Axiosは2021年2月、Axios HQ(アクシオスHQ)というSaaSビジネスを立ち上げた。これは社内コミュニケーションを円滑に行うためのツールで、商標登録された「スマートブリビティ(Smart Brevity)」というスコアに基づき、自らの発言を編集していくことで、より意思疎通が楽になるというものだ。
Axios(アクシオス)が、7桁の収益を挙げるソフトウェアライセンス事業を1年足らずで確立した。
Axiosは2021年2月、Axios HQ(アクシオスHQ)というSaaSビジネスを立ち上げた。これは社内コミュニケーションを円滑に行うためのツールで、商標登録された「スマートブリビティ(Smart Brevity)」というスコアに基づき、自らの発言を編集していくことで、より意思疎通が楽になるというものだ。
Axios HQのゼネラルマネージャーであるジョーダン・ザスラフ氏によると、年間契約が1万ドル(約110万円)からスタートするHQのライセンス収益はわずか8カ月で100万ドル(1億1000万円)を超え、年末には150万ドル(約1億6500万円)に達する見込み。「スマートブリビティ」についてマネジメント向けに一段上のトレーニングを提供するプロフェッショナル版サービスでは、さらに200万ドル(約2億2000万円)の収益を挙げている。これまで30社のクライアントがソフトウェアライセンスに加えて、こうしたサービスを追加購入しており、なかには年間契約が6桁を超えるクライアントもある。
Advertisement
Axiosの共同創業者でプレジデントを務めるロイ・シュワーツ氏は「『ブルームバーグ(Bloomberg)のようになれるんだろうか。端末事業とニュース事業の両方をやっていけるだろうか』という話だと考えている。当社の場合はコミュニケーション事業とニュース事業の両方、ということになる」と話す。
多様化への懸念に対する回答
Axios HQを通してAxiosがライセンシーに提供するのは、各種社内通信用のメールテンプレート(現在利用できるテンプレートは6種)、「グラマリー(Grammarly)」のように簡潔ながら気の利いたフレーズを提案してくれるAI編集プログラム、Axios HQのプラットフォーム経由で送信されたメールについて開封率やエンゲージメントなどの情報を送信者に知らせてくれるアナリティクスソフトウェアだ。
HQのクライアント数は現在150社で、その多くが予想にたがわず中小企業であるが、ほかにもデルタ航空(Delta Air Lines)などの一流企業、地方自治体、さらにはHQを父兄、生徒、スタッフとのコミュニケーションに使用するオースティン独立学区(Austin Independent School District)などの教育機関もある。これらのクライアントには以前、Axiosに広告を掲載していた企業もわずかに含まれるが、ザスラフ氏はメディア購入にHQを上乗せして販売しようとはしていないと話す。HQを追加した場合の契約の詳細な料金は明かさなかった。
メディア企業であるAxiosにとって、Axios HQを築き上げたことは、収入源を十分に多様化していないという批判に対する答えとなる可能性がある。メディアコングロマリット企業のアクセルシュプリンガー(Axel Springer)はAxios買収を協議していたが、収入源が多様化されていないとして、のちに買収の取りやめを決定したのは先日米DIGIDAYが報じたとおりだ。Axiosのスポークスパーソンは、協議から手を引いたのはAxiosのほうだと話している。Axiosの収入源多様化への取り組みはHQにとどまらず、同社は米国の25の地域でローカルニュースを発行するという500万ドル(約5億5000万円)のビジネスも1年で構築している。2021年の春にはデジタルスポーツメディアのパブリッシャー、アスレチック(The Athletic)との合併案も浮上し、SPAC(特別目的買収会社)を設立してサブスクリプション事業を獲得する話もあったが、それは実施しないことに決まったようだ。
「成功すれば収益は遠くなる」
Axios HQは現在45人で運営している。そのうち27人は2021年2月1日以降の採用だ。拡大を続けるチームに対し、Axiosはザスラフ氏を戦略担当シニアディレクターからAxios HQのゼネラルマネージャーに昇格させたほか、HQ専任CTOの採用を進めているそうだ。
「スマートブリビティ」というスタイルの誕生に貢献したエキスパートたちはライターや編集者であり、営業やカスタマーサービスの人間ではない。つまり、このライセンス事業を育てていくためには、ビジネスのあるべき姿に向けて適切なスタッフを採用することに多くの費用を投じなければならない、とシュワーツ氏は認めた。
そういう意味では、Axios HQの収益性はまだ高くないとシュワーツ氏は述べる。テクノロジーを構築し、必要な人材を雇い、常に入ってくるフィードバックに基づいて製品改良を繰り返すためには多額の投資を継続的に行わなければならないことが大きいという。同氏はこれまでHQに投じられた具体的な金額については触れなかった。
シュワーツ氏は次のように話している。「ソフトウェア事業における損益分岐点を考えると、成功すればするほど損益分岐点までの距離が遠くなる。成功すると、もっと投資しようということになるため、いつ採算が取れるのかを答えるのは難しい」。
Axiosは採算を後回しにしてもよいと考えるかもしれない。契約期間の長さや現在のクライアントの契約更新率から、HQの収益が続くことが見込めるからだ。ザスラフ氏によると、これまでのところ2021年第1四半期に契約したすべてのクライアントが2022年も契約を更新し、当初の1年契約から2年契約に延長することに合意しているという。
魅力的な「経常収益モデル」へ
ソフトウェアライセンス事業の売上も、2021年の150万ドル(約1億6500万円)から2022年には450万ドル(約4億9500万円)と、前年比で300%拡大することが見込まれている、とシュワーツ氏は話す。一方、HQのサービス事業については、前年比で20%から30%増と、より直線的な増加を見せるだろうという。
こうした経常収益モデルは、サブスクリプション事業などより必要な投資は高いものの、多様化を狙うメディア企業にとっては魅力的なものだ。同様の例としてはワシントン・ポスト(The Washington Post)の発行プラットフォームArc(アーク)やボックス・メディア(Vox Media)のChorus(コーラス)をはじめとするSaaS製品、ミニット・メディア(Minute Media)のCMSと動画再生ソフトがある。
メディアコンサルタント会社のクォンタム・メディア(Quantum Media)のプリンシパル、エイバ・シーブ氏は「B2Bビジネスの良いところは、社員たちがそれに慣れるとバックエンドに組み込まれていく」ため、企業クライアントにとってはライセンス契約を打ち切ることが最終的に難しくなる点だと話す。いったんテクノロジーが日々の業務で日常的に使用されるようになると、その習慣をやめることは難しくなる。特に、使いやすいサービスでカスタマーサービスが良いとくればなおさらだ。
「競争優位性」の確保が必要
こうしたサービスとサポートを持続的に提供していく方法を見つけ出すことが、Axiosにとっては特に重要だとシーブ氏は続けた。HQがうまくいってクライアントの数を大きく伸ばせば、どこからともなく突然競合が現れ、テクノロジー企業の定石であるようにAxiosより安値を提示してくるのは目に見えているからだ。
Axiosのブランディングと商標登録された「スマートブリビティ」は、確かにAxiosを目立たせる効果はあるが、競合がひしめくテクノロジー市場でAxiosが成功するには、クライアントを助け、トレーニングやコンサルティングなどの便利な追加サービスを提供するチームを築き、競争上の優位性を確保していくことが必要だと、シーブ氏は語った。
[原文:Axios has made $1M in revenue from its eight-month-old software licensing business]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:長田真)