Appleは6月、プライバシーポリシーに関して2点の変更を実施する旨を発表した。だが、その内容にモバイル広告業界は困惑させられている。変更の開始はiOS 14のリリース時と予想されており、9月半ば頃になると思われる。しかし、その具体的な施行法については、未回答の疑問がいまだ数多く残っている。
Appleは6月、プライバシーポリシーに関して2点の変更を実施する旨を発表したが、その内容にモバイル広告業界は困惑させられている。
今年後半以降、アプリデベロッパーはデータ収集法に関する情報について、いわば「栄養成分表示」のように、自社アプリの詳細ページへの記載が必要となる。さらに、サードパーティのウェブサイトおよび他社アプリにおけるトラッキングに使用する広告識別子、いわゆるIDFAの取得について、ユーザーから許可を得ることも求められる。専門家らは、オプトイン率はおそらく低くなるため、ターゲティングとメジャーメントが阻害されると予測している。
いずれの変更の開始もiOS 14のリリース時と予想されており、したがって9月半ば頃になると思われる。だが、その具体的な施行法については、未回答の疑問がいまだ数多く残っている。
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「看過できないグレーゾーンがいくつもある。現時点ではさまざまな解釈が可能であり、Appleには明確な回答が求められる」と、モバイル広告企業アドコロニー(AdColony)のストラテジー&ビジネスデベロプメント部門SVPマット・バラッシュ氏はいう。
以下に広告主が回答を求める6つの疑問点を挙げる。Appleは公表を前提としたコメントを辞した。
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――デペロッパーやアドテクベンダーがルール逃れを試みた場合、Appleはそれをどう監視し、または取り締るのか?
iOS14のリリース後、抜け道を探す企業が出てきた場合に、Appleがそれをどのように探知し締め付けるのかは、いまだ明確にはわかっていない。
Appleは2019年、子ども向けアプリには今後、(IDFAを含む)識別情報をサードパーティに送らない以上、いくつかの例外を除き、当該アプリへのサードパーティ製の分析機能や広告の組み込みを禁止する旨を通達したが、これはAppleが「観測気球を上げたのと同じだ」と、欧エージェンシー、ヘラクレス・メディア(Heracles Media)のストラテジーコンサルタント、 エリック・スーファート氏はいう。この新ルールは今年前半に施行された。
スーファート氏によれば、Appleはこれに違反するデベロッパーに対して、「自由裁量的」リジェクションを始めたという。
――コンテクスチュアルターゲティングはどこまでいけるのか?
モバイルアドテク企業のなかには、IDFAに関する今回の変更により、ユーザーデータに基づくオーディエンスターゲティングからコンテクスチュアル(文脈)ターゲティングへの切替がさらに進むのでは、と見る向きもある。
「ただし、デスクトップPCを基準にしていた2014年のコンテクスチュアルターゲティングとは種類が違う」と、アプリマネタイゼーションプラットフォーム、ファイバー(Fyber)の社長オファー・ヤハーダイ氏は語る。 むしろ、「プライバシーに配慮する形で我々がリアルタイムに掴める[アプリセッションの]情報を[DSP側が]使用できるように送る、といったものに近くなる」という。
そうした情報の例として、当該アプリの使用時間、アプリをダウンロードできるだけのバッテリー残量の有無、オーディオのオン/オフなどがあると、ヤハーダイ氏はいう。
とはいえ、どのコンテクスチュアルパラメータが(たとえそこに特定のユーザーを即時に判別する具体的な詳細が含まれていないとしても)ビッドストリームで使用可能か否かは、依然として定かでない。
また、コンテクスチュアル情報はデバイス「フィンガープリンティング」に利用できると見なされる可能性があり、となると、Appleの検閲を通る確率は低いと思われる。同社は2018年、Safariにおけるブラウザフィンガープリンティング行為を厳しく制限しているからだ。
――SKAdnetworkは今後拡大されるのか?
SKAdnetworkはAppleのAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)であり、広告ネットワークに対し、広告キャンペーンがアプリのインストールに繋がったのか、あるいはそのアプリのインストール後に限定的な「ポストバック」イベントが行なわれたのかを知らせる。ただし、通知されるデータは集計されており、しかもリアルタイムで送付されるわけではない。
モバイルメジャーメント企業アジャスト(Adjust)のCTO/共同創業者、ポール・H・ミュラー氏はSKAdnetworkを「まったくのゴミ」と切り捨てる。
「何の価値もないメトリクス(たとえばダウンロードなど)にフォーカスしており、キャンペーンの実施に必要な情報は、詳細なデータはもちろん、遠目から眺めるようなものさえくれない」とミュラー氏はいう。しかも「キャンペーンID」は各アドネットワークに100ずつしか与えられず、それではオプティマイゼーション(最適化)にはほど遠い。一般的なキャンペーンでは、たとえば異なるジオロケーションやA/Bテストに合わせて、計数千のクリエイティブを制作するのが普通だと、ミュラー氏は言い添える。
業界通のなかには、SKAdnetwork 2.0が登場する可能性は高くないと見る向きもある。
「正確なアトリビューションを求めて振り上げた手は、下ろすべきだ」と、デジタル・マーケティング・エージェンシー、クラウド(Croud)のプランニング/インサイト部門ディレクター、ケヴィン・ジョイナー氏はいう。「我々としてはもはや、先に進むしかない。これ以上は良くならない。ほかの場所に目をやるのが賢明だ」。
――そもそも「アドネットワーク」とは?
アドネットワークという用語自体、アドテク業界では厳しい批難を受けており、そのためSKAdnetworkへのアクセスを「アドネットワーク」「ソースアプリ(source apps)」「アドバタイズドアプリ(advertised apps)」に限るというAppleの文言には、嫌味さえ感じられる。
通常、その3者以外にも多くが関係していることは、デジタル広告業界で働く者なら誰もが知っている。少なくとも、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)、広告主側のアドサーバー、パブリッシャー側のアドサーバー、SSP(サプライサイドプラットフォーム)はリストに加えられるのが普通だ。しかし、「アドネットワーク」として登録した者には例外なく、AppleはひとつのIDしか与えない。
アドネットワークについて、Appleはデベロッパー向けドキュメント(developer documentation)において、「広告に署名(sign)し、広告がコンバージョンにつながった際にインストール通知を受け取る」存在と定義している。
「その定義は業界を単純化し過ぎているし、エコシステムの仕組みを無視することで勝者と敗者を作り出す可能性さえある」と、IABテックラボ(IAB Tech Lab)のプロダクトマネジメント部門シニアディレクター、アレックス・コーン氏はいう。
Appleのデベロッパー向けサイトの説明では、 ユーザーがトラッキングをオプトアウト(無効化)した場合、デベロッパーは自社アプリ内にサードパーティ製SDK(ソフトウェアデペロプメントキット)を取り入れ、同アプリのユーザーデータと他社デベロッパーのアプリのデータを融合し、「ターゲット広告や広告効果測定に利用することはできない。この原則はたとえそのSDKがそれらを目的としない場合にも適用される」となっている。
――リターゲティングは可能か?
もしもユーザーがIDFAをサードパーティプロバイダーと共有しないことを選択した場合、リターゲティングは問題となる。フリークエンシーキャップやリーセンシーのコントロールといった手法も然りだ。
Appleのデベロッパー向けサイトによれば、ユーザーがトラッキングをオプトアウトした場合、デベロッパーはeメールリストや広告ID、その情報を利用するサードパーティを識別する他IDを共有し、他社デベロッパーのアプリにおけるそれらユーザーをリターゲットすることができなくなる。
たしかに、ユーザーがeメールアドレスといったログイン情報を提供し、それを広告目的で利用することに同意するケースは考えられる。しかし、そのユーザーがIDFAの共有をオプトアウトし、しかも同ユーザーのスマートフォンに対して何らかの個人識別子を利用したターゲッティングが明らかである場合は、Appleと衝突せずに済むかどうかは、やはり何ともいえない。
――今回の変更はGDPR(EU一般データ保護規則)に準ずるのか?
7月2日、広告およびパブリッシングに関わる16の業界団体がAppleのCEOティム・クック氏宛ての書簡に共同署名し、IDFA利用に関するポップアップ表示はGDPRに準拠していないと訴えた。当該ポップアップは(少なくとも現段階では)「アプリデベロッパーが広くカスタマイズできるものではなく」、欧州インタラクティブ広告協議会(IAB Europe)のトランスペアレンシー&コンセントフレームワーク(Transparency and Consent Framework)といった、「デジタル広告業界の基準と相互運用できるものではない」 というのが、彼らの主張だ。
署名者の代表として、欧州インタラクティブ広告協議会のスポークスパーソンは、Appleからはいまだ返答がなく、あるいは書簡の存在を認識していないことも考えられると語っている。
「いずれにせよ、この沈黙はAppleがパートナーやエコシステムに対して敬意をいっさい払うことなく、一方的に決定を下したことの象徴であり、そうした姿勢を示す一例であると捉えられる。今後も返答がない場合は、来週(7月第五週)、この問題を各地域および欧州の当局に持っていく所存だ」。
(ちなみに、DIGIDAYの以前の記事において、プライバシー法に精通する人物である、データのプライバシーとコンプライアンスに関するソリューションを提供する企業セーフガード・プライバシー[SafeGuard Privacy]の共同創業者/ゼネラルカウンシルのウェイン・マタス氏は、均質なコンシューマーエクスペリエンスを創造するというAppleの決断はGDPRに違反していないと述べている)。
LARA O’REILLY(翻訳:SI Japan、編集:長田真)