昨年以降、多くの企業がブランドアイデンティティの維持や再構築に苦労している。そんななか、大手パブリッシャーのBDG(旧称バッスルデジタルグループ)が、TikTok活用に成功した。コロナ禍で、各地のロックダウンが長期化する一方、TikTokは熱心で忠実なオーディエンスから高い支持を受けている。
世界の様相は、1年前から一変した。
コロナ禍がもたらしたニューノーマルを背景に、多くの企業がブランドアイデンティティの維持や再構築に四苦八苦している。そんななか、大手パブリッシャーのBDG(旧称バッスルデジタルグループ)が、TikTok活用の成功事例について語った。新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、各地のロックダウンが長期化する一方、TikTokは熱心で忠実なオーディエンスから高い支持を受けている。
BDGはこのTikTokの人気を最大限に活用して、ブランドと共同で多数のコンテンツ施策を展開。同ブランドのメインページは1700万人近くのフォロワーにリーチしたという。
Advertisement
BDGでマーケティング、および事業開発担当バイスプレジデントを務めるウェズリー・ボナー氏は、こう述べている。「BDGは、TikTokというプラットフォームの活用にもっとも真剣に取り組み、そこでのオーディエンスの構築にもっとも多くの時間と労力を費やしてきた。そしていま、その投資が実を結びつつある」。
BDG傘下の各ブランドが、TikTokにチャンネルを開設してから1周年を迎えようとしている。この節目に合わせ、ボナー氏は、5月12日に開催された米DIGIDAYが開催したイベント「DIGIDAY U」に登場。同イベントでは、企業が実験的なチャネルで試行錯誤を重ね、その成果を恒久的な戦略に反映させた事例が語られた。
BDGのミッション:TikTokを学び、発見をブランドに伝える
01:なぜいまなのか?
BDGのもとには、多くのブランドからTikTokに関するさまざまな質問が寄せられた。業界のトレンドには誰よりも敏感だと自負していたBDGだったが、こうした質問が新たな気付きを得るきっかきになったという。というのもボナー氏によると、当時BDGの幹部たちはこれらの質問に、「自信を持って答えられる」状態ではなかった。
こうした背景のもと、BDGとTikTokのパートナーシップはスタートした。ボナー氏はこう説明する。「通常、ブランドがあるプラットフォームについて知りたいとき、パブリッシャーは情報源の役割を果たす。BDGはTikTokについて知りたいブランドの情報源になりたいと考えた」。
02:なぜTikTokなのか?
ボナー氏は、多くのクリエイターやブランドがTikTokで成功を収めてきたことから、「これまでもTikTokには常に注目してきた」と打ち明ける。ただ、パブリッシャーと広告主にとって有用な、TikTokでオーディエンスとコミュニケーションする(オーディエンスにリーチする)ための方法は明らかになっていなかった。
TikTokのメディアパートナーシップの責任者、ロビー・レヴィン氏は、BDGがTikTokに向けて最初の一歩を踏み出すのは、確かに「勇気」の要ることだったと述べている。レヴィン氏は今回のイベントで、ボナー氏と対談した人物だ。同氏によると、TikTokで一定のオーディエンスを獲得するには数カ月から1年はかかるが、成功の見込める有望なパブリッシャーは1000社を超えるという。
レヴィン氏はこう述べている。「TikTokについてパブリッシャーと話をするとき、何よりもまず、TikTokには誰にとっても居場所があり、それぞれのコミュニティがあることを分かってもらうようにしている。バッスル(BDG)の成功は、その事実を示すものだ」。
レヴィン氏が指摘するように、BDGはTikTok上の特定のコミュニティで、ニッチなファンを獲得している。たとえば、サイエンス系のデジタルメディアのインヴァース(Inverse)や、子を持つミレニアム世代向けの「ロンパー(Romper)」などのチャンネルが代表的だ。
レヴィン氏はさらにこう続ける。「TikTokを活用するパブリッシャーには、目先のファンだけでなく、未来のファンにも目を向けるように勧めている。それには、このプラットフォームを本当の意味で理解することが必要だ。我々が提供している各種クリエイティブツールは、そのためのものだ」。
なおTikTokには、パブリッシャーの「成長戦略」を支援するチームがあり、TikTokをはじめて活用するパブリッシャーに対して、技術的なサポートからトラブルシューティングまで、TikTokへの進出に必要な支援を提供している。
03:得られた知見
BDGにとって、戦略作りの要となる情報はエンゲージメントだ。「エンゲージメントはフィードバックループの要だ」とボナー氏は述べている。「オーディエンスがコンテンツを気に入るか、気に入らないか。これに尽きる」。
ほかのソーシャルプラットフォームでは、エンゲージメントを分析すれば最速30分ほどでパフォーマンスを判定できるのだが、TikTok動画の場合、投稿から数カ月後に人気が出ることもある。「コンテンツのエンゲージメントという意味では、確実に長期戦だ」とボナー氏は語った。
そこでBDGは、オーディエンスがTikTokで見たがるテーマについて再考し、動画撮影の方針を決めた。たとえば有名人の取材では、必ずTikTok専用の素材を撮影するようにしている。
BDGのTikTok戦略を成功に導いたのは、試行錯誤を積み重ねたことと、クリエイターたちの声に耳を傾けることだった。これについてボナー氏は、「慎重にTikTokを試す良い方法だ」と述べている。クリエイターと直接的に連携しなくても、フィードに投稿したコンテンツのフィードバックや、TikTokの使い方について、クリエイターに相談して専門的な意見を聞くことはできる。
「クリエイターたちは、このプラットフォームの日常的な活用にかけてはもっとも経験豊富な人々だ」とボナー氏は話す。実際、BDGは複数のクリエイターと協力関係を結び、技術的な知見はもとより、アルゴリズムの傾向を把握するなど、TikTok戦略の策定に関してさまざまな助言を受けている。
ボナー氏いわく、「そうすることで、TikTokにもっとも適した戦略、そして最適なコンテンツを構築できる」。
BDGでは毎月、TikTokのクリエイターたちと定例の会合を開き、たとえばニューヨークファッションウィーク(New York Fashion Week)など、主要なビッグイベントをテーマにブレインストーミングを行っている。「私ならコレを着る(what I would’ve worn)」や、編集者のお気に入りのシーンを集めた動画といった人気コンテンツは、このようなブレインストーミングから生まれたものだ。
04:アドバイス
TikTokの活用に慎重なパブリッシャーに対しては、ボナー氏はそれぞれの得意分野を特定することが重要だと述べている。たとえば、BDGが運営する9つのメディアは、エンターテインメント、ビューティ、サイエンスなど、広範な領域をカバーしており、それぞれのテーマを反映したTikTokチャンネルを開設している。「オーディエンスは、フォローしたりエンゲージしたりすることで、そのページの個性やメリットを理解する」とボナー氏は話す。
そして、次に重要なことは「一貫性」だという。「骨の折れる作業ではあるが、とにかく、無理のないコスト、負担の少ないやり方で、一貫性のあるコンテンツをコンスタントに制作できるようなプランを作り、できるだけ多くの試行錯誤を重ねるべきだ」と、ボナー氏は助言する。
TikTokにおけるトレンドの移り変わりは、非常に速い。そのためレヴィン氏は、ブランデッドコンテンツに関しては、「ブランドの理念」を反映し、かつ長期的に価値を失わない、いわゆる「エバーグリーン」なコンテンツが望ましいと助言する。また、配信するコンテンツのタイプと公開日程をあらかじめ計画しておくべきとも提案している。
さらにレヴィン氏によると、「TikTokのチャンネル作りでは、そのときどきのトレンドよりも、自分たちらしさを追求することが重要だ」という。
BDGの場合、ブランデッドコンテンツとして主に学習目的やサービス指向の動画を作成している。たとえば、セフォラ(Sephora)のようなブランドと連携して、クリエイターがスモーキーな目元作りについて説明する、チュートリアル動画などが良いかもしれない。
またボナー氏は、TikTokには多様なコミュニティが存在する点を強調する。つまり、TikTok上のコンテンツは、もはやダンス動画ばかりではないということだ。
「まずはオーディエンスとして、TikTokを使ってみてほしい」とボナー氏は述べる。「1年前の我々は、ダンスをするつもりなどないのでTikTokには向かないと思っていた。この認識は誤りだった」。
05:今後の方向性
TikTokは現在、規模の拡大とパブリッシャーとの関係強化に注力している。実際同社は、週に一度発行されるニュースレターや、クリエイター向けのポータルサイトなどを通じて、数多くの成功事例やコンテンツ戦略を積極的に紹介している。
レヴィン氏は、「イベント、ワークショップ、パネルなどを開催することにより、TikTokとそのサービスを、パブリッシャーにより認知してもらいたい」と述べている。
オーガニックであれペイドであれ、どの視点から見ても、TikTokはオーディエンスを楽しませるのにうってつけのビジュアルアプリだとレヴィン氏は話す。「視聴者の興味を掻き立てる、視覚的に美しいコンテンツを見せることが重要だ」。
また、TikTokのフィードは報道にも活用できるという。たとえば、BDGは、TikTokの人気スター、アディソン・レイ(@addisonre)を特集したコンテンツを展開している。レヴィン氏いわく、「TikTokは文化の縮図を示している。TikTokにおけるトレンドやクリエイターの人気は、ほかのプラットフォームや文化全般の流行り廃りを示すひとつの指標になり得る」。
[原文:Case Study: How BDG grew its TikTok channel as one of the first ‘serious’ publishers on the app]
SARA JERDE(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)
ILLUSTRATION BY IVY LIU