「次元が違う現象」: AirPods が激変させる、エージェンシーの社内光景

ヘッドフォンは、オープンプランオフィスで当たり前に見かけるものだが、いま、急速に人気を高めるAirPods(エアポッド)が新たな問題の種となっている。後者はいまや、アドエージェンシーでの毎日に欠かせない存在であり、とくに若手スタッフは1日中、これを耳にはめたまま社内を歩き回っている。技術の進歩と言ってしまえば、それまでだが、広告業界は共同作業が発展の糧とされている世界だ。人々が意思伝達に電話を使っていた時代を覚えている者にしてみれば、どうにも腑に落ちない光景だろう。

「音楽でもなんでも、とにかく何かを聴いているわけじゃないのはわかっている。ただ、真剣な話をしているあいだ、相手の耳に何かがはまったままという光景には、やはり釈然としないものがある」と、あるエージェンシーCEOは語る。実際、重要なミーティング中にAirPodsをはめている者を見たこともあり、氏いわく「正直、『はあ?』という感じだった」。

我々の日常生活はすでに、AirPodsに深く攻め入られており――人気ドラマ「ビッグ・リトル・ライズ(Big Little Lies)」の新シーズン第1話にも、AirPodsを巡る現況を風刺する場面が出てくるほどだ――いまや、無礼の定義を再検討するとともに、少なくない人数がこれを耳にはめている世の中をどう生きていくべきなのか、対応の見直しが求められている。この急激な普及は、当然、オフィス内においても、いくつかの問題を生んでいる。なかにはこれを、世代間による勢力争いと見る向きもある。若手従業員にしてみれば、AirPodsの常時装着は取り立てて騒ぐようなことではないのかもしれない。だが一般に、ヘッドフォンは「邪魔するな」という意思表示であり、それゆえ、これを1日中はめている者は、暗黙の社内ルールを根本から書き換えていることになる。

「社会通念がひっくり返る」

ある24才のエージェンシー職員は、失くすのが怖いから「絶対に外さない」と、米DIGIDAYに語った。トイレでは外すべきという者もいれば、使用していないのであれば、どこでつけていても構わないという者もいる。一方、米エージェンシー、メカニカ(Mechanica)のCEOテッド・ネルソン氏は、この状況を「AirPodsバリア(障害)」と称し、「創造性と共同作業を必要とする社内文化および職場環境の保全を妨げるものだ」と切り捨てる。

ネルソン氏はこう語る――時代の変化に合わせ、仕事の進め方について本格的な議論が必要とされているのは確かだが、AirPodsをはじめとするイヤフォンシステムは、たんなる「次善策、小手先の技」でしかない。「ヒューマンファクターは、画期的アイデアを生む、いわゆるファースト&ラストマイルの段階に、絶対に欠かせないものだ」。

「AirPodsは(これまでのものとは)次元が違う現象(を起こしている)」と、米エージェンシー、ピーター・メイヤー(Peter Mayer)のEVP兼チーフストラテジーオフィサー、ミシェル・エデルマン氏も指摘する。「製品自体は正直、素晴らしいと思う。けれど、あれを1日24時間、週7日つけっぱなしでいる人が増えると、話しかけていいときとそうでないときとの判断基準を変えるしかなくなる。つまり、一部の社員がミーティングのあいだ、あれをはめるようになるだけで、社会全体の通念がひっくり返されることになる」。

原因はもっと根深いところに

また、この状況はある意味、仕事とプライベートの境界線の曖昧化にもつながる。米エージェンシー、Yメディア・ラボ(Media Labs)で事業開発を手がけるステファニー・ワイズマン氏は、これを「どこでも仕事文化」と称する。

「実際、昨日あったことなんだけど、通りを歩きながら(AirPodsで)ビジネスパートナーと重要なデータの確認をしていた最中、女性に呼び止められて、道を尋ねられた。私のAirPodsが見えなかったのよ。それで、なんとか対応しようとはしたんだけど、2人から同時に話しかけられているうちに、どっちの言っていることも耳に入ってこなくなって、結局、どちらにも『えっ? 何?』って言うはめになっちゃって」。

テクノロジーが人間関係を、そして集中力の持続時間を一変しつつあることは、疑いようのない事実だろう。会議中、目の前に携帯/スマホを置いておくだけで、その人物と交わした会話の印象も、その人物に対する共感および信用性のレベルも低下することが、2018年、ブリティッシュコロンビア大学の研究により判明している。

「我々に選択の余地はないし、この手のもめ事は今後も世代間で起き続ける」と、ペイス大学で21世紀の新テクノロジーと心理学との関係を研究する臨床心理学の専門家、レオラ・トゥルブ教授は分析する。「問題はAirPodsかもしれない。しかし、実際の話、職場における軋轢の根本には、若手に取って代わられるのではないかという懸念、あるいはもっと単純に、歳を取ることに対する不安が存在している。それが、こうした内紛として表出する」。

解決に動いたエージェンシー

エージェンシーのなかには、行動を起こしたところもある。たとえば、メディアエージェンシーのヴァリック(Varick)では、マネジメントチーム全員がオフィスではヘッドフォンをつけないことを決め、部下に手本を示すと同時に、いつでも話しかけてもらって構わない、という姿勢を示している。NYが拠点のエージェンシー、ワトソン&カンパニー(Watson & Company)では、厳選したアンビエントミュージックを社内に流したところ、ヘッドフォンの多用問題が減少したと、創設者のウィリアム・リッチモンド-ワトソン氏は語る。

デジタルエージェンシー、ヒュージ(Huge)のデトロイトオフィスでは、マネージングディレクターのレネ・ホイヤー氏によると、相手の気持ちに敬意を払える社内文化の創出に力を注いでいるという。ヘッドフォンは、その人が忙しい、あるいは何かに集中していることを示す合図だ。ならば、Slackで連絡をすれば済む。だが、AirPodsの場合、話は少々ややこしい。

「AirPodsには(いわゆるヘッドフォンとは)まったく違う問題がある」と、ホイヤー氏は嘆く。小さいし、髪の毛で簡単に隠れるうえ、多くの人は文字どおり四六時中つけているため、「手がふさがっているということが、見た目ではわからない」。だから「もうお手上げでね、敬意の払いようがないのよ」。

Shareen Pathak(原文 / 訳:SI Japan)