コンテンツ制作用のAIツールが次々と開発されている。このAIブームの波に、マーケティング分野の新興勢力も乗ろうとしているようだ。AI分野でよく話題に上るのは文章、画像、動画の自動作成だが、米カリフォルニア州のレンブランド(Rembrand)は、約3兆円規模といわれるプロダクトプレイスメント市場を狙っている。
コンテンツ制作用のAIツールが次々と開発されている。マイクロソフト(Microsoft)やGoogleをはじめとする巨大テック企業が技術開発に巨額の資金を投じる一方で、マーケティング分野の新興勢力もまた、このAIブームの波に乗ろうとチャンスをうかがっているようだ。
AI分野でよく話題に上るのは文章、画像、動画の自動作成だが、米カリフォルニア州に拠点を置くあるスタートアップ企業は新たな分野に目をつけた。17世紀オランダ絵画の巨匠レンブラントにちなんだ社名のレンブランド(Rembrand)は、230億ドル(約3兆円)規模といわれるプロダクトプレイスメント市場でビジネスチャンス開拓を狙っている。
資金調達が加速するAIツール企業
アドテク分野で実績のあるオマール・タワコル氏により設立されたレンブランドは、AIで生成したリアルな外観の商品画像などの広告要素を、デジタル動画内に挿入できる技術を開発し、2月7日、シード投資ラウンドで800万ドル(約10億4000万円)の資金調達を実施したと発表した。同社のプラットフォームは、ニューラルインバース・レンダリング(neural inverse rendering)というプロセスを通じ、映画、リアリティショーなどのTV番組、インフルエンサー制作のソーシャルメディアコンテンツなどにスポンサード商品の画像を自動配置する機能をもつ。
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現在のAIブーム到来前から、業界ではジェネレーティブAIツールを提供するスタートアップの資金調達が進んでいた。米アラバマ州バーミンガムに拠点を置くコピースミス(Copysmith)はコピーライティング支援ツールを開発し、2021年の投資ラウンドで1000万ドル(約13億円)を調達。2022年後半には、eメール用文章作成ツールを開発したサンフランシスコのセルスケール(Sellscale)が300万ドル(約3億9000万円)を、同年10月にはテキサス州オースティンを拠点とする生成系コンテンツプラットフォームのジャスパーAI(Jasper.ai)が1億2500万ドル(約162億5000万円)の資金調達に成功した。
レンブランドのCEOであるタワコル氏は以前、共同創業者として、データマネジメントプラットフォームのブルーカイ(BlueKai)およびエンタープライズ音声AIプラットフォームのヴォイセア(Voicea)を立ち上げた経験がある。レンブランドの計画では、プロダクトプレイスメントの自動化ツールをまずトーク番組に導入し、その後スポーツ、健康、ゲームなど、ほかカテゴリーの番組にも範囲を拡大するという。最新技術テストに参加予定のブランドやコンテンツクリエイターの名前は公表されていないが、「自動化ツールとそれに伴う広告収入の魅力は業界人を引きつけるはずだ」と、タワコル氏は期待する。
「商品を動画内に登場させてPRするプロダクトプレイスメントは、動画制作者との交渉に4週間から6週間かかる」とタワコル氏はいう。「動画に埋めこむ商品を発送する場合、時間的制約により交渉できるのはトップクラスのインフルエンサーに限られ、費用が高くつく。しかしデジタルで挿入すれば、トップではないが熱心なフォロワーを抱える数多くのインフルエンサーにまで取引対象を広げられる」。
AIに対する人々の関心が高まり、投資が盛んになりつつある。マイクロソフトやGoogleなど巨大テック企業がAI製品やサービスを矢継ぎ早に発表する一方で、レンブランド以外にもマーケティングテクノロジー志向のスタートアップ企業が次々と誕生し、コンテンツ生成ツールというAIの新興分野開拓をめざしている。
「バーチャル商品を扱う会社は、短期間に大量の経営資源を投入して優位に立つ、いわば大きな衝撃と畏怖を与えようとする場合がある」と、レンブランドに出資するUTAベンチャーズ(UTA Ventures)の経営者、サム・ウィック氏はいう。「しかしそれは、動画内に商品を自動配置するには(物理的な商品を配置するより)多くの労力がかかるうえ、成果物がほかの動画に流用できないからだろう」。
キャッシュや資源が集まる
ジェネレーティブAIスタートアップ市場は今後も成長しつづける見通しだ。マーケットインテリジェンスを専門とするCBインサイト(CB Insights)が2022年に発表した報告書によると、AIスタートアップへの投資は2020年には2億7100万ドル(約352億3000万円)だったものが、2021年には15億ドル(約1950億円)、2022年には27億ドル(約3510億円)にまで伸びた。一方、資金調達取引件数は、オープンAI(OpenAI)がマイクロソフトから10億ドル(約1300億円)を調達した2019年には合計42件だったが、2022年には110件と、4年間で3倍近くに増えている。2022年、ソーシャルメディアおよびマーケティングコンテンツ系を手がけるスタートアップの資金調達額は合計3億1700万ドル(約412億1000万円)だったのに対し、ビジュアル広告および販促資材関連のスタートアップの資金調達額は1000万ドル(約13億円)にとどまった。
ほかのスタートアップは、社内の経営資源を活用する方法をとっている。デイドリームAI(Daydrm.AI、以下デイドリーム)の共同創業者は、カンヌライオンズ(Cannes Lions)、D&AD、ザ・ワン・ショー(The One Show)といった名だたる国際広告賞の受賞作品から抽出した知識を機械学習によって取り込むAIモデルを開発した。このシステムは、マーケターが入力したクリエイティブブリーフの情報をもとにAIがコンテンツを生成するもので、たとえば爆発的に拡散しそうなYouTube動画制作や、インスタグラム向けのユーザー制作コンテンツ、ライブ配信イベント、店舗内アクティベーションなど、さまざまなオンラインキャンペーンのアイデア創出が可能だ。
「限られた知識をもとに、短期間でアイデアを出すよう求められるブランド各社のマーケティングストラテジストたちは、このAI革命に取り残されたと感じているだろう」と、デイドリームの創業者のひとり、ジェームズ・フォックス氏はいう。「我々が開発したAIモデルは、各種キャンペーンとクリエイティブブリーフの豊富な事例から導き出した知見を活かして、最適な手法を提案できる」。
AIを「クリエイティブ計算器」として使う
フォックス氏と共同創業者のアーロン・アドラー氏は、広告分野で多くの実績を上げてきた。フォックス氏は20年にわたり広告エージェンシー数社で経験を積んだあと、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)のグローバルブランド戦略の責任者を務めた。アドラー氏は、ソフトウェアのフロントエンド開発者として、LinkedIn、IBM、Facebook、アイリーンフィッシャー(Eileen Fisher)、パタゴニア(Patagonia)などのパートナーとプロジェクトで協業した。デイドリーム開発のAIツールは、人間のマーケティングストラテジストに取って代わるものではない。アドラー氏によれば、バーチャル世界における「クリエイティブ計算器(creative calculator)」として、反復されるアイデア創出のプロセス自動化支援を目的とするツールだという。
「我々は、AIがクリエイティブだとは思わない」とアドラー氏はいう。「AIには情報から特定のパターンを発見する機能があるため、それがクリエイティブに感じられるかもしれない。しかし実際には、統計データの相関関係の分析により所与の課題を解決するプロセスを、システムのバックグラウンドで実行しているだけなのだ」。
AIブーム到来前に設立された企業でも、AI関連事業の成果が表れている。たとえば、2年前に設立されたジャスパーAIのメーガン・キーニー・アンダーソン氏によると、同社の有償サービス契約者数は10万に上る。直近の売上高についてはまだ公表されていないが、2021年の経常収益は3500万ドル(約45億5000万円)である。過去2四半期の収益は「過去最高」だという。
2011年にデジタルマーケティング会社のハブスポット(Hubspot)に入社したアンダーソン氏は現在、同社が出資したジャスパーのマーケティング部門長を務めている。同氏によれば、ジェネレーティブAIは現在、10年以上前のソーシャルメディアマーケティングの状況と似たような「啓蒙段階」にあるという。ジャスパーAIは派手な大規模キャンペーンによる宣伝はせず、ユーザーがツール活用術を共有したり、スキル強化ワークショップに参加したりできるコミュニティの醸成に力を入れている。
アンダーソン氏は次のように語る。「ジェネレーティブAIとは何か、顧客企業にいちいち意味を説明しなくてもすむようになった。この分野のビジネスはいま、まさに上昇気流に乗ろうとしている」。
[原文:Wave of AI-based marketing startups arrives as Microsoft, Google rush AI-based products to market]
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)