Googleが先ごろ、トラッキング防止を目的としたプライバシーツールのアップデートを行うことを明らかにした。この動きは、デジタル広告の世界に根本的な変化をもたらし、陰の実力者としてのGoogleの地位をさらに固めるものになるだろう。
Googleが先ごろ、トラッキング防止を目的としたプライバシーツールのアップデートを行うことを明らかにした。この動きは、デジタル広告の世界に根本的な変化をもたらし、陰の実力者としてのGoogleの地位をさらに固めるものになるだろう。
デジタル広告業界は、Appleがアンチトラッキングツール「ITP」のアップデートを発表して以来、何週間もGoogleの「Chrome」でも同じようなアップデートが発表される事態を予測していた。ただし、GoogleはAppleと異なり、広告収入がビジネスモデルの中心だ。実際、Googleのアップデートでは、サードパーティクッキー(Cookie)のすべてがブロックされるわけではなく、ブロックするかどうかをユーザーが選択できようになるという。(Apple ITPのように)クッキーを自動でブロックされるわけではないため、ほかのアドテクベンダーにとって、状況は大きく異なるはずだ。
このアップデートがもたらす実際の影響については議論があるものの、業界の一般的な受け止め方は、「一般データ保護規則」(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)をキッカケとしてはじまったデータの透明性向上への取り組みがさらに進むことになるというものだ。また、顧客との直接的な関係を構築せず、もっぱらサードパーティクッキーに依存しているような仲介業者が打撃を受けると考えられている。そして当然ながら、GoogleやAppleのような大手ハイテク企業が優位に立つ可能性が高い。
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アドテクベンダーのイラ立ち
「ユーザーの知らないうちに、あちこちのドメインから大量のユーザーデータをかき集めるという行為を、何年も続けてきた企業もある」と、あるアドテク企業の幹部は匿名を条件に話してくれた。「彼らは、そのデータを利用して数百万ドル規模のビジネスを構築した。しかし、そのデータは彼らのものではなく、パブリッシャーのものだ。何百という会社がこの(アップデートの)影響を受けるだろうが、この問題は何年も前から起こっていたもので、GDPRがこの問題への関心を高めたのだ」。
一部のマーケターやアドテクベンダーは、Googleの動きを不当なものだと見なし、苛立ちを覚えている。
「Googleによる今回の動きは非常に不当なものであり、きわめて反競争的だ」と、アドテクベンダーのサブライム(Sublime)でCOOを務めるアンドルー・バックマン氏はいう。「彼らはChromeを通じて世界市場のおよそ80%をコントロールしている。そんな彼らが、Google以外のあらゆるテックベンダーのトラッキングを阻止するようユーザーに提案しているかのようなことをしているのだ。これは、Googleがその支配的な力を悪用した新たな事例だ」。
とはいえ、クッキーをブロックできる権限を与えられたユーザーが、実際にブロックを行うとは限らない。アドブロッカーの例でいえば、広告をブロックするユーザーの伸びは鈍っており、その割合は欧州のほとんどの国で20~25%に留まっている。つまり、プライバシーを気にかけて自ら設定を変更するような人の数は、ごく限られているかもしれないのだ。
「すべては、Googleが(今回のアップデートを)どのように宣伝するかにかかっている」と、バックマン氏は話す。「『クッキーをブロック』といった大きなボタンが設けられるか、どこかのメニューのなかに設定機能が組み込まれるかで、認知度は大きく変わることになる」。
Googleの言い訳と懐事情
Googleで広告およびコマース担当SVPを務めるプラバッカー・ラガバン氏は、今回のアップデートを発表したブログ記事のなかで、デジタル広告のエコシステムは不透明だと述べたうえで、ユーザーに自分のデータの使われ方をコントロールできる権限を与え、安心してもらえるよう対処する必要があると語っている。
「(今回のアップデートによってユーザーに提供されることになる)新たな情報には、広告が表示されるプロセスに関与したことがわかっているほかの企業の名前も含まれる。たとえば、広告主とパブリッシャーの仲介役を務めたアドテク企業や、広告にアドトラッカーを仕込んだ企業だ」と、ラガバン氏は説明した。
欧州では、各国の規制当局がGoogleにプレッシャーをかけ続けている。ブリュッセルにある欧州委員会は、Googleがオンライン広告でその独占的な立場を濫用したとして、同社に相当な金額の罰金を言い渡した。1月には、フランスのデータ保護当局である国家委員会(CNIL)が、GDPR違反を理由としてGoogleに5000万ユーロ(約61億4500万円)の罰金を科している。この金額自体は、Googleの収益を大きく損なうほどのものではない。しかし、この数年間にGoogleが反競争的行為を働いたとして命じられた罰金をすべて合わせると、82億ユーロ(約1兆78億円)ほどにもなる。Googleは足をすくわれつつあるのだ。
「彼ら(Google)の貯金は無尽蔵にあるわけではない」と、デジタルマーケティングエージェンシーのアイクロッシングUK(iCrossing UK)でマネージングディレクターを務めるアリステア・デント氏はいう。「(今回のアップデートを)自社のビジネスを強固にするための不当な動きだというのは簡単だ。だが、いまの彼らは、かつて考えられたほど強気にそのような行為に乗り出せる立場にはない。欧州で行われている監視は非常に厳しく、EUはかつての決定を見直すことも厭わない姿勢で、Googleが規制をきちんと遵守しているかどうか常にチェックしている。Googleはかなりきわどい道を進むことを余儀なくされているのだ」。
パブリッシャーたちとの関係
Googleとパブリッシャーの関係は、これまでも波乱に満ちたものだった。だが、今回のアップデートは、Googleが過去に行ってきた数多くのアップデートのような懸念を引き起こしてはいない。実際、多くの人はこのアップデートを、サードパーティクッキーに代わってオーディエンスターゲティングを拡大できる独自の手段を開拓する機会や動機とみなしている。
「我々の業界では、Googleが広告ビジネスを手がけているだけでなく、コンシューマー企業でもあるという事実が忘れられがちだ」と、データ管理プラットフォーム(以下、DMP)を手がけるパーミュティブ(Permutive)のマーケティングディレクター、アミット・コテチャ氏は指摘する。「今回のアップデートでは、ユーザーが自分のデータをよりコントロールできるようになるだけでなく、パブリッシャーも自社のデータをよりコントロールできるようになる。我々はこれまで、オーディエンスを理解するための手段として、サードパーティデータに頼りすぎていたのだ。今回の動きによって、パブリッシャーは力を取り戻せるようになる」と、コテチャ氏は語った。サードパーティクッキーがブロックされた状況で、GoogleやFacebook以外の場所からオーディエンスを見つけるには、パブリッシャーと提携してファーストパーティデータを利用するしか方法がないと、コテチャ氏は考えている。
ただし、パブリッシャーもいまより懸命な取り組みが必要になる。具体的には、自分たちと提携すれば、ファーストパーティデータやほかのIDベースのソリューションを利用したオーディエンスターゲティングができることを、バイサイド側に証明してその価値を認めてもらわなければならないのだ。オムニコム・メディア・グループ(Omnicom Media Group、OMD)のCEO、スコット・ハーゲドーン氏は、AppleによるITPのアップデートとGoogleのChromeに関する計画が実施されれば、DMPはほとんど役に立たなくなると述べている。
コテチャ氏はいう。「(80%もの)サードパーティクッキーとターゲティングに利用できるインベントリー(在庫)が突然なくなったときのことを考えるのは恐ろしいことだ。だが、おそらくバイヤーは、代替手段があることを十分に認識していない。パブリッシャーがいままで以上に取り組む必要があるのはそのためだ」。
今回の決定の「良い点・悪い点」
マーケティングテクノロジーとアドテクの衝突が続くなか、何年も前からアドテクの統合化が取り沙汰されている。また、業務の複雑化を避けるために単一のソリューションを使いたいと考える広告主が増えている。Googleがユーザーをほかのアドテクベンダーのサードパーティクッキーから保護することを決めたいま、こうした傾向はますます強まるかもしれない。
「私が恐れているのは、複数のテクノロジーがますます強固なウォールド・ガーデンを築くようになった結果、ユーザー体験が大きく損なわれ、マルチタッチアトリビューション、ダイナミッククリエイティブツール、シーケンシャルメッセージングといったツールの利用が難しくなることだ」と、ピュブリシス・メディア(Publicis Media)でアドテクコンサルティングの責任者を務めるヤワール・カリム氏はいう。「ブランドは単一のテクノロジーソリューションを利用するようになるだろうが、柔軟性を必要とする中小企業の顧客にとって、こうしたソリューションは適切でないことが多い」と、カリム氏は指摘した。
しかし、ほかのアドテクベンダーは今回のGoogleの動きを、アドテク業界で必要とされている軌道修正を可能にするものだと捉えている。
「影響を受けるのは、これまで安易なやり方を採用し、プライバシーに関する時代の流れについてこなかった企業だけになるだろう」と、パフォーマンスマーケティング企業のマーケティング・タウン(Marketing Town)を創設したケン・レレン氏はいう。「消費者の心理は変化している。プロファイルを作成するにあたって、ありとあらゆる場所からユーザーデータを獲得するという手法に頼りすぎている企業はいまもある。ファーストパーティのクッキー、コンテキスト、コンテンツを収益化する新たな方法を模索していないベンダーは、報いを受けることになるだろう」。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)