ロレアル(L’Oréal)は長年にわたり、ブランドストア、アフィリエイト、ソーシャルネットワーク、マーケットプレイスなど、巨大なECビジネスを構築してきた。そして、ついにTikTokだ。ガルニエ(Garnier)などのTikTokアカウントページから商品を直接購入できるようになった。
化粧品メーカーのロレアル(L’Oréal)は長年にわたり、ブランドストア、アフィリエイト、ソーシャルネットワーク、マーケットプレイスなど、巨大なECビジネスを構築してきた。そして、ついにTikTokだ。
ロレアルのファンは、ガルニエ(Garnier)やニックス・プロフェッショナル・メイクアップ(NYX Professional Makeup)のTikTokアカウントページから商品を直接購入できる。
そこでは、ショートフォーム動画やライブストリーム、そしてブランドのメインフィードと「いいね!」動画タブのあいだにある、特別なTikTokプロダクトタブのリストなど、さまざまな方法で製品を確認して購入することができる。
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ガルニエとニックスはコンテンツ、特にショートフォーム動画とライブストリームを制作するため、フォロワー数9万8300人のチャー・バーカー(Char Barker:@charbarker)、9万6200人のコーシャル(Kaushal)など、14人のTikTokクリエイターと連携。今のところ、動画は基本的にクリエイターが制作した商品デモで、クリエイターはファンに、リンクをクリックして購入することを呼びかけている。
最終的に、商品デモはライブストリームに変わる予定だ。ロレアルは中国で人気を集めているライブストリームのようなものを再現しようとしている。KPMGと阿里研究院(Aliresearch)の予測では、ライブストリームは2020年、中国で1兆元(約17兆1000億円)の売上を達成している。
TikTok特有のECビジネス
「TikTokではマーケティングファネル全体をワンステップで完了できる」と、ロレアルUKおよびアイルランド法人のCMO、レックス・ブラッドショー・ザンガー氏はいう。ブラッドショー・ザンガー氏は、TikTokでのECビジネスがほかと異なる理由を説明する。
これまで複数のプラットフォームがこの分野に参入しようと試みてきた。Amazonはスパーク(Spark)をリリースしたが、誰も利用しなかった。Facebookもインスタグラムもインフルエンサーとブランドのバランスをうまく取っているとは言い難い。TikTokにおけるコンテンツとコマースは、少なくともブラッドショー・ザンガー氏にとっては、ほかのどこより近い関係にある。
「クリエイターが商品について話しているのを見て、自分にとって重要だと感じたら、クリックひとつで商品ページに移動して注文できる」。ブラッドショー・ザンガー氏によれば、初回購入後はさらに円滑になるという。支払い方法や住所などの情報を再度入力する必要がないからだ。
このようなスムーズさを実現するため、舞台裏で多くの改善が行われている。ロレアルでは、まずクリエイターと仕事をする方法を変える必要があった。クリエイターが商品やコンテンツでできること、できないことについて、厳格なルールはもう存在しない。その代わりに、人々がTikTokで好んで見ているような、奇抜さや臆面のなさを表現する自由が与えられた。また、さまざまなチームが力を合わせなければならないこともあった。実際、ロレアルでは、デジタルアドボカシー担当幹部とデジタルコマース担当幹部の両方がパートナーシップを推進していたという。
このように重労働をこなしてきたが、まだやるべきことはある。
「オーガニックに頼る時代は終わった」
たとえば、すでにロレアルのマーケターはTikTokと連携し、動画を見てから初回での購入をより簡単に素早くできるようにしようと努力している。これはマーケティングチームが初期のテストで取り組んでいる検討事項のひとつにすぎない。しかし、今後数週間ですべてがうまくいけば、さまざまなクリエイターとさまざまな方法で、ほかのブランドもTikTokで売り出すことになるかもしれないと、ブラッドショー・ザンガー氏は述べている。
「クリエイターからコンテンツ、メディア、売上まで、さまざまな要素がどのように機能するかを見極めたうえで、今後の展開を決めることになる」と、ブラッドショー・ザンガー氏は補足する。「我々はTikTokでのECビジネスを単なる販売促進とは捉えていない。我々が制作しているコンテンツは、ファネル上部の認知と検討に作用する」。
その結果、TikTokにより多くのメディア予算が投じられるようになったとしても驚くことではない。
「オーガニックな配信にすべてを頼る時代は終わった。市場が雑然としていて、リーチしたい人々をより明確にする必要があるためだ」と、ブラッドショー・ザンガー氏は話す。「メディア予算をコンテンツに投じなければ、誰にリーチするかを選ぶことはできない。そのうえ、若い世代はその上の世代ほど、スポンサードコンテンツを見ることに不安を感じていない」。
地域や世代の特徴を掴む
ロレアルがソーシャルネットワーク上でのコマースを推し進めているのは当然、中国で起きていることの影響を受けている。たとえば、イーマーケター(eMarketer)によれば、中国では2019年、ソーシャルコマースが小売部門のEC売上の11.6%を占め、金額は1860億4000万ドル(約20兆3400億円)に達した。参考のために米国の数字を挙げると、金額は194億2000万ドル(約2兆1230億円)だった。しかし、この成功を欧米で再現するのは、東洋で起きていることをただ「コピーアンドペースト」するような単純なものではないと、ブラッドショー・ザンガー氏はいう。
なぜならプラットフォームの構造があまりに違うからだ。東洋ではプラットフォームが垂直統合されているため、買い物客はインフルエンサーを見てからわずか数秒で、宣伝された商品を見て購入できる。欧米ではそう簡単ではない。プラットフォームが「水平統合」されており、異なる体験への移行がスムーズではない。
「(TikTokを所有する)バイトダンス(ByteDance)のルーツが中国であることを考えると、TikTokの経営陣はFacebookやGoogleとは異なる戦略的視点からビジネスを展開できる可能性がある」と、ブラッドショー・ザンガー氏は話す。
TikTokはECの計画を公言しており、2020年から、広告主と話を進めていた。当然ながら、中国にルーツがあるTikTokは、ソーシャルネットワークではなくエンターテインメントプラットフォームとしての地位を確立しようとしており、コマースをメディアや広告分野でニッチを切り開くためのもうひとつの手段と捉えている。
コマーステクノロジー企業アプトス(Aptos)の小売業界インサイト担当責任者、デイブ・ブルーノ氏は、「Z世代は次世代の顧客かつ現在のトレンドセッターでもあり、多くの意味で重要性が高い。そのため、小売ブランドが関係を模索するのもわかる」と話す。「Snapchat、YouTubeなどのチャネルのなかで、TikTokは、従来の小売チャネル以外で、若い消費者と密接な関係を築くことができると証明されている」。
[原文:‘Going through the whole marketing funnel’: Why L’Oréal is turning to TikTok for commerce boost]
SEB JOSEPH(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:小玉明依)