AppleがSafariのアンチトラッキング機能「インテリジェント・トラッキング・プリベンション(以下、ITP)」の抜け穴をふさぎ続けています。4月24日に発表され、現在テスト中の最新版ITP2.2。こちらでは、FacebookやGoogleといった企業による、ITPの回避策に狙いを定めるようです。
AppleがSafariのアンチトラッキング機能「インテリジェント・トラッキング・プリベンション(以下、ITP)」の抜け穴をふさぎ続けています。
4月24日に発表され、現在テスト中の最新版ITP2.2。こちらでは、FacebookやGoogleといった企業による、ITPの回避策に狙いを定めるようです。ITPが2017年にリリースされて以降、FacebookやGoogleでは、サイト訪問やサードパーティサイトでのオンライン購入に関するトラフィック測定と広告アトリビューションを継続させるための施策が打たれてきました。
ITPの最新版であるITP2.2は、そうした回避策を完全に無力化するわけではありません。今回のアップデートの意図は主に、Safariのアンチトラッキング機能を回避し、ウェブ上で人々をしつこく追い回す行為をやめさせることです。
Advertisement
ITP2.2ではトラッキング期間を24時間まで大幅に短縮し、FacebookやGoogleといった企業のトラフィック測定、広告アトリビューション能力を制限します。プロハスカ・コンサルティング(Prohaska Consulting)のデータ技術戦略担当バイスプレジデント(VP)、アミート・シャー氏は「アトリビューションに大きな影響が出るだろう」と予想しています。デジタルマーケティングの未来に示唆を与える用語をわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回は、ITP2.2を取り上げます。それでは、順を追って解説していきましょう。
――ところで、ITPって何ですか?
Appleが2017年にSafariに追加した機能で、企業が他社のサイトを訪問している人々の閲覧行動を監視できないようにすることが目的です。Appleは当初、サードパーティクッキー(Cookie)を規制の対象にしていました。FacebookやGoogleなどのプラットフォーム、そしてアドテクベンダーは、他社のサイトにサードパーティクッキーを置くことで、それらのサイトで人々の行動を追跡しています。さらに、Appleは2019年に入り、企業が考え出した回避策を無力化するためにITPをアップデート。企業が考案した回避策とは、サードパーティクッキーと同様の機能を持つファーストパーティクッキーを保存するというものでした。ITP2.1のリリース後、Safariはブラウザに保存されたファーストパーティクッキーを7日で消去するようになりました。
――ファーストパーティクッキーに関する回避策がすでに無力化しているとしたら、ITP2.2はITP2.1とどう違うのですか?
ITP2.2ではファーストパーティクッキーの効力が7日から1日まで短縮されます。その結果、FacebookやGoogleがトラフィック測定と広告アトリビューションを続けるために導入したファーストパーティクッキーは、保存後24時間で消去されるようになります。したがって、ある人がある商品の広告を金曜日にクリックし、購入するかどうかは週末に考えると決めた場合、月曜日にその人がサイトを直接訪問し、商品を購入しても、クッキーはすでに消えていることになります。
グッドウェイ・グループ(Goodway Group)の企業連携担当VPアマンダ・マーティン氏は「広告主がデジタルマーケティングに反映させたいと考える行動の多くは、新たに設定された24時間枠の外側で起きます。つまり、広告主やブランドにとっては、死角が生まれるということです」といいます。
――企業がファーストパーティクッキーを広告アトリビューションに利用しても、Appleにとって問題はないのでは?
もともと問題はなかったし、いまも問題はありません。ただし、企業が広告アトリビューションとトラフィック測定以外にファーストパーティクッキーの機能を利用するのではないかと警戒しているのです。ITP2.2が特定種類のファーストパーティクッキーのみを対象にしているのはそのためです。
――ITP2.2が対象にしている特定種類のファーストパーティクッキーとは?
サイトが別の企業の代理としてブラウザに保存する恒久的ファーストパーティクッキーです。Appleはこの種のファーストパーティクッキーについて、自社のサイトでない複数のサイトで人々を追跡できると判断しています。今回のアップデートでは特に、リンクデコレーションと呼ばれる手法を使ってファーストパーティクッキーを保存し、人々を追跡する企業に狙いを定めています。実際、FacebookとGoogleはITP回避策としてリンクデコレーションを用い、サードパーティサイトでSafariユーザーを追跡し続けています。
――そもそも、リンクデコレーションって何ですか?
リンクデコレーションはURLに情報を付け加える手法で、URLがクリックされると、その情報がリンク先のサイトに渡されます。たとえば、仮のメディアであるFakePublisherのメールマガジンを読んでいるとき、サイトに掲載されている記事へのリンクをクリックしたとします。リンクのURLに「 http://fakepublisher.com?referrer=ouremailnewsletter 」という情報が追加されていたら、ある人物がメールマガジン内のリンクをクリックし、サイトを訪問したことがわかるのです。
――ごく普通のことのようですが、問題は何でしょう?
企業がリンクデコレーションを使って他社のサイトに情報を渡し、それらのサイトでもしつこく追い回すことです。この行為はリンクデコレーションを用いたサイト超えトラッキングと呼ばれ、AppleはITP2.2によって対策を講じようとしています。
――リンクデコレーションを用いたサイト超えトラッキングの仕組みは?
3つのステップで構成されます。まず、リンクにトラッキングモニターを追加し、次に、リンク先のサイトにトラッキングモニターを保存させます。そして最後に、リンクをクリックした人物がサイトを訪問したら、たとえ最初のクリックから数日たっていても、トラッキングモニターを追加した企業に通知されるのです。基本的に、リンクは固有の識別子を受け取り、それがファーストパーティクッキーの一部としてリンク先のサイトに保存されます。そして、FacebookのピクセルまたはGoogleのタグを持つサイトでページがロードされたとき、それらのトラッキングメカニズムがファーストパーティクッキーを探し、クリックIDを抜き出し、FacebookまたはGoogleに送信します。その際、添付されることになっているほかの情報も一緒に送られます。たとえば、ページURLが取引確認ページのURLだったら、商品購入の測定が可能です。このように、ファーストパーティクッキーの期限が切れない限り、最初にリンクがクリックされてからしばらく、FacebookやGoogleはサイト訪問を追跡できるのです。
――しかし、これは大きな問題なのでしょうか?
ある意味、答えはイエスです。ただし、AppleのSafariブラウザに限定されるため、その影響も限定的です。ネットマーケットシェア(NetMarketShare)によれば、デスクトップでは4月、Safariは全世界のブラウザセッションのわずか4%にすぎませんでした。一方、モバイルでは同時期、Safariは全世界のブラウザセッションの26%を占めていました。
――FacebookとGoogleはどのような対策を講じるのでしょうか?
わかりません。
Googleの広報担当者は電子メールで、「我々のクライアントがAppleの方針に従いながら、広告の測定を継続するための解決策はすでに用意してあります」と述べています。
一方、Facebookの広報担当者ジョー・オズボーン氏は電子メールで次のように説明しています。「我々はパートナーと連携しながら、これらのアップデートをよく理解し、Facebookへの影響を見極めようとしています。今後、企業向けのガイダンスを増やしていくつもりです」
FacebookとGoogleはマイクロソフト(Microsoft)の前例にならう可能性があります。マイクロソフトの広告部門が2018年1月に導入した独自のITP回避策は、FacebookやGoogleのものとよく似ていますが、Safariを閉じると失効するセッションクッキーを使っている点が異なります。ITP2.2はSafariを閉じても維持される恒久的クッキーのみを対象にしているのです。
――ITP2.2の影響を受ける企業はFacebookとGoogleだけですか?
おそらくFacebookとGoogleが最大の企業ですが、リンクデコレーションを使ってウェブ上で人々を追い回すすべての企業がITP2.2の影響を受けます。アドテクベンダー、測定企業、アフィリエイトマーケター、特定種類のインフルエンサーが含まれます。
――アフィリエイトマーケターやインフルエンサーへの影響とは?
パブリッシャーや個人ブロガーは成功報酬を受け取るためにリンクデコレーションを使っています。人々がサイト内の商品リンクをクリックし、リンク先でその商品を購入した際、成功報酬を受け取るためです。今後は商品リンクをクリックしてから1日以上たったら、たとえ商品が購入されても、サイトの功績が認められなくなります。功績が認められなければ、パブリッシャーやブロガーは商品購入に貢献した対価を受け取ることができません。
アフィリエイトマーケティングネットワーク、CJアフィリエイトの製品開発担当VPデジリー・トト氏は次のように予想しています。「もし正当な対価を受け取ることができなければ、この分野の企業は次々と破綻し、小規模業者が参加する市場も閉鎖されるでしょう。(ウェブ上で人々を追い回すためにリンクデコレーションを利用する)悪者を起点に、下流へと影響が及ぶことになるでしょう」。
Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)