Twitch(ツイッチ)で活躍する人気ストリーマー、イマネ・アニス氏(通称「ポキマネ」:Pokimane)が、自身の人材マネジメント/ブランドコンサルティング会社を設立した。RTSがめざすのは、ブランドとクリエイターのあいだの認識の齟齬を埋め、業界で活動するクリエイターへの待遇を改善することにある。
Twitch(ツイッチ)で活躍する人気ストリーマー、イマネ・アニス氏(通称「ポキマネ」:Pokimane)が、自身の人材マネジメント/ブランドコンサルティング会社を設立した。
この会社は、ゲームジャンルのひとつである「リアルタイム・ストラテジー(Real-time Strategy)」のイニシャルを取ってRTSと名づけられた。アニス氏は「RTSという社名は、我々の事業内容をよく表している。我々は、クライアント企業とそのブランドを成功に導く、臨機応変な戦略を提案することを目指している」と述べる。
RTSがめざすのは、ブランドとクリエイターのあいだの認識の齟齬を埋め、業界で活動するクリエイターへの待遇を改善することにある。そしてその目的を、アニス氏の経験にもとづいた、効果的なマネジメント体制の構築などによって達成しようとしている。
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RTSの成り立ちと目標
RTSの正式な設立日は10月27日だが、eスポーツの分野では、その数カ月前から事業を展開してきた。2020年11月に、アニス氏が自身のマネジメントチーム再編成に着手したときの経験が、起業のきっかけになったという。「当時私は、外部からの支援を求めて多くのエージェントやマネジメント会社の人たちと会い、話をした。しかし、残念ながら期待外れに終わった」。
アニス氏はそのときの失望感を、エンデバー(Endeavor)eスポーツ部門のシニアバイスプレジデント、スチュアート・ソー氏に伝えた。「そこから徐々に話が進み、仮説をもとに問題の解決策を探った」とアニス氏は述懐する。その後まもなく、アニス氏とソー氏はRTS設立に合意し、3人目の共同創業者として、エンデバー傘下のクリエイティブ代理店、160over90で上級アカウント・ディレクターをつとめていたキム・ファン氏を迎えることにした。これで経営陣は、最高クリエイティブ責任者がアニス氏、CEOがソー氏、COOがファン氏という形になった。なお、当初の出資者は創業者3人で、追加支援としてエンデバーと、Twitchの共同創業者であるケヴィン・リン氏も加わった。
その後、RTSは起業時の理念にもとづき、人材マネジメントとブランドコンサルティングという、ふたつの機能をあわせ持つ会社となった。2021年3月、正式な発足の前に事業合理化を進めていたRTSは、格闘ゲーム界最大のeスポーツ大会である、エボリューション・チャンピオンシップ・シリーズ(The Evolution Championship Series:略称Evo)の資産を、ソニー・インタラクティブエンターテインメントとの合弁会社を通じて共同買収した。ゲームとeスポーツ専門の頭脳集団が、この買収により勢いを失いかけたEvoブランドの再活性化に成功すれば、RTSのブランドコンサルティング部門を代表する事例になる。「我々は現在、さまざまな企業と協力したり、多くの小規模プロジェクトに参画している。今後もこうした活動を続けていくつもりだ」とアニス氏は述べた。RTSのクライアントとしては、Facebook、バランタイン(George Ballantine and Son)、リアフィールド(Learfield)などがある。
RTSのブランドコンサルティング部門がめざすもうひとつの目標は、クリエイターに直接依存しない収益源を生み出すことだ。「人材マネジメントを重視しすぎるあまり、クリエイターからの収益に頼った事業構造にすると、結果として利益ばかりが優先され、クリエイターの心身の健康が二の次になりかねない」とアニス氏はいう。
デジタル・ネイティブ人材のマネジメント会社、ザ・キネティック・グループ(The Kinetic Group)のCEO、ジャスティン・ミクラット氏は、「人材マネジメントとブランドは、密接に関わっている」と語る。「我々が人材、ビジネス、キャンペーンのマネジメントを行う際には、長期的なブランド開拓と戦略を考慮に入れて取り組む。したがって、それぞれ人材とブランドを扱うふたつの事業部門が社内に存在するのは理にかなっており、自然なことだ」。
非主流クリエイターに活躍の場を
アニス氏はまた、収益源の多角化によりクリエイターの心身の健康を守るだけでなく、女性などの非主流クリエイターを支援するために、RTSを活用してビジネスチャンスを創出しようとしている。Twitchの女性ストリーマーのなかで最高の報酬を稼ぐアニス氏だが、高額所得ストリーマー全体でいえば、上位100人にランク入りしている女性は、同氏を含めてわずか3人しかいない。それもあってアニス氏は、RTSの活動を通じて女性ストリーマーの待遇改善をめざしていると考えられる。「活況を呈している業界ではどこでもそうだが、事業規模が拡大すればするほど責任が重くなり、洗練された対応も必要になる」と、eスポーツ・エンターテインメント会社のスーパーリーグ(Super League)CEOのアン・ハンド氏は語る。「ポキマネことアニス氏は、それを実証しているといえる。ストリーミング業界には、彼女のような人物が何十人も何百人も必要だ」。
RTSが業界にもたらす影響
ブランドコンサルティング事業を立ち上げたアニス氏の決断がもたらすのは、業界における多様性の向上効果だけにとどまらない。ゲーム関連事業に縁のなかったブランドの新規参入をうながす可能性もあるという。「女性重視型のブランドは、ゲーム分野への反応が遅い傾向にある。ただ、米国内のゲーマーの45%が女性であることから、必要なデータは入手できるはずだ。これまで参入に慎重だったブランドから見れば、RTSのような従来とは異なるタイプのコンサルティング会社とつき合うことになり、信頼関係が築きやすくなるかもしれない」とハンド氏は述べた。
ただ、専門知識を活かして、新人タレントのマネジメントや指導を手がける人気ストリーマーは、アニス氏が最初ではない。ミクラット氏のクライアントであるアリ・ハッサン氏(通称「サイファーPK」:SypherPK)は、Twitchとの独占ストリーミング契約更新に署名したあと、2020年11月、オニ・スタジオ(Oni Studios)と称する人材支援のインキュベーターを設立した。現時点ではまだ起業ブームとまではいかないが、アニス氏やハッサン氏のあとを追うクリエイターが、今後増えてくると専門家はみている。「仕事として毎日ストリーミング配信を続けていると、人は疲れ果ててしまう」と、eスポーツ専門タレント・エージェンシーのエボルブド(Evolved)CEO、ライアン・モリソン氏はいう。「したがって、ストリーマーがこれまで培ってきた経験を糧に、別のビジネスで収益化を図りながら人の役に立てる道を模索するという考えはよく理解できる」。
「確かに、こうしたキャリア転換の動きが広がるにつれ、残念ながら、成功事例より眉唾ものの話が増えるだろう」とモリソン氏は指摘する。ただし、アニス氏をはじめとする実績のあるストリーマーの場合はそんな心配は無用だという。「ポキマネのように大成功を収めている人物が乗り出すビジネスなら、きっと業界を盛り上げてくれるだろう」。
[原文:Why a leading Twitch streamer is founding her own talent management and brand consulting firm]
ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)