米ホームセンター大手のエース・ハードウェア(Ace Hardware)はマーケティングミックスの一環として、外部委託と社内対応を組み合わせたインフルエンサープログラムを導入している。創業100年近い歴史を誇る同社にとって、インフルエンサーマーケティングは新しい試みだ。
米ホームセンター大手のエース・ハードウェア(Ace Hardware)はマーケティングミックスの一環として、外部委託と社内対応を組み合わせたインフルエンサープログラムを導入している。創業100年近い歴史を誇る同社にとって、インフルエンサーマーケティングは新しい試みだ。ミレニアル世代とZ世代の、特に初めて家を買う消費者の関心を引こうと、日曜大工などDIY分野のインフルエンサーを起用した。
「当社がインフルエンサーを活用しはじめてまだ日が浅いが、その重要性はますます高まっている」と、エース・ハードウェアでマーケティング部門のバイスプレジデントをつとめるジェフ・グディング氏はいう。「インフルエンサーたちは我々と違って、当社がターゲットとしたいオーディエンスの考え方がよくわかっているからだ」。
「TVCMと比べごく少量の支出」
エース・ハードウェアは最近、新たなマーケティング施策を打ち出した。ケルジー&ライアン・マンシン(@newbuild_newlyweds)、クリスティーン・エイブラム(@homewithkrissy)、メリッサ・タイラー(@lakeandlumber)、エンジェル・ドゥーリ―(@massachusettsmama)という4人のDIYインフルエンサーを起用して進めている、「サムデイ(SomeDay)」と称するプログラムで、人々が先延ばしにしていた自宅の日曜大工仕事を完了させるためのヒントを提供するのが狙いだ。エース・ハードウェアの協賛を得たインフルエンサーたちは、玄関ホールや子供部屋の壁の塗り替えなど、自身がやろうと思いながらなかなか実行に移せなかったプロジェクトに取り組み、その作業の過程を説明したコンテンツをTikTokやインスタグラムのチャンネルに投稿している。
Advertisement
グディング氏によるとエース・ハードウェアは現在、ソーシャルメディアのチャンネル上で公開された自社およびインフルエンサーのコンテンツにかかわる活動は社内で対応しているが、今後はコンテンツ拡充の目的で外注する可能性もあるという。インフルエンサー関連支出の総額とメディア予算全体に占める割合については会社として開示していないため不明だが、「サムデイのキャンペーン全体の費用に比べるとわずかな金額だ」とグディング氏は述べている。「インフルエンサープログラムは、当社が投資した金額をはるかに超える価値がある。テレビメディア広告費に比べてごく少額の支出であることは間違いない」。
調査会社カンター(Kantar)の調べによると2020年、エース・ハードウェアが計上したメディア広告費は8530万ドル(約92億1300万円)。2021年1月の広告支出は、前年同月の110万ドル(約1億2000万円)から29万2000ドル(約3200万円)に減少した。ただしSNS広告費(金額データなし)はこの数字に含まれない。
より一般的になりつつある
サムデイのクリエイティブ制作にかかわった代理店、オキーフ・レインハード・アンド・ポール(O’Keefe Reinhard & Paul)のCEO、トム・オキーフ氏は次のように説明している。「サムデイはインフルエンサーとの協業によるコンテンツで構成されているため、広告っぽさを感じさせない。自宅の日曜大工仕事をつい先延ばしにしている状況を投稿動画で語っているのはインフルエンサー自身だ。DIYをやる人の気持ちを代弁しているといっていい」。
「DIYの知識をもつインフルエンサーを雇うにはかなりのコストがかかるだろう」と指摘するのは、インフルエンサーマーケティング代理店のスウェイグループ(Sway Group)のCEO、ダニエル・ワイリー氏だ。SNS上で100人から1万人のフォロワーを持つナノインフルエンサーなら、コスト倍増もありうる。ブランド企業がDIYインフルエンサーに支払う報酬は、一般的なインフルエンサーに対する報酬の1.1倍から2倍に達する可能性があるという。「DIYプロジェクトのコンテンツをカスタム制作するのは、単純な投稿より大変な作業をともなうからだ」とワイリー氏はつけ加えた。
エース・ハードウェアのような歴史の長いブランドがマーケティングミックスにインフルエンサー施策を取り入れる例は増えており、より一般的な慣行となりつつあると、ワイリー氏はいう。「ブランドとしてはマーケティングのコンテンツを多数のプラットフォームに投稿しなければならないが、すべてを社内で制作するのは不可能で、一部を外注するしかない。インフルエンサーにコンテンツ関連業務を委託するのは、事業運営に必要な手段だ」。
「大量のコンテンツを制作中」
そうした手段を選んだ企業の好例がエース・ハードウェアで、同社は「ソーシャルメディアへの露出を高めるため、今までにないほど大量のコンテンツを制作している」とグディング氏は語る。
エース・ハードウェアは今後も販促活動の活性化に向けて創意工夫を重ね、ソーシャルメディアマーケティングを推進していく意向だという。「もちろん、インフルエンサー施策も強化するつもりだ」とグディング氏は述べた。
[原文:To get the attention of millennials and Gen Z, Ace Hardware is turning to influencers]
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU