール・オブ・ビジネス・アンド・テクノロジーを提供している。フェダール氏は調達した資金の投資先についてこう語っている。「確かな根拠に基づいて、成績の良い企業に投資する。また、教育、投資、さらには高級品や旅行など、新しい市場への参入も考えている」。
プロファイルズ(Profiles)も、調達資金の使途に挙げられる。フォーブスが選ぶ「アメリカズ・トップ・ウェルス・アドバイザーズ」は、富裕層を顧客に持つ米国のトップファイナンシャルアドバイザーの格付けリストだが、フェダール氏によると、このリストに基づいて開催するカンファレンスは、コンシューマ部門の売上として、毎年数百万ドル(数億円)を稼ぎ出すという。そこでフォーブスは、このリストをもとに、プロファイルズというリンクトイン(LinkedIn)スタイルのディレクトリを構築した。ランク入りした米国有数の資産運用アドバイザーたちは、高額な掲載料を支払ってプロファイルズに名前を登載し、資産家に対して自分をアピールするためのマーケティング活動に利用できる。フォーブスの技術部門はプロファイルズをサポートする各種のツールも開発した。
投資の対象外
フェダール氏によると、M&Aは必ずしもSPACの焦点ではないという。「投資家たちに、PIPE(私募増資)による追加資金調達の話をした際、企業買収は投資家向けのプランから意識的に外していた。『皆さん、数億ドル(数百億円)規模の新規M&Aを連発して、数億ドル規模の収益を上げるつもりだ』。言うは易しだが、実現できなければ机上の空論にすぎない」。
経営コンサルティング会社のアーサー・D・リトル(Arthur D. Little)でパートナーの肩書きを持ち、電気通信、情報技術、メディアおよびエレクトロニクス(TIME)分野を担当するシャヒード・カーン氏は、「フォーブスは、M&Aの買収先企業を物色する以前に、買収に備えて(組織としても、技術プラットフォームとしても)自社のインフラを強化する必要がある」と指摘する。「他社の買収を考える前に、まずは自分の家の片づけをすべきだろう」。
SPAC上場のメリット
フェダール氏は、SPACは「株式公開のもっとも合理的なプロセス」だと述べている。「株式を上場するメリットは、借金をせずに、意欲的な成長計画を実行するための資金を獲得できることだ。将来的に買収を検討する際は、さらに大きな影響力を発揮できるだろう。SPACはほとんど何の制約もなく資金を調達できる非常に有用な手段だ」。
SPACは従来型のIPOよりも投資家の圧力を受けにくい手段として知られている。事業実態のないシェルカンパニーとして設立されるSPACは、上場を通じて資金を調達し、この資金を元手に未公開企業を買収して上場させる。手短に説明するなら、上場して、手っ取り早く証券取引所で株を売る体制をつくり、必要な資金を調達する手段として機能する。
カーン氏によると、現在、電気通信とメディアの分野では、SPACの買収対象となりうる企業が1社あれば、その買収を狙うSPACは6社から7社もあるという。「フォーブスと合併して上場できるなら、SPACとしては大きな勝利だ」。
フェダール氏によると、フォーブスは10年がかりでこの上場に備えてきたという。この10年で、フォーブスは寄稿者ネットワークを立ち上げ、コンテンツマーケティングプラットフォームのブランドヴォイス(BrandVoice)のようなプロダクトを構築し、「フォーブスが選ぶ30歳未満の30人(30 Under 30)」をはじめ、人気ブランド資産の拡大を進めてきた。
さらに、テクノロジースタックとデータ分析能力の拡充にも注力してきた。その結果、フォーブスのオーディエンスを同じ属性を持つユーザーグループ(コホート)に分類し、コホートを構成する人々の関心事に基づいて、商品や体験を提供できるようにもなった。フェダール氏はその意図についてこう語る。「コンシューマ部門の売上高の大幅増をめざしている。有料会員登録をしなければ一切の記事が読めない強気なペイウォール戦略ではなく、価値の高いプレミアム製品を提供しようという戦略を考えている」。
メディア業界におけるSPAC上場の動き
このところ、メディア企業のあいだでは、SPACを活用した上場が一種のブームとなっている。パンデミックのさなか、投資家たちが魅力的な投資先を模索していることもあり、SPACが従来型のIPOに代わる上場手段として認知されつつある。BuzzFeedとグループナインは昨年、それぞれのSPAC上場を発表した。いずれもメディア企業の買収を目的としたものだ。伝えられるところによると、バッスルデジタルグループ(Bustle Digital Group)、ヴォックスメディア(Vox Media)、ヴァイスメディア(Vice Media)らも、上場を検討しているという。
デジタルメディア領域の買収案件は、夏の終わりにはおおむね完了する模様だ。独メディア企業のアクセルシュプリンガー(Axel Springer)は、8月26日(現地時間)、米政治専門サイトのポリティコ(Politico)を10億ドル(約1100億円)超で買収すると発表した。一方、ネクスターメディアは先週、政治専門紙のザ・ヒル(The Hill)を買収している。
「多様性」に配慮した取締役会?
フォーブスの取締役会は、フェダール氏を含む9人のメンバーで構成される。多様性、公平性、包摂性を推進する同社の取り組みの一環として、「多様性に配慮した取締役」をめざすという。フェダール氏に具体案を問うたところ、「白人以外および女性を含む取締役会を想定しているが、女性やマイノリティに一定比率を割り当てるクオータ制は考えていない」との答えが返ってきた。
「私が取締役会に迎えたい候補者はかなりの数にのぼるし、オーパス側の要望も聞かなければならない」。
[原文:Cheat Sheet: Forbes plans to go public via SPAC to invest in paid consumer products]
SARA GUAGLIONE(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)