Googleの助けを借りて、ads.txtの普及が進んでいる。パブリッシャーによる採用率の急増は、主要な広告製品のいくつかでads.txt向けのフィルタリングを開始するとGoogleが発表したタイミングとぴったり重なる。これは、Googleがパブリッシャーをどれほど強力に支配しているかを表すものでもある。
「ads.txt」は、スタートこそいささか手間取ったものの、その採用がGoogleの助けを借りて進んでいる。
デジタル広告を販売している1万の人気ドメインのうち、インタラクティブ広告協議会テックラボ(以下、IABテックラボ)がads.txtを5月にリリースしてから100日でこれを採用したのはわずか13%に過ぎなかった。だが、「アド・オプス・インサイダー(Ad Ops Insider)」の発行人ベン・ニーン氏のデータによると、9月中旬~10月末の間にその割合は44%にまで増えたという。採用までの時間経過は、主要な広告製品のいくつかでads.txt向けのフィルタリングを開始するとGoogleが発表したタイミングとぴったり重なる。これは、Googleがパブリッシャーをどれほど強力に支配しているかを表すものでもある。
普及が遅かった理由
IABテックラボは、アドバイヤーがインベントリー(在庫)のアービトラージ(裁定取引)やドメインのスプーフィング(なりすまし)を行う非合法な販売業者を回避するのに役立つツールとしてads.txtをローンチした。ads.txtは、パブリッシャーが、自社のインベントリーを販売する権利を持つ企業リストのテキストファイルをWebサーバー上に置き、バイヤーが購入するインベントリーの有効性をチェックできるようにするというものだ。パブリッシャーがads.txtを利用していれば、インターネット接続ができる人なら誰でも、パブリッシャーが承認した販売業者を検証できる。
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ドメインのスプーフィングは、プログラマティック広告の成長にとっての深刻な脅威となっており、いかがわしい再販業者は別として、自動広告に携わる人間の多くにはads.txtを支持する動機がある。だが、華々しいファンファーレとともに発表されたにもかかわらず、パブリッシャーたちはads.txtの採用を先延ばしにしてきた。複数のパブリッシャー筋によると、テキストファイルはほんの数時間で作成できるが、技術リソースに限りがあるなかほかのプロジェクトで手一杯であること、ads.txtのメリットを正しく理解できていないこと、その影響が明確でないことなどを理由に、採用への動きは遅かった(パブリッシャーのなかには、直販以外にバイヤーたちがサイトにやってくる方法をすべてさらけ出すことに魅力を感じないものもいた)。
IABテックラボのシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるデニス・ブーフハイム氏は「1~2カ月前でさえ、採用の動きは遅かった」と述べたが、その後ads.txtがテックラボでもっとも急成長しているイニシアティブになったという。「良いと言いつつ、必ずしもそれを取り入れるとは限らない」。
Googleのパワーで弾み
ads.txtを後押ししているのはGoogleだけではないので、こんなにも多くのパブリッシャーが最近になって続々とads.txt用テキストファイルを作成するようになった理由は何かと考えるときに、相関関係と因果関係を区別するのは難しそうだ。2018年末までにads.txtを採用しないパブリッシャーからは購入しなくなるだろう、と言っているアドバイヤーもいる。広告業界のロビイストたちはads.txtを支持しているし、アップネクサス(AppNexus)やメディアマス(MediaMath)のようなテック企業はads.txt関連のツールを作っている。メディアブランドを詐欺師から守るためにads.txtのさらなる普及を訴えるパブリッシャーの幹部もいて、ads.txtは業界イベントの流行語になった。
こうした要素のすべてがads.txtの採用率の引き上げにつながった可能性はあるが、どの組織もGoogleのパワーには及ばなかった。テック企業アドベルベット(Advelvet)の最高経営責任者(CEO)であるムラト・デリゴズ氏によると、ads.txtファイルを使って認可されてないインベントリーをフィルタリングするとGoogleが発表するまで、同社と仕事をしているパブリッシャーの20%しかads.txtファイルを持っていなかったという。アドベルベットは、パブリッシャーがGoogleのアドエクスチェンジで最低落札価格(フロアプライス)を設定する手助けをしている。いまでは、アドベルベットと直接取引をしているすべてのパブリッシャーがads.txtファイルを持っている。
「Googleがads.txt採用に弾みをつけたことに間違いない」とデリゴズ氏は言う。
Googleが行なったこと
Googleはこの1カ月半のあいだに、ダブルクリック・アドエクスチェンジ(DoubleClick Ad Exchange:以下、AdX)やアドセンス(AdSense)ネットワーク、デマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)「DoubleClick Bid Manager」でads.txtファイルを利用して認可されていないインベントリーをフィルタリングすると発表した。いまのところは、ads.txtファイルを持っていないパブリッシャーも、まだこうしたチャンネルを通じてインベントリーを販売できる。だが、パブリッシャーがads.txtファイルを持っていれば、Googleは、ファイルにリストアップされていない、認可されていないベンダーがパブリッシャーのインベントリーを販売することをブロックする、とGoogleのプログラマティック・グローバル戦略部門を率いるプージャ・カプーア氏は言う。
プロハスカ・コンサルティング(Prohaska Consulting)のグローバルテック戦略担当バイスプレジデントのマイケル・ストッケル氏は次のように述べている。「(ads.txtの採用増加は)Googleのおかげが大きいと言って良いと思う。DoubleClick Bid Managerで要求されるようになる数週間前まで、すべてではないものの、多くのパブリッシャーは待機戦術をとっていたのだから」。
Googleは、この公式発表以外にも、ads.txt導入推進のために裏で動いてきた。Googleは10月中旬、AdXを利用するパブリッシャーに宛てて、「売り上げに影響が出ないように」ads.txtファイルを更新するよう促す内容の電子メールを送った。匿名のパブリッシング情報筋によると、Googleのアドサーバーのダッシュボードには先月までにads.txt管理タブが追加され、認可されていないのにドメインをリストに出している販売者をパブリッシャーが見られるようになったそうだ。

Googleのアドサーバーのads.txt管理タブ
摩擦を取り除く手助け
Googleは10月末、パブリッシャーのアドコールをスキャンして、インベントリー販売の認可を受けていると考えられる業者をもとにads.txtファイルを生成してくれるツールを公開した、とカプーア氏は言う。パブリッシャーには、内容を確認してファイルを修正するよう勧めている。狙いは、パブリッシャーのads.txtファイルを絶対的なものにするということではなく、最初の摩擦を取り除く手助けにしようということだ。
ads.txtに関連するGoogleの最近の動きは、同社のプラットフォームを通じてインベントリーを販売できるようにするためには、最終的にはパブリッシャーからのads.txtファイルの提出を義務づけることへ向けての第一歩と見られている。Googleはすでにパブリッシャーからのads.txtファイル提出義務について議論しているが、広告を売る側も買う側も取り引きのなかでads.txtを使いはじめたばかりであり、いつまでにそうすべきかという期限は設けていない、とカプーア氏は説明する。
「業界として、偽のインベントリーをマネタイズすべき理由は何もない」とカプーア氏。
誰もがこの後押しを歓迎
Googleがads.txt導入を後押しできるという事実は、検索界の巨人がメディア業界に及ぼす影響を示す例のひとつだ。Googleは、サブスクリプション制のパブリッシャーに対して、コンテンツがGoogle検索の対象になるよう、少なくとも3つのコンテンツを読者が無料で読めるようにさせるファーストクリックフリー制度を撤廃し、パブリッシャーたちは安堵のため息をついた。一方でパブリッシャーたちは、2018年からGoogleの「Chrome」ブラウザで動画の音声が自動再生されなくなることや、アドブロックが実装されることを懸念している。
Googleは広告業界でもっとも利用者の多いアドエクスチェンジやDSP、アドサーバーを所有しているので、プログラマティック広告への信頼がこれ以上落ちるのを防ぎたいはずだ。Googleのアドエクスチェンジではおよそ1万4000のads.txtファイルがリスト化されている。これは2番手のアップネクサスのアドエクスチェンジが持っている数より50%以上も多いと広告計測会社のピクサレート(Pixalate)は語る。ads.txtのようなイニシアティブを通じて信頼性を上げることは、検索エンジンの巨人がアドバイヤーに対してプログラマティックプラットフォームでお金を使い続けるよう促す方法のひとつだ。この分野ではGoogleが優位を占めている。
パブリッシャーも広告主も、GoogleやFacebookのようなプラットフォームが持っている力にはうんざりしているが、Googleがads.txt採用を後押ししていることを歓迎している。アドエージェンシー、デジタスLBi(DigitasLBi)のプログラマティックメディア担当バイスプレジデントであるリアン・ナドー氏は、Googleによるads.txt支持を「大きなステップ」と呼んだ。
分別のある力の使い方
スレート(Slate)は、GoogleがDSPでads.txtファイルを利用し認可されていない販売者にフィルターをかけると発表する数週間前の9月に、ads.txtを採用した、と同グループのバイスチェアマンを務めるダン・チェック氏は言う。スレートがads.txt採用を決めた主な理由はGoogleではなかったが、チェック氏は、Googleがその影響力を利用して業者全体でads.txtの採用を進めたことを認め、それを支持した。
「こういうケースでは、魔法の杖を持っていて、分別を持ってそれを振ることはよいことだ」と、チェック氏は述べた
Ross Benes(原文 / 訳:ガリレオ)