Threadsが公開されて2週間以上が経った。その間、運営会社のメタ(Meta)はこのテキストベースのソーシャルアプリについて、ことさら積極的に発言してきた。 メタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、ユー […]
Threadsが公開されて2週間以上が経った。その間、運営会社のメタ(Meta)はこのテキストベースのソーシャルアプリについて、ことさら積極的に発言してきた。
メタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、ユーザー数が節目の数字に到達するたびにThreadsにコメントを投稿。インスタグラムの責任者を務めるアダム・モッセーリ氏も、Threadsに投稿される新機能のリクエストに精力的に答えを返していた。また、メタはインスタグラムを含む姉妹サイトを使ってThreadsの存在を盛んに宣伝している。平たく言えば、メタは誰もが楽しめるアプリ開発に注力していると明確にアピールしたいのだ。
その反面、あまり注目されていない話題のひとつが広告だ。ザッカーバーグ氏の最近のコメントにその理由の一端が垣間見える。Threadsユーザーへの返答として、ザッカーバーグ氏は「10億人ユーザー達成への道が明確に見えてきたら、Threadsの収益化を考える」と投稿している。
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Threadsでの広告展開はユーザー数次第?
一見遠い道のりのようにも思えるが、Threadsは最初の5日間で1億人の大台を超えるユーザーを集め、すでに全道程の少なくとも10分の1を踏破した。一部の業界関係者は米DIGIDAYに対し、「Treadsのユーザー数が5億人に到達次第、収益化の検討に着手するのではないか」と語っている。
しかし、誰もが察していたことではあるが、メタはインスタグラムの「リール(Reels)」の立ち上げから得た教訓をThreadsに活かしたい考えで、そのことを公に認めてもいる。リールの公開当初、収益化への意欲はあったが、大規模なマネタイズを行うにはコンテンツが十分ではなかった。Threadsも「当初はアプリの普及と持続的な利用に全力を傾けるだろう」と、米国のある大手広告エージェンシーのマーケターは述べている。
「アルファ版がリリースされる時期について訊ねても、メタは『マネタイズについては考えていない』というばかりだ」と、このマーケターは証言する。「それでも、ユーザー数が5億人に達したあたりで、おそらく内部的には収益化の努力が始まることは認めている。ただし、一般公開はもっと大きな数字の達成を待つことにはなるようだ」。
Threadsでの広告展開についてメタは堅く口を閉ざすが、社内的にはすでに、たとえ大まかな計画であるにせよ、何らかの計画が立てられていても不思議ではない。結局のところ、Threadsとて広告収入で運営するサービスなのだ。
デジタルマーケティングエージェンシーのスパロマーケティング(Sparo Marketing)の創設者でCEOを務めるモリー・ロペス氏は、「メタの収益化計画は、彼らが世間一般に信じさせたい進捗よりも、ずっと進んでいることは間違いない」と語る。「収益化のプランがThreadsというアプリに当初から組み込まれていることは確実で、普及が見込めると分かれば、計画的かつ段階的に実行されるだろう」。
メタが強調するThreadsのセールスポイント
業界からもユーザーからも等しく歓迎されている点があるとすれば、それはThreadsの登録と利用開始の容易さだ。実際、米DIGIDAYが入手したメタのセールス資料でも、このポイントがその冒頭を飾るほどだ。
その資料では、「インスタグラムのアカウントでログインし、ただちにオーディエンスを構築できる」こと、さらには「誰でもインスタグラムでフォローしているアカウントをそのままフォローできる」点が強調されている。
また、クリエイター関連のメッセージ(Threadsにとってクリエイターが重要な存在であることを最初から明確に示している)のなかで、アプリの利用を開始するには「シングルサインオン」が必要であることを繰り返し述べている。加えて、「インスタグラムでフォローしていたクリエイターがまだThreadsにアカウントを開設していない場合、事前フォローをしておけば、そのクリエイターがThreadsにプロフィールを作成次第、フォローリクエストが表示される」ため、オーディエンスの獲得は保証されているも同然だという。
ベイシステクノロジーズ(Basis Technologies)でサーチおよびソーシャルメディア担当のバイスプレジデントを務めるエイミー・ランプラー氏は、「メタがThreadsへの登録の容易さを戦略的に強調している」と指摘する。マーケターの立場からすれば、ダウンロードして管理運用するアプリがひとつ増えるのだから、新しいプラットフォームを安心して使ってもらうためにも、その容易さを強調することには意味があるのだろう。
「Threadsは、メタが目指したシームレスな連携をめぐる初期の目標の多くを達成しているようだ」とランプラー氏は言い添える。
新機能のロードマップ
Threadsのユーザー数は注目に値するが、Twitterという最大のライバルからさらに多くのユーザーを取り込むには、機能の面で後れを取っている。ハッシュタグ、ディスカバラビリティ(発見されやすさ)、検索機能、ダイレクトメッセージ(DM)など、数例挙げただけでもそのことがよく分かる。セールス資料を見る限り、メタが提案しているすべての機能は、少なくとも検討案件ではあるようだ。
インスタグラムのモッセーリ氏は複数のThreadsユーザーからの要望に対して、「リストに上がっている」という単純な答えを返しているが、メタはすでに独自のロードマップを用意しているもようだ。
セールス資料によると、Threadsは近々中にマストドン(Mastodon)のようなほかの分散型のソーシャルメディアアプリとの連携を予定しているというが、確定的なスケジュールは示されていない。
異なるプラットフォームとの相互作用
Threadsはマストドンと同じくActivityPubプロトコル(分散型SNS間のデータ送受信をサポートするもの)で構築されている。分散型のプラットフォームでは、TwitterやFacebook、インスタグラムなどと異なり、ユーザーデータの一元管理を行わないため、プライバシーやセキュリティを優先するプロトコルとして高く評価されている。
しかも、分散型のSNSプロトコルは、相互に交信するためのオープンなエコシステムを作成する。メタにとってこれは、ThreadsのユーザーがThreadsアプリを離脱することなく、マストドンのユーザーとのあいだで互いにフォローしたり、フォローされたり、あるいは交流したりできることを意味する。
現在、ActivityPubはフリップボード(Flipboard:分散型SNSニュースプラットフォーム)やピクセルフェッド(PixelFed:インスタグラムと同じく写真特化のSNSで、分散型のプラットフォーム)など、ソーシャルネットワークをいくつかサポートしている。メタもこのオープンネットワークのエコシステムという考え方を受け入れているように見えるが、実際に連携されるまでは、Threadsユーザーは同じThreadsユーザーとしか交流できない。
機能の充実をちらつかせている
とはいえ、クリエイターにとってとくに魅力的と思われる分散型モデルの一番の特徴は、たとえばクリエイターがThreadsからマストドンに乗り換えることにした場合、自分のユーザーを引き連れて移動できる点にある。
セールス資料にはこう書かれている。「データの所有権はあなたにある。それはつまり、あなたはいつでも好きなときに、自分のプロフィールやコンテンツを別のサービスに移すことができるということだ」。
現時点でメタはその詳細を明らかにしていないが、このセールス資料ではトレンド&トピック(Twitterトレンド)、改良版の検索機能、ダイレクトメッセージ(DM)など、ユーザー待望の機能という大きなニンジンをちらつかせている。
「こうした機能の実装は、それほど驚くようなことではない。メタはできるだけ多くのエンゲージメントを集め、ユーザーには長期的な利用を期待している」と、ランプラー氏は話す。「メタはユーザーの関心が薄れない今後数カ月のうちに、これらの新機能を急ピッチで開発するだろう」。
セールス資料で語られていないこと
一方で、メタが現在抱えるもっと大きな問題と言えば、攻めの姿勢で追跡戦術を使ってきた紆余曲折の歴史だ。おかげで、同社は規制当局の逆鱗に触れたこともある。
結果として、Threadsは現在、EU(欧州連合)では利用できない。EUのデータ規制の基準を満たしていないからだ。メタはVPN経由での利用もブロックしたようだ。それにもかかわらず、メタのセールス資料を見る限り、Threadsが今後データをどう扱うのか、あるいは現在の状況にどう対処するのか、安心材料となるような情報は何も示されていない。
クリエイターに関しては、インスタグラムのコミュニティガイドラインがThreadsにも適用されており、2要素認証を利用してアカウントを保護できる点が強調されているだけだ。しかし、もっと大きなデータの問題に関しては、何も動きはないようだ。
匿名で取材に応じた前述のマーケターは、「私の勘だが、メタはEUでより厳格なプライバシー規制に対処するより先に、米国での懸案事項を片づけ、長期的に成功が見込めるプロダクトかどうかの確認を優先させるだろう」と述べている。「メタは上場企業だ。自社の経営資源を投じるに値する製品であることを証明しなければならない。かつて、メタはメタバースへの過剰投資で叩かれた。EUの問題をどうにかしようにも、過去のトラウマが脳裏をかすめるのだろう」。
[原文:Pitch deck: What Meta is (and isn’t) saying to advertisers about Threads right now]
Krystal Scanlon(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)
Illustration by Ivy Liu