[ DIGIDAY+ 限定記事 ]CPMは広告におけるもっとも一般的な価格設定モデルですが、質より量という結果に陥りやすい面があります。そんななか生み出された指標が、「クオリティCPM(quality CPM:以下、QCPM)」です。今回の「一問一答」シリーズでは、QCPMについて抑えておくべき点についてご説明します。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]プログラマティック広告主のなかには、一部キャンペーンについて、CPM(1000インプレッションあたりの単価)で購入していない広告主もいます。CPMは広告におけるもっとも一般的な価格設定モデルですが、アドテクベンダーに対して広告1000回表示あたりの支払いを行うのは、質より量という結果に陥りやすいからです。つまり、CPMだと、ターゲット層のオーディエンスに、広告を表示できているとは限らないのです。
そこで代替となるのが「クオリティCPM(quality CPM:以下、QCPM)」です。これは、広告主からプログラマティックの広告販売について再考を迫られた、オムニコム(Omnicom)傘下のハーツ&サイエンス(Hearts & Science)やWPP傘下のエッセンス(Essence)といったエージェンシーが、CPMの代わりに開発したモデルとなっています。
ですが、QCPMについての理解や使い方、成功の指標は主観的なもので、この分野に取り組む広告企業ごとに、独自の解釈があるといっても良いでしょう。そこで、今回の「一問一答」シリーズでは、QCPMについて抑えておくべき点についてご説明します。
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――とりあえず、QCPMとは何でしょう?
広告主に対して、「インプレッションの本当の価値を測定する」として販売する方法を指します。QCPMは何年も前から存在していますが、最近まで大手のプログラマティック広告主は、あまり採用してきませんでした。QCPMは、ビューアビリティや時間帯といった、キャンペーンのパフォーマンスやユーザーの注目度に関連する、あらゆる要素のCPMを重ね合わせたシステムとなっています。通常のCPMの場合、バイヤーがカウントするインプレッションは、実際にユーザーが見られているのか、ブランドセーフなのか、などを考慮していません。一方QCPMであれば、ブランドセーフな環境で、実際にユーザーが見られるインプレッションのみをカウントしており、フリークエンシーキャップ(同一ユーザーに対する広告表示回数の制限機能)も適用されます。
ブランドやエージェンシーに自社のQCPM技術を販売している広告企業アデレード(Adelaide)でCEOを務めるマーク・ガルディマン氏は、「これまで、ダイレクトレスポンス広告であれば、1クリックあたりのコストといった価値に即した基準があった。だが、ブランドイメージを伝える広告では、そうした適切な基準がなかった」と指摘します。「購入するメディアの質を評価するブランドが増え、適切な基準が生まれた」。
――QCPM、良さげですね。でも、お高いんでしょう?
大企業の広告主は、投資利益率の高いものには、喜んで金を出すといっています。QCPMは、効果と効率を定量化することで、こうした企業の需要を満たそうとしているのです。言い換えれば、QCPMはCPMに変わるものではなく、一定以上の質を担保するものといえるでしょう。
とある顧客が、CPMの上昇と同時に、QCPMの低下を目の当たりにしたときに、ハーツ&サイエンスの幹部は、デジタルテレビであれ、リニアテレビであれ、あらゆるメディアのCPMが低いほど価値が高いという社会通念を払拭しようと努めたそうです。
プログラマティック広告は底なしの市場です。安価なインベントリーが溢れる、そんな市場から購入しろという指示に苦しむバイヤーは少なくないと、ハーツ&サイエンスの最高データ責任者を務めるメーガン・パリューカ氏は語ります。「各社の調達部門に対し、CPMではなく価値のあるインプレッションあたりのコストの重要性を説いている。このような努力によって、こうした現状に変化が起きつつある」。
――QCPMはどのように算出するのでしょう?
算出方法は、QCPMの提供企業によって異なります。ハーツ&サイエンスがここ2年間、クライアントに自社のQCPMとして説明しているのが、価値のあるインプレッションあたりのコストです。同社はGoogleのアズ・データ・ハブ(Ads Data Hub)や、DSP、ビューアビリティ企業、カスタマーデータプラットフォームといったアドテクベンダーからインプレッションに関するログレベルのデータを集め、キャンペーンのパフォーマンスを測る独自のQCPMを作り上げています。各要素の係数は場合によって異なりますが、基本的にはビューアビリティとブランドセーフティ、対象オーディエンスとのマッチといった要素が考慮されます。
アデレードをはじめ、各企業とも広告ユニットに対するオーディエンスの注目度に関連した、さまざまなスコアを使用しています。アデレードでは、広告ユニットのサイズ以外にも、画面上に同時に表示される広告数や、広告が画面にどれくらいの時間表示されているかといった要素を考慮して「クオリティ・スコア」を算出しています。このスコアをもとに、キャンペーンのパフォーマンスを評価して、戦略の最適化などを実施するそうです。
――QCPMを利用する最適なタイミングは?
バイヤーによっては、キャンペーン後の測定に、QCPMを利用するのが最適な場合もあります。また、最適化のツールとして利用すべき場合もあります。
アドテクベンダーのソブロン(Sovrn)でバイヤー開発ディレクターを務めるアレックス・ブラッドバリー氏は、「CPMはいまもプログラマティックで広く使われているが、QCPMはキャンペーンによって、どれだけの価値が上乗せされたかをより明確に把握できる」と、指摘しています。
――QCPMが広告主にとって良いといわれているのはなぜ?
CPMは、一般的に古臭い価格設定モデルとみなされています。着目点がリーチのみで、キャンペーンについて広告主がほかに設定している目標などは考慮されません。ですが、非常に長いあいだ、この方法で莫大な数の広告が購入されてきたため、乗り換えづらいと感じる広告主が多いのが現状です。とはいえ、この風潮も少しずつ薄れてきています。CPMは、確かに低コストですが、底辺価格で広告を購入したところで、フラウドやビューアビリティ、ブランドセーフティの観点における損失も大きく、大企業の広告主にとって、購入を正当化するのが難しくなっているのです。QCPMが、こうした問題を一挙に解決するわけではありませんが、バイヤーがより細かい購入について精査できるようにはなります。
「より大規模に効率的に配信できる安価なインベントリーのほうが良いという考えもある。逆に価格は高いが、高品質な環境のほうが価値が高いという意見も存在する」と分析するのが、コンサル企業プロマティカ(Promatica)の最高戦略責任者を務めるブライアン・リーダー氏です。「QCPMは、どちらの意見が正しいかを確認できる重要なデータとなるだろう。少なくともより具体的な情報に基づいた議論ができるようになるのは間違いない」。
――QCPMがパブリッシャーにとっても良いといわれているのは、なぜなのでしょう?
QCPMはブランドセーフな環境で、関心度の高いユーザーが、実際に見ることができる広告が有利になります。逆にシステムを悪用して見えない形で手数料を取ったり、フラウドのインプレッションを販売しようとしたりする悪質なアドテクベンダーにとっては不利なのです。
Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)