ジェネレーティブAIへの商業的関心は高まるばかりだ。だが、企業は依然として、消費者の懸念を払拭する必要に迫られている。 ガートナー(Gartner)の新たな調査リポートによると、調査に参加したマーケターの64%が、さまざ […]
ジェネレーティブAIへの商業的関心は高まるばかりだ。だが、企業は依然として、消費者の懸念を払拭する必要に迫られている。
ガートナー(Gartner)の新たな調査リポートによると、調査に参加したマーケターの64%が、さまざまなタイプのAIツールや機械学習ツールをすでに導入しているか、試験的に導入していた。しかし、消費者の53%は、ジェネレーティブAIが社会に「大きな」または「ある程度の」否定的影響をもたらすと考えている。
消費者に受け入れる準備はできているのか?
IT専門家も、ジェネレーティブAIの登場に興奮と懸念を抱いているようだ。ITリーダーを対象としたセールスフォース(Salesforce)の新たな調査によると、4000人の回答者のうち、ジェネレーティブAIが組織で重要な役割を果たすようになると述べた人は86%に達したが(3月の57%から増加)、64%はこの技術にまつわる倫理的な問題を懸念していた。
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とはいえ、さまざまな懸念がありながらも、消費者はこの革新的技術を使ったマーケティングをさらに受け入れるようになるかもしれない。ガートナーの調査によれば、消費者の38%がジェネレーティブAIを利用したマーケティングについて「心配していない」または「それほど心配していない」と答えており、「どちらともいえない」と答えた人は27%だった。
新しいAIツールをテストする企業は増えているが、そのほとんどは依然として社内利用が中心だと、ガートナーのアナリスト、ニコール・グリーン氏はいう。その上で、多くの企業が真の可能性を探るためにこの技術スタックの評価やデータの整理に取り組む一方、データとIP(知的財産)の保護をいまだに懸念している企業もあると付け加えている。
「議論のテーマがChatGPTそのものから製品化へと変わっていくのを、私たちはずっと待っていた」と、グリーン氏はいう。ただし、「企業がこの技術を使って消費者の意思決定にどう影響を与えようとしているのかという問題と、消費者に受け入れる準備ができているのかという問題のあいだには、大きなギャップがある」と、同氏は指摘した。
相次ぐ製品開発
7月17日からの週は、あらゆる大手テック企業がジェネレーティブAI関連のニュースで話題となった1週間だった。7月18日に、マイクロソフト(Microsoft)は、「ビング・チャット(Bing Chat)」と「マイクロソフト365コパイロット(Microsoft 365 Copilot)」にAIベースの新たな企業向けツールを追加し、マーケターが問い合わせの内容を要約したり、フィードバックを入手したり、フォローアップを行ったりできるようにした。
その翌日、7月19日には、セールスフォースが自社のプラットフォーム向けの新しいジェネレーティブAIツールを披露したほか、SAPがジェネレーションAIの有力スタートアップ3社に対する新たな投資を発表。クアルトリックス(Qualtrics)も、ジェネレーティブツールを備えた新しい企業管理プラットフォームを公開した。
また、Appleは競合する大規模言語モデルのフレームワークを開発中とうわさされ、GoogleもChatGPTのプラグインに対抗する新たな拡張機能の展開を準備中と報じられている。ChatGPTの開発元であるオープンAI(OpenAI)は、ユーザーのプロフィールや回答の妥当性に基づいて応答をカスタマイズできる追加機能をリリースした。
だが、数々の画期的な機能が発表されたこの1週間で最大のニュースは、7月18日に、メタ(Meta)が「Llama 2」と呼ばれる、研究目的および商業利用について無料の新しい大規模言語モデルを発表したことだろう(このAIモデルはオープンソースだが、月間アクティブユーザー数が7億を超える企業は、利用にあたって特別なライセンスをメタに申請しなければならない)。
一般公開されているコンテンツを使ったトレーニングが可能になり、商業利用への道が開かれたことで、一部の広告エージェンシーはLlama 2のテストに極めて前向きな姿勢を示している。米DIGIDAYの取材に応じたあるエージェンシー幹部は、研究目的だけでなく商業利用も可能になったことから、この大規模言語モデルを「最終選考リスト」に加えたと語った。また、今回のアップデートによって追加された機能によりトレーニングを繰り返す必要がなくなったため、開発者の時間を節約できるはずだと指摘する声もある。
「マイクロソフトとの提携によって、Llama 2モデルはすでに『Azure(アジュール)』に対応するなど、業界で傑出した存在となっている」と、コナティックス(Connatix)で製品および研究開発担当シニアバイスプレジデントを務めるドール・ライトマン氏はいう。「おかげで、企業は自社ですばやくモデルを統合してトレーニングし、プライバシーや法的懸念に対処できるようになった。また、マイクロソフトとAzureがAIクラウド分野のリーダーであることが改めて示される形となった」。
今も尽きない懸念
AI関連の新たな発表が相次ぐなかで、責任あるAI開発を求める声は高まっている。7月21日にはホワイトハウスが、Amazon、Google、オープンAI、メタ、マイクロソフトなど複数のAIトップ企業と会談し、専門家が長く警告してきたさまざまな懸念に対処する方策を話し合った。その結果、各社は安全性、透明性、信頼性に関するこれまでの取り組みに加え、新しい「自主的な取り組み」に乗り出すことを約束した。具体的には、コンテンツがAIによって生成されたことを消費者に伝える「透かし」の導入、AIシステムの公開前に第三者機関によるテストを実施するための計画の策定、偏見やプライバシーの懸念に関するAIシステムの限界や潜在的リスクを報告する合意の形成といった取り組みだ。
また、政府以外の組織も独自のフレームワークを開発している。世界倫理データフォーラム(World Ethical Data Forum:WEDF)は多数のAI専門家と共同で、AIモデルの責任あるトレーニング、構築、テストに役立つ84の質問で構成された新しいチェックリストを公開した。
「今日私たちが目にしているのは、恐怖心を煽る多くのストーリーが、ヒステリックな反応を助長してAIの仕組みに対する理解を困難にしている状況だ。これは、明確で責任あるコミュニケーションに重点を置き、誠実な議論を可能にして意思決定を支援する態度とは異なっている」と、WEDFは多くのAI専門家が署名した公開書簡で述べている。「AIの開発は技術的に複雑なプロセスになる可能性がある。だが、WEDFのシンプルなフレームワークを利用すれば、機械のトレーニングに対する標準的なアプローチと生成されたアウトプットを監視、検証できるため、データサイエンスのバックグラウンドがない人を含め、誰もが議論に参加できるようになる」
メタのオープンソースへの移行は「すべてのプレイヤーが勢揃い」したことを示すもので、ジェネレーティブAIの 「初の本格的な大規模導入の動き」につながる可能性があると、シーン・コネクツ(SEEN Connects)で北米担当マネージングディレクターを務めるマット・ヴルスト氏はいう。その上で、メタが新興メディアの分野で「強気の戦略を打ち出した」のは、仮想現実(VR)ヘッドセット「オキュラスクエスト(Oculus Quest)」に関連したRobloxとの提携、およびSNSの「Threads(スレッズ)」の公開に続き、この1カ月で3回目だと指摘した。
「メタのような巨大プラットフォームが、オープンソースの大規模言語モデルを商業利用のために市場へ投入するという事実は、AI技術のスタートアップだけでなく、規模の大きい産業コングロマリットにとって大きな意味をもつ」と、ヴルスト氏はいう。「この最新リリースによって、メタはAI技術の最前線に躍り出ることになる。また、導入がしやすいこともメタならではの特徴だ。こうした特徴に、メタの膨大なデータセットが加わることで、トレーニング用コンテンツの大きなプールがLlamaにもたらされることになるのか興味深いところだ」と、同氏は語った。
[原文:As companies debut AI offerings at a breakneck pace, consumer concerns grow]
Marty Swant(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)