メリッサ・グレイディ氏は2019年9月、GM(General Motors)傘下のキャデラック(Cadillac)のCMOに就任したばかり。コロナ危機におけるキャデラックのメディアミックスに関する方針転換や、同社がかつての栄光を取り戻すべく据えている指標について、米DIGIDAYに語ってくれた。
自動車メーカーはこの半年間、コロナ危機の影響でさまざまな苦難に直面してきた。
ロックダウンによる制限で、販売代理店は営業を停止。製造現場も混乱した。パンデミック初期、多くの自動車メーカーは、やめることが難しくなるほどテレビ広告にコミットしてきたこともあり、(広告を止めたり、費用を削減するのではなく)その内容を、支払いオプションに関する情報や、支援メッセージに切り替えることで対応した。だが、しばらくすると、多くの自動車メーカーが広告支出を削減しはじめた。
メディアエージェンシーのゼニス(Zenith)によると、広告・メディア業界における世界主要10カ国で、自動車広告は2020年に21%縮小するという。しかしゼニスは一方で、感染の恐れから、公共交通機関を警戒する人々が増えるだろうと予測。これにより、先延ばしにされていた自動車購入数が増加し、2021年と2022年には業界が立ち直ると見ている。
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メリッサ・グレイディ氏は2019年9月、GM(General Motors)傘下の高級車メーカー、キャデラック(Cadillac)のCMOに就任したばかりで、以前は同社でメディアおよびパフォーマンスマーケティングの責任者を務めていた。グレイディ氏は、コロナ危機におけるキャデラックのメディアミックスに関する方針転換や、同社がかつての栄光を取り戻すべく据えている指標について、米DIGIDAYに語ってくれた。なお、以下のインタビューは読みやすさを重視して、若干編集している。
──あなたは約1年前、キャデラックのCMOに就任したわけだが、メインの仕事はいわゆる「事業の立て直し」だったはず。就任時、キャデラックは、どのような目標を掲げていたのか? また、それについて何を感じた?
就任した当初、不明瞭な点がいくつかあった。ひとつは、GMがそもそもイノベーションにどこまで力を注ぐ覚悟があるか。もうひとつが、イノベーションを実行するために、非常に大きな会社のなかで、迅速に対応できる組織作りが果たして可能なのかという点だ。さらにいうと、キャデラックそのものに関しても、より深い理解が必要だった。キャデラックについてはっきりしているのは、その傑出したスタイルであり、キャデラックのDNAに編み込まれているイノベーションの精神だ。キャデラックの創業から、はじめて電気始動機を導入した1900年代初期、そして真のハンズフリー運転を導入した現在に至るまで、それはずっと変わらない。
確かに、20年前のキャデラックと120年前のキャデラックを比べると、我々はちょっとした谷から抜け出す必要があった。こうした背景もあり、いま、キャデラックの製品ラインナップは一新されている。現在に至るまで、我々は消費者テストを繰り返してきたが、そうした姿勢を崩さず、この取材を受けているあいだも、我々にとってアイコニックかつ最新のラインナップをテストし続けている。そこにはセダンがあり、SUVもある。これまで、我々が築いてきたブランド・ヘリテージを補完するようなラインナップが用意できている。実際、電気自動車の分野では、GM傘下において主役になりつつある
自分の仕事が「立て直し」などとは思っていない。私の仕事は、キャデラックが本当はどんなブランドなのかを、多くの人に理解してもらうことだ。
──キャデラックのブランドとしてのパフォーマンスをどう思っているか?
ブランドのあり方を考えるための鍵は、製品にほかならない。我々にはブランドを支える強い製品がある。製品が悪質なのに良いブランドを作ろうとするのは、まるで手に負えない山を登るようなものだ。その点我々は、顧客満足度について、調査会社のJ.D.パワーやIHSからさまざまな賞に選ばれている。また、ここ1年間における我々の製品ポートフォリオを見てもらえば、良質な製品作りが実践できていることがわかるはずだ。
良い製品はすでにある。となると、大切なのはキャデラックというブランドのエネルギーと大胆さをいかに伝えるか、そして我々の製品ポートフォリオを、いかに消費者に理解してもらかだ。社内で展開されている、マーケティング施策の指標を見るところ、いまのところ我々のアプローチは正しい方向に進んでいる。
──それはどのような指標なのか?
重要指標としてトラッキングしているのは、ブランド・オピニオンとブランド・コンシダレーションだ。我々は、将来の株主価値の向上とシェア拡大を実現するための社内調査を実施し、それらをもとに一企業として目指すべき指標をいくつか決定した。
その調査で示された事実が、我々の道標になっている。ある調査研究(社内のものかは不明)によると、不況に陥るブランドのなかでも、ブランド・オピニオンとブランド・コンシダレーションをトラッキングしているブランドは、下降するスピードが緩やかかつ回復も早いのだという。
──カンター(Kantar)のグローバルリサーチによると、企業の60%がコロナ危機の期間中、マーケティング支出を減らしている。キャデラックは支出を維持したのか? それとも削減したか?
我々は当時、どのような地域に向けて広告を打つべきだなのか、また製品在庫の地域別の状況などを示す指標を確認し、それに基づきモデルを作成し、オンラインのアドレサブルメディアを中心に広告出稿を続けた。
その間、我々が重視していたのは、消費者の感情とマーケティング施策に対する反応だ。
さらに、3月13日にはテレビからすべての広告を引き上げた。当時我々は、アカデミー賞関連のキャンペ-ンを開始したばかり。同キャンペーンは、エネルギーと生命力に満ちていて、夢を叶えるために、どのように人生を突き進めば良いかを伝えるもので、私はかなり気に入っていた。しかしそれは、あのとき世の中が求めるメッセージではなかった。それに気付いてからすぐにキャンペーンを停止し、パンデミック初期の広告施策に戻した。
パンデミック中は、およそ2週間おきに広告の内容を変えていた。というのも、当時人々が求めるものは、ロックダウンの1週目と4週目では大きく異なっていたからだ。
一方で我々は、オンラインに大きく注力した。取り組みのひとつとして挙げられるのが、「キャデラック・ライブ(Cadillac Live)」だ。これは、パーソナライズされたモーターショーのようなもので、キャデラックの製品がそろったスタジオに、あらゆる車を紹介できる専門家を控えさせ、顧客からの問い合わせに個別に対応するというものだ。たとえば、XT6の3列目は頭上のスペースがどれくらいあるのか、ベビーカーは後部座席に収まるのかといった、詳細情報を案内できる。
――年末はもちろん、2021年の動向を予想するのは難しいと思うが、この不確実性にはどう対応する?
コロナ禍のあいだ、感激したことがひとつある。それは、世界的な危機の真っ只中で、我々が現在展開している「We have your back」キャンペーンのために、スタッフみんなが協力して出稿に漕ぎ着けたことだ。歴史上、人間は諦めない精神を持っていることがわかっているが、我々は迅速な対応が可能なのだという自信を持つことができた。
年内に目を向けると、ブランドキャンペーンが控えている(女優のレジーナ・キングを起用した同社の製品、キャデラック・エスカレード[Cadillac Escalade]のキャンペーン)。このCMの「Never Stop Arriving」が意味するのは、「恐れずに進化していくこと」の重要性だ。我々が、かつての自分たちから少し変化することができたのは、ブランドとして成長したからだと思っている。我々は前に進み続け、進化を続ける。過去ではなく、可能性によって自らを定義していくのだ。
パンデミックでさまざまな社会不安が生じ、社会は真正面から取り組むべき課題に直面している。我々は大胆不敵に進化し、それらに対応していくつもりだ。
レジーナ・キングはその象徴となる人物だ。テレビ女優としてデビューし、映画に進出した。アカデミー賞を受賞し、最近ではエミー賞も獲得した。また、現在は監督デビュー作を制作中だ。この1年は、彼女のキャリアが進化した1年でもあったが、彼女は自分の取るべき立場をぶらさなかった。エミー賞には、(3月に銃撃を受けて死亡した)ブリオナ・テイラー氏の「Say Her Name(彼女の名を口にしよう)」と書かれたTシャツを着て挑んだのだ。
発売を予定しているエスカレード、そして地慣らしをはじめている電気自動車ビジネスに関しても、我々は自分たちが信じる道を進んでいく。
[原文:‘Quickly turning on a dime’: How Cadillac steered its advertising through the coronavirus crisis]
LARA O’REILLY(翻訳:緒方亮/ガリレオ、編集:村上莞)