[全文:約2.8万字、読了時間:約90分] サードパーティCookieはあと2年で事実上廃止されることになる。今後2年間、進むべき道が無数にある一方で、十分に整えられた道すじはほとんどない。そこで米DIGIDAYは、サードパーティCookieの廃止に対してパブリッシャーが取りうる対策を、このガイドにまとめた。
[全文:約2万8000文字、読了時間:およそ90分]
サードパーティCookieは、この10年間で成長し、デジタル広告エコシステムを構成する基盤のひとつとなった。だが、あと2年で事実上廃止されることになるだろう。GoogleがサードパーティCookieのサポートを終了するからだ。
そのため、パブリッシャーがこの変化にどう対応していくかが、今後2年間のメディア業界を特徴づける要素のひとつとなる。ただし、進むべき道が無数にある一方で、十分に整えられた道すじはほとんどない。そこで米DIGIDAYは、サードパーティCookieの廃止に対してパブリッシャーが取りうる対策を、このガイドにまとめた。
Advertisement
目次
01 全体像
2019年8月、パブリッシャーと広告主をパニックに陥れる出来事があった。サードパーティCookieが無効にされれば、「世界の大手パブリッシャー500社のあいだで、対照群の平均売上が52%減少し、1社あたりの中央値が64%減少する」との調査結果をGoogleが発表したからだ。同社はこの結果を、「Googleアドマネージャー(Google Ad Manager)」のプログラマティックサービスを利用しているパブリッシャーを対象としたランダム化対照実験から導き出したという。「Googleアドセンス(Google AdSense)」を利用してオンライン広告から収益を上げているパブリッシャーが200万社を超えているが、この状況は普遍的な力を持つ一民間企業にパブリッシャーがどれほど依存しているのかを示している。GoogleがサードパーティCookieの廃止を先延ばしにしていることを考えれば、さらに深刻さを覚える現実だ。
だが、別の見方をすれば、この10年ほどのあいだ、巨大アドテク企業にオーディエンスを提供するだけの立場に追いやられていたパブリッシャーが、突然影響力を持つようになったともいえる。新たな規制に準拠しながらターゲット広告に利用できる登録データや同意ベースのデータは、もっぱらパブリッシャーによって提供されているからだ。また、こうしたデータはすべて、パブリッシャーが広告主の要求に応え続けるための基盤であり、必ず構築しなければならない。
このままでは、米国のパブリッシャーは最大で100億ドル(約1兆1320億円)の売上を失う可能性がある。マッキンゼー(McKinsey)の調査によれば、プレミアムパブリッシャーを除く企業のほとんどが、広告売上の80%以上をサードパーティCookieによる広告ターゲティングに依存しているという。今回の業界の変化をきっかけに、広告エコシステムでファーストパーティデータ戦略を実験する動きに関心が集まっているのはそのためだ。そこでこのレポートでは、代替となるさまざまなファーストパーティデータやツールを取り上げるが、そのなかにはすでにパブリッシャーや広告主が利用できるものもあれば、現在開発中のものもある。
02 規制の背景
サードパーティCookieのサポートを終了するテック企業は、Googleだけではなく、何の前触れもなかったわけではない。2018年に「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)」が施行されたのを皮切りに、欧州や英国、それに米国の各州で、追跡を規制したりデータプライバシーを保護したりするさまざまな規制が登場した。規制当局は、広告追跡での利用を許可するデータ、RTB(リアルタイム入札)の手法、そしてユーザー同意に対する監視をますます強めている。たとえば、英国の個人情報保護監督機関であるICO(Information Commissioner’s Office:情報コミッショナー局)は、プログラマティック広告の慣行を主な対象としたガイダンスを2019年半ばに発表している。ICOで技術政策担当責任者を務めるアリ・シャー氏は当時、「Cookieに関するコンプライアンスは、今後ますます、ICOの規制上の優先事項になるだろう」と述べていた。
規制への準拠を怠れば、巨額の罰金が科せられる。データ保護原則、ユーザー個人の権利、外国へのデータ転送に関する規制に従わなかった場合の罰金額は、「1750万ポンド(約26億4000万円)または前会計年度の世界売上の4%」のどちらか高いほうだ。行政手続きなどの決まりに従わなかった場合は、通常の罰金として、870万ポンド(約13億1200万円)または年間世界売上の2%のどちらか高い額の支払いを命じられる可能性がある。
英国とEUのオンラインコミュニケーション規制である「プライバシーと電子コミュニケーションに関する規則(Privacy and Electronic Communications Regulation:以下、PECR)」と、米国のさまざまな州の取り組みに影響を与えている「カリフォルニア州消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act:以下、CCPA)」は、サードパーティCookieの代替となるデータの保管について、いくつかの明確な制約を設けている。Cookieの大きな問題は、ユーザーの個人情報を(たいていユーザーの同意なしに)特定できることだ。そのため、前者(PECR)は情報の開示と同意の獲得の両方を要求している。一方、後者(CCPA)はCookieの使用の有無と使用しているCookieの種類の開示のみをウェブサイト側に求めており、ウェブサイトを訪れたユーザーにあらかじめ通知すれば、そのユーザーのCookieを使用できるとしている。ただし、ユーザーデータの販売を拒否するオプションをユーザーに提供することが必要だ。
問題とみなされる個人識別情報の種類については、どちらの規制も明確に規定している。Cookieの場合、より大きな脅威となるのは、セッション終了後もユーザーの個人情報を保存する「パーシステント」Cookieだ。PECRでは、フィンガープリンティングやeメールピクセル、それに個人識別情報を保存できるプラグインなどの技術で作成されたIDも、同意が必要とされている。こうした技術はCookieと違い、ほとんどのユーザーがその存在を意識さえしていない。
一方、ショッピングカートの中身を記憶させるために必要なCookie、「ロードバランシング」Cookie、ユーザーが要求した情報サービス(オンラインバンキングなど)のようなCookieは、「不可欠な場合の免除」に該当するため、サイト側はほとんど制限なく使用し続けることができる。個人を特定できる情報に結びつかないやり方でCookieや類似の技術を使用している限り、疑いの目で見られることはないのだ。コホートやセグメンテーション、および個人を特定できないID(少し矛盾した言葉だが、後段で説明する)の使用が増加している理由のひとつはここにある。
ただし、パフォーマンスの測定に欠かせないウェブアナリティクス(分析)Cookieは、この規制の対象だ。ICOのウェブサイトによると、「アナリティクスCookieは『不可欠な場合』の例外条項には該当しない。したがって、アナリティクスCookieについては、ユーザーにその使用について通知し、同意を得ることが必要になる」と書かれている。ウェブサイトでの消費者行動の評価に使用されている一般的な分析ツールは、コンテンツの利用時間、ユーザーがクリックした場所、サイトやさまざまなページを訪問した回数などを知るのに役立つものだ。また、パブリッシャーがサードパーティの分析ツールを使用している場合も、そのツールが顧客とパブリッシャーの直接的な関係の外にある存在であるため、ユーザーの明示的な同意が必要になる。
では、こうした面倒な手続きが求められるなか、現代のパブリッシャーはどう対応すればいいのだろうか。
03 ファーストパーティデータ戦略の強化
概要
サードパーティCookieの廃止を受けて、規則によって義務づけられている同意を適切なレベルで盛り込んだファーストパーティCookieがパブリッシャー、広告主、小規模なアドテク企業、分析企業のあいだで盛んに用いられている(ただし、DIGIDAYではこの同意を得る際の透明性に欠ける行いについて報じている)。事実、パブリッシャーが検討している代替案はほぼ例外なく、ファーストパーティデータを効率的に収集、収益化することに関連している。これには入力されたデータの収集を目的としたサブスクリプションなどの登録戦略への投資も含まれる。果たして結果は? パブリッシャーによれば、ファーストパーティデータを使用した実験的な広告キャンペーンでは、サードパーティCookieを使用した同様のキャンペーンに比べて、特定の主要広告指標で50~100%のパフォーマンス向上が見られるという。
ファーストパーティデータの充実を図るパブリッシャーは収益源の多様化も進めている。ニュースレターやデジタルイベントなどの登録促進策に注力することで、ユーザーデータの蓄積量が増加することがメリットのひとつだ。さらに、オープンウェブでアドレサブルなオーディエンスを構築し、何が購入されているかをエージェンシーが見られるようにしたり、広告主やベンダーと提携し、ユーザーデータを直接利用できるようにしたりしている。
ファーストパーティユーザーデータはすべてのウェブサイトパブリッシャーが入手可能であり、プロフィール、閲覧行動、地理情報、言語、嗜好など、広告主にとって価値の高いデータポイントをいくつも含めることができる。ただし、すべてのファーストパーティデータがユーザーに焦点を当てているわけではない。行動ターゲティングに代わり、広告主の関心はコンテクスチュアルターゲティングに向かっており、サイトのメタデータを利用した広告ターゲティングの価値が急速に高まっている。パブリッシャーが個々のユーザーではなく特定のコンテンツセクションやフォーマットに広告をターゲティングできるため、最もクリーンなユーザーターティングよりさらにプライバシーに配慮したかたちになる。より洗練された手法としては、サイトのコンテンツをスキャンし、特定トピックやテーマのコンテンツを高い精度で識別したり、センチメント分析を行い、その文脈を判断したりする機械学習、AIツールもある。
コンテクスチュアルデータはファーストパーティユーザーデータを強化し、より具体的なオーディエンスセグメントの構築に使用できる。たとえば、旅行セクションに旅行バッグの広告を掲載した場合、すべてのインプレッションで完璧なターゲットユーザーを獲得できるわけではないが、広告とユーザーの意図との一致は極めて強いものになる。
具体的な方法
1. 登録ウォールを設定する
パブリッシャーが規則に対応する主な方法のひとつが、登録ウォールを通じて読者から直接、同意とファーストパーティデータを得るというものだ。登録ウォールは新しいものではないが、確実に増加している。具体的には、ポップアップやオーバーレイを使い、サイトコンテンツへのアクセスと引き換えにメールアドレスの登録を求めている。記事数の上限が設定されているか、上限なしの広告付きモデルが用意されているかのどちらかだ。このデータは、ユーザーが訪問したページの種類とともに、ファーストパーティデータのセグメンテーションを強化し、パブリッシャーがユーザーの広告体験をパーソナライズできるようになる。
ガーディアン(The Guardian)、ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)、アトランティック(The Atlantic)などのパブリッシャーは2023年までに可能な限り多くのファーストパーティデータを集めようとしている。アトランティックの成長担当シニアバイスプレジデントであるサム・ローゼン氏によれば、登録は「ファーストパーティデータの主要な収集源」と見なされている。これにより、パブリッシャーは読者にプライバシーポリシーを伝えることができ、さらに、関心やコンテンツの好みを把握できるため、サブスクリプションの促進にもつながる。ピアノ(Piano)の戦略担当シニアバイスプレジデント、マイケル・シルバーマン氏によれば、登録ウォールを用いているパブリッシャーのコンバージョン率は、既知のユーザーが匿名ユーザーの10倍に達することもあるという。
パブリッシャーはダイナミックペイウォールの実験に登録データを利用しているが、たとえユーザーが購読せずに登録だけしても、パブリッシャーは一部のプロフィールデータを取得し、サイト閲覧を記録し、登録していない人よりパーソナライズされた方法で広告ターゲティングできる。ただしそれは、同意を求めた(そして、同意を得た)場合に限る。
2. ユーザーデータのプールを増やす
ファーストパーティデータを広告主にとって魅力的なものにしようと、パブリッシャーはアドレサブルなオーディエンスを増やすためのさまざまな方法を試している。多くのパブリッシャーがニュースレターの登録を促進することで、ユーザーから直接ファーストパーティデータに関する同意を得て、メールアドレスから代替IDを構築しようとしている。
また、ニュースレターはウェブサイトのトラフィック増加にも利用されている。広告主がコンテクスチュアルターゲティングできるオーディエンスの増加につながるためだ。時事的なニュースレターは他のニュースレターに比べ、開封率が20%、クリックスルー率が2倍高く、間違いなく、より良好なコンテクスチュアルターゲティングが可能になる。エコノミスト(The Economist)の製品担当バイスプレジデント、レミー・ベチャー氏によれば、一般的に、ニュースレターはトラフィックソースとしてTwitterを上回っているという。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中に急増したユーザートラフィックを誘導するため、パブリッシャーが見つけたもうひとつの利益になる方法がデジタルイベントだ。デジタルイベントでは多くの場合、ユーザーがイベントサイトに登録、ログインする必要があるため、認証済みユーザーのプールがさらに増加し、ユーザーが広告主と一致した関心を持つこと、つまり、デジタルイベントのテーマに関心があることを明確に示すことができる。
イベントプラットフォームON24のマーケティング担当バイスプレジデント、テッサ・バーロン氏は「それが今、パブリッシャーとの会話の出発点になっている」と話す。「デジタルファーストの世界でオーディエンスに関心を伝える機会を与え、広告エンゲージメント、さらには購読者獲得のため、彼らのジャーニーを最適化するにはどうすればよいだろうか?(中略)パブリッシャーは突然、デジタル情報の宝の山に気付いた。サードパーティに頼ることなく、収集し、戦略を立てることができるデータだ」。
バーロン氏によれば、任意でない収集データの50%は不正確だが、デジタルイベントの場合、参加者が自発的にメールアドレス、氏名、住所などを含むフォームに入力するという。Cookie後の世界では、この種の情報はとても貴重だ。
3. セグメンテーションとコンテクスチュアルターゲティング
コホートベースの関心セグメントは今や、コンプライアンスを維持しながら広告ターゲティングを行う確実な方法となったため、広告主はコンテクスチュアルターゲティングに回帰している。DIGIDAYリサーチが2021年前半、バイサイドの専門家157人を対象に実施した調査は、コンテクスチュアル広告戦略への方向転換と投資が行われていることを示唆している。回答者の半数余りがコンテクスチュアルターゲティングに投じる金額を増やしており、関連オーディエンスセグメントにつなぐサービスを提供するさまざまなプログラマティックプラットフォームが登場している。
DIGIDAYとコナティックス(Connatix)がパブリッシャー、ブランド、エージェンシー100社を対象に実施したコンテクスチュアル広告の状況に関する調査では、53%の広告主が2021年のコンテクスチュアル予算を最大50%、12%の広告主が現状から50%以上増やす計画だった。全体としては、43%の広告主がコンテクスチュアル広告の未来を非常に楽観視しながらも、ターゲティング能力や精度、またはスケーラブルなキャンペーンの構築が課題だと考えていた。
こうした需要とプライバシー規則に対応するため、パブリッシャーはコンテクスチュアル機能を試している。ファッション、料理、旅行など、トピックやビートに応じてコンテンツページをタグ付けする従来の方法とは別に、ページのテキストを分析することでコンテクストカテゴリーを自動的にタグ付けできるAIや機械学習ツールにも投資している。また、動画、ディスプレイ、テキスト、画像など、業界標準(IABなどのカテゴリー)に沿ったコンテンツタイプを主要カテゴリーとして分類することもできる。
ページの文脈だけでなく、パブリッシャーは関心に基づくユーザーデータを収集し、セグメンテーション戦略に役立てる革新的な方法も試している。バズフィード(BuzzFeed)やリビングリー(Livingly)はユーザーの好みを把握するためにクイズを利用しており、オールレシピズ(Allrecipes)はユーザーのコメントからユーザーセグメントの改良に役立つシグナルを集めている。消費者インサイトや関心に基づくより正確なファーストパーティデータを収集するため、ブランドリフト調査やサイト訪問者へのアンケートを行うことも、すでにサイトにいるユーザーを深く知るための戦術だ。
パブリッシャーのサイトに質問や投票機能をインテグレーションするツールを販売しているEx.coの最高マーケティング責任者シャカール・オレン氏は「パブリッシャーは何年も前からこのニーズがあることを知っていたが、行動に移すために必要なものが揃っていない場合もあった」と話す。オレン氏によれば、Ex.coのツールはいくつかの目的に使用できるが、この6カ月で、パブリッシャーの顧客がニーズとしてデータ収集に言及する回数が60%増えているという。
ユーザー基盤であれ、コンテクスチュアルであれ、優れたセグメンテーションはニッチで精度の高いオーディエンスリストを手に入れるため、広告主がより多くの金額を費やす動機になる。ボックス(Vox)、メレディス(Meredith)、インサイダー(Insider)などのパブリッシャーはコンテクスチュアル広告をサポートしているプラットフォームに投資し、ファーストパーティデータを広告ターゲティングに利用している。インサイダーによれば、ある顧客が広告キャンペーンの一部に独自データプラットフォームのサガ(Saga)を使用したところ、サードパーティCookieを用いた場合に比べ、ファーストパーティセグメントのパフォーマンス指標が11%上昇したという。
ケーススタディ:ニューヨーク・タイムズ(The New York Times、以下NYT)(ルシンダ・サザンによる記事全文はこちら)
NYTは2020年5月、GoogleがChrome内でのサードパーティCookieのサポートを終了するとしていた1年前の2021年までに、直接購入におけるオーディエンスのターゲティングを目的としたサードパーティデータの利用を段階的に廃止すると発表した。NYTはこの1年で、顧客が広告ターゲティングに使用できる、45にも及ぶ独自のファーストパーティオーディエンスセグメントを新たに構築した。これらのセグメントは年齢、収入、職業、ユーザー属性、興味など6つのカテゴリーに分類されている。2020年7月、これらのセグメントを活用したキャンペーンが開始された。十数人のチームがプロジェクトに取り組んでいるほか、他部門の協力も得ている。
広告製品、プラットフォーム担当シニアディレクターのサーシャ・ヘレイ氏が米DIGIDAYが主催した「Publishing Summit Europe Live」に参加し、ファーストパーティデータ戦略の歩みについて語っていた。
「1年前、ファーストパーティオーディエンスビジネスの実現可能性について調査を開始したとき、最初のハードルは、広告主にとって有益な情報を読者に提供し、そのデータをどのように使用するかを透明性のある方法で示すことができることを証明することだった。最初の実証実験で、予想以上に多くの読者が、オーディエンスモデルの活用に向けた真理集合(ある条件を満たすための集合体)として、情報を共有することをいとわなかった。600万人の購読者と多くの登録ユーザーがいることは、ファーストパーティオーディエンスビジネスを実施する上で十分な価値がある。膨大な量のデータは、登録ユーザーや匿名ユーザーの繰り返しの訪問や閲覧行動から得られるモデルを通知するために使われている」。
「これが2020年後半にどのような影響をもたらすかについて語るのは時期尚早だが、広告主からは多くの好意的な声が寄せられている。『もちろんファーストパーティデータのほうがいい。サードパーティデータは信頼できないとわかっているのだから』というメッセージを耳にする。私たちのアプローチ、適切なオーディエンスセグメントを選定しているかどうか、それらがどう進化していくかを広告主に伝えるプロセスに入っている」。
判定
プラス面
- パブリッシャーはユーザーから直接得られるデータという重要な資産を活用し、大手アドテク企業にデータを供給するだけの役割から脱却しようとしている。
- パブリッシャーはオーディエンスに焦点を当て、セグメンテーションやリスト作成の際、オーディエンスの嗜好や行動をより詳しく知ろうとしている。
- コンプライアンス:パブリッシャーは登録やサイト全体での情報開示によって、ユーザーから直接同意を得ることができる。
マイナス面
- コンプライアンス:広告主がファーストパーティユーザーセグメントを効率的にターゲティングするには、パブリッシャーはやはりプライバシーに配慮したユーザーIDを割り当てる必要がある。このような方法でターゲティングを行う場合、内部で十分に理解されていなければ、コンプライアンスのフレームワークから外れてしまう恐れがある。また、プロフィールなど、ユーザーの入力に依存する手法の場合、ユーザーの同意を得たり、多くの情報を提供してもらったりすること自体が難しい。
- アドテクの効率性:セグメントを作成し、パブリッシャーのファーストパーティデータセグメントを共有するためのプラットフォームを構築するプロセスは、GoogleやFacebookのアドテクの効率性と同等のレベルではまだ実現できないかもしれない。こうしたデータは通常、そのパブリッシャーに限定されたものであり、多くの広告主が求めている規模に達していない。さらに、広告主はアドテク大手より高いCPMを支払わない可能性がある。
- プレミアムパブリッシャーにとって、貴重なファーストパーティデータを最大限に活用することはとても意味あることだ。しかし、ユーザーが月に一度パンケーキのレシピをチェックするレシピサイトのようなロングテールのパブリッシャーにとっては、ファーストパーティデータをオーディエンスターゲティングやフリークエンシーキャップ管理に使用することはむしろ効率が悪い。
しかし、マイナス面があるにせよ、ファーストパーティデータ戦略の基礎を築くことは、Cookie後のパブリッシャーにとって当然取り組むべきことだ。マークル(Merkle)の最高戦略責任者とIDレゾリューションプラットフォーム、マーキュリー(Merkury)のプレジデントを兼任するジョン・リー氏は「現在の最優先事項に『Cookieレスな未来』を据えていないパブリッシャーやマーケターを、私は知らない」と話す。「次々に起こる変化は、仮想から現実へと姿を変えてきた。マーケターたちは今、Cookieを用いないさまざまなIDテクノロジーを(2021年に)テストする計画を固めつつある」。
04 プライバシーに配慮した識別子の開発
全体像
ファーストパーティデータの仕事は、パブリッシャーが自社プラットフォーム上でユーザーをターゲティングすることだ。しかし、ユーザーのプライバシーを守りながら、これらのオーディエンスに直接アクセスするには、広告主はどうすればよいのだろう?
サードパーティCookieやその他のトラッキング技術に対する規制当局の反発を受けて、代替識別子を用いる方法の模索が盛んに行われている。パブリッシャーと広告主の提携から、アドテク企業による発明、ハッシュ化された電子メールやプライバシー保護のためのIDソリューションまで、ID技術と標準化業界が出現している。eマーケター(eMarketer)によると、2022年末までに米国の広告主がID技術ソリューションに費やす金額は26億ドル(約2943億円)になると推定されている。
IDを利用することで、広告主は、ウェブページやアプリを訪れたユーザーの興味・関心をターゲットにできる。現在、サードパーティCookieは、オープンな広告マーケットプレイスを通じてこのアクセスを提供しているが、悪意ある者に個人を特定できる情報を「漏洩」させてしまう危険性がある。こうしたCookieは、ブロックされていない限り、スクリプトやタグの形で、プログラマティック広告に公開されているあらゆるウェブページに設置することができ、広告ターゲティングのためのユーザーIDを作成するために使用される。そして、パブリッシャーの壁の外にいるプレイヤーは、ファーストパーティのデータや、ファーストパーティ、セカンドパーティ、サードパーティのデータを組み合わせて、ユーザーをターゲティングすることができる。すでに見てきたように、このサードパーティというオプションは消滅する予定で、それにはきちんとした理由がある。
プライバシーに配慮した識別子を使用することで、パブリッシャーは、ユーザーのプライバシーを損なうことなく、メールアドレスや氏名、クリック数など、ユーザーが自ら提供するファーストパーティデータを、より大規模でオープンな市場で利用することができる。パブリッシャーが作成したファーストパーティIDは、広告主が作成したファーストパーティIDと照合され、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)やその他の共有ツールで広告プレースメントのマッチングが行われる。ほとんどのIDは、決定論的IDデータ(名前やメールアドレスのように個人を特定しやすいもの)と、確率論的IDデータ(複数のソースからデータを推定・照合し、ユーザーの好みを判断してIDを作成するもの)の両方から構築されている。
ユーザー情報の安全を確保するために、パブリッシャーは、ユーザーの情報を直接共有するのではなく、ユーザーやユーザーグループの属性(場所、興味、年齢層、希望するウェブサイトの活動など)を参照するトークン化されたIDやハッシュのようなものを共有する。トークン化されたIDは、パブリッシャーのドメインやシステム内で、多くの場合、他のシステムと共有される前にランダムな英数字の文字列やハッシュを割り当てることで、ユーザー情報を保持する。たとえば、固有の識別番号がABC4567890の場合、58B0C9476Aのようなランダムなトークン文字列に変換される。
広告主がそのユーザーをターゲットにできるよう、パブリッシャーはトークン化されたユーザーIDを広告エコシステムやDSPで共有し、広告主の嗜好やその他の条件とマッチングさせる。このように、ユーザーの個人情報を保護しながら、広告エコシステム全体でIDの「マッチング」や「IDの同期」を行うプロセスは、数多くのIDグラフソリューションを扱う企業やサービスの登場につながった。これらのIDグラフは、ユーザーIDと広告プレースメントを対応させ、属性を決定するのに役立っている。
トークン化されたIDやハッシュ化されたIDは、オリジナルのユーザーデータの伝播を制限するだけでなく、ファーストパーティデータと外部データセットとの関連付けを困難にする。マグナイト(Magnite)の製品管理担当バイスプレジデント、ギャレット・マックグラス氏は次のように述べている。「これらのエコシステムでは、ファーストパーティCookieは本質的にはサイトごとのものであり、クロスサイト機能はない。ここではまだ、SSP(サプライサイドプラットフォーム)がインターネット全体を見渡している」。このようにしてパブリッシャーは、データの宝庫の鍵を握ることができる。
しかし、ID技術を導入するようパブリッシャーを説得するのは難しい。コンサルタント企業ビーラーテック(Beeler.tech)のCEOで、パブリッシャーの広告を管理しているロブ・ビーラー氏は、「パブリッシャーが識別された認証済みのオーディエンスからより多くの利益を得ているという話を聞くまでは、(Googleの期限が)近づくまでは、この分野で何かをする必要はないように思う」述べている。
どのような方法があるのか
IDがまだ混乱していないのであれば、パブリッシャーがID技術を作成または採用して、外部からユーザーをターゲットにできるようにする方法はいくつかある。ここではそのいくつかを紹介しよう。
1. SSPのために代替IDを作成する
どういうことか?
パブリッシャーIDまたはパブリッシャー指定ID(PID/PPID)は、すでにプログラマティックエコシステムの一部になっている。GoogleはGoogleアド・マネージャー(Ad Manager)でこれらを使用しており、Amazonもプログラマティック識別子を強化するためにこれらの使用を検討している。
パブリッシャーは、自分のサイトに特定のコードを追加して、オープンソースのサービスを利用する、あるいはテックベンダーと協働することで、ファーストパーティIDを作成・共有できる。パブリッシャーは、ユーザーのログイン情報、所得区分などのマーケットソースからの情報、サイトでの行動(たとえば、ユーザーがスポーツ関連の記事に何回アクセスしたかなど)を利用して、PIDを作成できる。フリークエンシーキャップやデバイス間のアトリビューションのために、各ユーザーには固有識別子が必要になる。PIDはクロスプラットフォームで追跡可能な永続的な識別子であり、そこに「スポーツ愛好家」などのセグメントを割り当てることができる。
このように内部で構築されたIDは、プログラマティックマーケットプレイスや SSPにプッシュされる。
誰が使うのか?
SSPや他のアドテクプラットフォームは、これらのIDを用いて、ユーザープロファイルやセグメントを広告主のターゲティング仕様に適合させている。パブリッシャーには、読者と直接的な関係を築くなかで、ファーストパーティデータ使用の同意を得る責任があるため、パブリッシャーが提供するIDの重要性は高まっている。パブリッシャーが共有するIDはユーザーデータを内部に保持するが、広告ターゲティングを目的にユーザーやセグメントのトークン化された表示のみを共有することが可能になる。SSPは、広告主が多くのパブリッシャーのオーディエンスの中からセグメント化された登録ユーザーデータにアクセスできるように、できるだけパブリッシャーが持つIDへの親和性を高めようとしている。
マグナイトの製品管理担当バイスプレジデント、ギャレット・マックグラス氏は、「こうした材料が揃えば、パブリッシャーの観点から見て、有意義なターゲットオーディエンス設定と、多数のオーディエンスに対する訴求に必要な基盤づくりができる」と述べている。
その仕組みは?
ここでひとつ例を紹介しよう。パブマティック(PubMatic)は2020年、「Identity hub」を立ち上げた。これはプレビッド(Prebid)上に構築されたツールで、パブリッシャーは、サードパーティCookieを使用せずに複数のIDソリューションを管理できる。パブマティックは、プログラマティックオークションを通じて毎日1340億の広告インプレッションを扱い、1日あたり1兆の広告入札を行っている。パブマティックのプラットフォームにおける2020年第4四半期の広告購入のうち、20%以上がサプライパス最適化(SPO)契約によるものだったが、2020年第1四半期のその割合は約10%でしかなかった。パブマティックの最高経営責任者(CEO)、ラジーブ・ゴエル氏は、米DIGIDAYとのインタビューの中で次のように述べている。「Cookieが単一の代替識別子に置き換わることはない。(中略)これは、他の識別子を適応・採用している多くのSSPやDSPにとって、より多くの機会があることを意味する」。
「オーディエンスに対する義務があるので、賢明なパブリッシャーは、あらゆる場所でデータを共有しようとはしない」とゴエル氏は続ける。「そうしたパブリッシャーは、消費者との関係を守るために、アドテクプロバイダーや広告主を絞り込む可能性がある。パブリッシャーとバイヤーの両方に選択肢を与えることが重要だ」。
広告業界は、複数の準拠済IDソリューションを試しているが、あるソリューションが勝者となった場合、パブリッシャーは早期にそのソリューションに投資したいと考える。これには、パブリッシャーIDやセグメント化されたオーディエンス、またはパブリッシャーに代わってファッションやビジネスなどのカテゴリー別にツールがセグメント化するための関連データの共有などが考えられる。その目的は、パブリッシャーがこれらのIDをサポートしている場合、広告主がインプレッションを簡単に購入できるようにすることにある。現在、米国のコックス・オートモーティブ(Cox Automotive)や英国のタイム・アウト(Time Out)など、175以上のパブリッシャーがパブマティックのツールを利用しており、今後もその数は増えていくことが予想される。
2. ID技術へのコンプライアンスをアウトソースする
どういうことか?
パブリッシャーは何年も前からオープンマーケットでPIDを使用しており、PIDの作成自体は容易だ。しかしコンプライアンスを維持することの重要性から、一部のパブリッシャーはID作成とマッピング作業をアウトソーシングして、ファーストパーティデータの安全性を高め、ポリシーを新しいプライバシーとトラッキングに関する規制の範囲内に収めている。
誰が使うのか?
リソースの多い大規模パブリッシャーにとって、自社で構築するのではなく、外部のID技術プロバイダーからこれらのサービスを購入するのは良い選択肢だ。広告主にとって魅力的な方法でデータを拡張できるほど大規模なオーディエンスを持たず、高価なテクノロジーサービスに投資するリソースもない小規模なパブリッシャーにとっては、SSPやプレビッドのようなオープンソースサービスでのパブリッシャーIDの共有が良い選択肢になる。
その仕組みは?
欧州のパブリッシャーは、法令に準拠したIDの共有を、同意管理プラットフォーム(以下、CMP)にアウトソーシングしている。CMPは、ユーザーが提供に同意したデータをデジタル広告のサプライチェーン上で共有する際の追跡に役立つ。コンセントストリングスは、プログラマティックエコシステムに渡される一方で、パブリッシャーは登録されたユーザーデータのプロバイダーとして、コントロールを維持できる。
サロン(Salon)のようなパブリッシャーは、ライブランプ(LiveRamp)やID5のソリューションのようなID技術に投資しており、データ収集の際にパブリッシャーの同意通知を明示的に設定している。データ使用の同意を得たパブリッシャーのサイトにユーザーがログインまたは登録すると、APIや埋め込みコードを介してID技術にリンクさせることで、その情報はパブリッシャーの同意管理システムに保存される。
そうしたユーザー情報は、ID技術プロバイダーによって文字列やトークンに変換される。このトークン化されたIDはパブリッシャーに送り返され、個人を特定できる情報を添付することなく、ファーストパーティCookieとしてパブリッシャーのウェブサイトに保存できる。このIDは、パブリッシャーのすべてのパートナーやSSPで共有され、消費者のプライバシーを損なうことなく、分析や広告に使用できるサードパーティCookieに対して同意ベースの回避策を提供する。
これらは、リソースを有するパブリッシャーの多くに用いられている一般的なオプションだ。フューチャーPLC(Future PLC)のグローバル営業部門のディレクター、ニック・フラッド氏は、「当社のサイトはライブランプやID5といった代替IDと何カ月も前から連携している。ID技術ベンダーのビジネスはもう終わりだ、などとは思わない。むしろ先行きは明るい」と話す。
しかし、一部の大手パブリッシャーはこれに納得していない。デンマーク最大手のパブリッシャー、エクストラ・ブラデット(Ekstra Bladet)で営業およびアドテク部門のディレクターを務めるトマス・ルー・ライツェン氏は次のように語る。「こういったデータの業界全体への提供については疑念をもっている。たとえばそのデータを使って、アドテク企業が当社のオーディエンスに関する巨大なデータベースを構築したりすれば、我々のコントロールがきかない事態になりかねない。その結果、状況は振り出しに戻ってしまう。当社がジャーナリズムの発信者でなく、ユーザーを送客するだけのパブリッシャーとみなされるおそれがある」
3. 業界に普及しているユニバーサルIDの使用
どういうことか?
代替IDを作成するための、より標準化された無料オプションは、オプトイン方式のユニバーサルIDであり、プライバシーに配慮した代替IDを構築するためのオープンソースの取り組みが複数進行している。オムニコムメディアグループ(Omnicom Media Group:OMG)のような大規模メディアグループに支持されているポピュラーな代替案のひとつが、広告主の業界団体であるインタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:IAB)のユニファイドID 2.0(Unified ID 2.0:以下、UID2.0)だ。UID2.0は、ザ・トレード・デスクとIABのテックラボ(Tech Lab)によって開発されたオープンソースの「プライバシーに配慮した」共通IDで、より多くの企業や業界団体が作成に参加することでその透明性を高めている。
誰が使うのか?
このIDは、ユーザーがパブリッシャーのコンテンツにアクセスするためにメールIDを使って登録した際に、パブリッシャーや広告主が同意に基づくデータを取得するための標準的な方法を提供することを想定している。しかし、まだ明示的な同意を求めるものではなく、現在の形では規制の仕様に満たない可能性がある。UID 2.0は、プレビッドが支持して使用しており、他のアドテク企業(ユーザー中心型広告IDを持つクリテオ[Criteo]やCORE IDを持つイプシロン[Epsilon]など)は、提携を通じてUID 2.0を業界標準にしようとしている。
その仕組みは?
パブリッシャーは、自社のウェブサイトにスクリプトやSDKを設置し、ユーザーがメールアドレスを入力してログインした際に、メールアドレスや提供された情報が広告のバリューチェーンの中でどのように使用されるかについて、オプトイン通知を受けられるようにすることができる。その後、メールアドレスはUIDホストと共有され、UIDホストはプライバシーに配慮した英数字のIDまたはハッシュを固有のユーザーに自動的に割り当てる。
クローズドオペレーターとして契約した企業は、「(UID2.0を)自社のインフラに格納し、自社の壁を越えずに独自のバージョンを生成する。このツールはメインシステムと対話するため、我々が更新すると自動的に更新される」と、ザ・トレード・デスクの製品担当ゼネラルマネージャー、ビル・マイケルズ氏は述べる。この識別子は、エージェンシーの世界でも支持を集めており、エコシステムの中でUID 2.0の新しいタイプの「クローズドオペレーター」の役割が生まれている。
UID 2.0と似たものに、セキュア・ウェブ・アドレサビリティ・ネットワーク(Secure Web Addressability Network、通称:SWAN)が作成したオープンソースの分散型IDであるSWID(セキュア・ウェブID)がある。ユーザーがSWANを使用しているページにアクセスすると、パーソナライズ化された広告をオプトインして、電子メールアドレスを共有するという選択肢が提供される。これは、SWANのエコシステム内のパブリッシャーや広告主に対して、全面的な同意を提供するものだ。その後、そのユーザーにSWIDが割り当てられ、透明性のある同意に基づくターゲティング方法が提供される。ユーザーはいつでも自分の嗜好について確認・変更することができ、広告取引の送り手と受け手の両方が署名することで、広告サプライチェーン内の透明性を高めることができる。
SWANは、小規模なパブリッシャーでも大規模なパブリッシャーでも利用できる、最近開始されたオープンソース・イノベーションの一例だ。パブマティック、サーデータ(Sirdata)、EMXなど多くの企業がSWANコミュニティに参加している。
ケーススタディ:サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post:以下、SCMP)(ルシンダ・サザンによる記事全文はこちら)
SCPMは、独自のファーストパーティデータプラットフォームを構築し、それをライトハウス(Lighthouse)と名付けた。その目的は、世界中のオーディエンスのアドレサビリティを高め、サードパーティCookieが無効になったときのターゲティングに備え、最終的には広告キャンペーンの効果を高めることにある。広告クライアントは、ダッシュボードからライトハウスにアクセスし、好みやキャンペーンターゲット、配信チャネル、コンテンツの傾向などに基づいて、独自のオーダーメイドのオーディエンスセグメントを構築できる。しかし、アリババ・グループ(Alibaba Group)が所有し香港を拠点とするSCMPは、ラグジュアリーなライフスタイル、ビジネス出張、健康に関心を寄せる人など、25のオーディエンスセグメントをあらかじめ用意しており、マーケターは、過去の月間平均ユーザー数5000万人(うち37%が米国人)の利用実績に基づいて、これらのセグメントを選択することができる。コムスコア(Comscore)によると、SCPMの全世界の月間ユニークユーザー数は2220万人だという。
SCMPによると、ライトハウスは1日に120万以上のデータポイントを収集しており、それらは世論調査、アンケート、クイズなどから提供されたデータに加え、サイト内行動、広告ログ、CMS、コンテンツ分析、心情、読みやすさ、コンテキストデータといった要素から得られる観測データによって収集されているという。SCPMは登録ウォールを設けているが、登録者数には言及していない。この(データの)プールが大きくなれば、果たす役割も大きくなり、ログインしているユーザーがいれば永続的な識別子を作成でき、アトリビューションをより効率的に行うことができる。地理やユーザー属性などの単純なデータだけでなく、パブリッシャーは読者がコンテンツに求める価値を推測することができる。親向けのページを見ているユーザーは、三つ子を妊娠しているかもしれないし、すでに幼児を抱えているかもしれない。あるいは不安や興奮を感じているかもしれない。
ほとんどが広告収入で成り立っているSCMPは、顧客データプラットフォーム(以下、CDP)のワンプラスエックス(1plusX)と連携している。SCMPは、ワンプラスエックスを利用して、様々な決定論的IDおよび確率論的IDをひとつのファーストパーティユーザーIDの下に同期させ、そのユーザーに関するすべての既知の属性と、任意の名前を割り当てる。その後、ベンダーのオーディエンス拡張機械学習を適用し、ターゲットとなるオーディエンスを作成する。グローバルメディアエージェンシー、マインドシェア(Mindshare)の統合パフォーマンス事業部であるFAST UKを率いるアレクシス・フォークナー氏は、「DMP(データマネジメントプラットフォーム)からCDPに移行する企業が増えている」と述べる。「これは、セグメントデータへの依存をやめ、オーディエンス理解につながる個々のユーザープロファイルに移行することを意味する。これは、顧客に関するさまざまなソースからの情報を持っている企業であれば、保有するさまざまなデータ資産に対するアプローチを統一するために検討したい動きだ」。
SCMPには、データ・技術・コマースの各部門を横断する強力な製品チームがあり、このプラットフォームを構築した。ライトハウスにあらかじめ用意された25のセグメントを1カ月間テストし、データを追加した場合のパフォーマンスと、サイトの平均的なコホート運用との比較を行ったところ、クリック率が40%向上した。また、MBA候補者を募集する教育キャンペーンにビジネスセグメントを適用したところ、クリック率が0.12%から0.3%に上昇した。
判定
プラス面
- ユーザーのプライバシーが優先されている。
- パブリッシャーのデータとIDは、代替IDの作成にとって不可欠になっており、決定論的データは確率論的データよりも精度が高い。
- Cookieの同期にかかる時間を短縮する、業界全体でのイノベーションと標準化。
マイナス面
- 電子メールのハッシュ化とIPアドレスがID構築の主要なソースであるため、ユーザーのプライバシーやコンプライアンスが確実ではない。
- 多くの代替IDは、現在のプログラマティックシステムやサードパーティCookieで動作するように構築されているため、後者の廃止は現在理解されている以上の変化をもたらすかもしれない。また、ChromeのアップデートやITP(インテリジェント・トラッキング・プリベンション)に対しても脆弱だ。
- 新しいコードや段階的な同意システムの導入により、レイテンシー(遅延)が増大し、ユーザーのサインアッププロセスが重くなる可能性がある。
これまで見てきたとおり、代替IDの多くは、電子メールアドレスや電子メールのハッシュ値を利用してユーザーデータを収集している。これは、プライバシーに関する規制が強化されるにつれ、長期的な解決策にはならないかもしれない。また、プライバシーに関する問題とは別に、ID技術がレイテンシーを増大させ、ページの読み込み速度を低下させるのではないかという懸念から、パブリッシャーはID技術の導入に躊躇している。特に、(一部のヘッダー入札技術に見られるように)サイトにコードを埋め込む必要がある場合はそうだ。
代替IDの照合やマッピングのソリューションは、共有ログインやトークン化されたIDを使用しているかどうかにかかわらず、Googleにとっては競争相手ができることになる。しかしGoogleは、Chromeで世界のブラウザシェアの65%を占めているため、Amazonのような大手テック企業が参入しない限り、心配する必要はないかもしれない。広告主が多様化しても、その多くは自分の既知のものにこだわり続ける。広告主の10人に6人(64%)は、2020年にIDデータ検証/照合としてGoogleを使ったことがあると回答している。
05 パートナーシップの構築
概要
危機の時代には、関係がものをいう。大手アドテク企業が迫り来る規制に対応し、コンプライアンスを順守することがますます複雑になるなか、新たなパートナーシップが浮上、再燃している。
ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)、バロンズ(Barron’s)、マーケットウォッチ(MarketWatch)を擁するダウ・ジョーンズ・メディア・グループ(Dow Jones Media Group)のグローバル最高売上責任者(CRO)ジョシュ・スティンチコーム氏は「より長く大きいパートナーシップの需要増とCookieの劣化のあいだには正の相関関係がある」と話す。「これまで広告主は複数サイトのパフォーマンス指標をまとめることができたが、それが難しくなっている…。私たちはファーストパーティデータだけで複数の広告露出を測定できる。(中略)私たちのファーストパーティデータを有効なものとして受け入れる必要はあるが、現在、彼らはウォールドガーデンでそれを受け入れている」。
DIGIDAY+の調査によれば、パブリッシャーが最も力を入れている分野は直販広告とブランデッドコンテンツだ。不確実性に直面し、広告主とパブリッシャーがかつてないほど親密になっていることを示唆している。
しかし、ソリューションの提供を目的としたタッグチームはこれだけではない。サードパーティCookieの崩壊が進むなか、パブリッシャーは競争を回避し、規模の実現のため、互いを頼るようになっている。
1. パブリッシャー・アライアンス
欧米ではパブリッシャー・アライアンス(媒体社連合)が盛んで、特に「ログイン・アライアンス」が加速している。アライアンスに参加すれば、それぞれのユーザーに同じ登録、ログインを使用できるため、同意に基づくユーザーデータを複数の組織で共有しやすくなる。その結果、ユーザーデータのプールが増加し、広告ターゲティングの規模を効果的に拡大できる。パブリッシャー・アライアンスは何より、広告主にとって魅力的だ。セグメント化されたユニークユーザーのプールが増え、1つのシステムやツールで数百万人を対象に広告ターゲティングできるためだ。有名なパブリッシャー・アライアンスの例を2つ紹介しよう。
- オゾン・プロジェクト(The Ozone Project)は2018年、ガーディアン、テレグラフ(The Telegraph)、インディペンデント(The Independent)、ニュースUK(News UK)などの有名パブリッシャーによって結成された。これらのパブリッシャーを合わせると、月間ユーザー数は1億人を超え、広告主はそのすべてをターゲティングできる。データとそこから生まれる広告費のコントロールを維持するため、アライアンス共同で広告キャンペーンを実施し、独自の広告スタックを構築している。また、すべてのメンバーを対象にした標準的なコンテクスチュアルターゲティングセグメントと分類法の作成にも投資している。アライアンスの戦術についてはこちらも参照のこと。
- トラストX(TrustX)は米国に拠点を置くパブリッシャーの広告アライアンスで、メンバーの広告インベントリー(在庫)をプライベートマーケットプレイスで販売している。ニューズ・コープ(News Corp)、ハースト(Hearst)、ワシントン・ポスト(The Washington Post)をはじめとするプレミアムパブリッシャーの業界団体デジタル・コンテンツ・ネクスト(Digital Content Next)のメンバーによって、2016年、NPOとして設立された。全米で2億5000万人以上のユニークオーディエンスにリーチしているだけでなく、全米広告主協会(Association of National Advertisers)などの広告アライアンスとパイロットテストを行っており、多くの広告主を引き付けている。アライアンスの戦術についてはこちらも参照のこと。
2. 広告主アライアンス
広告主がこのような環境下で直面する最大の課題のひとつはパフォーマンスの比較、つまり、さまざまなパブリッシャーのデータを使って構築されたセグメントとCookieベースのセグメントを「マッチング」することだ。広告主アライアンスはむしろ、エコシステム全体の標準化を目指しており、ログイン、ID、消費者データを共有するための標準を通じて、全メンバーの合意を形成する役割を果たしている。有名な広告主アライアンスの例を2つ紹介しよう。
- IABはコンプライアンスを目的とした標準化、ガイドラインの提供に積極的に取り組んでいる。IABテックラボは「責任あるアドレサブルメディアのためのパートナーシップ(Partnership for Responsible Addressable Media:以下、PRAM)」の技術標準作業部会(Technology Standards Working Group)として機能しており(下図参照)、トレード・デスクとUID 2.0を共同開発した。また最近、広告主とマーケターにユーザーデータ収集、使用のガイドラインを提供するため、PRAMと共同で「ユーザー認証IDトークンのベストプラクティス(Best Practices for User-Enabled Identity Tokens)」を発表した。アライアンスの戦術についてはこちらも参照のこと。
- PRAMは世界中の400企業、業界団体の代表として、プライバシーの課題と代替IDのニーズに対応する目的で設立された。関連組織であるIABテックラボと同様、規制当局やパブリッシャーと緊密に連携し、実用的なポリシーや共通IDの開発に取り組んでいる。アライアンスの戦術についてはこちらも参照のこと。
ケーススタディ:ニュースパスID(NewsPassID)(マックス・ウィレンによる記事全文はこちら)
ガネット(Gannett)、シアトル・タイムズ(Seattle Times)などの地方新聞社やテグナ(Tegna)のような放送局が加盟する戦略的パートナーシップ組織ローカル・メディア・コンソーシアム(Local Media Consortium:以下、LMC)が、数的優位に立つための製品を開発した。ニュースパスIDというサインオン技術で、何千ものローカルニュースサイトの集合的なオーディエンスを活用できる広告ネットワークへと発展することが期待されている。
ニュースパスIDは、他のすべてのメディアと同様、ユーザーからより多くのファーストパーティデータを収集しようと試みるローカルニュースパブリッシャーのために開発されたシングルサインオン技術だ。ニュースパスIDを導入したパブリッシャーは収集したデータをデジタル広告だけでなくサブスクリプション戦略にも活用できる。登録ユーザーはサブスクリプションファネル下部に呼び込みやすいためだ。2021年第1四半期にパイロットステージに入り、4つのパブリッシャーがいくつかのSSPで統合テストを行っている。LMCはこの段階で、さまざまなサイトが単一IDに対応していること、オープンオークション環境でデータ漏えいがないことを確認しなければならない。すべてが計画通りに進めば、第3四半期にバイサイド技術との統合テストが始まる。
理論的には、サインオン技術の成功は広告ネットワークの成功につながる。ニュースパスIDで識別された既知のユーザーが増えるほど、バンドルして広告主に提供できるインプレッションも増えるためだ。規模が大きくなれば、より多くの広告主が集まり、結果として需要が増えれば、パブリッシャーの売上も増え、その結果、さらに多くのパブリッシャーが集まるという流れだ。
判定
プラス面
- パブリッシャーは団結することで、リソースや戦略を共有できるようになり、より大きな交渉力を持つことができる。
- パブリッシャーと広告主の直接的な関係に大手アドテク企業が割って入り、新しいパートナーシップによって、失われた売上を取り戻す新たな機会が生まれた。
- ログインやIDの共有はコンプライアンス関連の変更、ファーストパーティユーザーデータを重視したイノベーションの機会をもたらす。
マイナス面
- 大手アドテク企業は、パブリッシャーと広告主のエコシステムが標準化されていないことを前提に動いているため、アライアンスの強化は損失につながる。しかし、NPOであるトラストXのようなアライアンスが大手アドテク企業に匹敵する技術リソースを持っているとは限らない。
- アライアンスは測定や分類法の標準化に苦労している。大部分のユーザーの登録データを入手するのも容易ではない。
- オーディエンスが少ないと、交渉力が低下するため、小規模なパブリッシャーや広告主の場合、アライアンスがうまく機能しない可能性もある。
06 新しいツールキットへの投資
全体像
ファーストパーティデータ、プライバシーに配慮したID、そしてパートナーシップでさえ、すべてを機能させ、接続するためには新しいツールやテクノロジーが必要になる。ファーストパーティデータを広告主と共有し、コンテクスチュアルターゲティング機能を構築するために、パブリッシャーは社内外のツールやプラットフォームに投資しているが、その多くはここまでに説明したカテゴリーには含まれていない。
経営コンサルティング企業マッキンゼー(McKinsey)のレポートによると、米国のデータプラットフォーム市場は2020年に50億ドル(約5660億円)規模となっており、近年の広告ターゲティング機能の多様化の流れを受けて、今後も成長が見込まれている。2020年12月にDIGIDAYリサーチが行った調査によると、パブリッシャーの半数以上(53%)が、2020年に入ってから提供する広告商品の数を増やしたと回答している。
内製化に関しては、パブリッシャーは、厳選された広告主がダッシュボードやデータスタジオを使って、セグメント化されたファーストパーティのユーザーデータに直接アクセスできるようにすることに注力している。ワシントン・ポスト、エコノミスト、ボックス、SCMS、ペンスキー・メディア(Penske Media)、ニューヨーク・タイムズなどの大手パブリッシャーは、数百万人のユーザーから同意を得て入手したファーストパーティのユーザーデータやIDを使って、広告主が直接ターゲットを設定できるようにすることを目指して、大規模DSPに代わる独自ツールの構築に投資している。
ここ数年、自社製品チームへの投資は拡大しており、ファーストパーティデータ強化の新戦略の台頭もあって、プレミアムパブリッシャーの広告インベントリーをより便利に購入するための独自ツールは、より一般的な存在になっている。しかし、ほとんどのパブリッシャーは、外部のベンダーから技術サービスをライセンスすることになるだろう。ここでは、Cookie終焉後のギャップを埋めるのに役立つツールと、その利用者を紹介しよう。
- ワシントン・ポストは、独自のファーストパーティ広告ターゲティングツール「ゼウス・パフォーマンス(Zeus Performance)」を2019年に構築した。ゼウス・パフォーマンスは、ヘッダー入札用のラッパーおよび広告レンダリングエンジンだ。このプラットフォームでは、コンテキストデータと機械学習技術を広告ターゲティングに活用している。また、ワシントン・ポストは、ゼウス・パフォーマンスを使用するすべてのパブリッシャーサイトのオーディエンスにリーチできる、広告バイヤーに開かれたセルフサービス式広告プラットフォーム「ゼウス・プライム(Zeus Prime)」を立ち上げている。パブリッシャーは、ゼウス・パフォーマンスを任意のSSPに接続できる。このプラットフォームは現在、参加者が所有・運営するすべてのサイトで、月間40億以上のインプレッションを提供している。このプラットフォームについての詳細はこちらの記事を参照のこと。
- コムスコアによると、VICEニュースは、「エクスペリアン・マッチ(Experian Match)」や「グレープショット(Grapeshot)」などの外部ツールに投資して、ファーストパーティのユーザーデータを強化しているという。グローバルでの月間ユニークビジター数は5750万におよぶ。彼らの戦略は、登録プロセスの改善とコンテクスチュアル広告の倍増に向けたものだ。この戦略についてはこちらの記事を参照のこと。
- 英国のチャンネル4とイミディエイト・メディアは、インフォサム(InfoSum)のようなファーストパーティデータ共有のための「中立的」なサードパーティツールやデータクリーンルームを利用して広告主と提携し、規制の目を逃れようとしている。このような「中立的」なプラットフォームでは、広告主とパブリッシャーがユーザーの個人識別情報を共有することなくデータを共有し、広告ターゲティングの提案を行うことができる。中立的なプラットフォームについての詳細はこちらの記事を参照のこと。
- ヤフー(旧ベライゾン・メディア)は、GoogleによるサードパーティCookie廃止の騒動を、自社のDSPとID(ConnectID)を推進する機会と捉えている。ConnectIDは、現在、約4億台のデバイスで1億4800万人のログインユーザーにリーチしている。ヤフーは、IDの構築、コンテクスチュアルコンポーネントの追加、アドレサブルTVへのインベントリー拡張のために、技術プロバイダーやデータプロバイダーとの提携を重ね、自社のDSPプラットフォームを強化している。DSPについての詳細はこちらの記事を参照のこと
- 従来はメディア測定企業だったコムスコアは、他の多くの企業と提携し、クライアントにコンテクスチュアルターゲティングサービスを提供している。コムスコアのコンテクスチュアル・オーディエンスセグメントは、300万人のインターネットユーザーからなるグローバルパネルを使用して構築されており、これらのユーザーの3分の2は米国外に居住している。ターゲットとしたいユーザーのファーストパーティデータを持つ広告主は、そのデータをツールにアップロードし、コムスコアの利用可能なセグメントにターゲット広告を出すことができる。コムスコアのコンテクスチュアル・ターゲティング・プラットフォームの詳細はこちらの記事を参照のこと。
ケーススタディ:ペンスキー・メディア(マックス・ウィレンによる記事全文はこちら)
ペンスキー・メディアは自社ブランドを横断的に販売する方法を模索しており、自社開発のターゲティングプラットフォームを使って構築されたデータスタジオ、PMCアトラス・データ・スタジオ(PMC Atlas Data Studio)が広告主の興味を獲得することを期待している。2021年3月、バラエティ(Variety)、ローリング・ストーン(Rolling Stone)、WWDなどの消費者、ビジネス向け出版物を所有するペンスキーはアトラスを立ち上げ、ブランドがポートフォリオ全体の読者をターゲティングできるようにした。コムスコアによれば、ペンスキーはポートフォリオ全体で1カ月当たり1億3400万人のユニークユーザーにリーチしている。アトラスは約500のオーディエンスセグメントを提供しており、その多くはサードパーティセグメントを使ってリーチできる既存のセグメントをそのまま採用したもの、広告主やエージェンシーのRFPから直接取り出したものだ。
ペンスキーはアトラスを構築する際、自社ブランドのSHEメディア(SHE Media)が運営する女性ブロガーのネットワーク、ブログハー(BlogHer)の広告を管理するためにつくられた広告ルーティングプラットフォームを使った。2020年8月、この技術はペンスキーのポートフォリオ全体に展開され、各ブランドの販売グループが販売活動に利用できるようになった。同業他社の多くがそうであるように、ペンスキーがデータスタジオへの投資を決めたのは、メディア業界に訪れるサードパーティCookieの変化に対応するためでもある。現在のところ、アトラスで利用できるオーディエンスセグメントの価格は、サードパーティCookieで利用できるオーディエンスセグメントの価格と同じだ。
また、アトラスは記事の閲覧や動画の視聴、アンケート調査の回答、ショッピングデータなど、サイト上でのユーザーの行動も利用している。さらに、ニュースレターや雑誌の購読者、イベントの登録者(2020年には200近くのバーチャルイベントをプロデュース)から収集したファーストパーティデータ、多数のデータパートナーシップもセグメントの構築に役立てている。最高広告およびパートナーシップ責任者のマーク・ハワード氏は、ポートフォリオのオーディエンスの約10%がメールアドレスなどの永続的な識別子に結び付けられる認証済みユーザーだと述べ、その割合を増やすための方法を模索しているところだと言い添えた。
判定
プラス面
- パブリッシャーは大手DSPへの依存から脱却し、広告主とインベントリーを共有するための代替的かつ直接的な方法を模索している。
- パブリッシャーはファーストパーティデータとそれにアクセスする広告主をより細かく管理できるようになる。たとえば、偽情報や過激思想を広めるコンテンツをウェブサイトに表示できないようにすることも可能だ。その結果、消費者の信頼を取り戻すことができる。
- オープンなDSPではなく、ライセンスサービスやより「中立的」な透明性に配慮したツールでデータが共有されるため、広告掲載の仕組みに関する透明性が高まる。
マイナス面
- 独自ツールの構築や外部データプラットフォームのライセンス購入は、多額の金銭的な投資を必要とする可能性があるため、小規模パブリッシャーにとっては必ずしも選択肢にならない。
- 新しいツールキットを導入する際は、購入資金とトレーニングへの投資が必要。
- マッピングやマッチングの世界では、代替IDに電子メールのハッシュ化やIPアドレスを使用し、パブリッシャーのデータを広告主と共有するため、コンプライアンスは保証されていない。ポリシーを取り巻く環境は変化を続けているため、これらの将来はいまだ不透明だ。
07 今後の展開
PHDメディア(PHD Media)で全世界のアナリティクスを統括するポール・クックー氏はDIGIDAYの取材に対し、次のように簡潔に述べている。「私たちは2つの分野で最大の変化が起きると予想している。ひとつは、広告主とパブリッシャーの双方にとって、ファーストパーティデータの価値が上がること。そしてもうひとつは、ユーザーと直接的な関係を持たないデータブローカーやパートナーからもたらされるサードパーティオーディエンスデータの欠乏だ」。
しかし、いくつかのステップを並べ、それをロードマップと呼ぶのは簡単だが、ファーストパーティデータの収益化は誰にでもできることではない。ニューヨーク・タイムズのような大手パブリッシャーは、広告主に直接販売するための新たな方法に投資するリソースを有しており、広告主も数百万規模のオーディエンスに高い関心を持っている。また、上述のパートナーシップやアライアンスは、大手パブリッシャーと広告主によるものがほとんどだ。
小規模パブリッシャーは今後も売上の大部分をヤフー、コムスコアのような大手DSPとGoogle、Facebookなどの大手アドテク企業に依存し続けることになるだろう。規模を拡大する能力も代替ID技術に投資するリソースもないためだ。そして、ウェブコンテンツの大部分を占めるのがレシピサイト、テクノロジーブログといった小規模パブリッシャーだ。DIGIDAYリサーチによれば、小規模パブリッシャーの半数はサードパーティCookieの廃止後、広告売上に頼ること自体をやめると述べている。
FTIコンサルティング(FTI Consulting)でシニアマネージングディレクターとグローバルパブリッシングリーダーを兼任するケン・ハーディング氏は「大手テクノロジープラットフォームや巨大パブリッシャーには、この荒波を切り抜けるだけのリソースがある」と話す。「それ以外の企業は皆、荒波に身を任せて得られる範囲のものを得ようとするだろう(中略)うまくはまったところで得られるCPMが1.15ドルだったら、投資しようとは思わない」。
ファーストパーティデータに関しても、大手アドテク企業は世界中のデータセンターにかつてないほど大量のデータを保存しており、ユーザーは素早くアクセスするため、むしろ喜んで規約に同意しているようだ。何百万ものパブリッシャーが代替手段を探すことすらせず、Googleの広告技術を使い続ける可能性が非常に高い。しかも、サードパーティCookie後の世界にスムーズに移行することがGoogleの利益につながる。最終的には、Googleのような企業がルールをつくることになるだろう。そして、ほとんどのパブリッシャーに対し、コンプライアンスを確保し、自社のテクノロジーを使えば、競争力を維持できると教えることになるだろう。
[原文:Digiday Media Research A comprehensive guide to third-party cookie alternatives] AMINA ASIM(翻訳:佐藤卓、藤原聡美、米井香織/ガリレオ、編集:分島翔平)