またしてもマーケティング業界は、あの悪名高い言葉と格闘している。それは「透明性」だ。たとえば、現在の経済危機のように、マーケターが経費を正当化するプレッシャーに直面するたび、この言葉が再登場する傾向にある。
しかし、「透明性」の意味はマーケターによって大きく異なる。
費用対効果の細かい内訳を求める人もいれば、深いデータインサイトを切望する人もいる。このように、いくつもの視点がモザイクのように寄せ集められている状態だが、ひとつだけ大きく響き渡る声がある。「透明性は、現在のマーケットプレイスで簡単に手に入るようなものと同じようにみるべきではない」という声だ。そして、とくにほかの業界に比べると、利用できるもの自体がそれほど多くない。
マーケターによって最近行われた、そうした欠陥がどこにあるのかを解明する試みは、この厳しい現実を浮き彫りにしている。その試みとは、この数年で3回目となるANA(全米広告主協会)による監査だ。ただし、今回の監査では、最初の監査で明らかになったことが再び確認されたにすぎない。つまり、プログラマティックサプライチェーンは相変わらず、複雑で混乱しているということだ。
おとり商法のプログラマティック版
思い浮かべてみてほしい。サイトが広告主をだまし、金を支払わせる市場を。このようなずる賢いサイトは、広告のためにつくられた(made-for-advertising:以下、MFA)サイトという名前にふさわしく、ターゲティング広告や広告主の成果など気にも留めない。広告の質や顧客体験を無視し、広告費をかき集めることだけに執着している。
これらの有害サイトは、日々繁栄している。MFAサイトは今回の監査で追跡した350億インプレッションの21%、広告費の15%を吸い込んでいた。これは最高のインベントリー(在庫)を安く買いたいマーケターに起きていることであり、彼らは「つくられた偽物」を手に入れているのだ。
一方で、プログラマティックのコンサルティングを手掛けるジャウンスメディア(Jounce Media)などの企業が、この問題に光を当てている。同社は過去90日間に136の(しばしば「オークションパッケージ」と呼ばれる)マルチセラープライベートマーケットプレイス(PMP)を運営し、そのうち106にMFAのインベントリー(在庫)が含まれていたという。マルチセラーPMPでは、支出の平均6%がMFAのインベントリー(在庫)に投じられていた。また、これらのPMPのほぼ4分の1(23%)は、予算の25%以上がMFAのインベントリー(在庫)に投じられていた。
思い出してほしい。これらのマーケットプレイスはプレミアム広告インベントリーの縮図とされていることを。ところが、まるでおとり商法のプログラマティック版のようだ。疑うことを知らない広告主を誘惑し、標準以下のインベントリー(在庫)をつかませている。
一方で、「この時代にどうしてMFAの話ができるのだろう?」と問い掛けるマーケターもいる 。あるシニアマーケターはこう主張する。
またしてもマーケティング業界は、あの悪名高い言葉と格闘している。それは「透明性」だ。たとえば、現在の経済危機のように、マーケターが経費を正当化するプレッシャーに直面するたび、この言葉が再登場する傾向にある。
しかし、「透明性」の意味はマーケターによって大きく異なる。
費用対効果の細かい内訳を求める人もいれば、深いデータインサイトを切望する人もいる。このように、いくつもの視点がモザイクのように寄せ集められている状態だが、ひとつだけ大きく響き渡る声がある。「透明性は、現在のマーケットプレイスで簡単に手に入るようなものと同じようにみるべきではない」という声だ。そして、とくにほかの業界に比べると、利用できるもの自体がそれほど多くない。
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マーケターによって最近行われた、そうした欠陥がどこにあるのかを解明する試みは、この厳しい現実を浮き彫りにしている。その試みとは、この数年で3回目となるANA(全米広告主協会)による監査だ。ただし、今回の監査では、最初の監査で明らかになったことが再び確認されたにすぎない。つまり、プログラマティックサプライチェーンは相変わらず、複雑で混乱しているということだ。
おとり商法のプログラマティック版
思い浮かべてみてほしい。サイトが広告主をだまし、金を支払わせる市場を。このようなずる賢いサイトは、広告のためにつくられた(made-for-advertising:以下、MFA)サイトという名前にふさわしく、ターゲティング広告や広告主の成果など気にも留めない。広告の質や顧客体験を無視し、広告費をかき集めることだけに執着している。
これらの有害サイトは、日々繁栄している。MFAサイトは今回の監査で追跡した350億インプレッションの21%、広告費の15%を吸い込んでいた。これは最高のインベントリー(在庫)を安く買いたいマーケターに起きていることであり、彼らは「つくられた偽物」を手に入れているのだ。
一方で、プログラマティックのコンサルティングを手掛けるジャウンスメディア(Jounce Media)などの企業が、この問題に光を当てている。同社は過去90日間に136の(しばしば「オークションパッケージ」と呼ばれる)マルチセラープライベートマーケットプレイス(PMP)を運営し、そのうち106にMFAのインベントリー(在庫)が含まれていたという。マルチセラーPMPでは、支出の平均6%がMFAのインベントリー(在庫)に投じられていた。また、これらのPMPのほぼ4分の1(23%)は、予算の25%以上がMFAのインベントリー(在庫)に投じられていた。
思い出してほしい。これらのマーケットプレイスはプレミアム広告インベントリーの縮図とされていることを。ところが、まるでおとり商法のプログラマティック版のようだ。疑うことを知らない広告主を誘惑し、標準以下のインベントリー(在庫)をつかませている。
エンドツーエンドのプログラマティックサプライチェーンを構築
匿名希望のあるシニアマーケターは、「この時代にどうしてMFAの話ができるのだろう?」と問い掛ける。このような質問をしたのは、自社が可能な限りプレミアムパブリッシャーから直接購入することで、価値の低い広告インベントリーを避けようとしているためだ。
「私たちはインベントリー(在庫)を購入するSSPの数を減らし、パブリッシャーへの直通ルートを増やすため、いろいろな努力をしてきた」と、このシニアマーケターは言い、「MFAが異常に多いからだ」と続けた。
メディアエージェンシーのザ・セブンスターズ(the7stars)でテクノロジーおよびアクティベーション責任者務めるリース・ウィリアムズ氏は、「適切なマーケティングテクノロジースタックとパートナーがいなければ、プレミアムインベントリーのインパクトあるプレースメントでプログラマティックキャンペーンを実施し、意味ある成果を上げるのは難しいだろう」と話す。同社はクライアントのために、管理された完全に透明なエンドツーエンドのプログラマティックサプライチェーンを構築している。
今にして思えば、この監査の真の価値は、それが明らかにできなかったことにあるのかもしれない。なぜマーケターは適切な説明責任を果たしていない広告に金を使い続けるのか、ということだ。
その答えは機能不全の現実にある。マーケターは豊富な量、費用対効果、卓越したパフォーマンスの約束に釣られ、プログラマティックキャンペーンへの飽くなき欲求を抱いている。残念ながら、マーケターが所属するメディアエージェンシー、業界団体、アドテク企業はこの依存症を永続させることに既得権益があり、依存症から抜け出そうとしても阻止してくる。そうしなければ、コモディティ化した市場から稼ぎにくくなるためだ。
まるでこれらがそれほど悪い問題ではなかったかのように、もっと悪いシナリオが現実になる可能性もある。今回の監査は、プログラマティック広告費の運命に光を当てたが、ここに落とし穴がある。同監査は3つのDSP、6つのSSP、3つのアドベリフィケーション企業という限られた範囲に焦点を当てていたのだ。独立系アドテクベンダーの最大手ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)が監査に参加しなかったため、マーケターはパズルの重要なピースが欠けているような不完全なイメージしか得られなかった。
デジタルに何を期待しているかを明確にする必要がある
プログラマティック広告には決して、このように広告主をだます意図はなかった。しかし、急成長という熱狂のなか、透明性と説明責任は置き去りにされた。マーケターは不要な中間業者を排除し、信頼できるインベントリー(在庫)を優先して、サプライパス最適化を通じて広告主に発言権を与えることで、これらの問題を解決しようとした。しかし、率直に言うとこうした努力によって、業界が期待するような結果はもたらされていない。実際、エージェンシーやアドテクベンダーが数字をいじり、利益を操作しやすくなったケースもある。
ANAの報告書作成に参加したプログラマティックコンサルタントのトム・トリスカリ氏は、トラストX(TrustX)とANAが主催したカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルのセッションで、「ここに自発的な結託があるとは考えていない。ゲーム理論では、非自発的な結託があるゲームもあり得るためだ」と語り、「『大きすぎてつぶせない』とは言いたくないが、既得権益がたくさんある。(中略)おとぎの国に暮らすのが、別の現実を直視するよりいいのかもしれない」と話した。
監査の参加者数がそれを物語っている。ANAの会員企業67社が監査に関心を示したが、最終的に参加したのはわずか21社で、現実を直視することに抵抗があるのは明らかだ。
ある消費財(CPG)企業のマーケティングディレクターは匿名を条件に、「クライアントとして、私たちはおそらくこれ(透明性の問題)を解決するために十分なことをしてこなかった」と語る。「私たちは、とくに商業的な意思決定に関しては一挙両得を狙いがちだ。クライアントは前もって、デジタルに何を期待しているかを明確にする必要がある」。
マーケターの矛盾
過去の監査でもよく似た美辞麗句が繰り返されてきたが、残念ながら多くの場合、空虚な言葉にすぎなかった。広告主が透明性のために努力することもあるが、極めてまれなことだ。ほとんどのマーケターにとって、潜在的な利益が既存のビジネス関係を壊すリスクを上回ることはない。完全な透明性と監査権を要求することは、そのような状況では、ときに矛盾を感じてしまう。結局のところ、透明性と利益が両立することはめったになく、容赦ない圧力に繋がることが多い。
プログラマティックサプライチェーンをゼロから再構築する取り組みが、一貫して勢いつかないのはそのためだ。多くの利害関係者にとって、金銭的な影響は甚大で、潜在的な利益は遠いままだ。
その結果、慎重なアプローチが採用され、サプライチェーンを徐々に洗練させていくことに焦点が当てられている。この戦略には、データへのアクセスと共有に関する標準化された契約条件の導入、アドテクプラットフォームやトランザクションIDをまたぐデータの調整が含まれる。
しかし、こうした漸進的な対策では、急速な変化に後れをとってしまうことが多い。透明性の追求は、さまざまな問題を特定し、対処する継続的なサイクルというもぐらたたきのような状況に陥ってしまう。
実際の解決策を生み出し、示していく段階
とはいえ、何もしないのはもっと悪い。
レノボ(Lenovo)の最高メディア責任者であるリック・コーテビル氏は、ANAのプログラマティック透明性調査の予備的な結果によって、「オープンマーケットプレイスでのメディアバイイングを避けるというチームの決断が正当化された」と述べている。同社はこの12カ月間、スタグウェルパートナーズ(Stagwell Partners)と協力しながらも、以前より主導権を握ることで、複合的なメディア戦略を実行してきた。
そのうえで、「私たちはプログラマティックへの投資を増やすつもりだ」とコーテビル氏はDIGIDAYに語り、「(オープンマーケットプレイスでの購入の)パフォーマンスは証明されていない。私たちはパフォーマンス指標を使って無駄を排除している」と続ける。
これは広告主にとってよいスタートではあるが、プライベートマーケットプレイスを透明性の確実な解決策と見なすべきではない。ANAの監査では、プレミアムインベントリーにアクセスしているつもりが、MFAサイトに関わっていたという罠に陥りやすいことも証明された。
動画監視分析プラットフォームであるウォッチング・ザット(Watching That)のCEO、キャメロン・チャーチ氏は次のように語る。「プログラマティックの無駄をなくすことは崇高な価値ある目標で、皆が自分の役割を果たすべきだ。しかし今、業界レベルでは単に問題を再認識するだけでなく、実際の解決策を生み出し、示すことにもっと力を入れる必要がある」。
[原文:Transparency theater: Marketers’ hypocritical dance in the programmatic landscape]
Seb Joseph and Ronan Shields(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:島田涼平)