「動画広告」のシェア獲得を狙う、 Facebook の戦略と現状

テレビやデジタル動画の広告に資金を導入する企業たちから、Facebookはより多くの動画広告コミットメントを得ようとしている。従来はテレビ広告に注がれていた広告主予算から、すでに収益を奪いつつある。しかし全体的には、来年のアップフロント・マーケットプレイス(広告の先行販売)で、さらなる広告収入を得るために何をするべきかを学ぶ1年となっていると、エージェンシー・エグゼクティブたちは言う。

「我々の広告主たちは、テストと学習の機会としてこれを捉えている。最初の1年に思いっきりはまってしまうようなことはしたくない。もしもうまくいかなかった場合を考えて、だ。しかし彼らは広告の先行販売に対する試みを開始していることが確実であり、今後どうなるかが期待される」と、エグゼクティブのひとりは語った。

Facebook Watch(ウォッチ)における動画サービスのための、広告先行販売契約を求めて、Facebookは2019年のはじめから、広告主やエージェンシーに売り込みをかけている。彼らの先行販売プログラムはショーケース(Showcase)と呼ばれている。このプログラムにはFacebook Watchのトップ・チャンネルにおけるインストリーム・リザーブ(In-Stream Reserve)在庫を含んでおり、コンテンツのカテゴリーに合わせたオプションや、個別の番組をスポンサーするオプションも提供されている。

広告主やエージェンシーたちに、Facebookの動画プラットフォームに慣れ親しんでもらい、その広告プロダクトに対するフィードバックを受け取るためのチャンスとして、Facebookの広告先行販売マーケット参加の1年目は機能しているようだ。テレビ市場とデジタル動画市場が今後も融合していくなかで、Facebookがより大きなシェアを得るための基盤となっていくように見える。「広告先行販売に関して言えば、私はどちらかというとテスト期間であると考えている。来年こそがより大きな年となる、という我々の展望と一致する」と、Facebookのアメリカ・エージェンシー・セールス部門の責任者であるエリック・ガイズラー氏は語る。

しかし、広告主に対してFacebookが大きな躍進の年を掲げるためには、まず彼らの動画プラットフォームがオーディエンスにヒットしていることを証明する必要がある。Watchの動画に1日少なくとも1分は費やしているユーザーが1億4000万人も存在し、これらのデイリーオーディエンスにおける1日の平均視聴時間は26分となっていると、Facebookは6月に発表した。彼らは特に、エピソード形式の番組に対してスポンサーを獲得し、先行販売によって予算を確保しようとしているが、上記のような数字がエピソード形式の番組でも有効であると示すことができれば、Facebookにとっては大きな助けとなるだろう。

「コンテンツとエンゲージメントをしたいというユーザーの願望を実際に見ることができるのか。その場合、(スポンサー)コミットメントの観点からは、この種類の在庫に対する考え方が変わるだろう」と、もうひとりのエージェンシー・エグゼクティブは述べた。

それまでのあいだ、Facebookは彼らの動画プラットフォームに対する広告バイヤーの認知に取り組む必要が出てくるだろう。Watchに対するFacebookの番組編成戦略は、開始時点では短い形式の番組編成を中心にしていたが、それ以降戦略は常に変化をしてきている。WatchだけでなくFacebook全体における動画の歴史を踏まえて、エージェンシー・エグゼクティブたちはいまでも、Facebookにおける動画は短く、ニュースフィードをスマートフォンでスクロールするユーザーの注意を引きつけようとする種類のものだ、と認識している。コネクテッドTV上で、オーディエンスが椅子に座ってしっかりと見るようなエピソード形式の番組という認識ではない。「プレミアム分野、長編ジャンル、というような分野だとは、我々は捉えていない」と、また別のエージェンシー・エグゼクティブは、Watchについて感想を述べた。

テレビに向かう広告予算を奪う

従来のテレビと、Watchの動画コンテンツを比較することは、いくつかの点でFacebookの売り込みの負担になってきた。その一方で、この比較にはメリットもある。伝統的なテレビにおけるオーディエンス数が減ることで、広告の価格は上昇している。そのため、交渉に有利に働くような競争やスケールが存在する、オンラインのチャンスを広告バイヤーたちは必死で見つけようとしている。競争に対するこのような需要があることで、Facebookはいくつかの広告主からの広告投資契約にこぎつけることができた。最初のコメントを述べたエグゼクティブによると、そのなかには従来のテレビに「大きく」広告投資をしてきていた広告主も含まれるとのことだ。「Facebookへと向かう予算は、もともとソーシャル動画関連ではない。従来のテレビ向けの予算から少しずつ配分される形だ」と、このエグゼクティブは言う。

エージェンシーのエグゼクティブたちによると、Facebookの先行販売パッケージは、テレビネットワークが求めるものよりも価格がはるかに低いという。クライアントごとに具体的な価格は変わるため、Facebookが広告主たちに求めている金額を言うことは、エグゼクティブたちは拒否した。ただ、テレビよりもはるかに低いと形容した。「従来のテレビネットワークとの契約と比べると桁がひとつ違う」と、最初のコメントを述べたエグゼクティブは語った。

ほかのデジタル・プラットフォームとの比較検討

ほかの動画プラットフォーム、特にHulu(フールー)とYouTubeと比べると、Facebookはやや劣勢である。この2社は何年も広告主との広告先行販売マーケットに参入しており、Facebookが現在ショーケースを使って売り込んでいるようなパッケージと類似のものを提供している。

個別の番組ごとのスポンサーシップを獲得することは、テレビネットワークだけでなく、あらゆるデジタルプラットフォーム、そしてパブリッシャーの狙いに含まれているようだ。そのため、まだオーディエンスのあいだで、特別な人気を得ていないFacebookの番組編成が広告バイヤーの頭のなかで抜きん出るのは難しい。また、Facebookのインストリーム・リザーブのパッケージはYouTubeによる、Googleプリファード(Preferred)プログラムと類似しており、価格帯も似ているとエージェンシー・エグゼクティブたちは言う。

「ショーケースとGoogleプリファードを比べると、(プリファードに関して)我々ははるかに大きな知識と経験を持っている。Facebook側は自分たちが競争力があることを証明しなくてはいけない、という負担が存在している」と、2人目のエグゼクティブは言う。

番組スポンサーシップとインストリーム・リザーブ

自らの有効性を証明しなければいけない負担があるものの、先行取引にコミットメントする場合にどのような成果が得られるか、Facebookは広告バイヤーにいくつかの証拠を与えることができている。Facebookは2017年からインストリーム動画広告を販売している。そして少なくとも2018年のはじめ以降、インストリーム・リザーブ・プログラムを売り込んでいる。このプログラムの公式なレビューは2018年の9月であった。それ以降、これはショーケース・プログラムに加えられている。「インストリーム(リザーブとオークション)におけるテストからはポジティブな結果が確認されている。特にFacebookにおける動画のリーチが伸びていることを証明できている」と、ハバス・メディア(Havas Media)のソーシャル部門マネージング・ディレクター、エグゼクティブ・バイスプレジデントであるジェス・リチャーズ氏はeメールで回答した。

それを考慮しても、個別の番組に対するスポンサーシップよりもWatch上の在庫に対するインストリーム・リザーブにより大きな興味が集まっていることは驚きではないと、エージェンシー・エグゼクティブたちは語った。

エージェンシーとのミーティングにおいて、Facebookは必ず番組スポンサーシップを強調している。たとえば、ジェダ・ピンケット・スミス氏のWatch上のトーク番組である「レッド・テーブル・トーク(Red Table Talk)」をプロモーションするために、赤いテーブルを小道具としてミーティングに持ち入れるといった具合だ。しかし、Watch上の番組にスポンサーとして先行投資を決めることに関して、広告バイヤーたちは不安を抱えている。特に、まだ放送されていないコンテンツに関しては、不安が大きい。

2番目のエージェンシー・エグゼクティブが「パフォーマンスの証拠」と形容するように、すでに配信されている番組であっても、どれだけの成績を見せるかに対する証拠が足りていないと考えるバイヤーたちはいる。広告を先行して買い取ることが、ブランドにとって有効であるかを判断するに証拠が足りないというわけだ。特に、広告バイヤーたちは、番組が新しいエピソードを配信したときにビューアー数をどれほど短期に集めるのか、またオーディエンスが1エピソードだけではなく、すべてのシリーズを見るほどの力をコンテンツが持っているのか、といった情報を求めている。

「レッド・テーブル・トーク」「スティーブン対ゲーム(Stephen vs. The Game)」、「リアル・ワールド:アトランタ(The Real World: Atlanta)」、といったWatch上のコンテンツのテレビ広告をFacebookは流している。これらは、彼らが番組スポンサーシップを求めているコンテンツたちだ。しかし、このどれも、広告主たちに広告購入が必須だと思わせるほどの大ヒットにはなっていない。「広告主にとっては、発言権を得る点でスポンサーシップは魅力的だ。しかし、広告主の興味を本当にひくような話題性は、どこに存在しているのか」と、2人目のエージェンシー・エグゼクティブは疑問を呈する。

また、番組スポンサーシップになるということが何を意味しているのかFacebookは完全には決められていないことが状況を複雑にしている。ガイズラー氏は、番組スポンサーシップをベータ版のテストとして捉えており、2020年に入るまで番組スポンサーシップの試験運用が続くと認めた。「彼らは番組スポンサーシップが、現在ベータ版テストであると述べている。これはつまり、我々のところに来て我々が何が欲しいかを尋ねるということを意味している。広告主はそれぞれ異なるものを欲しがっている、という前提があるからだ」と、1人目のエージェンシー・エグゼクティブは語った。

テレビとの対抗

広告主の先行投資を得るFacebookの取り組みは、複雑な状況に悩まされている。エグゼクティブたちによると、いくつかの場面において、彼らはテレビらしさが十分ではないと考えられている一方で、テレビらしさがあり過ぎると考えられている場面もあるのだ。

テレビ上でコンテンツを消費するオーディエンスを抱えているデジタル・プラットフォームと、テレビ広告バイヤーたちは契約を結びたいと考えている。HuluやYouTubeがコネクテッドTVの視聴時間を強調するのはこのためだ。FacebookのWatchアプリは、Apple TVやAmazonのFire TVといった、いくつかのコネクテッドTVのプラットフォームに対応している。しかし、Watch上のコンテンツはスマートフォンやPC上で視聴されているというのがエージェンシー・エグゼクティブたちのあいだでの認識だ。エグゼクティブのなかには、Watchのコネクテッドテレビ用アプリが存在することをまったく知らなかった人々もいた。

さらに、事前に保証していたターゲット・オーディエンスからのインプレッション数に到達しなかったときに、どう対処するか、Facebookはまだオプションを固めている最中だ。この状況に対処することをテレビ業界では「修復する(make-goods)」と呼ぶ。

「まだ議論が行われている最中だが、Facebookは何らかの理に適った支払いを行う意思があるようだ」と、2番目のエグゼクティブは語った。彼によると、これらの支払いの詳細は契約の細かい項目に埋もれているという。ガイズラー氏によると、Facebookはこれまで広告主たちのインプレッション目標数を「すべてのキャンペーンにおいて」完全に達成しており、「今後もその計画だ」とのことだ。

より細かなオーディエンス・ターゲティング機能をインストリーム・リザーブのキャンペーンに搭載するよう取り組んでいると、ガイズラー氏は述べたが、現時点ではビューワーの年齢と性別しかオプションは存在していない。Facebook自体はより細かなターゲティングで知られているが、インストリーム・リザーブに関しては、このようなおおまかな属性を使うしかないのが現状だ。とは言っても、広告バイヤーたちは、Facebookのような企業がよりテレビ形式に近いバイイング・オプションへと進むことをプッシュしてきたことを、1人目のエグゼクティブも認めている。これはテレビとの比較をより簡単にすることと、テレビとデジタルのあいだの架け橋になることを簡単にするためだ。

そういう意味では、不公平な状況に思えるかもしれない。しかし、Facebookが競争しようとしているマーケットプレイスの性質自体がそうなっている。HuluとYouTubeはテレビ形式のオプションに適応することで、テレビネットワークに対する有効な競合として位置づけられてきた。最近ではむしろ、テレビネットワークが、デジタル在庫のためにより細かなターゲティング・オプションに適応する必要が出てきている。これはデジタル・プラットフォームにおける競争力を維持するためだ。

テレビとデジタル動画のマーケットが今後も合わさっていくなかで、広告先行販売の売り込みを、その両方のマーケットにおける競合他社と競争できるような形で適応する必要がFacebookにはある。

「ここには成果を上げずに失われたチャンスが存在しているが、我々にも責任がある」と、エグゼクティブは語った。

Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)