Snapchatの「レンズ」はもはや、セルフィーを犬の耳や花冠で飾るためだけのものではない。ソーシャルコマースの競争が激化するなか、スナップは広告主に対し、VR技術を利用した販売促進に賭けてみるよう呼び掛けている。スナップのVR技術を理由にSnapchatに投じる広告費を増やす予定だと述べているブランドもある。
Snapchatの象徴的なカメラ用特殊効果フィルター「レンズ」はもはや、セルフィーを犬の耳や花冠で飾るためだけのものではない。ソーシャルコマースの競争が激化するなか、スナップ(Snap Inc.)は広告主に対し、Snapchatのバーチャルリアリティー(VR)技術を利用した販売促進に賭けてみるよう呼び掛けている。
すでにプーマ(Puma)、ディオール(Dior)などのブランドが呼び掛けに応じており、D2C下着ブランドであるカップ(CUUP)をはじめ、スナップのVR技術を理由にSnapchatに投じる広告費を増やす予定だと述べているブランドもある。
ソーシャルコマースに不可欠なAR
AmazonとPinterestがショッピング可能なバーチャル試着技術を発表したことをきっかけに、近年ソーシャルコマースの分野は勢い付いている。Snapchatは5月に開催したスナップ・パートナー・サミット(Snap Partner Summit)で、対面の買い物を模した新しい拡張現実(AR)試着体験をいくつも紹介した。たとえば、D2Cスキンケアブランドのトゥーラ(TULA)はアイクリームの宣伝を目的としたARレンズを公開。広告内でクリームを塗るシミュレーションを行い、クリーム使用後の自分を見ることができるというものだった。
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Snapchatで新興コマースの責任者を務めるマーク・マクマスター氏は「我々はまだ、(店頭での)買い物の魅力をARで再現し始めたばかりだ」と語り、ユーザーが試し、購入し、友人と共有できるというソーシャルな性質が差別化要因だと補足した。「カメラはショッピング体験にとって意味あるものになるだろう。スマートフォンを持って外出しているときだけでなく、実際に店頭で買い物しているときもだ」。
AR技術の公開以来、広告主はSnapchatにおけるZ世代のオーディエンスを開拓する手段として、同社の技術に関心を寄せている。世界最大級のエージェンシーグループであるWPPは9月末、クライアントがAR技術を活用できるようスナップとの初めてのパートナーシップを発表した。プーマやディオール、スニーカーブランドのホカ(HOKA)などのブランドはすでに、Snapchatのユーザーが商品をバーチャル試着できる広告キャンペーンを開始している。
マクマスター氏のチームはより多くの広告費を獲得するため、現在の勢いに乗り、より多くのD2C企業、中小企業にAR機能を提供しようと計画している。5月には、AR広告に関心を持つブランドが適切なリソースを見つけられるよう、クリエイター向けのマーケットプレイスを立ち上げた。また、機械学習を利用し、広告主のキャンペーンに試着機能を追加するクリエイターマーケットプレイススタジオも宣伝している。
今やソーシャルコマースの軍拡競争
スナップの広告費は広告目的に応じて変動する。ただし、スナップによれば、1日5ドル(約570円)から始めることができるという。特にバーチャル試着に関しては、商品の試着1回当たり0.01ドル(約1円)という低コストを実現しているブランドもあると広報担当者は述べている。同社では現在、認知度を高めたい小規模なブランド、商品の発売によって売上を増やしたいブランドと緊密に連携している。マクマスター氏によれば、広告主を支援するため、カテゴリーごとに活動するクリエイティブ戦略チームを用意しているという。
「我々はすでに盛況なエコシステムに投資しているが、より多くのブランドがARを利用できるよう、エコシステムの成長にも継続的に取り組んでいる」。
バーチャル試着に傾倒するプラットフォームはSnapchatだけではない。今やソーシャルコマースの軍拡競争と呼ぶべき状況だ。オンラインで買い物する人が増えるなか、インスタグラム、Snapchat、Pinterestなどのソーシャルメディアプラットフォームが広告費のより大きなシェアを獲得しようと躍起になっている。パンデミックの影響で、オンラインショッピングが急速に拡大し、広告主はバーチャル試着という選択肢を再検討せざるを得なくなった。消費者調査会社ピープルセイ(Piplsay)の調査によれば、米国人の34%がすでに、主に衣料品やアイウェアのバーチャル試着技術を体験している。
変わりつつあるソーシャル広告
このような軍拡競争のなか、Facebookはアプリからの直販をうたうFacebookショップを開始した。TikTokもショッパブルリンク、ライブストリームショッピング、広告内の商品ギャラリーを発表し、競争に参加したとクオーツ(Quartz)は報じている。そして、Pinterestは1月にバーチャルメイク機能を、6月にはショッピング可能な商品のピンを自動的に保存する新機能をリリースした。
R/GAのシニアバイスプレジデントで、メディアおよびコネクションのグローバル責任者でもあるエリー・バンフォード氏は、伝統的にソーシャルメディア広告は高頻度で表示され、「不快で、侵略的で、頭をたたくような方法」を取ってきたと話す。それでも、ソーシャルコマースは中小企業やD2Cブランドにとって、カスタマージャーニーに合わせてより多くの人の目に触れ、規模を拡大する新たな手段だ。
「スナップは中小企業に対し、D2Cショッピングと売上を促進するためのユニークな提案を行っている。これは彼らが広告プラットフォームとして成長できる最大級の分野だ」とバンフォード氏は語り、D2Cブランドはダイレクトレスポンスとコンバージョンに特化したSnapchatの機能に引き寄せられていると指摘した。
Snapchatのチームは米DIGIDAYの取材に対し、ARキャンペーンを終えたばかりのD2Cブランドを2つ挙げた。下着ブランドのカップとスキンケアブランドのトゥーラだ。
「常時運用の戦略にしたい」
カップの成長担当ディレクター、ソフィー・ダンカン氏によれば、現在、メディア予算の10~15%ほどをSnapchatに投じており、Facebook、Googleに次ぐ3番目に大きな部分を占めているという。すでに市場にいる買い物客をリターゲティングするため、2年半前からSnapchatに広告を掲載しているとダンカン氏は話す。しかし、バーチャル試着技術が導入されたため、さらに広告費を増やす予定だとカップは述べている。
カップはブランド認知度の向上と広告支出の多様化のため、ショッパブルARレンズを用いたキャンペーンを2度行ってきた。カップが挙げた2つの目的は、データプライバシー対策が進むなか、多くの小売企業が最重要課題と捉えているものだ。1回目のキャンペーンは2020年10~12月、2回目は2021年5~7月に実施されている。
「理想を言えば、常時運用の戦略にしたい」とダンカン氏は語り、サイトのトラフィックと売上が上昇していると明かした(ただし、具体的な数字には言及しなかった)。「レンズを通じたエンゲージメントと露出のおかげで、我々が重視するすべての要素が急上昇している」
[原文:Why Snap is leveraging augmented reality technology to get a leg up in the social commerce arms race]
KIMEKO MCCOY(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島翔平)