Amazon のプレミアリーグ生配信は、CMが少なく高コスト

スポーツ生中継への進出を強めているAmazonが、12月3日に英国のAmazonプライム加入者限定で、はじめてイングランドプレミアリーグの生配信を行った。Amazonは試合中のCM数を減らす代わりに広告価格を引き上げている。

匿名の広告バイヤー複数人に尋ねたところ、1試合ごとにテレビCM的なインベントリーが13分用意されており、試合前、ハーフタイム、試合後の分析時に流されるという。そのうちのひとりは、英国の有料テレビチャンネルでは1試合あたりの広告時間が20分間ほどの場合もあり、基本的にテレビよりCMが短いと指摘している。

一般的にテレビCMの事前購入は年末にかけて行われることが多いが、Amazonとエージェンシーの交渉は夏ごろに始まった。上記バイヤーのうち3人によると、Amazonは当初、成人視聴者1000人あたりのコストを40ポンド(約5700円)に設定していたという。これはスカイ(Sky)が放送するプレミアリーグの似たような試合で付けている価格の2〜3倍にもなる。衛星テレビ局のスカイは、英国におけるプレミアリーグ放映権の大半を握っている。

あるバイヤーは「スカイでもサッカーのオーディエンスに十分リーチできるのに、わざわざそんな高い価格設定に支払う広告主がいるのだろうか」と明かす。

別のバイヤーも「テレビCMの購入シーズンからも離れすぎている」と指摘する。「英国市場のテレビについて認識が甘いように思える」と語る。

関係者によれば、これまで消費財、自動車、レジャー業界の広告主がAmazonによるプレミアリーグ配信のCMを購入したという。エージェンシーや広告主が交渉することで、最終的な広告価格はそれぞれ異なってくる。

Amazonはこの件について回答を避けている。

プライム会員増加が狙い

スカイと同様、Amazonも試合ごとの魅力に応じて、広告価格をクラス分けしている。Amazonが異なっているのが、たとえば広告主にとってのターゲット層が16歳から34歳の男性であっても、全視聴者層への支払いとして価格を設定している点だ。

市場関係者の多くが、Amazonが英国市場のサッカー放映に参入するのは試験的な側面が大きいと推察している。同社は米国でも、NFL番組の「サーズデーナイトフットボール(Thursday Night Football)」で試合を配信した。Amazonは、12月4日のバーンリー対マンチェスター・シティ、クリスタルパレス対ボーンマス戦から12月6日にかけて行われたイングランド・プレミアリーグの試合を独占配信。その後も英国の祝日である12月26日までAmazonによる配信は続く。配信される試合には、同じ時間帯の試合もいくつか含まれている。

Amazonが今シーズン放映権を獲得した20試合のなかには、12月5日に行われたリバプール対エバートンのダービーマッチのような、注目度の高いカードも含まれている。Amazonはこういった人気のカードを配信することでプライム会員を増やそうと狙っている。英国におけるプライムの会員費は毎月7.99ポンド(約1140円)だ。

広告主にとって魅力的

バイヤーらが明かすところによると、Amazonは注目度の高い試合であれば100万人、それ以外の試合で50万人近くのオーディエンスを集められると推定しているという。プレミアリーグの発表によると、昨シーズンにスカイが生放送した16試合の平均視聴者数は200万人、BTスポーツ(BT Sport)は最高で170万人を記録している。あるバイヤーは、Amazonの出した数字は同じ日に行われる試合の数によって左右されうると指摘している。同じ時間に開催される試合も多く、試合あたりの視聴者数が減少することも考えられるという。

現在英国でスポーツの生配信を行っている2大サブスクサービスが、スカイスポーツとBTスポーツだ。だが、メディア解析企業アンペア・アナリシス(Ampere Analysis)が9月に行った2000人を対象としたオンライン調査によれば、英国に住むイングランドプレミアリーグのファンのおよそ半分(46%)は、どちらのサブスクにも登録していない。一方、プレミアリーグのファンのうち、Amazonプライムに登録している割合は、これに近い43%となっている。

さらに同社の調査によれば、Amazonプライムのメンバーのうち、プレミアリーグの試合を見る34歳未満の層は比較的収入が高く、子供がいるケースが多いという。これは広告の価格の高さを考えても、広告主にとって魅力的なオーディエンスだ。

最大の差別化は測定機能

さらにAmazonにとって最大の差別化要因であり、価格にも影響をおよぼしているのが測定機能の充実だ。あるバイヤーの証言によれば、広告主として参加することでAmazonの販売サイトで自分たちの商品ページが開かれた回数や、生配信の広告を視聴したオーディエンスと検索や売上増加の関連性といった指標を利用できるようになるという。参加しない場合はAmazonが発表するより大雑把な視聴数を参考にするほかない。

ゼニスUK(Zenith UK)のマネージングパートナーのリチャード・カーク氏は、市場調査企業WARCが11月末に開催したカンファレンスで「視聴数についてAmazonがどういった情報を伝えるのか、実際に視聴された数についてどれくらい情報を伏せるのか固唾を呑んで見守っている」と語っている。「もしエージェンシーが気にする点ついてはあまり語らないとなると、基本的に視聴者数が少なかったと考えるべきだ。逆にもし成功であれば、視聴者数についてこれでもかと強調してくるのは間違いない」。

Amazonは、2017年に配信契約を結んだ前述のNFLのサーズデーナイトフットボールをはじめ、ほかの主要スポーツリーグについてもストリーミングを試してきた。Amazonが2017年にとった広告販売のアプローチは現在のプレミアリーグに関する戦略と似通っている。異なる点としては、NFLの場合はウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)が報じたように、当初NFL以外のAmazonの広告も購入する必要があったことが挙げられる。

残された課題は品質の高さ

また最近広告バイヤーらが指摘しているのが、Amazonによるサッカーの試合配信が、ライバルの有料テレビ局と同じくらい質の高いものとなるかはまだ分からないという点だ。Amazonはサッカー界のスターを解説に迎えている。アーセナルの元フォワード、ティエリ・アンリ氏やイギリス人の元監督のハリー・レドナップ氏、マンチェスター・ユナイテッドの伝説的ゴールキーパーのピーター・シュマイケル氏らが解説を行っており、マーケティングのキャンペーンにも登場している。昨年ガーディアン(The Guardian)は、Amazonが英国で行った全米オープン配信で発生した技術的不具合を報じたが、今回の配信でこういった不具合が起きないようAmazonが願っているのは間違いないだろう。

メディアコム(Mediacom)のスポーツおよびエンターテイメント担当グローバルバイスプレジデントを務めるミーシャ・シャー氏は、次のように語っている。「Amazonが提供するものとして最重要なのが、従来の放送局のような質の高いコンテンツ配信だ」。

Lara O’Reilly(原文 / 訳:SI Japan)