イーロン・マスク氏がTwitterを買収してから半年が経つ。この間、コンテンツポリシーの全面的な見直しから凍結アカウントの復活まで、Twitterは数々の変化を遂げてきた。 Twitterの変化に伴い、Twitterに対 […]
イーロン・マスク氏がTwitterを買収してから半年が経つ。この間、コンテンツポリシーの全面的な見直しから凍結アカウントの復活まで、Twitterは数々の変化を遂げてきた。
Twitterの変化に伴い、Twitterに対するユーザーの視線も潜在的に変化する。そうしたなか、Black Twitter(ブラックツイッター)の行く末はいまのところ未知数だ。Black Twitterとはオンライン上に形成される黒人および褐色肌の人々を中心とするコミュニティで、歴史的に周縁化されてきた集団の問題に光を当て、共同体験を共有する場となってきた。
文化的トレンドの発信源として
電通クリエイティブでソーシャルマーケティングおよび戦略担当のグループディレクターを務めるデニトリア・N・ルイス氏はこう話す。「取引先のエージェンシーたちにとって、多文化市場であれトータルマーケットであれ、Black Twitterは常に文化的なトレンドのバロメータとなってきた。そのBlack Twitterが失われれば、彼らのコミュニティやカルチャーを真に理解するための接点も失われてしまう」。
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マーケターや広告主にとって、Black Twitterは「バイ、フェリシア(Bye, Felicia)」、「ホットガールサマー(hot girl summer)」、「オンフリーク(on fleek)」などの流行語を生み出すなど、常に文化的マーケティングの原動力となってきた。ポパイズ(Popeyes)のチキンサンドを大々的に拡散させたこともあった。また、#BlackLivesMatter、#SayHerName、#OscarsSoWhiteなど、多くの歴史的瞬間も生まれている。そしてしばしば、ブランド認知の向上に役立つクールなモノやトレンドを探し、文化的瞬間を有効に活用したい広告主にとって、頼りになる御用達ツールともなってきた。
もちろん、せつなく、悲しい瞬間もあった。
ブラックライヴズマター運動やジョージ・フロイド氏暴行死事件を端緒とする抗議デモがピークに達し、各地で自宅待機令が出された際も、Black Twitterは対話とコミュニティの場でありつづけた。当時、この動きに関するツイートが急増し、3億9000万件を突破した。一時は1秒に200件を超えるツイートが投稿されたという。これを受けて、Twitterは複数の都市でOOH(屋外)広告キャンペーンを展開してマイノリティの声に支持を表明する一方、マーケターや広告主に対しては、黒人たちの声に耳を傾け、そこから学びを得るためのガイダンスを提供した。
「トレンドの盗用」の対象になることも
個人で活動する反人種差別主義の教育家で、DEIコンサルタントでもあるデニース・ブランチ氏は、「Black Twitterは多文化志向のマーケティングや広告にとって、一種の青写真となった」と述べている。「長年にわたり、黒人のマーケティング担当者や広告担当者のいないエージェンシーは、Black Twitterの功績を認めるどころか、Black Twitterの功績を奪うような行いを重ねてきた」。
マーケターがそのことに気づいても、時すでに遅しということもあった。彼らの戦略のなかには、便乗商法とか無神経とか、黒人文化への理解が足りないといった目で見られるものもあったと、複数のマーケティング関係者が述べている。
たとえば、2017年にコスメ専門店のセフォラ(Sephora)と美容ブランドのテイストビューティ(Taste Beauty)が両者のコラボ商品として「バイ・フェリシア(Bye Felicia)」というリップグロスを発売した。そしてこの商品がTwitterで激しい反発を買うことになった。
「バイ、フェリシア」というフレーズは、「フライデー」という映画で使われた台詞で、フェリシアという女性が男友だちに「車を貸して、ついでにマリファナもちょうだい」とお願いすると、それを見ていた主演のアイス・キューブが「あっちへ行け、おまえなんかお呼びじゃない」という意味で使ったフレーズだ。Twitterユーザーたちは、リップグロスと「バイ、フェリシア」のあいだにどんな関係があるのかと疑問を投げかけた。(セフォラの広報は、米国のセフォラではこの商品とブランドを扱っていないとコメントしている。)
Twitterはソーシャルリスニング機能を喪失したのか
しかし、マーケターたちが抱く目下の懸念は、Twitterの機能変更やマスク氏の暴言ツイートが広告主やユーザー(特に有色人種のユーザー)を不安にさせるなか、Twitterに取り残された非白人のオーディエンスはどうなってしまうのかということだ。
匿名で取材に応じたTwitterの元従業員はこう話す。「[Twitterに投稿される社会的少数派の声は]ほとんど悪意を感じるやり方で、容赦なく優先順位を下げられ、後回しにされている。我々が失ってしまったものを、今後の教訓にできればよいと願うばかりだ」。
複数の報道によると、マスク氏によるTwitter買収以降、ヘイトスピーチや攻撃的な言論が増えているとして、メディアマターズ(Media Matters)、フリープレス(Free Press)、アカウンタブルテック(Accountable Tech)、カラーオブチェンジ(Color of Change)ら、複数の人権団体やメディアがTwitterへの出稿停止を共同で呼びかけた。(ロイター通信によると、昨年12月までにTwitterでの広告支出が70%以上減少。マスク氏は活動家グループが広告主に対して圧力をかけたと非難している。)
Black Twitterをはじめ、社会的少数派のコミュニティがTwitterを離れるなら、マーケターや広告主は、キャンペーンやブランドスローガンの糧となってきた、リアルタイムで最新情報をつかむためのソーシャルリスニング機能を失うことになるかもしれない。
疎外され、軽視され、Black Twitterはかつてのようなスター性や拡散力を失った。そして3人のエージェンシー幹部が米DIGIDAYに語ったところによると、Twitter自体も、多文化オーディエンスへのリーチにかけては最有力のプラットフォームという地位を徐々に失いつつあるという。
Black Twitterの購買力
ずっと以前から、「多文化コミュニティ」は広告主がリーチしたいターゲットであり、マーケティング戦略におけるひとつのラインアイテムとなってきた。黒人消費者の購買力を考えれば、それも当然である。ニールセンの調べによると、米国における黒人の購買力は2025年には1兆9800億ドルに達する。同じくニールセンによると、18歳から34歳の黒人は、ブランドに関する意見や感想をソーシャルメディアに投稿する傾向がほかより2.3倍高いという。
インクルージョン戦略の専門家であり、広告エージェンシーの22スクエアード(22squared)とトレードスクール(Trade School)で文化的施策の責任者を務めるジャニス・ミドルトン氏はこう話す。「Black Twitterは、無名のブランドに注目し、成長する以前から大きく取り上げ[あるいは称賛し、推奨し]てきた。こうしたブランドはいわばBlack Twitterのおかげで人気が出たとも言える。Twitterが触媒の役割を果たし、さまざまな方面に波及して、我々の多文化マーケティングにも影響を及ぼすようになり、インクルーシブランゲージ(包摂語)の存在も広く知られるようになった」。
マスク氏がトップに就任する以前、Twitterは「Voices X」という新しいクリエイタープログラムの本格開始に備えていた。このプログラムは、たとえばBlack Twitterのように、Twitter上の多様で影響力のある声を、広告機会を含め、ブランドとのコラボレーションや共同制作に結びつけることを目的としていた。
このプログラムを統括していたのがゴッディズ・リヴェラ氏で、同氏は当時、Twitterでカルチャー/コミュニティ担当のグローバルディレクターを務めていた。リヴェラ氏は米DIGIDAYの取材で、自分の役割を「Twitterを利用する、歴史的に周縁化されてきた人々との信頼関係を築くことだ」と語っていた。
リヴェラ氏のLinkedInによると、同氏は現在、ディズニーに在籍している。「Voices X」に関与していたほかの幹部たち、たとえばオルブンコラ・バッキー・オジェイフォ氏やアリエル・アドキンス氏らもすでにTwitterを退職しているようだ。それぞれのLinkedInによると、オジェイフォ氏は1月に退任し、アドキンス氏は現在、アートフォーチェンジ(Art for Change)のマネジングディレクターを務めている。
このプログラムに特定の事業目標が設定されていたかどうかは不明だ。そしてマスク氏がTwitterを非公開化したため、同社の正確な財務情報は入手できなくなった。リヴェラ氏のチームが完全に解体されたのかどうかも不明である。
Twitterにコメントを求めたところ、うんちの絵文字が返されてきた。
マスク氏がやったこと
マスク氏のTwitter買収はしばしばヘイトスピーチの増加と関連づけられるが、実際に買収以降、複数の著名なBlack Twitterユーザー、たとえば脚本家でプロデューサーのションダ・ライムズ氏、R&Bシンガーのトニ・ブラクストン氏、女優のウーピー・ゴールドバーグ氏らがTwitterの利用をやめると発表した。
今月初め、マスク氏は認証済みアカウントを示す「青バッジ」を削除し、サブスクサービス「Twitter Blue」の機能として有償化すると公言していた。月額8ドルで青バッジをキープするという提案に、プロバスケットボール選手のレブロン・ジェイムズ氏やラッパーから俳優に転じたアイス・T氏ら、多くの著名人が加入しないと表明している。
「TikTokやインスタグラムへの移動が見られる。多文化マーケティングのトレンドも、そちらにシフトするだろう」と、ミドルトン氏は述べている。「[Twitterは]メディアやソーシャルのプランニングからも外されるケースが出ているようだ」(Twitter広告費の行方に関する記事はこちら)
TikTokはソーシャルメディアの寵児となった。単なる実験的チャネルから、いまやマーケティング戦略に欠かせないメディアに成長し、かつてのTwitterを彷彿させる拡散力をブランドに提供している。しかし、そのTikTokも多様性の問題とまったくの無縁ではない。2020年以降、特にジョージ・フロイド氏の暴行死事件以降、社会的正義の重要性が見直され、プラットフォーマーたちも黒人向けのクリエイタープログラムを整備するようになった。一歩前進ではあるが、黒人クリエイターたちから見れば決して十分ではない。
その最たる例がTikTokで大流行したバイラルダンスの「レネゲード(Renegade)」だ。オリジナルの振り付けは、ジャレイア・ハーモンというアトランタ在住の14歳の黒人の少女なのだが、当初は誰もその事実を知らなかった。ブランドや白人クリエイターが彼女の名をクレジットすることなく、好き勝手に使っていたからだ。
業界全体で社会派の声は縮小
(Twitterのデジタル葬を挙行した人々もいるというが) Black Twitterが終末を迎えているわけでは決してない。カルチャーをうまく利用する機会はいまもそこにある。たとえば、ビヨンセが今年2月に「2023年ルネッサンスワールドツアー」の開催を発表すると、TwitterひいてはBlack Twitterは熱狂に包まれた。そしてあるユーザーが「アライファイアンシャル(Ally Financial)の積立口座でチケット代を貯めてきた」とツイートしたところ、これが瞬く間に拡散し、この金融機関にとってはビヨンセのコンサートという文化的瞬間に参加する機会となった。
しかし、機能やサービスの変更、ヘイトスピーチの増加、凍結アカウントの復活などにより、ユーザーのTwitter離れが加速し、TikTokなどの別のSNSアプリに移動するユーザーや広告主が増えれば、こうした文化的瞬間の活用はますます難しくなるかもしれないと、エージェンシーの幹部たちは危惧する。
VMLY&Rコマース(VMLY&R Commerce)でグローバルチーフエクスペリエンシャルオフィサーを務めるローラ・ミニョット氏はこう話す。「Twitter以外のプラットフォームにも、文化的瞬間やトレンドをとらえるチャンスはある。将来的に成長の機会があり、多様な意見が強い影響力を発揮するのは、むしろこうしたTwitter以外のプラットフォームとなるだろう」。
一方、前掲のTwitter元従業員によると、Twitterで社会的少数派の声が小さくなりつつあるのは確かだが、それは業界全体にも言えることだという。一時的なクリエイタープログラムやパートナーシップが先行し、多様性、公平性、包摂性を推進する取り組みが失速していると、この人物は述べている。
「次の時代はどうなるのか、よく考えたほうがいい。もちろん、私にもその責任はある。将来に対する責任は失われてはいけない」。
[原文:The fate of Black Twitter remains unclear after Elon Musk’s platform takeover]
Kimeko McCoy(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)