プログラマティック広告のトレンドを捉えるのは、単に現状を分析すればよいというものではない。15の別々の試合のスコアを同時につけるような果敢な試みだ。大きな動きが満載だった2021年は、不安、興奮、挑戦、そして希望に満ちた一年だったが、2022年を迎えたいま、昨年目立ったトピックをいくつか紹介したい。
プログラマティック広告のトレンドを捉えるのは、単に現状を分析すればよいというものではない。15の別々の試合のスコアを同時につけるような果敢な試みだ。大きな動きが満載だった2021年は、不安、興奮、挑戦、そして希望に満ちた1年だったが、2022年を迎えたいま、昨年目立ったトピックをいくつか紹介したい。
ポストCookie時代にふさわしいソリューションの模索はいまも続いており、ソリューションは数えきれないほどある。米DIGIDAYが確認したものだけでも、100を超えているという。こうした現状からも、いまのところ業界全体が歩調を合わせるのは不可能に思えるが、2022年には新たな提案や検証が行われ、多くの知見が得られるだろう。アドテクバブルの再来は、広告主による、透明性への非現実的な期待を生み出している。また、豊富なデータを持つパブリッシャーは、独自のDSP(デマンドサイドプラットフォーム)を立ち上げようとしており、GAFAが築くウォールドガーデンとは別のエコシステムが出現しはじめている。また、CTV(コネクテッドTV)など新興の広告手法への期待も高まっている。しかし一方、業界はいまだに不正行為やブランドセーフティをめぐる問題といった障壁に直面し続けている。
米DIGIDAYは、11月8~10日にマイアミで開催されたイベント、プログラマティックマーケティングサミット(Programmatic Marketing Summit)に業界のリーダーや問題解決の専門家を招き、3日間にわたってこれらの課題や2022年に取り組むべき問題について議論した。
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目次
02 大離職時代のなか、有能な人材確保が急務に
03 CTVの盛況
04 新たなウォールドガーデンが出現
05 大離職という現象、その背景にあるもの
06 こぼれ話
07 知っておくべき数字
01 コンテクスチュアル広告は戦術としては有用。だが…
コンテクスチュアル広告はいま大きな注目を集めているが、Cookie廃止後の唯一の解決策というわけではない。実際、製薬や自動車業界の広告主のあいだでは例外として、ほとんどの業界の広告主は、コンテクスチュアル広告を戦略の要としては捉えていない。
ただ、いま広がりつつあるコンテクスチュアル広告は、以前から存在していたそれとは別物だ。メディアエージェンシーのスターコム(Starcom)のバイスプレジデントであるジル・クレゲル氏は、今日のコンテクスチュアルは別物であり、広告主はコンテクスチュアルテクノロジーが持つ潜在能力を十分に評価できていないと述べている。
「現在、注目されているのは、従来からあるようなコンテクスチュアルターゲティングではない。単に検索キーワードを突っ込んでキャンペーンを出し、その結果を見るだけにはとどまらない。もっとできることがたくさんある」。コンテンツベースターゲティングは、コンテクスチュアル広告のひとつの機能に過ぎないのだと、クレゲル氏はいう。
02 大離職時代のなか、有能な人材確保が急務に
プログラマティック関連の職場は、大離職時代の影響を受けている。スタッフが退職し、なかにはこの業界から離れていく人もおり、チーム規模も縮小しているという。パンデミックの初期に一時解雇やレイオフが行われた際には誰も予想できなかったほど、厳しい状況が続いている。
こうした状況においては、経営幹部やマネージャーは従業員のリテンションを最優先に考えねばならない。マーケティング支援企業のノウン(Known)で、タレントアクイジション(人材獲得)担当シニアバイスプレジデントを務めるアリッサ・アデルソン氏が、同社のリテンション戦略における考え方を少し紹介してくれた。まずはじめに、アデルソン氏は「キレ落ち(大離職を表す言葉:オンラインゲームの対人戦において、敗色濃厚の際に怒ってゲームを放棄すること)」という言葉の後ろ向きな響きが好きではないと述べる。同様の意見が他の経営幹部からも聞かれた。
「我々が現実に目にしているのは、従業員による革命だ」とアデルソン氏は語る。「皆が在宅勤務をし、1日のなかで仕事とプライベートがごちゃ混ぜになるのを実感している。そして、これは自分の人生に合っているのか、キャリア目標に適合するものなのかと自問する。残念ながら、多くの人にとってその答えは『ノー』だったということだ」。
ノウンでは社員が大量に離職することはなかったが、それでもリテンションを最大限に高めるためのツールを開発してきたという。その取り組みのひとつが、入社時に全社員が受けるカルチャーオンボーディング・プログラム(社風を知るための入社時研修プログラム)だ。また、有給休暇も重要なインセンティブのひとつである。
「当社のすべての従業員が、休暇を取得する際に1000ドル(約11万円)のボーナスを支給される。我々は、社員がリフレッシュしたり職場を離れたりすることを強く奨励している」とアデルソン氏。これは従業員にとっても企業にとっても、メリットがあるのだという。「我々の価値観のひとつに『学びを止めない』というものがある。新しいものを取り入れたり、リフレッシュしたりする時間をもたなければ、人は静止してしまう」と彼女は説明する。何よりもリテンションの根本方針は、従業員にとって可能な限り迅速な対応であることだという。
「キーボードに向かって仕事をしたいと思うデータサイエンティストがいる一方、顧客と向き合う仕事がしたいと望むデータサイエンティストもいるかもしれない。それで構わない」とアデルソン氏はいう。「また、そうした想いはいつ何がきっかけで変わるかもわからない。それは良いことなのだ」。
03 CTVの盛況
CTVは、幅広いニーズに応えられるインベントリー(在庫)と魅力的な価格設定で、多くの広告主からかつてない高い関心を集めている。メディアエージェンシーのクロスメディアUSA(Crossmedia USA)で、デジタル・アクティベーション部門のマネージングディレクターを務めるプレルナ・タルレジャ氏は、CTVをはじめて利用する広告主が知っておくべきヒントをいくつか提示している。同氏によると、すでにリニアTVを活用している広告主は大抵、CTVとリニアTVの両方のフォーマットを組み合わせた、パッケージプランを勧められることが多いという。しかし、CTVによって得られるリーチの増加を最大限に利用するためには、すでにリニア広告を購入しているネットワークでCTV広告を購入するだけでは、不十分だと同氏は語る。
また、可能であれば、CTVの取引は事前に、かつできる限りはやい時期に交渉すべきだろう。第4四半期になってから時流に乗り遅れたのではないかとの恐怖感に駆られて市場に参入し、それ相応の最高ランクの費用負担をよしとする広告主などいないだろう。試行錯誤を繰り返して質を上げるテスト&ラーンは素晴らしい手法だが、ブランドはCTVが全体的な戦略のなかでどのような役割を果たすのかを、できるだけはやく、明確に見極める必要があると、タルレジャ氏は述べている。というのも、CTVは注目すべきエキサイティングな手法ではあるが、広告主は、さまざまなプラットフォームとフォーマットに幅広く投資する必要があるからだ。
タルレジャ氏はこうも述べている。「単なるテストとしてとか、新しいメディアでインプレッションを稼ぎたい、新しいことはやってみるべきだから、といった理由からCTVを試すのはおすすめしない。そのチャネルが自分の広告購入にどのような役割を果たしているか、また、それがファネルやジャーニー全体を通じていかに顧客を誘導できるかを深く理解するために、試すべきだ」。
今回のサミットでは、数名の講演者から、不正行為やブランドセーフティの問題を懸念する広告主が、CTVの活用に二の足を踏むケースがあるという問題に対して、業界の各プレイヤーがどのような取り組みをしているかについても語られた。当日は、ブランドセーフティを最大限に高めるためには、エージェンシーが、ダイナミック除外リストや特定のSSP(サプライサイドプラットフォーム)やクオリティ・インベントリーを提供しない取引を排除するフィルターなど、あらゆるツールを活用すべきだという話が上がった。
メディアエージェンシーのスパークファウンドリー(Spark Foundry)で、プログラマティックプレシジョン担当EVPを務めるジョー・コワン氏は、不正行為に対する同社の取り組みを「もぐらたたきゲーム」にたとえている。「不正行為への対応は、この業界で問題視されていることの一部に過ぎない。そして、プログラマティック広告を採用する利点は大きい。常に警戒を怠らず、日々のチェックリストに入れておくことが重要だ」。
クロスメディアUSAのプレルナ・タルレジャ氏は、たとえ不正行為がいまだ存在しているとしても、少なくとも業界としてこの問題に対応する姿勢は示していると強調する。「この問題について、さまざまなことを語る人々がいるが、(広告主からの)ニーズがあるのは確かだ。そして業界は、その解決策を真摯探そうと頑張っている」。
04 新たなウォールドガーデンが出現
また昨年は、新たなウォールドガーデンの出現が各所で見られた。どうやら多くのパブリッシャーやプラットフォームが、巨大テック企業の戦略は、自分たちにとっても都合が良いと判断したように思われる。ファーストパーティデータは、当然ながら、サードパーティCookie廃止後の未来で強力な差別化要因となるため、いまや米小売企業のウォルマート(Walmart)や米エンターテインメント企業ロク(Roku)、米メディア関連企業ディスカバリー(Discovery)など、多くの企業が独自のウォールドガーデンを構築している。
マーケティング支援企業、OMD USAのヘッド・オブ・アクティベーションであるルーク・ランバート氏によれば、ウォールドガーデンが増えることは必ずしも悪いことではないという。「我々としては誰と話をしているのかが分かりやすいし、消費者体験はかなり向上していくと思う」と、同氏。「我々はこれを受け入れなくてはならない」のだと語る。またジョー・コワン氏は、「ウォールドガーデンは全体的な測定戦略を行う上で困難な課題をもたらすが、乗り越えられないものではない」と話す。コワン氏は、独自に専有データを持つパブリッシャーは、それをウォールドガーデンに置く可能性が高く、広告主は複数のウォールドガーデンと連携しなければならないことに慣れる必要があると述べている。
05 大離職という現象、その背景にあるもの
2021年に入り景気が回復してくると、米国労働統計局(U.S. Bureau of Labor Statistics)による毎月の雇用統計にも顕著な傾向が見られるようになった。
これを受け多くの産業で、組織の人員をCOVID-19のパンデミック以前の水準まで戻すのは困難であることに雇用主たちが気づきはじめた。というのも、毎月のように何百人ものアメリカ人が離職しているのだ。2021年9月だけでも、440万人という記録的な数が職場を去っていった。
この現象には、すぐに「キレ落ち」という名がついたが、我々がサミットで聞いたところでは、プログラマティック関連企業の経営者の多くは、そうした表現で、現状を型にはめて捉えることを嫌がっている。労働者が大量に労働市場から去っていったのは、仕事は従業員の生活や優先事項に合ったものであるべきという彼らの主張の表れだと、経営者たちは述べる。
ただ従業員の想いはどうあれ、この現象が企業の現場に及ぼす影響については、さまざまな報告があがっている。経営者たちはこうした現状を受け、福利厚生制度を見直し、従業員のニーズをよりよく受け入れるための方法について検討しているという。
06 こぼれ話
「プログラマティックのトレーダーやキャンペーンマネージャーは、あまりにも多くの事柄についてたくさん知りすぎてしまう立場にある。そのため、幅広く事柄についての、浅い専門知識しか持ち合わせていない。DOOH(デジタルアウトオブホーム)やストリーミングオーディオやバナー広告を作動させることはできるが、ひとりの人間がすべての領域において専門家になるには、得るべき知識やスキルが複雑、かつ多すぎるのだ」。
――ティヌイティ(Tinuiti)のプログラマティック広告、およびディスプレイメディア担当バイスプレジデント、ジェフリー・リトワー氏
- プログラマティック広告の成長に伴い、ひとつのチームが担当する機能の範囲が拡大し、扱いきれなくなってきている。しかしリトワー氏は、業界が成長するにつれてチーム構造が見直され、チャネル、プラットフォーム、フォーマットにまたがる、より深い専門性を有する体制作りが広がっていくと見ている。また、リトワー氏は「プログラマティック」という言葉は、この業界で行われていることを表現しきれていないと、疑問を呈す(プログラマティック広告とひと口にいっても、その業務内容は多様かつ複雑だからだ)。
「私自身は決して口にしない言葉だが、『Cookieに死を(death to the cookie)』『Cookieの死(death of the cookie)』『Cookie黙示録(cookiepocalypse)』など、どれも非常にネガティブな響きだ。私はこうした表現に賛同はできない。なぜならCookieの廃止は、開かれたインターネット全体を再び同じ水準に設定しなおし、新たなアイデアや経営方法を受け入れるための、絶好の機会になるからだ」。
――OMD USAのヘッド・オブ・アクティベーション、ルーク・ランバート氏
- ランバート氏は、サードパーティCookieの廃止が、まるで破滅のシナリオのように語られる点に問題があると指摘する。そうした状況が、Cookieからの脱却についての議論も、不安や恐怖、そしてしばしばパニック感に満ちたものになりがちだと同氏。マーケターは、ポストCookie時代にもたらされるかもしれない利益のほうに焦点を当てて、再度議論を組み立ててみるべきだと、同氏は主張している。
「あなたが、科学とデータを重視し創造性も兼ね備えた組織の人間ならば、鍵を握るのはイノベーションだ。そしてイノベーションと創造性を加速させるのは、異なる視点と多様性である。もし同じような人ばかりを雇っていたら、どこにイノベーションがあるというのだろう?」。
――ノウン、タレントアクイジション担当シニアバイスプレジデントのアリッサ・アデルソン氏
- プログラマティック広告に関わるチームや企業の多くが、いまでも多様性という点に関しては、配慮できていない。これは、単に有色人種や女性の従業員および雇用候補者についての問題ではなく、組織の成長を妨げる要因にもなる。アデルソン氏は、従業員の価値観や人生経験の多様性を確保するために、いかに雇用が重要であるかをタイムリーに語ってくれた。ノウンでは、多様な人材採用から多くの恩恵を受けており、それは同社が多様なクライアントを獲得し維持する上で役立っているという。
07 知っておくべき数字
ポッドキャスティングはプログラマティック広告主にとって、大きなチャンスを秘めた新たな手法だ。エジソンリサーチ(Edison Research)による最近のレポートによると、毎週8000万人のアメリカ人がポッドキャストを聞いているという。エジソンの試算によると、2021年にはこの分野で10億ドル(約1100億円)を超える広告収入が見込まれるという。
IAIN SHAW(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)