[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ブロックチェーンは広告業界の闇に光を当てると盛んにいわれてきたが、その約束はいまも果たされていない。しかし、ユニリーバ(Unilever)は、ブロックチェーンを無駄な広告費の削減に役立てている。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ブロックチェーンは広告業界の闇に光を当てると盛んにいわれてきたが、その約束はいまも果たされていない。しかし、ユニリーバ(Unilever)は、ブロックチェーンを無駄な広告費の削減に役立てている。
ユニリーバの最高メディア責任者を務めるルイス・ディコモ氏によれば、ブロックチェーンは最終的に、あらゆる広告主のオンラインメディア購入に存在する金銭的ギャップを埋めるものになるはずだという。その日が来るまで、ブロックチェーンテクノロジーを使って監査証跡を作成する取引を増やし、メディア購入における資金の流れをある程度解明できるようにするというのが、ディコモ氏のプランだ。
ユニリーバがこのような透明性の高い監査証跡の作成に着手したのは、1年半前のことだ。そして、いまのところブロックチェーンの利用は、特定の市場における小規模な1回限りのブランド向けキャンペーンに限られている。メディアオーナーやプラットフォーム、それにアドテクベンダーの数が少ないキャンペーンだ。このテクノロジーをさらに進化させるため、広告主のユニリーバは、IBMおよびグループ・エム(GroupM)と共同で取り組んでいる。
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7兆円もの節約の可能性
ユニリーバのキャンペーンで使われているブロックチェーンテクノロジーは、昔ながらの会計帳簿のように、最初の投資からパブリッシャーへの支払いに至るまで、すべての取引を分散型台帳に登録する。この分散型台帳が持つ透明性のおかげで、ユニリーバを含むすべての関係者が、広告を購入したメディア、広告費を支払ったメディア、キャンペーンの計画に含めていたメディアにどのような違いがあるのかを確認できるようになる。おかげで、隠れたコストが存在する余地がなくなるというわけだ。このレベルの可視性が重要なことは、eマーケター(eMarketer)の予測からも明らかだろう。同社によれば、2019年には、米国でプログラマティックディスプレイ広告に対して支払われる広告費の3分の1が、パブリッシャーではなくアドテク仲介業者などのプログラマティックパートナーに流れる見込みだという。
「この取り組みはまだ初期段階であり、ブロックチェーンテクノロジーの実装がそう簡単にはいかないことは承知している。しかし、資金の流れを解明するプロセスに伴うコストを最小限に抑えるブロックチェーンの可能性には、いまも自信を持っている」と、ディコモ氏は話す。「サプライチェーンの信頼性と透明性はきわめて重要だ。真実を語る唯一の情報源を手に入れることがすべての鍵を握っている」。
一部の初期段階のテストでは、広告費用の2〜3%を節約できたとユニリーバは推測している。ベンチャービート(Venture Beat)の報道によれば、ユニリーバの目標は、今後5年以内にブロックチェーンへの投資で15〜20%の節約を実現することだという。2019年には、世界のオンライン広告市場の価値が3330億ドル(約35.7兆円)になるというeマーケターの予測から考えると、ユニリーバの目標を世界全体で達成できれば、2019年には650億ドル(約7兆円)ほどを節約できることになる。
ユニリーバのディコモ氏は、いまのような形でブロックチェーンを利用している限り、この規模の節約を実現するのは難しくないという。このテクノロジーを使えば、メディア投資の検証、測定、アトリビューション分析を強化したり、仲介業者を削減して支払いを集約したりすることも可能だからだ。
「資金の流れの解明」
ディコモ氏のいう「資金の流れの解明」は、広告主が支払うメディアが実際に購入されていることを保証するプロセスといえる。以前は、こうした解明プロセスをユニリーバのような広告主が実施するのは困難だった。広告主とパブリッシャーのあいだにたくさんの企業が存在しているからだ。広告購入における資金の流れを確実に解明する方法はほかにもあるが、ほとんどの場合、こうした解明は、広告購入パートナーや広告配信パートナー、それに検証パートナーが広告購入に使用したデータをどの程度得られるかに左右される。現在のサプライチェーンの複雑さを考えれば、キャンペーンの費用に関する透明性を確保するには、パブリッシャーやプラットフォームから直接購入することが欠かせない。たとえ十分に調査して選び抜いた少数のベンダーを利用しても、詐欺業者に広告費の一部をかすめ取られる可能性は残るからだ。とはいえ、直接購入を行うには、契約内容の詳細なレビューや改訂など、ブローカーでは難しいような作業を行うことが必要になる。
「将来的には、ブロックチェーンを広告のさまざまな分野で活用できるようになる可能性がある。だがいまは、資金の流れの解明という簡単に達成できる目標を追求すべき段階だと我々は考えている」と、ディコモ氏は語った。「資金の流れの解明は、格好の目標というだけでなく、ブロックチェーンが多大な影響をもたらすであろう分野でもある」。
資金の流れの解明にブロックチェーンを利用することの問題は、サプライチェーンに属するすべてのプレイヤーに、嘘偽りのない情報を台帳に記録してもらわなければならないことだ。言い換えれば、ユニリーバは、提携先のベンダーが不正を働いていないと信じるしかない。システム全体で正しいデータを正直に記録するインセンティブを確立できなければ、ユニリーバは嘘のデータが含まれている可能性がある監査証跡を利用し続けなければならなくなる。いったんブロックチェーンに書き込まれたデータは二度と変更できないからだ。
本当の革新が起こるとき
アドテク企業マッドハイブ(MadHive)のエグゼクティブバイスプレジデント、レベッカ・ラーナー氏は、本当の意味で革新的なブロックチェーンアプリケーションが生まれるのは、ブロックチェーンと暗号化を組み合わせたときだと考えている。
「このふたつを組み合わせることで、システムに本当の意味での信頼をもたらされるだけでなく、データの出所など数学的および科学的な証拠を提供できるようになり、システムに新しいインセンティブが生まれる。同時に、顧客データを暗号で保護してオープンなエコシステムへの流出を防ぎ、疑わしいインベントリー(在庫)を排除できるようになる」と、ラーナー氏は語った。
ビットコインがブームになった2017年当時は、あまりにも多くの誇大宣伝が行われていた。そのため、「不正確なデータを入れれば不正確な結果しか得られない」というジレンマを知りながらブロックチェーンのセールスポイントを売り込んでいた「うさんくさいセールスマン」が一掃されるまでに時間がかかった。いまでは、「アドレジャー(AdLedger)」のようなさらに洗練されたイニシアティブが登場し、ブロックチェーンを暗号化と組み合わせて利用する方法を共同で検討するオープンな場が生まれている。アドレジャーには、ピュブリシス(Publicis)、オムニコム(Omnicom)、IPG(Interpublic Group)、WPP傘下のグループ・エム、ハーシー・カンパニー(The Hershey Company)、メレディス(Meredith)、ハースト(Hearst)ほか、さまざまな企業が名を連ねている。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)