従来型リテーラーが次々と閉店し、「Amazon一強」の時代が到来したかのように思われるアメリカ小売業界。そんななかで、リテーラーのWebサイトを広告媒体化することで、新たな収益化の手段を作り出している企業があった。広告アナリストや世界最大手グループも認める、トライアドリテールメディアの独走とは。
2007年、トライアドリテールメディア(Triad Retail Media)に入社したシェリー・スミス氏が最初に担当した仕事は、米アーカンソー州ベントンビルに支社を設立することだった。米ウォルマート(Walmart)傘下のサムズクラブ(Sam’s Club)の広告販売を促進し、プロダクトのプロモーションを実施するためだ。
「デジタルリテールの戦略は当時、未知のものだった。我々は最初のクライアント、ウォルマートと共に着手した」。2017年9月、トライアドの最高顧客責任者(CCO)から最高経営責任者(CEO)に昇進したスミス氏は語った。「その戦略とは、リテールサイトを閲覧する顧客に、取り扱い商品や店頭プロモーションに関する情報を提供していくというものだ。我々の役割は、消費者、リテーラー、ブランド間の橋渡しを行うことだ」。
今日、従業員約30人が働くトライアドのベントンビル支社は、主にサムズクラブの業務にあたっている。その一方で、ウォルマート専属チームはシカゴ、サンフランシスコ、ニューヨークシティなどの各都市に分散。世界全体で12のオフィスに500人の従業員を擁するトライアドは、米フロリダ州セントピーターズバーグに本社を構え、いまでは世界広告大手の英WPPグループ(WPP Group)の傘下だ。だが長年にわたり、トライアドは、ウォルマートとサムズクラブのWebサイトにおける掲載申し込みベースのメディアバイと、メディアネットワークプラットフォーム「ウォルマート・エクスチェンジ(Walmart Exchange)」の構築を支援してきた。日用品世界最大手のプロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble)や米飲料大手のコカ・コーラ(Coca-Cola)などのブランドも、Walmart.comやSamsclub.comに出稿する広告の制作を、トライアドに依頼している。
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リテールメディア戦略
ウォルマートとのビジネスで成功を収めたことから、ほかの大手リテーラーとの仕事も舞い込むようになった。トライアドは成功モデルの一部を応用し、米ドラッグストア大手のCVS、米百貨店大手のコールズ(Kohl’s)、米オフィス用品販売大手のステープルズ(Staples)などのWebサイトで販売される広告枠の制作に協力している。同社は最近の売上額については公表していないが、2015年の粗利益は5億ドル(約560億円)超、純利益は1億2000万ドル(約135億円)を上回ったとしている。
「トライアドの基盤はウォルマートだ」とスミス氏は語った。「リテーラー各社は、我々がもたらすメディア収益によって無料配送やセール割引などを相殺できることについて、大きな関心を抱いている」。
トライアドはウォルマートの広告販売を長年手がけてきた一方で、リテールメディア戦略はAmazonが数年前に広告分野に本格参入したときにはじめてメインストリームに出てきたと、スミス氏は語った。「Amazonの成長は我々にとって朗報だ。そのおかげでリテールの声がメディアエージェンシーに届いたのだから。だがAmazonは、米国eコマース市場の11%を占めるに過ぎない。Amazonの外にははるかに広大な世界があり、ブランドはそこで消費者にリーチできる」。
「競合が思いつかない」
トライアドは自社の広告サービスを通じて、リテーラーが米国eコマース市場の残り89%から収益を上げられるようにすることを目指しているという。またリテーラー各社のために大規模なチームを設けて、営業やアカウント管理からプログラム管理、メディア運用や広告クリエイティブに至るまで、各社の広告事業をサポートしていると、同氏は語った。
「我々は長年、大手リテーラーと関係を深め、維持してきた。リテーラープログラム全体の収益化という点で、我々と互角に渡り合える企業は存在しない」とスミス氏は自信を見せた。
調査会社ピボタル(Pivotal)のシニアアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏はスミス氏の発言に同意した。「トライアドは水面下で、興味深い広告事業を作り上げている。競合他社が思い浮かばない。Amazonを除くと、自社の広告販売チームを設けることができるようなリテーラーは、ほかに存在しない。リテーラー向けの広告販売というニッチな事業を、トライアドは長年やってきた」。
世界最大の広告グループWPPは昨年、リテールメディアにビジネスチャンスを見出した。同グループのメディアエージェンシーであるグループ・エム(GroupM)傘下のプログラマティック関連企業ザクシス(Xaxis)が、トライアドを約3億ドル(約330億円)で買収したのだ。トライアドは買収後も独立した企業として経営されており、ザクシスよりもWPP傘下のほかのエージェンシーと緊密に提携していると、ザクシスおよび[m]PLATFORMのグローバルCEO、ブライアン・グリーソン氏は述べた。
広告需要は今後も増える
ピボタルのウィーザー氏は、ザクシスによるトライアド買収はまったく理に適っていると確信している。どちらの企業も、メディアを買い入れて広告を制作する従来型のエージェンシー事業ではなく、むしろメディアを売っているからだ。そのため同氏はトライアドを、エージェンシーではなくアドネットワークと見なしている。
「トライアドはFacebook、Google、Amazonを経由せずに広告在庫を販売することで、急成長中のeコマース業界へのザクシスの参入を助けるだろう」とウィーザー氏は述べた。
ザクシスCEOのグリーソン氏は、大手リテーラー各社はオンライン売上と店舗売上のデータをより深く分析して利用することで、自社Webサイトの広告枠の真価を引き出せるはずだと考えている。またトライアドCEOのスミス氏によると、広告主はリテーラーのファーストパーティデータから、ターゲット層、地域、実店舗・オンライン・モバイルでの行動履歴に基づき、広範囲のオーディエンスにリーチすることが可能となるため、リテールメディアの広告需要は今後も増えていくという。
「業界はリテールメディアを理解しはじめたばかりだ」とグリーソン氏は語った。「テクノロジーが進化するにつれ、モバイル広告で多くのイノベーションが登場している。今後、ウォルマートからさらに心躍るイノベーションが生まれてくるだろう」。
YuYu Chen(原文 / 訳:SI Japan)