大手エージェンシーの持ち株グループがデマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)との関係を解消し、サプライサイドプラットフォーム(以下、SSP)やパブリッシャーとの直接取引に移行している。その目的は、プログラマティック広告がどのように販売されているかを知ることだ。
大手エージェンシーの持ち株グループがデマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)との関係を解消し、サプライサイドプラットフォーム(以下、SSP)やパブリッシャーとの直接取引に移行している。その目的は、プログラマティック広告がどのように販売されているかを知ることだ。
プログラマティック広告がDSPのマネージドサービスとして掲載されると、エージェンシーとパブリッシャーの仲介者がひとつ増えるだけではなく、エージェンシーの収入にならない手数料もひとつ増える。一方、SSPと直接取引すれば、エージェンシーはコスト圧力を軽減できる。エージェンシーは両面市場での取引を望んでおり、SSPとより良い条件を交渉したり、より有利な価格設定を勝ち取ったり、過小評価されているインベントリー(在庫)を見つけたりすることで、インプレッションがどのように売買されるかをよりコントロールできる。
これが最新の「サプライパス最適化」だ。エージェンシーは希望のインプレッションを手に入れるため、ただ最善の方法を探す以上の努力を行っている。現在、新たな取り組みとして、再販によって価格が上がったインプレッションの購入を制限し、同じインプレッションを安く購入できる直接的なルートを見つけようとしている。
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このようなキュレーションを実現するには、インプレッションを購入するSSPの数を減さなければならない。メディアバイヤーはそのことに気付き、SSPの削減に動いている。
「以前よりコントロール可能」
現在、オムニコム・メディア・グループ(Omnicom Media Group)は米国で10のSSPからディスプレイ広告と動画広告のインプレッションを購入している(ネイティブ広告、音声広告、屋外広告などのフォーマットを含めると、SSPの数は15になる)。
ハバス(Havas)は2018年、米国で42のSSPからインプレッションを購入していたが、現在、SSPの数は7まで減少している。そのうち4つのSSPと数カ月以内に契約関係を結ぶ計画だ。また、エンジン(Engine)のデジタルマーケットプレイスEMXは米国で大部分のインプレッションを4つのSSPから購入しており、そのなかには系列のSSPも含まれる。同様に、グループ・エム(GroupM)はパートナーを絞るため、この3年間に全世界で55%のSSPと関係を解消した。さらに、電通イージス・ネットワーク英国アイルランド法人のプログラマティック担当マネージングパートナー、デイビッド・ニューマン氏によれば、電通も2019年、SSPの数を「1桁」まで削減したという。
「エクスチェンジパートナーの数を減らしても、規模やパフォーマンスへの影響は見られない。しかも、どこでどのように購入するかを以前よりコントロールできている」と、ニューマン氏は語る。
SSPとの直接取引のメリット
オムニコム、ハバスなどのエージェンシーグループが特定のSSPに特定のインプレッションを販売するよう指示するケースも増えている。DSPは伝統的に、このようなキュレーションを提供していないため、エージェンシーはSSPと直接的な関係を築かない限り、具体的な要求はできない。適正価格で最良のインプレッションを見つける方法を知るため、エージェンシーがDSPを迂回し、SSPと直接取引するケースも見られる。その結果、SSPはエージェンシーから、カスタマイズされたマーケットプレイスやキュレートされたアドエクスチェンジを運営するため、プラットフォームを使わせてほしいと要求されている。
SSPのひとつであるパブマティック(Pubmatic)の広告主ソリューション担当バイスプレジデント、カイル・ドーズマン氏は「持ち株会社の提案依頼書(RFP)で、カスタムマーケットプレイスやカスタムヘッダータグ、彼ら自身がキュレートしたアドエクスチェンジをどのように構築するかを教えてほしいと要求されるケースが増えている。さらに、コスト、開発期間、運用方法についても説明を求められる」と話す。
ドーズマン氏によれば、エージェンシーはこのようなパートナーシップを結ぶことで、支出についてより賢明な意思決定を下すことができ、結果的に利益が増えるという。たとえば、SSPにオークションのデータを共有するよう求めれば、トレーダーは競合相手のいない安価なインプレッションを見つけることができると、ドーズマン氏は説明する。
こうした関係構築の背景
オムニコム・メディア・グループは4年前から、このような関係を構築してきた。パブリッシャーがそれぞれのオークションで同じインプレッションを扱いはじめたことがきっかけだ。当時、アドテクベンダーとの直接取引は骨の折れる作業だった。インベントリーがどのように調達されているかを理解するため、SSPを立ち上げたり、つぶしたりすることもあった。現在は、決断がはるかに容易になった。SSPやパブリッシャーが以前より積極的に、Cookie IDやビューアビリティ(可視性)レベルといったインプレッション関連の機密データを共有するようになったためだ。さらに、Sellers.jsonなどの標準仕様の採用が拡大していることで、トレーダーはパブリッシャーから広告主までのインプレッションの道筋をかつてないほど把握できるようになっている。
オムニコム・メディア・グループでプログラマティック責任者を務めるライアン・ユーザニオ氏は、「我々はSSPと連携し、我々が入札リクエストを出したとき、彼らが入札プラットフォームに送ってくるインベントリーを変えようとしている」と話す。
ユーザニオ氏によれば、オムニコムのトレーダーはインプレッションを独占購入するサイトのホワイトリストをSSPに渡すことで、事実上、SSPのプラットフォームに直接アクセスしているという。
グループ・エムも同様の動き
グループ・エムにも同様の動きが見られる。グループ・エムは優良パブリッシャーのマーケットプレイスをキュレート、管理するため、英国やオランダなどで少数のSSPのみと取引している。その結果、グループ・エムはマーケットプレイスで高品質なインプレッションを見つけ、管理できている。具体的には、トレーダーがSSPを切り替えるか、SSPに全取引を1カ所で販売してもらうという方法をとっている。
グループ・エムの最高製品責任者、ジャック・スミス氏は「SSPがプラットフォームに投入されるインプレッションの品質をどのように測定しているかを知りたい」と話す。グループ・エムのトレーダーはその情報をもとに、エージェンシーが認めたSSP経由でインプレッションを売るべき理由をパブリッシャーに説明できる。「我々はパブリッシャーに、SSPと取引すべきでないと言っているわけではない。我々はただ、特定のSSPと取引する経済的な利点を伝えているだけだ」。
特定のSSPと関係を築くことで、エージェンシーが金銭的な見返りを得るケースもある。たとえば、パブマティックとグッドウェイ・グループ(Goodway Group)の関係では、グッドウェイ・グループがパブマティックのプラットフォームで使う金額が増えるほど、パブマティックが手数料を下げることになっている。
いまだ確信していないものも
ただし、パブリッシャーはそうした取引を促進することの商業的利点をいまだ確信していない。インプレッションを販売するSSPの数を減らせば、もはやDSPにとって大きな存在ではなくなり、その結果、プログラマティック広告による収入を失う恐れがあるためだ。
ヨーロッパのあるパブリッシャーのデジタル責任者は「サプライパス最適化は我々の利益にならない」と語る。「まだ単なる理論で、運用可能な段階に達していないように思う。むしろDSPと直接取引し、サプライチェーンの大部分を省略したい」。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)