コロナ禍の影響は、最悪の時期を脱したかもしれない。だが、見通しが明るいというわけでもなさそうだ。経済対策に多くの予算が割かれているが、実際の消費に結びついていない。それにより、ビジネスチャンスとリスクの両方が発生している。特に広告業界はマージンがベースの事業が多く、キャッシュフローの重要性は極めて大きい。
新型コロナウイルスの感染拡大が経済に及ぼす影響は、最悪の時期を脱したかもしれない。だが、だからといってこれからの見通しが明るいというわけでもなさそうだ。経済対策に多くの予算が割かれているが、実際の消費に結びついていない。それにより、ビジネスチャンスとリスクの両方が発生している。特に広告業界はマージンがベースの事業が多く、キャッシュフローの重要性は極めて大きい。
業界にとっての良いニュース
とはいえ、良いニュースもある。前四半期において、広告支出はアンバランスで危うさを感じさせるものだったが、総じて予想されていたほど悪くはなかったといえる。第3四半期には、米国の6大テレビ局のうち5局が業績予想を達成するか、上回っている。こうした結果を受けて、今年の残りの期間は広告費が増え続けるだろうと予測する声は少なくない。
PWCのCJバナージ氏は、「経済が回復するまでの期間については経済学者ごとに見解が大きく異なる。だがファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)については、おおむね変わっていない」と述べている。「支払いが基本的に遂行でき、大手銀行が不良債権に適切な引当を行っているうちは、絶望的な状況とは呼べない。大局的な経済のなかで継続的に存在している課題に過ぎない」。
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さらに、Snapchatやピンタレスト(Pinterest)といったオンラインメディアは驚くほどよく持ちこたえている。こういったメディアに広告資金が集中しているのだ。実店舗からオンラインへと消費の場が急速に移るなか、大きな恩恵を受けているのがGoogleやFacebook、Amazonだ。第4四半期にもこのトレンドは続くだろうが、 大きな変化も起きている。
「以前はブランドマーケティングにおいて主要な立ち位置を占めていたにもかかわらず、消費者離れが進んでいるチャネルが生まれている。マーケターはブランドマーケティングについて新たな視点で捉え直す必要がある」と バナージ氏は語る。
その一方、悪いニュースもある
一方、悪いニュースもある。最新の経済予測によると、多くの分野で経済は横ばいか縮小すると見られている。市場が消極的になり、新型コロナウイルスへの対策は進展を見せていないなか、経済的なダメージが広範囲かつ長期にわたって続くリスクが高まっている。
WPPのマーク・リードCEOは、細心の四半期決算で「各国で新型コロナウイルスの対策が強化され、世界経済の先行きは不透明だ。経済回復のペースについては慎重に捉えざるを得ない」と述べている。
たとえばフランスでは、全国規模のロックダウンが12月まで解除されない予定となっている。フランス政府は経済対策に600億ユーロ(約7兆3500億円)を投入している。バーやレストランといった不要不急の事業が活動できない状況が続いており、マーケターも消費者にどうやってアクセスできるか考え直す必要に迫られている。ドイツでも11月2日から4週間、不要不急の事業を対象に部分的なロックダウンが行われる。
ゼニス(Zenith)のグローバル副マネージングディレクターを務めるマティアス・チャイルー氏は「事業活動が行えない場合、広告は減る。需要が減ることでインベントリーは安くなる」と語る。「価格で大きなデフレが発生し、広告費全体が減少するというダブルパンチだ。この縮小がエコシステムに及ぼす影響は恐ろしい」。
完全回復までの道のりは遠い
実際、チャイルー氏の懸念は形となって表れている。メディア、特に新聞メディアは1度目のロックダウンをなんとかやり過ごしたというところも少なくない。こういった企業にとって、完全回復までの道のりは遠い。通常であれば、クリスマスシーズンはメディア業界にとって活況となる時期だ。だが、WARC及び英国広告協会の最新レポートでは、同国全体の広告費は62億ポンド(約8400億円)と10.5%減と予想されている。2008年の経済危機と同じように、景気の悪化は長引きながら蔓延していくと予想されている。
欧州のあるパブリッシャー役員は、「広告事業の縮小について検討してきた」と語る。「当社のなかでも読者と訪問者がもっとも多いタイトルについて、アドテクから撤退し、クッキーを使用しない非常に小さな広告ソリューションを使ったキャンペーン展開を実装することを真剣に検討している」。
現在、メディアバイヤーは台風の目にいるといっても良い。国家規模のロックダウン、世界的な病の蔓延、記録的な失業数や抗議活動といった悪条件が渦巻くなか、メディアバイヤーは不安定な経済情勢に備え、消費者からの支出が落ち込んだままとなった場合のメディア価格の推移を注視している。フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)が報じたように、10月末にVisa(ビザ)およびマスターカード(Mastercard)が行った第3四半期の業績報告は厳しく、今後の見通しは暗いものとなりそうだ。
消費財分野にとっては苦境
アドテク企業インフォリンクス(Infolinks)のボブ・レギュラーCEOは次のように指摘する。「今回の危機で、上流階級は予想されていたより恩恵を受けている。一方、中流階級から下流階級になる消費者が増えるなか、これまで中流をターゲットにしていたブランドのなかには、高額な贅沢品に力を入れるようになるところも出てくるだろう。これは広告市場全体の流れだ」。
こうした状況は、広告業界でも大手企業が多数存在する消費財分野にとっては苦しい事態だ。同分野は、コロナ禍により、すでに業績の振るわない商品の生産停止、商品サイズの小型化、出荷数や原料の再検討などを余儀なくされている。消費者が減少すれば、利益率の低い大量生産型の事業への圧迫はなおさら大きい。そして企業がダメージを受ければ、その影響はエージェンシーにまで波及する。たとえばWPPの収益のうち、消費財分野の広告主が全体のおよそ4分の1(26%)を占めているのだ。
レギュラー氏は次のように述べている。「同分野のクライアントのメディアバイヤーにとって、活用できるリソース自体が少なくなる。エージェンシーの競争は激しくなり、業績を維持できるのは、クライアントのパフォーマンスを向上させられる、ひと握りのエージェンシーに限られるだろう」。
このコロナショックの余波は、何年にも渡って続くだろう。経済活動がポストコロナに適応していくなかで、広告業界もその影響をもろに受けることになる。
成長率はわずか1%にとどまる
メディア購入のマージンを基盤としたエージェンシーホールディンググループは、これまでも衰退の兆候を見せてきた。だが、世界最大規模の金融コングロマリット、クレディ・スイス(Credit Suisse)によると、新型コロナウイルスのパンデミックによってそれが加速するという。エージェンシー業界の成長率はパンデミック後でわずか1%にとどまっているからだ。
S4キャピタル(S4 Capital)など、新進気鋭の企業のなかには事業モデルからGoogleやFacebookを排除し、インハウス化を試みるところも出てきている。新型コロナウイルスが引き起こしたさまざまな問題は、エージェンシーの事業モデルに深い傷を負わせている。
[原文:As Q4 gathers pace, the ad industry braces for long-lasting economic trauma]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)