連邦取引委員会(FTC)は、体制強化のためにテクノロジー担当局(Office of Technology)を新設したと発表した。捜査、執行、調査研究、利害関係者への働きかけなど、巨大IT企業の規制強化をめざすという。アドテク業界に向けられる政治の目が、少しばかり厳しさを増している。
アドテク業界に向けられる政治の目が、少しばかり厳しさを増している。
連邦取引委員会(FTC)で唯一共和党に所属する委員が、同僚委員たちの職権濫用が目に余ると主張して辞任の意向を表明したが、そのわずか数日後、FTCは体制強化のためにテクノロジー担当局(Office of Technology)を新設したと発表した。捜査、執行、調査研究、利害関係者への働きかけなど、あらゆる活動を新たなリソースで支え、巨大IT企業の規制強化をめざすという。
プライバシー、AI、SNSなどの領域で訴訟が続く
加えてこのほど、ほかにもアドテクやプライバシーに関する政策がらみの動きがいくつもあった。議会では、米下院司法委員会が主要IT企業5社の最高経営責任者(CEO)に召喚状を送付し、共和党支配の同委員会が主導する言論の自由の問題に関する調査のために、書類などの提出を求めた。さらに、米司法省が反トラスト法違反の疑いでAppleを提訴することを検討しているとの報道もあった。同省は直近、同じ理由でGoogleを提訴している。一方、大西洋の対岸では、複数の欧州連合(EU)加盟国がAI(人工知能)法案を拠り所に、AI関連の問題を規制しようと試みている。同法は、企業によるAIの開発を管理し、機密情報やそのほかのデータをAIのトレーニングに活用することを規制する法律である。
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また、議論の的になるような訴訟関連の話題がもうひとつ控えている。(SNS利用者が発信したコンテンツに関して、当該SNSの運営企業は法的責任を問われないと規定する)通信品位法第230条がらみのGoogleおよびTwitterに対する訴訟に関連して、米連邦最高裁がそれぞれ口頭弁論を開催したのだ。いずれの訴訟も、その行方がインターネットにおける言論の自由の未来に大きな影響を与えうるものだ。しかし、多くの人は2つの訴訟が及ぼす間接的な影響の方がむしろ甚大だと見ている。
米インタラクティブ広告協会(IAB)で公共政策担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるラーティーズ・ティフィス氏は、通信品位法第230条についてこう説明する。「たとえば、あなたはパブリッシャーで、運営するサイトにコメント欄を設けているとする。誰かが他人を誹謗中傷するようなコメントを投稿しても、この条項があなたを免責してくれる。あるいは、中小企業が運営するサイトに、どんなレビューあるいはどんなコメントが投稿されても、この企業はやはり第230条によって守られる」。
消費者は自身のデータがどのように活用されているかを知らない
データプライバシーは規制当局にとってはますます重要なテーマになっているが、この問題に対する米国民の理解は必ずしも十分とはいえないようだ。
ペンシルヴァニア大学による最近の調査では、企業が消費者のデータをどのように活用しているか、あるいは現行法のもとでは何が合法で何が違法なのかについて、消費者がどの程度理解しているのか調べている。たとえば、調査に回答した人の80%は、「現行の保健法では、自分の健康データが企業に売却されることを回避できない」ことを知らなかった。さらに、「企業が消費者について知る方法を、消費者自身はほとんど制御できない」と答えた人が80%、「企業が自分のデジタル行動を把握すれば、自分にとって有害となることもある」と答えた人が同じく80%に達した。
この調査では、消費者がオンラインでの価格設定について、ほとんど何も理解していないことも示された。たとえば、「オンラインストアでは、買い物客の所在地によって異なる価格を提示してもよい」ことを知らない人が63%にのぼり、「旅行サイトが航空券の最安値を表示しなくてもよいことを知らなかった」と答えた人は72%に達した。
個人データやAIのトレーニングモデルに関しては、許容されるべき範囲について、まだ答えの見つからない疑問がいくつも残されている。フランスのAI開発企業サイビッツ(Scibids)でCMOを務めるナディア・ゴンザレス氏は、個人を識別できる情報の利用は許されるべきでないと話すが、ウォールドガーデンと呼ばれるプラットフォーマーたちは、自社のモデルを構築するために、いまも大量のユーザーデータを利用している。
しかし、プライバシー規制への対処は進んでいる
連邦政府のプライバシー保護法令を待たずに、企業や業界団体はこの問題に対処するためにそれぞれ独自の製品開発を進めている。たとえば、GoogleはAndroidユーザー向けにプライバシーサンドボックスのベータ版を公開した(同社のアドテク製品は司法省による反トラスト法違反訴訟に含まれている)。一部には、業界標準を定めることにより、Googleのようなウォールドガーデンから業界を守るだけでなく、デジタル広告市場でもっと幅広く相互運用性を推進するための枠組みもできるだろうという者たちもいる。
「これまでソリューションの開発に向けて多くの取り組みがおこなわれてきた」と、メディアマス(MediaMath)の最高プライバシー責任者を務めるフィオナ・キャンベル・ウェブスター氏は話す。また、「しかしこれからは、目標に向けて努力するというよりも、これまでの努力が実を結びはじめるだろう」と期待を語った。
[原文:From the FTC to SCOTUS, the ad tech world has its hands full of privacy and policy issues]
Marty Swant(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)