一般ユーザーによって作成されるコンテンツ、いわゆるUGCの定義が広がるに伴い、その作成にあたるクリエイターたちの支援に特化したプラットフォームが登場している。これら新興プラットフォーム勢は、単にコンテンツを作成したり公開したりする場にとどまらない。
一般ユーザーによって作成されるコンテンツ、いわゆるUGC(ユーザー生成コンテンツ)の定義が広がるに伴い、その作成にあたるクリエイターたちの支援に特化したプラットフォームが登場している。これら新興プラットフォーム勢は、単にコンテンツを作成したり公開したりする場にとどまらない。むしろ、人材管理、資金調達、マーケティングなどの機能を提供し、UGCクリエイターたちの収益化を統合的に支援している。
Googleで「UGC」と検索すると、主に個人によって作成される、あらゆる形態のコンテンツを指して使う言葉だと分かる。YouTubeの動画やTwitch(ツイッチ)の動画、ロブロックス(Roblox)やマインクラフト(Minecraft)で使うゲーム内アプリや拡張パックもUGCに含まれる。また、ライターや写真家と同様、コスプレイヤーがUGCクリエイターと呼ばれることもある。では、大喜利ネタのようなミーム(meme)はどうか。これもやはりUGCだ。
UGCプラットフォームのオーバーウォルフ(Overwolf)でCMOを務めるシャハル・ソレック氏によると、UGCという言葉は、大きな傘を広げて広範なコンテンツをカバーするには有用なのだという。オーバーウォルフの場合、既存タイトルをもとにゲーム内コンテンツを作成するクリエイターの支援に特化している。たとえば、ロブロックスのミニゲームや、グラフィックスを鮮明化したりツールを効率化したりするマインクラフトの「MOD(改造)パック」などがこれに当たる。「『クリエイター』というざっくりとした大見出しを掲げることにより、より多くの作り手を支援の傘下に迎えることができる」とソレック氏は述べている。
Advertisement
新興プラットフォーマーたちの収益モデル
オーバーウォルフは、UGCの台頭をビジネスチャンスと考えるスタートアップ企業のひとつだ。同社はこの8月、5000万ドル(約56億円)規模の「クリエイター基金」を立ち上げ、ゲーム内コンテンツを開発するクリエイターたちが、自分の好きなことで利益をあげるための支援に乗り出した。オーバーウォルフに参加するMODパックの開発者のなかには、マーケティングやそのほかの後方支援に加え、この基金による資金援助を受けながら、自分の趣味を事業化するものたちが現れている。
この8月にサービスを開始したUGCプラットフォーム、インフィニットカンヴァス(Infinite Canvas)も、ゲーム内コンテンツを作成するUGCクリエイターに、資金的および後方支援的なサポートを提供しており、参加するクリエイターに還元した金額はすでに100万ドル(約1億円)を超える。オーバーウォルフとインフィニットはともに、クリエイターが得られるコンテンツの売上金やサブスクリプション収入の一部を、投資への利益として受領している。オーバーウォルフの場合、クリエイターの取り分は75%で、残り25%がプラットフォーム側に支払われる。インフィニットカンヴァスのタル・シャカール最高経営責任者(CEO)は以下のように述べる。
「我々は開発者に対し、ゲームをより大きく豊かに育てるためのツールや、より大きな収益を得るためのツールを提供している。開発したゲームの収益が2倍、3倍、4倍になれば、我々の取り分も大きくなる」。
スタートアップだけではない
UGCプラットフォームの台頭は、ゲーム内コンテンツあるいはスタートアップの世界に限ったことではない。
9月7日、ゲーム開発会社のエレクトロニックアーツ(Electronic Arts:EA)は、EAクリエイターネットワークの創設を発表。同社はこのプラットフォームを活用して、EAのタイトル内でコンテンツを作成するクリエイターをより直接的に支援し、彼らのために収益の機会を創出したいと考えている。EAが定義するUGCにはゲーム内クリエイターも含まれるが、同社のクリエイターネットワークはオーバーウォルフやインフィニットカンヴァスよりも広い範囲をカバーしている。EAのデヴィッド・ティンソンCMOはこう語る。「『エーペックスレジェンズ(Apex Legends)』のコミュニティには、才能あふれるアーティストたちがいる。『マスエフェクト(Mass Effect)』のコミュニティにはコスプレイヤーがいる。『バトルフィールド(Battlefield)』と『ニード・フォー・スピード(Need for Speed)』のコミュニティにはすばらしいスクリーンショットアーティストがいる。我々にとって、彼らは皆クリエイターだ」。
EAクリエイターネットワークは、EAが運営する既存のコミュニティパートナーシッププログラム「ゲームチェンジャーズ」に参加している人なら、誰でも登録できる。また直近では、既存のプログラムに、コスプレイヤー、ライター、ゲーム内コンテンツクリエイターという新たなカテゴリーを設け、ジャンルは全部で10種類に拡大されているという。
ただ、EAクリエイターネットワークは、多様なジャンルのクリエイターを支援の対象としているが、作り手に直接資金を提供するものではない。代わりに、個人で活動するクリエイターに対して、『Spark’d』のような直接的な収入機会を提供したいとしている。『Spark’d』は2020年に放映されたリアリティ番組で、ザ・シムズ(The Sims)のクリエイターが集まり、賞金獲得をめざしてコンテンツ制作の腕を振るった。また、EAクリエイターネットワークは、上述のUGCプラットフォームと同様、クリエイターたちに助言や後方支援の提供も行っている。ティンソン氏はこう述べている。「EAのクリエイターネットワークは、通常の人材斡旋業者を介さず、クリエイターたちと直接関わることを目的としている。互いの信頼と、率直に語り合えるオープンな関係の上に成り立つパートナーシップだ。クリエイターが作りたいコンテンツを作り、自らのブランドを構築する機会を提供したい」。
YouTubeやTwitchにはない強み
YouTubeやTwitchといった既存のサービスも、UGCクリエイターを支援するプラットフォームとして、一定の役割を果たしている。実際、サブスクリプションや広告収入は、クリエイターが自分の作品を収益化する有効な手段として、ずっと以前から存在していた。
しかしこれらのサービスと違い、UGCプラットフォームは、たとえばサブスタック(Substack)がライターの収益化支援を目的としているように、クリエイターの支援に特化している。そしてその支援は、クリエイターが自営業者として収入を得る手助けにとどまらず、起業するのに必要なサポートをも含んでいる。さらに、ユーチューバーやTwitchストリーマーは、それぞれのプラットフォームに依存して収入を得ているが、オーバーウォルフやインフィニットカンヴァスは、クリエイターに依存して利益を得ることを期待している。
動画配信のインフラを提供するライブピア(Livepeer)のダグ・ペトカニクスCEOは、ストリーマーが自分のコンテンツをもっと直接的に所有できるようにすべきだと考えており、次のように話している。「これら新興のUGCプラットフォームが軌道に乗れば、YouTubeやTwitchに備わる機能の大半を提供するようになるだろう。それだけではない。UGCプラットフォームに集まるクリエイターたちは、経済的な独自性を維持する、非常に大きな力をも手に入れるだろう」。
インフルエンサーからクリエイターへ
「インフルエンサー」という言葉が「クリエイター」に取って代わられつつあるなか、消費者と消費者にリーチしたいブランドは、UGCと企業が作成するコンテンツを明確に異なるものとして定義しようとしている。UGCプラットフォームのティント(TINT)がまとめた「UGCの現状に関する2021年報告書」によると、「消費者は、ブランドが制作したコンテンツよりもUGCを信頼している」と考えるマーケターは93%にのぼるという。
1996年、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は「コンテンツは王様だ」といい切った。この言葉は、冒頭に「ユーザー生成」を付け足せば、2021年のいまでも十分に通用する。ユーザーが、持続的にコンテンツを作成するためのプラットフォームが登場したのは必然なのだ。
「(UGCプラットフォームには)情報発信を管理したり制御したりするゲートキーパーはいない」とオーバーウォルフのソレック氏は話す。「伝統的な経営幹部たちがどこかの部屋に集まって、誰が何を作るか決めるようなこともない。長らく多様性を阻んできた人工的な障壁もないということだ。我々はこの変化をさらに発展させ、コンテンツクリエイターの自立を促す力となりたい」。
[原文:With user-generated content on the rise, platforms are emerging to support this new type of creator]
ALEXANDER LEE(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)